第6章 操は白濁を注がれて
「――もうあれから一ヶ月も経ったのよねぇ」
美咲の秘唇にはまだ緑色のバイブが動いている。
既に日は沈み、夜の帳がいよいよ部屋の中まで飲み込もうとしている。
「でも私はもう戻れない。もう堕ちるところまで堕ちきってしまったし、それに、あの人の子供も宿してしまった……」
美咲と陽子の視線は同じ高さになっている。バイブ蠢く腰を床についてM字に脚を開いている美咲、その彼女の前に腰を落とす陽子は、白と赤の縞のタイツを履いた太ももをぴったりとつけている。その陽子の両手は、下腹の谷間に潜り込んで自身の陰部を押さえている。
美咲のスタイルはスレンダーそのものだ。美しい体の凹凸を保っていて、なおかつ細みなのだ。ましてや腹や腰のあたりはぜい肉一つないくらいにすっきりとした体型をかたどっているように見える。だが、その中にはあの男の子供が息づいているという――。
それまでの経緯の一端を聞かされ、その結果を目の前に見せつけられ、陽子の幼い性器はむずがゆい熱に包まれて悲鳴をあげていた。
「……かわいい……、あなた、すごく可愛く見える」
バイブの快楽に目を細めながら、あえぎあえぎ美咲は言った。
「やだ、誉めないで、こんな私……」
陽子の腕に鳥肌が立つ。眼鏡の裏に潜む彼女の目は明らかに恥じらっている。彼女は脚に余計力を入れて両太ももを合わせる。
「なんでだろうね、あなたがもじもじしてるのを見てると……、私のアソコが熱くなってくる」
そう言った後、美咲の息が荒くなる。再び絶頂への階段を登り始めたようだ。
「んううううううううっ〜!」
狂おしくロングヘアーが乱れる。顔で髪が隠れる。唇だけが髪を押し分けて荒くも甘い息を吐き出し続ける。それは今の美咲の本当の姿なのかもしれない。陽子は美咲を見て、怯えながらも引き付けられていく自分を感じる。
限界だった。自分の熱い秘芯を柔らかい指の腹でなだめないと、自分自身が脆くなってくずれさってしまいそうであった。
陽子は太ももを少し開くと、股間を押さえていた手をマッサージするように動かしはじめる。
切ない、やりきれない二重奏。放たれたいのに放たれない想いが、二人のそれぞれのうめき声にのせて行き場なく彷徨う。
二人の視線は頼り無く、そして互いに交わらない。だがそれでも二人は同じことを望んでいた――この二重奏が感動的なクライマックスを迎えるように。
だが、それは無惨に中断された。
派手に扉を蹴り開ける音。肩をすくませて縮こまる美咲と、とっさに立ち上がる陽子。どちらも先程の熱を一気に覚ましてしまった。
二度目に扉を蹴り開ける音がした時、陽子はもう部屋から出て行っていなくなってしまった。
代わりに、美咲の前に不二夫がでんと立っていた。M字に脚を開かされた操をその胸に抱いて。
「あー疲れた。全く、操は美咲より積極的にスペルマ欲しがるからなぁ」
「あぁあん」
胸をそらせて、操はひねったように裏返った声をあげる。
「うあぁ、オラァ操そんなに締め付けてくるな、もうこれで最後だ。おおおぅ、有り難く飲み干せぇえ」
操に深々と刺さる不二夫の男根が、ずんと力強く一突き。
「……ぁあ」
涎を胸元まで流して、操は不二夫に体重を預けて果てた。胸を弾ませて荒い息をする操、不二夫もそれにあわせるように息をしている。わざとではない、ハードな体位に不二夫もずいぶん体力を使ったようだ。
「全く、随分なスペルマ好きだぜ、操はよぉ」
両腕に血管を浮き上がらせて、不二夫は操を少し持ち上げる。萎えた男根が、操の膣穴からうなぎのようにチュルンと音を立てて出てくる。そのあと少し間をおいて、今度は白い液体がどろりと顔を出す。不二夫が操を床に座らせると、白い液体は再び僅かにドクンと吹き出す。
「おい、美咲! 次はお前の番だ。その前に、俺のタマとスジをマッサージだ」
「……はい」
美咲は四つん這いになって不二夫に擦り寄る。
「ん? おい美咲、手枷はどうした?」
「……え……あ……、その……」
「ち、不良品か。今度はもっとがっちりしたやつ買って来ないとダメか。まあいい美咲、いいから早いとこその舌で揉んでくれや」
美咲はゆっくりと唇を、ゆっくりグロテスクに蠢く睾丸の皮に近付ける。
ねっとりと唾液で湿らせながら、美咲はその赤い唇と舌で丹念に睾丸を転がす。
