2001年1月3日
大きな鏡にりなは自分の姿を映してみた。
白い裸体に絡み付く、紅白よじれる縄の織り成す緊縛衣装。もう今日で三日目だ。彼女自身既に慣れていたつもりだったが、鏡の姿を見ると恥ずかしさに正視できない。ピンク色した発情の乳首もバイパンにされた秘密の割れ目も覆われていないのだ、結局裸でいるのと同じなのだ。
それなのに自分は今までまるで服でも着ているかのように行動していたのだ。
すっかり自分は変態になってしまったのかもしれない。もう男の前で裸でいることが恥ずかしくなくなってしまっている。
そっと自分の指を割れ目の中に沈ませてみる。
「……ぅあ……」
中はじっとりと濡れていた。しかもどんどん熱くなっている。動かせばうずうずとむず痒い感覚が沸きおこり、陰唇から膣口、子宮口から子宮の奥の壁へとじわじわと広がってさらに渦巻く。
――もっと燃え上がらせてほしい……もっと激しく舞い上がらせてほしい!
子宮の本能の叫びにすら、りなは抗うことが出来なくなってしまっている。
無意識に指は肉の花さらに奥へともぐりこみ、すっかりびしょびしょに濡れた膣口を掻き乱す。
「あっ……あっあっあぁあーっ!」
鏡は無表情に、股間を指に挟み腰を振って悶えるりなの姿を映している。
その自分の姿と目と合えばさらに劣情が煽られる。
「ああ……い、いやぁ、こんなの、こん、……なの……あ、あっ!」
止めようとせぬ指が膣奥の敏感なところに触れると、彼女はぴくんと体を弾ませて、背中に結んだ縄の花を艶やかに揺らす。
「ふあぅ、は、あ、あっ、あぁっ!」
ぴくんぴくんと痙攣させるように腰を震わせて、ただ体の内から沸き起こる性感に身を委ねて自慰に耽るりな。旧年には見せることのなかった痴態である。
「あーっ! あぁあーっ! ふああぁーっ!」
口から出るのは牝の叫び声。だがその声にはどこか欲求不満の切ない響きを含んでいる。
そう、満足できないのだ。自分の指でなく、男の熱く燃えるペニスで性器を貫かれないと絶頂に行き着くことができないのだ。
淫らにうねる膣壁は、大司氏のペニスの抽送を思い出し、さらにその感触を蘇らせながら、しきりに欲していた。
「はぐぅ、ぅああああぁあーっ! ぁあぁーっ!」
口の端から涎を漏らしてなお欲求不満の虚ろな叫びを上げるりな。
と、その背後から声がかかった。
「……何をしている」
寝間着姿の大司氏がそこに立っていた。
振り返った途端、彼女の体に罪悪感の悪寒が走る。
「朝っぱらから大声出してオナニーして、一体どういうつもりなんだ?」
「あ……あぁ……」
恥ずかしさとばつの悪さで凍り付いたりなの体。だが彼女の性器はまだ熱く脈打っている。
止めた指もまた動いてしまう。
「ごめんなさいぃ、私、私もうダメですぅうぅ! イジイジしないとぉおあああああっ! あーっ! ぅああぁあーっ!」
大司氏の方を向いてなお、腰を引いた格好でなお自慰行為を続けるりな。秘裂を覆うようにまさぐる両手からは愛液の雫が糸を引いてこぼれる。
すでにりなは快楽を貪る牝獣と化している。
そこに大司氏がこう言った。
「表に宅配便が来てるんだ。荷物を受け取りに行ってこい、さあ早く」
部屋の出口を指差してせかす大司氏に、のったりと体を動かしてりなは応える。
自慰の余韻を引きずりながら、屋敷の長い廊下を壁伝いに歩いていく。そう言えばこの廊下も去年のクリスマス・イヴの時にはサンタギャルの衣装を身に着けて食事に胸を踊らせて颯爽と歩いていたはずだ。今は裸同然の縄衣装で性楽に股間を疼かせて足を引きずっている。
なんとか彼女は屋敷玄関の大きな扉に行き着いた。
その扉のノブに手をかけて半開きにした時、中へ吹いて来た寒風でようやく彼女のうずく体が醒めた。
そこから宅配便ドライバーの顔が覗き込んで来た時、りなは肌を引き裂かれるような恥ずかしさに体をこわばらせた。
だがドライバーも驚いたに違いない。胴体を縄で縛られた裸のうら若い女がそこに立っているのだ。しかもその股間に陰毛はなく、しかもぬらりと透明な液体で濡れそぼっており、良く見れば雫がそこから床に滴っているのだ。
しかし男も仕事だ。
「あ、あ、正月早々すいません。○○便のものなのですが荷物をお届けに参りました。えーと、……大司さん、のお宅ですよ……ね」
「……はい」
恥ずかしさに体を震わせながらも、なんとかりなは受け答える。
「じゃあすいません、ここのところにサインいただけますか?」
荷物とペンを差し出して、男は荷札の隅のサイン欄を指差す。りなは奪うようにペンをとるとそこに自分の名前を走り書きする。
控えを引きちぎって、男はそのまま走り去っていく。果たして仕事で走り去ったのか、りなの異様な姿に驚いて逃げたのかはわからない。
ど平べったい荷物を裸の胸に抱えて、りなはその場にへなへなと座り込んでしまった。応対で疲れてしまったわけではない。大司氏以外の他人に自分の裸を見られてしまったのだ。わなわな震える裸体が弱々しい。
なかなか戻って来ないりなを心配してか、大司氏がやってきた。
「何だ、ちゃんと受け取ってるなら戻ってこいよ、何をしてるんだ」
しかし大司氏の方にふりむいたりなの目には涙がたまっていた。
「どうしよう……、私の裸見られちゃったですぅ……」
「しょうがない女だな、りなは。やたらさかんにオナニーしてたと思ったら今度は泣きべそか」
そう言われてもただ座り込んですすり泣くだけのりなを、大司氏が荷物ごと抱きかかえる。すると途端に彼女は泣くのをやめてしまった。まるで子供のように丸まって、穏やかな息音を漏らす。 |