めくる指のさりげなさと震える指の情けなさ



積み上がったタオルの中から、古谷は大きめの物を選び、腰に巻く。
そして額に手を当て、溜息をついた。
久し振りの受け入れる行為。その為の準備をしたけれど、それでもまだ緊張していた。
先程の言葉は嘘じゃない。一也に対してもネコをやると言った事にも後悔はしていない。
共有していたお互いの熱も、今も強く息づいているというのに。
そして本番はこれからだというのに。
「やべぇ……」
古谷は、まだ覚悟が決められていなかった。
情けないといったらそれまでだが、
(……これは、ちょっと、なぁ……)
口元にやった手が震えているのに気付きながら、古谷は眉を寄せる。
一也に対して恐怖を感じているのではない。
こんな自分を知ったら彼は労わってくれるのだろう。そして、無理だったら今日はいいよと、彼は笑って言うのだろう。
「……それは、な……」
嫌だな、と口の中で呟きながら、こぶしを作る。それで何回か力を抜き、入れ、抜きを繰り返す。
(情けねぇな……)
そう心の中で呟くと、何故か却って肝が据わった。こぶしを解いて、両手で軽く両頬を打つ。
そして一也のいる部屋へと、古谷は向かう。
しかし、そのままスムーズに行くはずであった足取りが、寝室の入口で止まる。
ベッドで寝ている一也の姿を認めた古谷の目は、半眼で一也を見つめる。
(この野郎……)
しかし、その険のある表情も、苦笑にとって代わられる。
古谷はベッドのそばに膝をつきながら呟く。
「……寝てないよな」
「……それは、さすがに」
ちょっと寝転んでただけ。
一也は布団を撥ね上げ、ベッドの上を移動して古谷を受け入れるスペースを作る。
そのスペースに乗り上げる古谷を見つめ、
「……いい体してるねぇ、古谷って」
「どっかの風俗来たエロオヤジみたいな事言ってんなよ」
感心したように呟きながら古谷に抱きつき、首元にキスをする。彼の頭を見つめながらの、古谷のぼけた応答に一也は笑う。
「エロオヤジは嫌だなぁ」
「ハゲで、平常でもハァハァ言ってるドテッ腹のオヤジな」
冗談をいう古谷に、一也は首筋に顔を埋めて笑いを堪える。
「やめてー萎えるー」
「お前だって、萎えるモン食おうとしてんじゃねぇの?」
笑いながらも古谷は、たびたび一也に対して口にする言葉を発する。
それは微妙なコンプレックスを含んだ言葉だ。それは、「背もデカイし顔も性格もネコーって感じじゃないのに、よく欲情できるよな」という発言と同根のものである。
「あ〜それは違うよ」
そんな心から発せられる言葉に、一也は苦笑して答える。
「だって俺古谷みたいなルックスの男が好きなんだから」
その言葉に、戸惑うように眉を寄せる古谷。
思い返すと、一也が好きだと意思表示していた、自分が知っている過去の男は、皆自分によく似たタイプだという事に思い当たる。もちろん背が小さかったりと違う部分はあるのだが、人が持つ、醸し出す雰囲気が似ていた。
それに対して、一也の思いを受け入れた身としては自分への思いの為だと思いたい気持ちも、やっぱりゲテモノ食いじゃないかと相手に失礼だと思いながらも突っ込みを入れたい気持ちもある。
しかし、古谷は真顔で一也をじっと見つめて言う。
「……つまり俺の顔と体が目当てだったんだな?」
「ふ〜る〜や〜?」
苦笑を浮かべ、顔を寄せて頬に落ちる一也のキスを、古谷は抵抗せずに受け入れる。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて頬と額に口付けてくる一也の目の色が、切羽詰っているものであるのに気付いて笑う。
「……一也」
笑いを含んだ声で呼ぶと、一也は何やら複雑そうな顔をして、口付けてくる。
そのままベッドに押し倒されそうになり、古谷は一也の肩を押さえる。少しずつ体勢を変えて、深いキスをしながらベッドの頭の方へと倒れる。
倒れ込んだ時、
「……ごめん」
古谷を見下ろした一也は、驚いたような泣きそうな目で古谷を見つめていて、そして再び二人は唇を重ねる。
余裕が無いくせに舌が入口近くをさまようのに、古谷は焦れて舌を延ばす。応えて、一也も自分のそれを重ね、絡ませる。
唾液を送り込むと、苦しい息の中で古谷が飲み込む。動く喉が分かって、一也の目元がさっと赤く染まった。
激しい、お互い顎が疲れそうな、長いキス。
何回目かの、余りの息苦しさの為の息継ぎに、唇が離れる。
そしてまた口付けようと角度が変えられた時、古谷の腰に一也の指が触れた。結び目を探して、指がタオル越しに肌を辿る。見つけた指は、器用に動いて結び目を解く。
自身に触れられて吐息をこぼした古谷に、一也は囁く。
