06雨の日の憂鬱で淫靡な朝食

 外を見れば、またも雨だった。だが美露にとっては外が晴れでも嵐でもどうでも良かった。
 風呂から上がって今朝までに俊司と一体何度セックスしただろうか? 彼のなすままほとんど自棄的に体を委ねた美露に対し、俊司は彼女に元彼の事を忘れさせようとしているのか、自分が知りうる限りのあらゆる性技を試しては、彼女の膣肉に自分の形を刻まんほどに激しいインサートを挑んできた。
 おかげで彼女の腰はふらついて、本当に自分の物でなくなったかのような感覚にとらわれていた。
 今こうやって、湯の中でゆでている卵を箸でかき混ぜている時でさえ、気を許せば床に座り込んでしまいそうであった。だがそこを何とかこらえ、ほつれて顔にかかる髪をかき分けながら、一糸まとわぬ裸の姿で台所に向き合う。
 今日の朝は、俊司の指示で幾分量が多かった。牛乳とトーストだけは昨日と同じだったが、その他にゆで卵とハムサラダを作らされた。
 俊司はトランクス一枚履いただけの姿でテーブルの席について、美露の揺れる尻を眺めている。彼の視線は美露もはっきり感じていた。まるで舐められているような、くすぐったい感覚。しかしそれには明らかに性的なニュアンスがこもっていた。
「ゆで卵は半熟くらいでいいよ」
 さっきから延々鍋の湯の中の卵を箸で転がしている美露の背中に体を押し付けて、俊司は彼女の乳首に手を回して摘まみ上げると指の腹で転がす。同時に自分の鼻を彼女のうなじに沈める。
「いっ!」
「美露さんの体、薔薇のいい匂いがするよ……」
「ちょっ……、お願いだからやめて。火を使ってるのよ」
「そのわりにはイヤイヤしないね。もっとしてほしいんじゃないの?」
「うううううううっん!」
 乳首を前の方に引っ張られ、柔らかく熟れ切ったような半球の乳房はたちまち円すいの形になる。
「うあぁっ……もういい加減にしてよ」
 そこでようやく美露は俊司の手を掴む。そのまま払い除けるのではなく、指の一本一本を掴んで離す。
 彼女のさせるままにさせて完全に乳首から指が離れた後、俊司は静かに話し始めた。
「最初の時より、だんだん僕に馴染んできたね」
 反論を噛み締めて無視を装っているのか、美露は固く唇を閉ざしている。
「本当はさ、僕の想いなんて成就されないって思ってた。どうせ普通にあたっても断られるだけならまだしも、下手すりゃ思いっきり嫌われて、想いが果たせないまま人生までも台無しにしちゃうかもしれないって思ってた。知り合いにいたんだ、ストーカー行為でっち上げられてムショに入れられたやつが。いい奴だったのに、恋が不本意に終わっただけでそうなっちゃうなんて、不憫に思わない?」
 何も答えない美露。
 そんな彼女に後ろから抱き着く俊司。
「雨に濡れた美露さんが好きになって、僕思ったんだ。普通に告白してムショに入れられるくらいならさぁ、いっそ自分の気持ちを体で表して一度でも想いを果たしてからの方がいいかなって」
「要するに……フラれるのが怖かったんだ」
 美露はコンロの火を止めて彼の抱擁を解くと、ようやく口を開く。
「フラれるのが怖いから、無理矢理レイプしたんでしょ? いろいろゴタク並べてるけど、結局そういうことでしょ?
 最低だわ……サイテェ! あなたはね、卑怯者なのよ。いい? 想いを告白することが悪いだなんて言わないわ。でもなんで断られたら刑務所に行かなくちゃいけないわけ? 断られてもさっぱりした態度で振る舞ってたら捕まることなんてないはず――」
「何も悪いことしてないのに、友達が捕まったんだよ!」
 美露の反論を打ち消すように、俊司は怒鳴った。しかし美露はひるまない。
「さっきから友達友達って、あなた自分のやってること正当化してるだけじゃない!」
「うるさいっ! それで毎度毎度ヨガってるのは誰なんだよ!」
 言い返す言葉が思い付かなかった。美露は、丸裸の自分の体を一瞥する。既にさっきの愛撫で乳首が勃ち上がってしまっている。
 自然と、目から涙がこぼれた。
「こんな……こんな淫乱な体にしたのは一体誰なのよ!」
 しかし俊司は、彼女と対称的に冷静な表情でこう言った。
「――美露さんだよ」
 体中の毛穴から熱いものと冷たいものが同時に吹き出るような感覚を覚え、思わず美露は肩をすくませた。彼から一歩退いて胸の上で気弱そうに腕を組む。
 しかし当の俊司は彼女にさらに近付いて話し続ける。
「最初に会った時から、美露さんがエッチなのはわかってた。僕はそれに多少テコ入れしてあげただけさ。それが、こんなに淫乱になって……。お風呂じゃオナニーするしね」
 図星をさされ、さらに美露は縮こまる。
(……聞かれてた!)
