03目覚めゆく恥辱
再び玄関から出ても、やはり外は雨だった。
厚い雨雲に湿り淀んだ夜空を目にした美露の心はすっかり沈み切っていた。
何一つ下着を身に着けていない美露の乳首のピンク色や陰毛の茂みの濃い色すら隠せない程白く薄い生地でできたパジャマを着た美露の顔には、先ほど俊司がほどばしらせた精液がぬり込まれていた。
(こんな顔、誰かに見られたらどうしよう……)
沈んだ表情の中に焦りすら浮かべる美露の両肩に、まるで場違いに励ますようにぽんと手を置く俊司。
「じゃ、デートに出かけますか」
心底楽しそうに、美露の手を引っ張って先に進もうとする俊司であったが、美露は進むまいとその場に踏ん張る。
「どうしたんですか?」
「一体こんな雨の中、どこいくつもりなの? それに……私――ひゃぅ!」
口答えする美露の片胸を、パジャマの上から俊司が荒々しく鷲掴みにした。
ダイレクトに俊司の指の感覚が、美露の乳房の触感を抉る。
「い……いたい……いやっ!」
「一緒に来て下さい。いやなんて言わせません」
「……ごめんなさい、ゆるして……この手を離して」
ようやく彼女の胸から手が離された――が、今度はいたわるように撫で回してきた。
「そうそう、そうやっておとなしくしてくれたら、こっちもひどいことしませんから、ね?」
手を離し際に、パジャマの生地を小さく盛り上げる乳首を人さし指でこねくりまわす。
自分の手の平でいたぶられた片乳をさする美露のもう一方の片手を引っ張ると、俊司はそのままエレベーターへ連れていく。扉の前に彼女を立たせると、自分は後ろに回ってぴったりと体を押し付けて抱き着いた。
「僕、今すごく嬉しいんですよ。ここまで美露さんの側にいれるから」
彼の腕は彼女のみぞおちの上あたりでクロスされ、その両掌にしっかり柔乳をすっぽり納めていた。
「やめて……やめて。あなたが嬉しくても、私は嫌なの。――勘違いしないで。あなたが私の体の中で思いを遂げたからって、私はあなたが好きになったわけじゃない」
彼の手を引き剥がそうと自分の手を持っていく美露だが、
「好きにさせてみせる。……無理矢理にでも。僕が側にいないと生きていけないようにしてやる」
乳房をパジャマ越しにがっちりおおっていた俊司の手指がじわじわと曲がる。
柔らかい肉に指をめり込ませてがっちり美露の胸を掴むと、そのまま手首をくねらせて捻る。
「痛いっ! やめてったらっ」
「いずれ自分からこうして欲しがるようにしてやる。わかってる? くふ……美露さんの身体、僕のものなんだよぉ、うははははは、あははははははぁ!」
心底嬉しそうに笑いながら、俊司は美露の背に自重をかけながらひたすらに乳房を揉みしだいた。必死に逃れようともがく美露だが、彼の腕の力が強いがために抜けだせない。
エレベーターの扉が二人の前で開く。何ら特徴がない、ベージュ色の壁に四方を囲んだ小さな直方体。美露自身、このマンションに住むようになってから慣れ親しんでいるその空間が、今は逆に危機感を煽る。
――乗ってはいけない!
