終章 奴隷妻の散開

 不二夫の亡骸は、三つのブーケと一緒に、廃教会の裏に埋めた。
 「裸の」ウェディングドレスを脱いで、三人は全くの裸になった。しかし、亡き夫の子供を身ごもる奴隷妻となった彼女たちにしてみれば、裸でいることが普通であるかのようだ。
 だが、ここから外の世界へ行くには服が必要である。
 このままこの教会に残っていても仕方ないことは三人ともわかっていた。とりあえず奴隷妻になってから不二夫にもらった立ちにくいヒールとチョーカー、スキャンティーがあるが、下界に出ていくには到底耐えられない。
 だが、何気なく不二夫のRV車の中を漁ると、三人分のロングコートが出て来た。不二夫は多分、この教会でことを済ませたら、三人を連れて別のところに住むつもりだったのだろう。奴隷妻達は改めて不二夫の愛を噛み締める。

「じゃあ、お別れね。この教会とも、不二夫さんとも」
 コートを着た三人の奴隷妻は、挙式をあげた廃教会を見上げていた。
「……ううん、不二夫さんはここにいるよ」
 美咲が言った言葉を、陽子が否定した。着ているコートを開いて、あらわになった自分の臍の下を指差す。
「美咲さん、操さん、輪廻って信じる? 私は信じる。きっと不二夫さんの魂、あの最期の射精で私の子宮の中に入っていったと思うの。今きっと、私の卵子に宿っているはずよ」
「なあに? あなたひょっとして二卵性双生児産むつもり?」
 あきれたように操が言った。しかし「でも」と言って彼女は陽子の臍の下を優しく撫でて言った。
「そうだといいわね。もし貴方が産んだ赤ちゃんが大きくなって、ある日私の前にやって来て『おら操、フェラチオはどうした』とかいわれたら、私、迷わずおちんちんしゃぶるかも。それで、セックスしてまた赤ちゃん産むの」
「まあまあ、操ママったらすっごく元気よね」
「あなただって、ほんとうのところそうなんでしょ? 美咲ママ」
「……うん、実は」
 雀のさえずりのような明るい笑い声。
 その後で、三人は互いの体をくっつけあって、誓いをたてる。
「赤ちゃんが生まれて大きくなったら、またここに来ようね」
「どうやって生まれて来たか、お父さんがどんな人か、ここで教えてあげるの」
「で、私達が一つの家族であることを知ってもらうの」
「ずっと、幸せにね。私達の子宮に誓って」
 お互いの顔にキスをし合う。
 それから、三人はそれぞれの方向に向かう。
「ようこ〜ぉ!!」
 操が、小走りする陽子を大声で呼び止める。
「なぁに〜?」
 元気な返事。
「お腹の中の不二夫さん、大切に育てるのよぉ〜!」
 陽子は、コートの中の裸体をちらつかせて大きく手を振った。

 

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