「でもすごく嬉しいよ、僕の入れた薔薇風呂に欲情してくれるのは。きっと美露さんのアソコには、薔薇の匂いが染み付いているはずだよ」
 体がひっつくくらいにまで近付くと、俊司は再び、今度は前から美露を抱き締めると、唾でぬめらせた舌で彼女の頬を舐める。
「ひゃっ!」
「どんどん美露さんが、僕好みになっていくのが嬉しい。遠慮しないで、どんどんスケベになってね」
 鼻の頭に、頬に、それから唇に軽いキス。それから、臍の下あたりを軽く撫でて肩をぽんぽんと叩く。
「ごめんね、朝ごはん作ってる邪魔しちゃって」
(あ……ああ、私どうしちゃったんだろ? 何だか、変に嬉しい気分になってる)
 心臓の鼓動が少し強くなり、体全体が少し火照ったような奇妙な感覚を覚える。
 再び臀肉に俊司のねちっこい視線を感じる。しかしさっきと違ってそれが少し心地よく感じていた。
 たまらず、彼女はぷるんと尻を振る。
「凄く可愛い、美露さんのお尻。ゆで卵みたいにかじりたくなりそう」
 俊司にそう言われてなお、彼女はむずがゆそうにもじもじと尻を振る。
(ああ、どうして?)
 恥じらいに似た戸惑いをみせる美露。
(なんでこんな……まるで喜んでるみたいじゃない……)
 それが何故か分からないのがやりきれない。それがいつしかもどかしいむずがゆさになって、また体をもじもじとさせる。
 なにもかも、俊司の視線にさらされる。彼が笑っているような感じすら覚える。
 美露にはそれが今さらながら恥ずかしくなってきた。
「ああ……見ないで」
「ううん、エッチな美露さんの体が好きだからずっと見てるよ」
「こんな私を……お願い、見ないで」
「ねぇ、もう朝ごはんできてるんだろ? 早くこっちに持ってきなよ」
 俊司の言う通り、トーストは既に焼き上がり、サラダもあらかた盛り付けが終わっていた。ゆで卵も、さっき火を止めはしたがもういい頃合だ。
「おっと。ちゃんと両手を使って運ぶんだよ。胸隠そうとして片手がお留守にならないようにね」
 指示どおり、両腕を内側に寄せがちにして、美露は両手それぞれに一品づつ持ってゆっくりと運んでくる。テーブルの方を向けば、無邪気に喜んだ俊司の顔が目に映った。その目が自分の裸をなめるように見ていると思うと、自然と視線を反らしてしまう。
 ようやく、二人は朝ごはんを口にした。
 俊司はまじまじと美露の上半身を見つめている。昨日と同じように、物を食べる美露の胸のわずかな動きを楽しんでいるのだ。胸ばかりでなく、喉が嚥下する動きや引き締まった腹の蠢きも見つめている。
「……一体なんなの? 私が食べてるの見てそんなに楽しい?」
「うん、朝ごはん食べてる美露さん、すごくエッチだよ。すごく……」
 答えに意味深な余韻を残す俊司。何をか企んでいるような顔を美露に見せながら唇を舌で舐め、ようやくトーストに口をつけた。
 まるで美露の裸をおかずにしているかのような食べ方である。じっと美露の体を見つめながら、俊司はトーストとサラダを交互に食べている。
(気持ち悪い……でもどうして? 何で私の体、こんなにうずうずしてるの?)