美露には、今止まっている下りのエレベーターが自分には考えもつかない悪夢の入り口に思えたのだ。
だが背中にのしかかる俊司の体重が、彼女の身体をエレベーターの中に押し込もうとする。
いくら足を踏ん張って抵抗しても、俊司は容赦なく前へ前へと押し込めようとする。
結局美露はそのまま、エレベーターの中に詰め込まれてしまった。なんとか脱出しようとする前に、扉は無情に閉まる。
「あともどりは、できませんから」
遠慮一つなく、俊司の手がパジャマの中に潜り込んでくる。
片方はさっきと同じように、今度はじかに美露の胸をつかむ。しかも、さっきより強く指を食い込ませ、揉んで捻って押しつぶす。
さらに、もう片方の手は、パジャマのズボンの中に入っていった。
「い……ひ、いや」
臍のあたりから蜘蛛のように這ってくる俊司の手のさらなる侵入を防ごうと、彼女は身体をくの字に折り曲げる。
しかし俊司の手は強引に彼女の恥部に潜り込む。柔らかい下腹部に指を食い込ませ、陰毛の小さな茂みを踏み乱す。
さらに奥をまさぐるために差し込まれた人さし指が、美露の恥ずかしい割れ目のはじまりに触れた。
「……っひ!」
皮に包まれたクリトリスが、侵入してきたクリトリスに当たった。感覚云々より、そこまで指が入り込んできたことに美露は身体をびくつかせた。体中に波打つ鳥肌。
俊司の息が荒くなる。美露のパジャマの片側をはだけさせて片方の乳房をさらけ出すと、その乳房を再びさっきのように揉みしだきながら湿っぽく欲望をささやく。
「しっとり濡れてるね。ねえ、このまま入れさせて――」
そこで、わずかに内臓が浮き上がるような感覚を二人に与えてエレベーターが止まった。開く扉。
入る時と全く逆に、今度は出るまいとその場に座りこもうとする美露の腋に腕を通し、力づくでエレベーターを出た。
二人が出た後すぐ、エレベーターは閉まる。
「やだ……こんなのやだ、帰りたい」
「せっかくのデートなのに、そんなこと言わないで下さいよ」
「やめて、前に押さないで!」
「いやです」
足にどれだけ力を入れて踏ん張っても、俊司を押し返すことができない。
彼女の目の前に、ガラス扉が迫りくる。外では大粒の雨が、地獄の魔物が騒ぎ立てるような音を立てて硬いアスファルトを容赦なく叩き付けている。
「だめええええええええ!」
美露の叫び声は、しかしただロビーに響くだけ。部屋一つ一つに防音対策が施されているこのマンションでは、その叫びは誰にも届かない。
羽交い締めしたまま、俊司は彼女を扉のガラスに押し付ける。もし扉の向こうに誰かいたら、乳首を食い込ませてびったりと丸く押しつぶされた美露の片乳が拝めたかもしれない。しかし、そこには誰もいない。
美露を押さえ付けながら、隙一つ作らないように驚くほど器用に扉のロックをあけると、そのまま彼女ごと扉を押し開けた。
勢いでそのまま彼女は前につんのめって、雨降りしきる外へ転がってうつ伏せになった。雨粒が歓喜の声を上げて彼女の上に落ちて弾ける。
「ひ……うぅ……」
小さなうめき声も、雨の音にかき消されて俊司の耳にすら届かない。容赦なく雨が穿つ中、美露は独り。
次第に彼女のパジャマや髪が雨の水に蝕まれていく。
俊司はなにもせず、ただ口元をほころばせて見ている。
その顔を、美露は見てしまった。
身体のうちから嫌悪と羞恥が沸き起こる。
(い……いや! 見ないで……そんな目で見ないで!)
