第12章 暗転と転生
「うん、うあうんっ!」
礼拝堂の方から、陽子の嬌声が聞こえる。
床に寝転ぶ全裸の不二夫の腰の上で、「裸の」ウェディングドレス姿で積極的に跳ね回る陽子。肌には玉の汗が、弱い光を反射して輝いている。
「はうんっ、あっん、あん」
両乳首に渡した鎖が激しく揺れている。その鎖の真ん中にぶらさがっている真珠の飾りも、陽子の小振りな乳房の谷間で踊っている。
不二夫は恍惚とした半開きの目で、陽子が自分の雄々しき怒張を下の唇でくわえこんで楽しそうに跳ね回っている姿を見つめていた。操や美咲にかなわない彼女の胸も、下から見れば弾力に満ちみちて見える。そればかりではない。跳ね回る度に、その華奢な体の筋肉がひくつきうごめくさまが、とても愛おしく見えて来るのだ。
くびれたウエストがうねる。より奥まで不二夫を迎え入れんばかりに背がのけ反る。絶え絶えの息が行き通う喉は引きつるような激しい動きをくり返し、腰を落とす度に体の肌全体がびくんと揺れる。
陽子の体の筋肉の動きひとつひとつが、可愛らしさをともなって、不二夫の目に飛び込んでくるのだ。
「あぁ、陽子」
呼び掛ける声に、陽子は淡い熱にうかされたような目で見下ろす。
「うぅう……、不二夫……さん、何ですかあ、ぁ、あんっ」
彼は彼女の問いに答えず、抱え込むように彼女の尻を両手で撫で回す。
今の二人に言葉は必要無いのかもしれない。代わりに、とろけるように濃厚なボディトークがそこにあった。
やや指を食い込ませて尻を撫で回す不二夫に答えるように、陽子は縦に振っていた腰を、陰唇を擦り付けるように前後に動かした。動かしながら、濡れそぼった下の唇がくわえこんだ不二夫の体の根元を強く締め付ける。
唸る不二夫。
もうそれだけで、二人は愛の会話を交わしているのだ。
だが、その上に陽子が言葉を重ねる。
「う……私、エッチ……。でも幸せ……ぇう! 操さんみたいに……美咲さんみたいに、私、すごくエッチなお嫁さんになります……ぅんああああ!」
髪を乱し、なお激しく腰を動かす陽子。そんな彼女の尻をいとおしそうに撫でる不二夫。
一方、操と美咲は奥の部屋で互いを慰めあっていた。
どちらかと言えば美咲が操に甘えているのかもしれない。美咲は正座する操の体にしかと抱き着いて赤ん坊のように乳房に吸い付き、自分の濡れそぼった陰唇を優しく揉みほぐしてもらっていた。時々喘ぐ息を漏らしながら、必死にすがりつく美咲。
「あまえたさんな美咲さん」操は優しく美咲の頭を撫でる。
「ん……ぬぷ……、私を抱き締めてよ操ママぁ」
「はいはい」
操は美咲の下の口の愛撫をやめて、彼女を膝にのせるように抱きかかえる。すると美咲は操の片ももを跨いで、自分の濡れた股間をその上に擦り付けはじめた。
「あん、美咲さんのアソコすごくひくひくしてるぅ」
「だって、すごくエッチなんだもん、もう元に戻れなくなっちゃった……」
そのまま美咲は操を床に押し倒す。さらに深く抱き着いて、彼女は操の耳もとで囁くように言った。
「でも、今の方がすごく幸せ。陽子ちゃんの裸見てるのも、操ママに抱き着くのも、不二夫さんとセックスするのも、お腹の中に赤ちゃん身ごもるのも、なにもかも気持ちいいんだもん」
今度は操の腹に自分の下腹部を擦り付けはじめた。美咲は続ける。
「私のお腹の赤ちゃん、操ママの赤ちゃんに凄く会いたがってるよ」
「うんうん、きっと会えるよ、ね」
二人はいつしか互いの下腹部を擦り付けあっていた。
それはあまりに突然であった。
「いやあぁっ! しっかりして、不二夫さん!」
陽子が悲鳴を上げた。
それまでシックスナインで互いを舐めあっていた操と美咲は、部屋から飛び出して駆け寄った。
心地よい屈服感とマゾの快楽に酔いしれる中で芽生えていた三人の奴隷妻の幸福感が、みごとに粉々になった。
不二夫の口から血が吹き出していた。幸いまだ息はあったが、それは余りにも苦し気で頼りない。このままでは想像もしたくない最悪の結末を迎えてしまうのは必至であった。
「すぐに救急車を!」
不二夫の手を両手で握りしめ、美咲が操に言った。
だが、不二夫がすかさず操を呼び止める。
「呼ぶな……いい……」
美咲は半ば怒りを込めて不二夫に言い聞かせようとする。
「駄目です不二夫さん! 不二夫さんの体になにかあったら、あなただけの問題じゃ――」
「るせぇ美咲……! お前らは俺の奴隷妻だ、素直に俺の言うことに従っていたらいいんだ……」
かすれた声であったが、その語調は強かった。
陽子は不二夫の肉茎を膣内にくわえこんだまま、涙ぐむ。
「そ、そんな……だめ」
すぐさま陽子は立ち上がって肉茎を抜こうとした。だが、それも不二夫に腰を押さえ付けられる。