「……俺のも、触って」
古谷は目線を一也の胸元から顔に移し、見つめる。
「つか……脱がして」
「俺の?……脱がしたい?」
そう言いながら一也は身を起こす。
すでに古谷は何も身にまとっていないというのに、わざわざ問う一也の服に、何も言わずに古谷は手をかける。
捲り上げられたラグランスリーブは、大人しく上げられた一也の腕と頭を通り抜け、ベッドの脇に捨てられる。
露わになった、バランスよく筋肉のついた上半身に目を滑らせ、古谷はズボンに手をかけ、フックを外す。ジッパーを下ろし、ズボンを下着と一緒に邪魔にならない位置までずり下げる。
そこまでした所で、一也の手が古谷の足の根元にのびる。
「……ん……」
直接的な快感を与えられ、声を思わず漏らしてしまう。
だけれど一也の方へ手をのばし、感触に気付いて口の端で笑う。
「たいして、触ってねぇっつのに……」
「しょうがない、じゃんか……」
固さと角度について言う古谷に、苦笑いを浮かべる一也。
「……今の顔」
「……ん……?」
一也の感触と一也の表情、そして彼の愛撫に目を細めて、古谷は一也の耳元に囁く。
「……可愛い」
「……古、谷」
咎めるような響きで名を呼ばれ、苦しい息で声を上げて笑う。
もう一方の手で腰を抱き寄せる。
「……好きだよ」
古谷の、吐息混じりの囁きに、
「……え」
「……あ……。……ごめん、単純で……」
馬鹿正直な程に応える一也。
耳まで赤くなる彼に、苦笑を浮かべる。
「……いや、そこまで、だと……」
逆に燃える。
そう返しながら、自らのモノへと一也の手を導き、耳元に口を寄せる。
「……こっちも、さ」
「……うん」
そして古谷も、一也を手のひらで包み込む。
動かされる手に吐息も熱く、焦るような気持ちに流されて行く。
「……っ、1回……」
伏せた目元を赤く染め、抑えられずに荒くなる息の中から、古谷は一也に囁く。
「イってから……っ」
「……ん……」
同意するのが分からなかったのか、吐息にも聞えた声に古谷はうわ言のように胡乱な口調で、また言葉を口にする。
「じゃないと……俺つら、……っ」
「……分かったから……」
唇を寄せる一也。すぐに深くなる口付けに、一也は彼の背を強く抱く。
一也が先端を指の腹で何度もいじると、古谷は堪らなそうに身を震わせる。
滲み出るものを指にまとわせ、一也は丁寧に、時に強く指先に力を加える。古谷は、自身を握り込む手の巧妙さに、痺れるような快感を覚えていく。
また、古谷の久し振りの肌や彼の告白に、気分がいつも以上に高揚しているのか、一也もきつく張り詰めていた。
その途中も息継ぎ以外に唇が離れる事はなく、敏感な粘膜への愛撫に気持ちが高まる。
しかし、一也にとって双方向の愛撫は刺激が強すぎた。
途中で諦めざるを得ない状態になり、ゆっくりと唇を離す。それでも名残惜しいのか、また顔を寄せる。
今度は耳元に唇を寄せる。口に含み、舌で舐め上げた。
「……い、ち……っ」
追い上げられる古谷も、一也に触れた手を乱れる気持ちのままに動かす。
切羽詰っていく声と手の動きに刺激される一方で、応えるように一也も先端から溢れる液に濡れそぼっている古谷を擦り上げる。
速度を上げた手に、堪らず古谷も抑えた声を上げた。
そして、
「……も……っい、く……っ」
古谷が喘ぐ息の中から言うのに、一也は慌てて指の動きを緩める。
しかし、もう遅い。
上げそうになった一際高い声を殺して、古谷は達する。
そして同じく限界が近づいていた一也も、乱れた姿と達する前の古谷の技巧に刺激されて、身をわずかに震わせ、古谷の腹を濡らす。
浅い呼吸の中、2人はお互いを見つめる。
そして、
「……ティッ、シュ」
「……ん」
一也が求めるのに、古谷もだるい腕を動かしてケースを取る。
数枚取り一也に渡し、自分の分も取って汚れた腹と脚を拭う。
取り敢えず拭える分だけ拭い取り、目を上げると、自分を見つめる目が見えた。
紙をそのまま放り投げ、触れたいという欲望のまま口付けを交わす。
それは一也も同様のようで、すぐに、しかし古谷の事を考えてゆっくりとベッドに彼の体を横たえた。
ベッドサイドから青い容器を取る一也。
その中の潤滑液を手に取って、指にまとわせる。体温で慣らして、そして古谷の後ろに触れる。
眉を寄せる古谷に、不安げな顔を見せる一也。
「……大丈夫?」
そう問いかけると、古谷は睨むように一也を見る。
「……いい、から」
そう答えて背を抱く。
だが先程まで怖れていた古谷の声は、やはり不自然に揺れている。
強がる古谷の姿に、一也は情けなく眉を下げる。
「……ていうか、ごめん」