いやらしい彼の視線の先に、片方の乳房をあらわにして雨降りしきる地面で横になって身体を濡らしている自分がいる――パジャマはぐっしょり濡れて、下着を着けていない自分の身体をすっかり透かしているにちがいない。それが彼の目の前にさらされているのだ。
それを考えるだけで、美露はどうしようもない屈服感に苛まれた。
俊司が、未だに起き上がらない美露に口を開く。
「き……綺麗だ美露さん、すごく綺麗だよ……初めて会った時もそうだった、濡れたブラウスから美露さんの身体が透けて見えた時、僕すっかり美露さんのこと好きになっちゃったんだ。がらにもなく『守ってやろう』だなんて思っちゃった。……どうせ、ここまでしないと分かってくれないんだ。もっと、もっとめちゃくちゃにしてやるんだ、美露さんを……。それで、美露さんがすっかり自分になつくようにしてやるんだ!」
うわ言のように言葉を続けながら、彼はゆっくりと美露に近付く。
「……あぁ、すごく愛おしいよ美露さん……そのすっと伸びた背中、かわいいお尻……アスファルトに押し付けたそのおっぱい……」
降りしきる雨に身体が濡れるのも構わず、俊司は美露を抱き寄せて力強く抱き締めると、自らも立ち上がって彼女をその場に立たせようとする。
(私に……私に触らないで……、怖い)
声にならぬ怯えを唇の動きに表しながら、しかし彼女は立ち上がろうとしない、助け起こしても彼女は再びその場にうずくまって動こうとしない。
しまいまには、その腕を掴もうとする俊司の手をはたいてそのままうつむいてしゃがんでしまう有り様。
「うっぐ……うぅ、うぁぁ……っ」
美露は泣いていた。今までのこと、とりわけ今日家に帰ってきてここに引き出されるまでのことが、彼女の胸の奥を強く締めつけたために、今まで我慢していたものが堰を切ってしまったのだ。
しかし降りしきる雨の音と彼女を濡らす雨の水が、そんな彼女の悲愴を覆い隠す。
俊司の目には、梅雨に妖しく濡れた美女が言うことも聞かずにうずくまっているだけにしかうつっていない。
彼は、突如おもむろに美露のパジャマを掴むと、思いきり引っ張った。
「きゃっ!」
「言うことを聞かない子は、お仕置きしますっ!」
いとも簡単に引き裂かれたパジャマ。
「いやあああああああああ!」
何一つ身にまとわぬ裸体を雨に打ち付けられるままに、美露は身体を隠そうとさらに縮こまる。
鳥肌立つ白い肌全体に透明な雨の粒がまとわりつく。その滴りは、彼女のおののきの汗も悲しみの涙も押し流す。
濡れきった髪はその量感をすっかり失い、ただか弱く彼女の肩やうなじに細いつたのように絡み付いている。
雨に降られれば降られるほどに、その姿は水に打たれてなお色めきたつ紫陽花の花のようにますます香り立つように思えた。
すっかり濡れそぼった美露の裸体を眺めて、俊司は自分の股間をふくらます。そのまま最大限にまで自分のズボンを膨らますまで、彼は顔を赤らめて涙を流す彼女をそのままにして、ただ芸術品を愛でるように見つめ続けた。
そのうち自分の身体が欲情に火照り始めると、彼はようやく美露に手を差し伸べる。
その手指の先を怯えた目で見る美露。それは、雨の中に打ち捨てられた仔犬の仕草にも似ていた。ひどい目にあわされたことにすっかり心を苛まれきっているために、自分に優しく伸ばされた手を、ただ戸惑いのまなざしで見つめている。
それはとても可愛い姿であった。
だがいたずらに長い戸惑いに俊司は慈悲を見せなかった。
「いいかげん立てよ! おいてけぼりにするぞ!」
言葉を荒げて俊司は彼女の手を握ると思いきり引き上げた。
今度は何の抵抗もせずに、彼女はただ俊司に引っ張られるまま。
マンションのガラス扉を開け、早歩きで美露の手を強く引いてそのままエレベーターの中に転がる。
扉が閉まる。だが、行き先のボタンを押していないためにエレベーターは動かない。
「もう、こんなだよ僕。ほら、子宮のある臍の下のあたりで触ってみてよ、美露さん」
奥の壁に彼女の身体を押さえ付けると、俊司は膨らみきった股間を彼女の下腹部に、その膨らみの硬い芯とそこに集積された温もりがはっきり分かるくらいに強く押し付ける。
それだけでは飽き足らず、彼は腰をぐいぐいと突き上げるように動かし始める。
「ひ……うぇ……うう、いやぁあ」
美露は嫌がりながらも、抵抗ができない。大雨の下で裸になったのがこたえ、彼女は終始震えっぱなしなのだ。ただ彼女は俊司の思惑のまま、身体の中にまで響くように伝わってくる彼の男根の律動とオーラをその子宮で受け止めるのみであった。