 さっきは尻に感じていた視線を、今度は胸あたりに感じていた。たまらなくなって腕で胸を隠すが、触れた乳首がすっかり固く熱く尖っていた。
 しっとり湿り気を帯び始めた肉襞がオナニーの感覚を思い出す。それにともなって、クリトリスに血が流れ込むのを感じる。
 サラダボールにカチャンッとフォークを落として、美露は胸を隠す。
「み、見ないで。見ないでっ!」
「何? どうしたの突然」
 素っ気なく言いはしたが、俊司は彼女の突然とったポーズを楽しそうに見ていた。
「そんなに見られたけりゃ食べたあとで存分に視姦してやるよ。ほら、とっととごはん食べてしまえよ」
(……どこまでも、最低な男だわ……。私の体をまるでおもちゃか何かみたいに弄んで何が楽しいの……一体、何が……)
 それ以上意識すると、陰唇からねっとりと膣液がとろけ出そうになる。
 美露は考えるのを止めると、俊司を睨むように見ながら、片腕で胸を隠したまま身を屈んでフォークを手に取って黙々とサラダを食べる。
 サラダを食べ終わったらトースト、トーストを食べ終わったらゆで卵、全て食べ終わると美露はコップ一杯の牛乳をごくりと飲む。その時だけ俊司が顔をひどく歪めてニヤついたのを、彼女は気配で感じた。
 俊司もまた、朝ごはんを食べ終えていた。だがゆで卵を二つ、殻もむかずにテーブルの上においたままだ。
「ねえ、頼みたいことがあるんだ」
「何よ」
「ここにあるゆで卵を一つ、むいてもらえない? それから『あーん』ってしてもらいたいんだ」
「なっ……! 勘違いやめてよ、私達は――」
「君は僕のお嫁さんさ。確実じゃん、警察呼ぶ気もないみたいだし」
「あっ! ……ぁあ」
 か細く弱々しい後悔のうめき。俊司の執拗な色責めに翻弄されて、そんなこともすっかり忘れていたのだ。
「ね? 僕のお嫁さん。ほら、『あーん』して、『あーん』」
「そんな……、そんな、私いやっ!」
 卵の殻を向いて男の口に差し出す。それは単純な作業であるが、同時に親密さの強要でもある。
 だが、必死に拒む美露に俊司はあらかさまに機嫌を損ねた。
「何だよお前、てめぇの婿にそんなこともできねぇのかよ。それじゃあただマンコにチンポつっこまれて、マン汁垂らしてアヘアヘいって喜ぶだけしか脳のないダッチワイフじゃないか」
「そ、そんな……」
「でなかったら何? 裸の癖に羞恥心ゼロで嬉しそうにおっぱい揺らして道端走り回ってるさかりのついた牝犬か? 昨日なんか思いっきり尻振って走ってたしなぁ」
 美露の脳裏に、恥ずかしい格好で元彼に出くわした瞬間が甦る。
「ひぃいい! いや、いややめて!」
「図星言われて恥ずかしがってんのかぁ? ははは」
 俊司が家に上がり込んで以来コンディショニングを忘れて乱れがちになったウェーブの髪を振り乱して頭を抱え込む美露。それをあしらうかのように彼は乾いた笑いをもらす。
「まぁいいや。牝犬なら牝犬らしい『あーん』をしてもらおうかな。……オラ、床の上に四つん這いになれ、早く!」
 いきなり大声で怒鳴られて、美露は椅子から転げそうになった。そのまま彼女は言われた通りに、床で四つん這いになる。
「ほら、足を開いて! もっと高く尻を突き出せよ、ほらぁ!」
 あれこれと美露に指図しながら、俊司は彼女の後ろに回る。
 丸々した形の大きな白い尻に俊司は目がくらみそうになった。はち切れんばかりに自己主張する尻たぶの谷間には、薄い珊瑚色をおびた汚れなき菊門が小さくすぼんでいるのが丸見えだ。そこから色のグラデーションを引き継いで蟻の戸渡りの筋がすっと通り、淫らに湿り気を帯びながらも不安そうに半開きになった陰唇の端に至っている。
 普段決して人に見せることのない恥ずかしい部分を、この女は背を弓なりに反らしてまで高々と見せているのだ。
 さっきまでに何度となく彼女の膣内に射精した俊司の肉茸が再びむっくりと勃ち上がり、トランクスにテントを作る。
 きれいな色をした肛門にむしゃぶりつきたい衝動にもかられたが、彼にはもっとしてみたいことがあった。人さし指に淫液をねとつかせながら、彼女の肉襞を整える。
「あっ……やあぁ」
 四つん這いになった美露からは、自分の恥部と面向かっている俊司が何をしているのかよく見えなかった。不安の中で不意に彼の指を感じてしまい、思わず声が出た。
 しかし彼女は得体のしれない感覚に彼女はひどく驚いた。
「――っ!」
 それは非常に大きく、それでいてつるつるしていて、丸い。それが陰唇をかき分け、肉襞に絡まれながら、膣穴へと入ってくる。
 生暖かい感触は、入り口から滑るように膣内へと入ってしまった。これは――
「ゆ、ゆで卵入れたの?」
「お前のマン汁で味付けされたゆで卵を食べたかったんだ。いいな、ちゃんと『あーん』といって俺に食わせろよ。――ほら、出せっ!」
(私またおもちゃにされてるぅ! ああ、いやぁ! 私どんどんおかしくなっちゃうっ!)