そして待って、と言い、古谷の胸に頭を預けて、彼に体重をまかせる。
「……本当、ごめん、今更。……情けな」
口にした言葉が、古谷への気遣いなのか、それとも本気なのかは古谷に判断できない。だけれど、どちらにしろ古谷にとって、その一也の言葉は愛しく思えて。
古谷は一也を抱き寄せて、耳元に軽く口付ける。
「……古谷」
それに切なげに古谷を呼んだ後、一也の口の端が引きつったように上がる。
「あ〜燃えた無理我慢できるかこのやろ」
「んなの、頼んでねぇ」
そう言って耳の裏を舐める古谷に、一也は身を離す。
「……もう、……くそ」
そして再び古谷に覆い被さって、口付ける。
仕切り直し、とでもいうような激しいキスに、決して不快ではない快感が古谷の全身に伝わっていく。
その間にも一也の手は体を撫でる。
やがて奥に触れる指。先程より指が濡らされている。一也が潤滑液に手を延ばしたのかいつなのか、分からない自分に、意外と余裕が無い事に古谷は気づく。
侵入する指に、上げそうになった声を唇を噛んで殺す。しかしそれでも殺しきれなかった声が漏れた。
一也の不安そうな顔を見ないように、古谷は眉を寄せたまま目を閉じる。
「……大丈夫、だから」
その言葉に溜息が落ち、指が動き始める。
目を閉じたせいか、一層一也の存在と自分の熱が意識させられた。
一也の指が這い、丁寧に古谷の中を探り、確かめ、時間をかけて古谷を溶かしていく。
肌を伝う汗。
一也の汗の匂い。
「……っんぅ、あ」
指が増やされるのに、堪らなく声が上がる。
潤滑液で充分に濡らされた中が、一也の指の動きに音を立てる。
「――あ、――んんっ」
一也の指が、内部の感じる箇所を執拗に責める。
その強い快感に、古谷の目元に涙が滲む。
全神経が一也を追いかけるのに耐えられず、古谷が目を僅かに開けると口端を上げている一也が目に映った。
「……気持ちいい?」
笑みを浮かべて問う一也を睨みつけて、古谷は一也の背に手をやる。
「……ん……てか、もう入れて、いい……?」
だが一也はその動きを言葉で制止して、古谷の中から指を抜く。
その動きに揺れてしまう腰に、強い羞恥心を覚えながらも古谷は一也を呼ぶ。
「早、く……」
「……待って……」
一也はゴムをベッドサイドから取って、手早く袋を切って中から取り出す。
焦る手で装着し、そして、
「……入れる、よ」
「……っざ、わざ……」
再び覆い被さられ囁かれた言葉に、声にならない、ほとんど息のような声が、古谷の口から漏れる。
入口に押し当てられる、固く熱い、先程までとは明らかに違う物。
古谷を気遣うように、ゆっくりとそれは入っていって、
「……う……いっ」
「――痛い?」
それでも上がってしまった声に動きを止めた一也が、心配そうな目で古谷を覗き込む。
それに、古谷は気持ちよくなる。そして、抵抗は僅かな物だ。
古谷は首を左右に振って、一也の背を抱く。
そんな古谷に一也は彼の様子を見ながら、少しずつ自身を埋め込んでいく。
思わず爪を立てる古谷に顔を歪める一也。
そして自身を埋めきって、息をつく。
「……古谷……」
そして古谷の口元にキスをする。ほとんど顎に近いそれに、顔をしかめる古谷。
それに笑って一也は荒くなっている息の中で問う。
「……動いて、いい……?」
「だ、から……っ」
声を上げようとするが、引かれ、言葉が途切れる。
「うん、聞かない……」
消えた古谷の抗議に答える一也の腰の動きに、あえなく古谷は翻弄され喘ぐ。
潤滑液に濡れた後口から、リズミカルに水音が響く。
何度も行き帰りを繰り返す動きの最中に、甘い感覚が体の芯に走る。
古谷の声の質が変わらせた、上手く当たったそこを、一也は快感に余裕を無くした顔で、一層大きい動きで古谷を強く責め立てた。
「っ一、也……っ」
悶え身を捩る古谷の腰を掴み、自分でも止められない激しさで突き立てる。
切なさを帯びる喘ぎ声に、一也の息も上がっていく。
波が何度も古谷を襲い、そのうねりは古谷をここに留める事が出来ない大きな波を呼ぶ。
「…………も、駄目………っ」
波に飲み込まれ、古谷は自分を手放す。
腹を濡らす液体と拡散していく意識、しかし心は弛緩しても、体はきつく一也を絞めつける。
それに一也も堪らずに、自分自身を開放する。
そして古谷に力なく身を任せる一也。
身を襲った大きな波が過ぎ去った古谷は、力の入らない腕をゆっくりと動かして一也を抱く。
高い体温が、心地よく感じられる。
小さな息をついて、古谷は心地よい眠気に身を任せ、そっと目を閉じた。



  





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