雷鳴轟く昨日の夜、さんざん穢らわしい精液を注がれた秘壷に――。
「やめてぇええええ! もういや、もういやああああああああああ!」
ようやく俊司が離れると、美露はその場にくず折れて泣き崩れた。手で顔を被うことをせず、ひたすらエレベーターの床に涙を滴り落とす。
最上階へのボタンがようやく押された。
「お風呂、もう入ってるよ」
外にいた時とうって変わり、健康的に明るい調子で俊司は美露に声をかけた。
当の美露は、うなだれたようにうつむいて椅子に裸で座っていた。濡れた身体はバスタオルで拭いはしたが、まだその肌には鳥肌が立っていた。それに、髪は未だに濡れたまま。
バスタオルを首にまいたまま、彼女はぴくりとも動かない。
「ほら、お風呂でじっくり身体を暖めないと、風邪ひくよ?」
心底心配そうな口調で俊司は美露に声をかける。
それでも彼女は動こうとしない。
「もう、しょうがないなぁ」
ふぅっと溜め息をつくと、俊司は美露の背中と膝裏に腕を入れると、
「よっこら、しょっと」
「きゃっ!?」
美露の尻が椅子から宙に浮いた。
彼の身体から信じられない力であった。美露をその胸の上で横抱きにしたのだ。
ゆっくりとバスルームに歩く俊司の顔を、彼女は両手を胸の谷間に押し付けてただおどおどした目で見るだけであった。
バスルームの前に来ると、そこで俊司は美露を立たせる。彼女は両手を胸の谷間に押し付けた格好で縮こまるように立っているだけだ。
「……じゃじゃぁーんっ!――」
「――!」
黄色いライトで照らされた狭い一室は、強い花の匂いで充満していた。この何処かつややかな香りは――薔薇の匂い。
奥に入ったところに設置されているだ円形の浴槽には、バイオレット色に染まった湯で満たされている。
「薔薇風呂だよ。入浴剤で面白いのがあると思って買ってきたんだ。気に入ってくれた?」
彼女は返答できず、ただ口をぽかんと開けているだけであった。
「少しぬるい目の湯加減にしておいたよ。ゆっくり浸かったらいいよ。身体の芯まで暖まって……身体の隅々まで薔薇の匂いを染み付けて上がっておいで」
彼から逃げるように、美露はバスルームに入った。その際に彼は彼女の肩のバスタオルを取り上げる。
「それじゃ、ごゆっくり……」
静かに閉まる扉。
バスルームに美露は一人取り残された。
彼女はようやく長い溜め息をつく。とりあえず今ようやく彼の側から離れられたのだ。
スツールに座り、バイオレット色の湯を洗面器に汲むと、彼女はそれを頭の上からかぶる。
雨で冷えた身体に、ぬるめの湯が心地よい。
そのまま湯の中に身体を沈ませたい欲求にかられたが、身体を洗うのが先だ。
そこで彼女は、自分の顔に塗りたくられたスペルマのことを思い出す。気味が悪くなって、彼女はあわてて洗面器に湯を汲んで顔を洗う。洗う、洗う、洗う。あの生暖かくぬめぬめした感触と青臭い臭いを拭うために。
ようやく気が済むまで洗い終えると、今度はあかすりタオルに石鹸を泡立てて身体を洗い始める。足、手、腕――ようやく身体を洗う段になって、彼女はまたも気持ち悪い感触を思い出す。
乳房を自分の欲求に任せて揉みしだき握りひねったまがまがしい手指の動き。
乳首をひたすら弾いたりこねくり回したりして弄んだ指の腹のどこかごわごわした感触。
脇腹や身体のくびれををねちっこくナメクジのようにはいずり回ったいやらしい掌の辿った軌跡。
うなじを悪寒が走るほどに撫で回した鼻息の風圧。
それから……、
さっき下腹部に押し付けてきた男のあの、黒く硬く煮えたぎったまがまがしくて醜い肉の懐刀の存在。
自分の運命があの醜い肉根の先で踊らされていると思うと、美露は頭を抱え込まずにはいられない。
そしていやでも思い出す。あの夜、自分の肉洞に無理矢理入り込んできたあの肉茸が中で大いに暴れ、そのえらで肉壁を妖しく抉るようにして擦り上げ、極度まで反り返って硬直した末に――
美露はおもむろにシャワーを取り出すと、限界まで蛇口をひねって股間にノズルを当てた。陰唇の根元まで届きそうなくらい、水柱の一本一本が強い水圧を持っていた。
そこに石鹸の泡のついた手を持っていくと、彼女は指をヴァギナの中に入れようとする。
石鹸が潤滑の役割を果たして、指はそのままつるりと滑り込むようにして入った。
「ふぅっ……んっ!」
(今掻き出せるなら、あの忌わしいスペルマを吐き出さないと!)
