煎餅屋・神代京介の毎日B

                 くぁ…よく寝たァ。レポート仕上げた後其の侭寝ちゃった
                んだな。
                 京兄に声を掛けようとして苦笑い。バーカ。とっくに仕事
                に出てるって。
                 蒼…神代香澄は布団の上で上半身を起こしたまま暫し幸せ
                を噛み締める。自分には帰る場所が一応あるのだから、この
                温かい団欒には加われないと諦めていた。でもあの義父と義
                兄は見かけによらず強引でお節介で…誰よりも温かかった。
                 そしてもう一人…。

                 「おはよーっす!」
                 『帰ってきた!』
                 普段着に着替えるのは後回し。寝巻を見苦しくない程度に
                調えて早朝からの来客を迎えるべく玄関に。義父…宗は既に
                客人と遣り取りをしている。何時みてもお互い減らず口が達
                者なものだ。
                 「お帰り!」
                 「只今」
                 「ああ、蒼。起きたか」
                 「自然と。ねぇ、今度はどれ位居るつもり?」
                 「半年は居るかもな。レコーディングが入ったから」
                 もう一人の「兄」、栗山深春は変らない開け拡げな笑顔を
                見せて、蒼の髪を軽く掻き回した。

                 深春が歌うたいを正業にしたのは蒼が高校に入学した時か
                ら。もう5年前になる。
                 歌うのは元々好きだった。写真も好きだったが、歌は人の
                心の中に入る事が出来るから、ウクレレとハーモニカはいつ
                も鞄の中に忍ばせていた。
                 プロへの誘いを受けたのもそんな旅路での一コマ。偶々泊
                まった山小屋に珍しくピアノが在ったのがきっかけだった。
                偶然泊りあわせた旅仲間に請われてピアノ弾き語り初体験!
                其れを又偶然が後押しした、と言う訳だ。
                 「いい歌いっぷりでんなぁ」
                 「いやいや、どもども」
                 「こんな事聞いたら失礼か知らんけど、セミプロの方?」
                 「とんでもない!ずぶの素人だってば」
                 「ほーん」
                 そんな遣り取りがあったのを忘れかけていた仮の宿での春
                先の事、瓢箪からナリタブライアン。レコード会社からいき
                なり契約の話が舞い込んだ。
                 仕掛け人は山小屋で話し掛けてきた40絡みの男。服装を
                改めて来た彼を見て深春は思わず声をあげそうになった。
                 関西ブルースの重鎮・西村斎その人であった。深春もファ
                ンで彼のCDに限っては買っていた。
                 「君の歌には人生を感じる。どや?遣ってみいへんか?儲
                かるという保障はでけへんけどな」
                 豪快に笑いながら繊細な心配りを見せる彼に惹かれ、決心
                を仕掛ける。後一つの気掛かりは…。
                 「失礼します」
                 蒼が盆を携えて入って来た。
                 「珈琲、どうぞ」
                 「ああ、こりゃすんまへんな」
                 珈琲を並べ終えた後も、其の侭出て行こうとせず、西村の
                顔をじっと見つめる。
                 「…?そないに珍しい顔か?坊ン」
                 「聞いて…良いですか?」
                 「ええよ」
                 「ミハ兄の歌、みんなに届くと思いますか?」
                 「届く!と俺は信じてる。それだけの力は充分持っとるし
                な」
                 「安心した。ミハ兄、遣りなよ。ぼくも新しい一歩あるし」

                                  (次回講釈へ)


               《コメント》
                  ひきを造りまくりのこのパラレル新シリーズ。
                  ここでも深春は歌う事になりました。今度はプロ!
                  西村斎という人にはちゃんとモデルが居ます。
                  天使の濁声で知られているお人です(爆)

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