「気持ちいい……。やっぱ疲れた時にはこれに限るよなぁ、美咲」
「はひ……」
「へへ、しかし今度は随分気合い入ってるなぁ美咲。アレだろ、バイブでいい気分になってたんだろ」
「……むん……」
「よしよし、今度はお前を可愛がってやるからな。しっかり念を入れてマッサージするんだ」
再び気力を回復し始めた肉棒の裏筋を、美咲の舌が丁寧に何度も辿っていく。
そんな中で、ようやく操が体を動かす。秘裂から漏れた精液をそのままに、腰をつけて正座する。彼女はさっきまで自分の中を突き上げていたものが隆々と立っているのをまじまじと見つめている。
「不二夫さん、元気です……」
「ああお陰さまでな。じゃ、今度は美咲とデートするからな。かしこく留守番してるんだぞ」
美咲のチョーカーを握って彼女の顔を自分の股間から離すと、そのまま四つん這いにさせて、平手で尻を打つ。
「ほら美咲、とっとと歩いて、ほら」
「は、はい」
白い尻をくねらせて、美咲は不二夫の足下について行ってしまう。
建物から二人が出ていったのを音で確認すると、ようやく陽子は部屋によたよたと入って来た。
「……ひっ」突然の人に操は驚いた。「あ、あなたは――」
「しっ!」
陽子は口に人さし指を当てて操を黙らせる。彼女はそのまま、操の前に同じように座った。
それから陽子は、操の股間から漏れている白い液体を見る。
「やっちゃった後です、ね?」
「いや、そんなこと言わないで……」
操はとっさに股間を両手で隠す。
「みさお……さんですね」
「……何で名前を?」
「話は美咲さんからも聞いたし、それに……」口籠りながら陽子は操の下腹部を指差す。「そこにも書いてるし」
とっさに入れ墨の部分を隠す操。いまさら隠してもどうにもならないのに。
「三日前なんですか、あの不二夫という人とセックスしたのは――」
「ああやめて! そんなこと言われると私、また……」
操の両手がぐっと股間を押さえる。大きな胸が、彼女の腕に挟まれて深い谷間を作る。
しばらく、二人の間に沈黙が流れる。
それを打ち消したのは陽子でも操でもなく、遠くから聞こえる美咲のいまわの声であった。
「美咲さん、楽しくやってるみたいですね」
陽子が部屋の窓を見上げて言う。操も同様に部屋の窓を見上げる。
「最初はかなり反抗的だったのに、今じゃ随分不二夫さんになついちゃってるから……」
操が漏らす。
「そう言えば思ったんですけど……」
それは今まで二人を見ていて気になっていたことだった。操の言葉がなかったら、陽子は多分それを聞き逃すところであった。「どうして、妻が二人もいるんですか?」
「なるほど、私達がただものでない仲なのも教えてもらっているのね……」
陽子から目を背けて、操は静かにそうつぶやいた。陽子はその操の姿が、人間の姿をした別の動物のようにも見えた。
「不二夫さんが私達二人を望んだからよ。それ以上、あなたは知る必要無いわ」
ぴしゃりとそう言われてしまった以上、陽子はそれ以上突っ込んで操に聞くことはできなかった。
「私達も今ではそれで幸せなの。でも見知らぬ男から突然関係を迫られた時はさすがに驚いたけど」
「わからない……」陽子は首をかしげた。
「初対面のあなたにはわからないでしょうね。でも私は、幸せになりたいの。もう辛い思いをするのは嫌だから……」
首を傾けた操は、自分の詳細を印された入れ墨のあたりを慈しむようにさする。8月13日生まれ、血液型A型、不二夫にザーメンを流し込まれたのは8月29日――。
またも陽子は自分の股間を両手で押さえる。
(この人のお腹の中にも、赤ちゃんがいるんだ……)
しかも相思相愛ではなく、突然自分をレイプした男の子供。
不憫なセックスシーンを想像して、そのエロティックな敗北感に思いを馳せた陽子は、またも自分の股間を熱くしたのだ。
「産むんですか? 好きでもない男の子どもを」
「産まなきゃいけないの。もう罪もない子供を殺したくないの! 子供を無事に産んで育てさせてくれるなら、私、不二夫さんのどんな命令にも従うつもり」
切羽詰まった決心と、その裏に潜む忌わしい過去。
「一度、堕ろしたことが?」
「……ええ」
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