膣壁のいたるところを指でまさぐりながら、なんとかして精液を外に出そうとした。指だけで駄目なら腹に力を入れ、腰を振ったりして……。
出るわけがなかった。
それどころか、そんな無駄なことをしているうちに美露の身体は次第に火照りはじめた。火照りは彼女の身体をしだいにうねらせ、意識を少しずつおぼろげにしていく。
時々、雨空の中で蠢く雷光のように沸き起こる強く短い甘美な感覚に背筋を跳ね上がらせながら、自分が一体何をしてしまったのか、ようやく気付いた。
しようと思ってしているわけではない。
だが今彼女がしているその行為は、自慰そのものであった。
(ああ、私……なんでこんな……)
止めようにも、彼女は止めることができなかった。指の動き、腰の動き、背筋の動き――そのどれも、彼女の意思ではなく、彼女が心の奥深くに秘めた欲望で動いていたのだ。
「はあ、あぁあ、と、とあ、とあらなぃひぃぃいいい、うああ、ああんぅああっ」
シャワーノズルを手放すと、その手もまた股間をまさぐる。
指の腹に、すっかり大きくなったクリトリスを感じる。その欲求不満げなクリトリスの包皮を剥いてやると、
「ひゃあああああぁあっ」
湯や水ではない、ねばっこくて生暖かい液体で秘裂が濡れそぼっていた。それはまるで、股間がひどく湿っぽい吐息を漏らしているかのようでもあった。
(すごく……私……エッチな身体……今、私すごくスケベ……)
「あぁ、あぁ、あぁあ、あうあ、うあぁあお、あああああっ!」
指はヴァギナの壁をいじくりまわし、尻は切なそうにぷるぷる震え、背筋はすっかり硬直していまわの時を待ち構えていた。
大きな、得たいの知れない波を予感させる空しさと切なさが体中を凍てつかせたかと思うと、そこから一気に、身体中をエクスタシーが駆け巡る。
――子宮の中に、精液のようでそうではない、何かとてつもなく気持ちよくていやらしい物が流れ込んで満たされていくような感じ。
「ぅああああっ!
……、……ぁはぁ」
極度まで背をのけ反らせたあと、美露は股間を白く濁った液体でびしょびしょに濡らしてそのままぐったりと床に背をもたれた。身体から力が削がれ、あとには気だるさが残る。
(……今の、今のは……、……そんな、私、そんなの……認めたくないっ!)