「なにぐずぐずしてるんだ。コンビニ行った時ちゃんとできてたじゃんか。ほら。力め力め」
 下腹部をぽんぽん叩いて促されて、美露は性器の中に入れられた異物を吐き出すしかなかった。
「う、ううんっ」
 フィルムケースを産み落とした記憶を辿る美露。必死になる一方で、そんな自分を憐れむ自分もいた。
(私のヴァギナが、何かの袋みたいにされてる。こんなの、人間のすることじゃないよぉ……)
「ふぐぅう、ううんっ――あっ――はぁはぁ、う、動いた……」
 前に経験しているから、試行錯誤は数秒で終わった。なんとかゆで卵が膣の奥深くで動いたのを感じ取る。
 だがそれからが大変なのだ。膣壁に力を入れたりゆるめたりして、美露は全神経を膣内に集中させながら卵を外へ外へと動かしていく。あまりにもどかしい。できるのなら、自分の手を膣の中に入れてしまいたいくらいであった。
 それでもなんとか、卵はようやく膣口あたりに差し掛かる。
 あともう少しだ! その気持ちが思わず彼女を叫ばせる。
「ああ、出る……出る、出てくるよぉ! あぁ、出るうっ、出るうぅっ!」
 俊司の目の前にぱっくりと開く美露の秘裂。濡れそぼった肉襞と秘めやかな肉穴が、何か内側からの力でぴくぴくっとひくつき、花弁を開くようにゆっくりと広がり始めていた。
 その肉華のまん中深くに俊司が見たのは――さっき入れた卵の白。
「よおしいいぞ。そのままゆっくりと出すんだ。ゆっくりと、よおし……」
 卵は膣の汁気を帯びて、さも狭そうに肉穴から出てきた。
 その卵を、俊司はおもむろに口を開いてかじる。それから、彼女の肉襞にむしゃぶりつくかのように、歯と顎と、唇と舌を巧みに使って、出てくる卵を腹の中に収めていく。
「い、いやっ! やめてよ、何してるのよおぉ……」
「――美露のマン汁にまみれたゆで卵、とってもおいしいよ」」
 ねちっ、ぷちゅっ。
 汁のねばついた音が卑猥に美露の耳に届く。
「ああ、こんなの、私、私……」
 体をわななかせながら、彼女は目から涙をこぼす。
(こんなの、人間のすることじゃないよ。……なのに、体がうずうずして……ああっ)
 肉穴の入り口を丹念に舐めあげる男の舌。うずきがさらに増幅されて、もう何も考えられなくなる。
「んううううううんっ!」
 もう我慢できなかった。
 美露の尻が、さもやるせなさそうに揺れはじめる。
「すごい、すごいよ。美露さんのオマンコからどくどくおいしいお汁が出てくるよ。おいしいよ、最高の朝ごはんだよ!」
 声さえねちゃつかせて感極まったように話す俊司。その響きは美露の肉洞にわんわんと響いているようであった。
 美露からは俊司の顔を覗き込むことはできない。だが自分の淫汁にまみれながら満面の笑みを浮かべている彼の顔が自分の陰裂を舐め回していることを思うと、
「うううう――んんっ!」
 体をさらにわななかせ、弓なりの背中を震わせると、美露は一瞬恍惚の高みにさまよう。
 そうなれば何もかもが気持ちよくなっていく。男の目の前に恥ずかしい部分をさらけ出していることも、裸で四つん這いになっていることも……。
 ようやく気がついた時、
「ごちそうさま。朝ごはんおいしかったよ」
 俊司がそうささやくと、すっかり敏感になってしまった美露の体の、赤く火照った耳朶に唇を寄せられた。
 哀しくも、それだけで美露はまたも絶頂を迎えそうになった。
(私の、変態……)
 それが、何度とないエクスタシーを迎えさせられた今の美露の、俊司とのセックスへの精一杯の抵抗であった。

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