「そのままだ、陽子」
「だめです、不二夫さん。このままセックスするつもりなの?!」
「黙ってろ陽子! ……お前にはしてもらわないといけないことがある」
不二夫は廃教会の天井を見上げ、三人の奴隷妻を呼び寄せる。
「悪いが……どうやら天罰が下ったようだ。自分でも分かる、もう俺は死ぬだろう……。こうなることはわかっていた。……お前らを平等に愛するために、性欲亢進剤を大量に飲んでいたんだ。副作用を覚悟してな……」
「そんな! なんでそんな無茶するの! ……ひどい……、男の人ってなんでこんな身勝手なの……」
操はぼろぼろと涙を流す。
「どいつこいつもグタグタいいやがって……お前ら御主人様の話を黙って聞けないのか……!」
不二夫は先ほどの言葉を続ける。
「でもお前ら本当によかったぜ……誉めてやるよ、最高の奴隷妻だぜ。……どうせなら、臨月まで見届けてやりたかったんだけどな……なにもかも、ここまでのようだな……」
号泣する操。
それにつられるように、美咲と陽子が嗚咽を漏らして涙を流す。
「悪いな……だけど、例えこの肉体が死んだとしても、俺はお前たちの心の中に生き続けてやる……でもその前に、大往生させてくれや。おい陽子」
陽子は、泣き伏せた顔を上げる。
「お前に最後のザーメンをくれてやる。最後の一滴までお前の肉壷にため込め。わかったな」
「……はい」
「それから美咲と操、俺の手の届くところまで近付け……そうだ」
不二夫はまずゆっくりと美咲の方を向き、彼女の股間に手を伸ばす。
「本当に、……お前は奴隷妻になるために生まれて来たんだ。そのこと、誇りに思っていいぜ……」
彼の指が、美咲の陰唇の奥まで沈み込み、尿道口を一撫でして膣に潜り込む。
「……ひ、うぅん!」
美咲の中に潜り込ませた指を動かしながら、今度は操の方を向く。
「お前はもっと……俺の顔の側に来い。……そうだ……、あぁ、発育上々のようじゃないか、お前のお腹の赤ん坊はよ。ええ?」
「お父さんの顔を見せてあげられないなんて……」
「何言ってやがる、この腹の中の子供は俺の子供だぜ。俺の顔なんか見なくても、しっかり育つさ」
操の入れ墨の辺りを愛おしそうに撫でる不二夫の手。
三人の奴隷妻は、鬱でも入ったかのようにぐったりして、それぞれ涙を流している。彼はその雰囲気に一喝するように三人に命令した。
「オラお前ら、奴隷妻なら奴隷妻らしくアヘアヘヨガったらどうだ! おい陽子、腰がお留守だぜ、とっとと動かせ! 出るものも出ねぇだろ!」
その一声で、三人は涙ながらでは会ったがそれぞれに体を動かしはじめた。陽子はさっきのように腰をバウンドさせ、美咲は不二夫の手を持ってさらに自分の体の奥に迎え入れようとし、操は胎児の成長で膨らみ始めている下腹部を彼の手のひらに擦り付けはじめた。
……ああ不二夫さん凄く気持ちいい……私のマンコの中がいつもよりもえあがっているのが分かりますか……もっともっとエッチになっちゃいます……もっといじって下さい……愛してます不二夫さん……もっともっともっともっと……ずっとこのままで、このままでいたい……お腹の赤ちゃんも喜んでます……はやく、はやく来て……不二夫さん……不二夫さん……ああ、すごく素敵……
三人の言葉を聞き分けるには、不二夫の頭は朦朧とし始めていた。ただ彼はとろけるような感覚に身を任せ、下半身でゆっくり込み上げてくるものを感じ取っていた。
暖かい胎内の奥まで不二夫の指を押し込もうとする美咲の手は、来世へのいざない。
不二夫の手のひらにひたすら擦り付ける操の小高い恥丘は、来世への手掛かり。
そして、再び直立した不二夫の陰茎を柔らかい肉壁で煽り立てる陽子の胎内は、来世そのものであった――
「ぐふっ……!」
不二夫の白い魂が、剛直の先から勢いよく飛び出して、陽子の子宮へと飛び込んでいく。
息を吸いながらゆっくりと腰を上げ、息を吐きながらゆっくり腰を落とす。そうやって陽子は丁寧に不二夫の精液をすいとっていく。
初めて彼女が不二夫の精液をその顔に浴びた時、彼女は眼鏡越しに射精の瞬間を目の当たりにしていた。脳裏に焼き付いたその情景を、彼女は今思い出した。その瞬間が、自分と同じ胎内で起こっていると考えると、陽子の体は性的な興奮でうち震えた。
勢いのいい射精が終わると、不二夫の体から目に見えて力が失せていった。操と美咲を愛撫していた手は動きを止めてぐったりとなり、陽子の中の陰茎も一気に萎えた。
文字どおり、不二夫は逝った。
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