美露の目から一筋の涙がこぼれる。拭うことなく、それは首筋に流れ込むと、乳房の谷間を通り、そのまま筋を伝って臍の奥に溜まった。
蒸し蒸しとした密室の中で、彼女はただぐったりとしていたが、ようやく彼女は、自分がまだ身体を洗っている途中であったことに気付く。
浴槽からバイオレットの湯を汲み出し、自分の粘液を流し落とそうと何度も何度も股間にかけた。今度は自分で汚した股間を重点的に擦り上げながら、身体を洗っていく。得体の知れない罪悪感を感じながら。
(どうしよう……もし今の私の声が、あの男の耳に入っていたら……。スキモノだなんて思われたら、さっき以上にひどいことをされるかも)
体中をあかすりタオルで泡立てながら、美露は戸惑いを隠せない。
だが扉の方に注意を向けても、そこには俊司のいる気配はない。
そんなこんなで、ようやく彼女は身体を洗い終え、湯で石鹸の泡を流す。
髪をシャンプーで洗う段に入ると、そわそわしていた彼女の心もようやく落ち着きはじめた。長い髪を丹念に洗っている時はすごく気持ちが良くて、何故か心を和ませる。いつも感じていることなのだが、今日はそれ以上に気持ちが和んだ。
頭皮までくまなく洗うと、一旦湯で流し、リンスですすいで再び流す。
ようやく美露は、薔薇の香りで満たされた浴槽に身体を横たえた。
今までの事がまるでうそのように、彼女の気持ちはすっかり落ち着いていた。
彼女は純粋にリラックスして、ぬるいめの薔薇風呂を楽しんでいた。
(きっとこれは夢なんだ。内容がアブノーマルだけど、これはきっと自分の心の奥のやらしい気分が夢の中で形になっただけなのよ)
この薔薇の匂いはさっきの凄惨なシーンの見返り。つらいことが続けば続くほどその見返りは大きいということは、誰もが言っていた。きっとこれもそうにちがいないと美露は思っていた。
赤い花のいい香りと風呂の適度な温度に包まれて、彼女は微睡んでいく――
「おーい、美露さーん」
すっかり熟睡する手前で、俊司の声がした。
上体を起こし、周りを見渡す。
薔薇の風呂に入っている自分と、
「美露さーん、のぼせたのー?」
さっきまで自分をさんざん弄んだ男の呼び声。
――夢ではなかった。なにもかも、現実であった。
心の中でひどく嘆きながらも、美露はこの一時の楽園から出ていくしかなかった。
自分からバスルームの扉を開ける。
その向こうには、俊司がうれしそうな表情でバスタオルを持って待っていた。
「随分つかってたんだね。すっかり身体ピンク色にしちゃって……それに、」
美露の濡れた身体をバスタオルで頭からすっぽり包みこみながら、俊司は彼女の頭に鼻をそわせる。
「しっかり薔薇の匂いを身体にしみ込ませて」
美露は、かぶされたバスタオルの中で身体をすくませる。
(だめ。私すっかりこの男の思うがままになっちゃってる……)
俊司は美露の髪を丹念に拭いた後、次に身体を拭いはじめた。
すっかり赤くなった頬や艶やかに濡れきった首をさすり、控えめな丸みを帯びた肩とほっそり伸びた腕を撫で、腋の下から横腹を通って腰骨に至る美しいラインをくすぐる。さらに、すっかり桃の実のように赤く染まった両胸は念入りに、しかし力は一切加えず、まるで宝物を磨くような手つきで水滴を拭き取る。それから、背中にタオルを滑らせ、胸同様に赤く染まった両臀をまるで愛でるような手つきで谷間の奥までぬぐっていく。
「きゃっ……いやっ」
どこかいやらしい彼の拭き方に時々小さな悲鳴を上げながら、美露は嫌悪を抱いていた。今からでもバスタオルを奪って彼から離れて自分で拭きたくなるほど彼の手の動きはいやらしく、いらいらするほどにゆっくりであった。
しかし彼女はなすがままになっていた。それほどに彼女は疲れきっていたし、なにより長い入浴で少し頭がぼんやりとしていた。
ようやく俊司が身体を拭い終えると、美露は安堵の深い溜め息をつく。だがその後、彼が拭っていない場所に気付いた。
ふと股間を見ると、未だに水気を含んで、白いライトにてらてらと黒光りする陰毛の茂み。
「……ねえ、バスタオル貸してよ」
俊司が持っていたバスタオルを奪おうとしたが、彼は引っ張り返して彼女に渡すまいとする。
「どうしたんですかぁ、さっきちゃんと拭いてあげたじゃないですか」
「だって、まだ濡れてるところが――」
「どこですか?」
美露は一瞬口をつぐんだ。だが、恥じらいながらも彼女は小さな声で言った。
「……股。股よ」
「股? ああ、アソコ拭いてなかったですね」
歪む口元に、なにがしかの下心がこもっている。
「でも、そういえば女の人ってアソコ拭く時どうしてるんだろ? じっくり見せて下さいよ」
「馬鹿なこと言ってないで、早くバスタオル貸して!」
「おっと。それは手入れが終わってから」
「手入れ? って――あっ!」
美露の背後に俊司が回り、両肩を掴んで彼女を誘導する。
なされるままに二、三歩歩かされた先には。
洗面所に取り付けられた大きなだ円の鏡に、あられもない美露の裸体が映っていた。
「いやっ!」
鏡から目線を反らし、思わず両腕で胸を隠す美露。彼女の首の根に俊司の頭が乗りかかる。
「良く見たらどうです? ほら、風呂上がりの美露さん、すごく色っぽいですよ……今からでもたくさんキスしてあげたいくらいですよ……」
ねちっこく囁いた後で、彼は彼女の片ももを平手でひっぱたいた。
「さ、はやくお手入れしましょうね。この脚を洗面所に乗せて下さい」
「そ、そんなの無理――」
「早くしなさいって!」
ためらう美露の片足を、俊司は片腕に抱えると強引に洗面所の縁に乗せた。
鏡は、片股を大きく開いた格好の美露の、陰毛の下で息づく陰唇を映し出す。
「いやっ……こんな格好、いやあっ!」
胸を被っていた腕を、今度は自分のあらわな股間に伸ばす。だが彼女の両腕は俊司にはたかれる。
「痛っ!」
「ほらぁ、お手入れの邪魔しないでくださいよ」
美露をとがめると、早速俊司は作業に取りかかる。洗面所においてあった石鹸をおもむろに彼女の陰毛に押し当てると一気に擦り上げる。
石鹸から立ち上る泡が、黒い茂みの隅々に入り込んで絡み付く。
「ちょっと、手入れってひょっとして――!」
「ほら、じっとしてて下さいよ」
彼が手に持っていたのは、無気味に光を反射する二枚刃のT字カミソリ。
「い、いやっ! お願い、剃るのだけは、剃るのだけはやめてぇっ!」
「何でですか? オマンコの毛そっちゃえば、美露さん妖精みたいに綺麗になるんですよ」
「お願い……すごく恥ずかしい」
「恥ずかしくなんかあるもんか。大丈夫、僕の前では何も恥ずかしがることなんかないんですよ」
カミソリが美露の陰毛の森に迫る。
「やあああああ! 本当にやめてっ! お願いだから――」
「切れちゃうでしょ、動かないで!」
俊司に耳もとで一喝され、美露は肩をすくめた。
その隙に彼は一気にその小さな茂みを刈り取る。
泡にまみれながらも、青白い地肌があらわになる。股間がいっきに涼しくなったような感覚を覚える。
「ああ……いやぁ……」
顔に手を当てて弱々しい声を漏らす美露。
カミソリは容赦なく彼女の下腹部を動き回る。最初はジャリジャリと引っ掛かるような音を立てて陰毛がそがれていったが、やがれそれもシャリシャリと小さな音が時々聞こえるのみになる。
その様子は容赦なくだ円の鏡に写し出される。片股を大きく開いて会陰を大きく開いて毛を剃られている自分の姿を、美露は正視できなかった。
ようやくカミソリの動きが止まった時には、陰毛の茂みは跡一つ残さずに消え去っていた。
「ほおら、終わったよ美露さん」
蛇口から水を出し、泡だらけの彼女の股間にはねかける。
「ひあぅっ!」
美露にはその水が、今まで感じた中でひどく冷たく感じた。
「これで、美露さんのアソコがますます綺麗になりましたよ。こうやって水で濡らしたらもっと綺麗だよ。……ほら、ほんとは感じてるんだろ? ふふ……指入れてあげますよ」
「いやっ、やめっちょっと――きゃああ、あっ」
再び股間を覆って守ろうと手を動かした美露だったが、間に合わなかった。
ピンと伸ばした俊司の人さし指の先が美露の秘襞をかき分けた奥、湿り気を帯びたヴァギナの中に入り込むと、あとは素直なほどにヴァギナの中へと入っていく。
「ほおら、やっぱりヌレヌレだったじゃないですかぁ。……すごく熱いですよ、美露さんのヴァギナ。とろけるようですよ」
「ひうんっ、うんんんっ!」
ヴァギナに指を入れた俊司の手をなんとか抜こうと両手を持っていくが、肝心の力が入らない。
美露のヴァギナの中でひくひくとうごめく俊司の指。肉壁を指の腹で引っ掻き回し、さらに奥をかき回す。
さっき自分で入れていた時と同じ動きであった。だが自分のよりも他人の指は、自分の意思で動かしていない分どこをまさぐられるか分からないためになおさら感じる。
閉じていた唇も、ついに我慢できずに開いてしまった。
「んああっ、ああ、ああああっ」
「いい声で鳴くじゃないですか。その声、ずっと聞いていたい――」
「ひむっ――!」
喘ぎ声を誉めて、俊司は美露の唇に食らい付いた。半開きだった彼女の口から舌が入って来る。
さらに、無防備になっていた彼女の片乳に彼の手が及ぶ。タオルで拭いていた時とはうって違って、形が歪むほどにがっちり掴んで揉む掌の中で、乳首はすっかり固くなっていた。
乳首が手の中で押し込まれ、転がされる度に、やるせない感覚が身体に響いてその力を奪う。俊司の舌を拒もうとする彼女の舌が芯をなくしたように萎え、背筋が危う気にたわむ。
「むんうううぅうっ……」
奪われた口でうめき声をあげて、目から涙を流す。
(私、私もうこの男にいいようにされちゃってる、だめ、私……このまま私……)
燃え上がったヴァギナが、自分の意志と関係無しに腰をかくかくと動かした。
俊司はようやく口を離す。
「すっかりノリ気になってますね。……ああもう、僕もがまんできない……!」
彼はいそいそとズボンのファスナーを下ろすと、パンツの中で窮屈そうにしていた肉茸を取り出した。
美露の方も片足を床におろしてやると、鏡に手をつかせ、尻を突き出すような格好にさせる。
鏡に映った彼自分の姿を見て、今日何度目かわからない鳥肌をまたもざわつかせた。紡錘状にうつむく乳房はその片側を俊司の手で揉み回され、そのまた奥では彼の肉茸の先が今にも貫かんかのように、秘裂の方にそそり立っているように見える。
その背中に覆い被さると、俊司はさっきまで彼女の中で動かしてすっかり濡れそぼった指を美露になすりつける。
「こんなに濡らしたんですよ、美露さん。イヤイヤ行ってる癖に随分スキモノなんですね」
「ああ、いやぁ……」
「へへ、自分の愛液で頬を濡らした美露さん、すごくセクシーですよ」
(言わないで、ああ……)
生暖かい自分の粘液で頬を濡らされた自分を正視できず、彼女は顔をそむけた。
だが、それも俊司の手で押し戻される。
「だめですよ、美露さん。ほら、よく自分を見て」
再び目に入った鏡の自分に恥辱を掻き立てられて、
「――ひぎっ!」
美露の秘襞を貫いて、力強く挿入される肉茸の根元と醜く揺れる睾丸の袋がしっかり鏡に映される。
「ひあああああっ、ああ、あああ、ああああっ!」
見たくなかった。膣を荒々しくかき回す俊司の肉茸に翻弄されながらも、彼女は鏡に映るあさましい自分の姿を見まいとする。
俊司の手は、この期に及んでもなお背けさせまいと彼女の顔を鏡の方に向けようとする。
「ほら、セクシーでやらしい自分の姿をしっかり見てっ!」
「あああ、ああいや、あああぁあ!」
目から涙を流し、口から涎を垂らし、鏡の美露の顔はすっかり濡れそぼっている。
口を大きく開いて喘ぎ、貫かれる度に大きく胸を揺らし、背をよじらせる自分の姿をいやいや見せられて、美露はますます感情を昂らせる。
「やああああ、あああ、ぅああぁ!」
その叫びがこんな境遇に堕とされたことへの悲鳴なのかめくるめく肉感に溺れたための嬌声なのか、美露にもわからなくなってしまっていた。いや、そもそもそんなことを考えることさえ、もう彼女にはできなかった。
「ああ……ぇああああああぁ――!」
目を涙にかすませて、意識が別の世界に飛びたった。
いまわの時を迎えた自分がどんな表情を見せたのか、美露は見届けることができなかった。 |