08変態し、転生する美露
一向にやむ気配を見せない雨の中。二人は行きに通った道をそのまま引き返している。
裸同然の姿で、美露は俊司の側を歩いていた。
(私って、犬みたい)
首輪をはめられて俊司の持つ手綱に繋がれた自分を、美露は自分であわれむようにけなす。
(すっかり変態になっちゃった……もう後戻りできない)
降り注ぐ雨粒が白い肌を濡らして艶やかにしていく。それは彼女の身体を、厚い雲の立ちこめる暗い天気の中で眩しいくらいに輝かせる。
「すっかり裸がさまになったね。僕が思い描いていた通りだよ」
美露の横に歩く俊司の見る目は小愉快そのものであった。その視線は彼女の濡れた身体をねちっこく舐め回し、くすぐり、いじり回す。
「ああぁ、……この服すごくきつい……」
ボンデージの主構成である革の紐は、水分を吸いこんで彼女の身体に食い込んでいく。それは硬くなった乳首を乳暈の中にすっかり押し込めていき、さらに彼女に卑猥な歩き方を強要する。
「おおお、美露さんはりきってるねぇ」
「い、いや、そんなこと……あ……言わないで」
胸と尻をそれぞれ前後に突き出し、急所をうまく避けた食い込みのじわじわとした痛みに耐えられずに股を少し開き気味にして美露は歩いていた。
エレガントの要素を一切欠いた、発情した牝のモンローウォーク。
俊司が望むなら、彼女の後ろから手を回し、尻の谷間をくすぐりながら秘襞やクリトリスをつまみ上げることもできる。
「あ、ああぁ、あああ痛いっ!」
つねられる度に立ち止まって、健気に尻を振っていやいやする美露。そんな彼女の臀肉を、俊司は愛液で濡れた手で軽くペチペチと叩いて先を促す。
こんな大雨の中でも、二人の横では車が通り過ぎ、すぐそばを人とすれ違う。
数日前の美露ならば泣き叫びたいほどの羞恥に身体をわななかせて金縛りになっていた情景である。
だが今の美露は全くものおじしなかった。どころか、車が通り過ぎるたび、人が走り過ぎるたびに、たまらなさそうな甘いため息をつくのだ。
彼女は人の目に自分の身体を晒すことに快感を覚えるようになっていた。
しかしそんな彼女も不安はあった。
突然美露は、頼るように俊司の腕を握りしめる。
「うん? どうしたの?」
「ねぇ、こんな私どう思う?」
「何を突然」
「ねえ聞かせて。どう思ってるの?」
雨に濡れる中で真剣な美露の視線を見て、俊司は傘の下で頭を掻く。すこし考えて彼はこう答えた。
「僕好みの変態さんだよ」
「私って、玩具なのかな?」
「……え?」
「壊れるまでいじくり回されて、結局は捨てられちゃうの?」
美露の目が涙で潤む。
「言うことさえ聞いてくれれば、捨てたりしないよ」
「嘘」
潤みきった目から、熱い涙がこぼれた。
「今はいいけど、身体に飽きたらどうせ捨てちゃうんでしょう」
「そんなことないってば」
「今だからそんなこと言えるのよ!」
いきなりヒステリックに叫ぶ美露。辺りの空気が一瞬固まったかのようになる。
足を止める二人の間に沈黙が流れる。
俊司は片手をシャツのポケットに突っ込んで、何かを考えあぐねているようだ。
だが彼は意を決したように表情を固くすると、美露の手綱を引き寄せる。
「ちょっとこっち来いよ」
強く引っ張られて、美露はその濡れた顔をさらに彼に近付ける。そのまま彼女は彼の腕に抱き寄せられる。
彼女を抱き寄せたその腕を、尻に当てる。持っていたものを手のひらから指につまむと、ぐっと尻の谷間に突っ込んだ。
「なぁ、何を……ん、んううううぁ!」
美露の小さな肛門に嘴を入れたそれは、俊司の指の腹に体を押されて、中に秘めていた液剤を彼女の中に吐き出していった。
肛門が、直腸が、流れ込んでくる液剤にこわばっていく。
浣腸である。
「あああ、うああああぁ!」
背筋を弓なりに反らせてわななかせると、美露はやるせない悲鳴を漏らす。
平べったい形をした小さなイチヂク浣腸の中身を全て出し切ると、ようやく俊司はその嘴を肛門から引き抜いた。
体にはまっていたコルク栓がポンと軽やかな音を立てて抜けたような感覚。その後で彼女は次第に腹の腸という腸がねじくり返るような感覚を覚えた。
ぐろろろろ……
液剤で軟化した便が腸壁にこねくり回される音が、美露の腹を穿つ。
「んううう……何でこんなことするの? ひどい……」
「本当は言うこと聞かないお仕置きのために持ってたんだけど、今の美露さんの質問に答えてあげるためにちょっと、ね」
「さ、歩くんだ」と尻を叩かれて、中からの圧力を懸命に押しとどめている肛門の括約筋が一瞬緩みそうになる。だがなんとかそれをこらえて歩き始める。
「いいかい、絶対漏らすんじゃないぞ。もし漏らしたらその場で置いていくからね」
「ああ、そんなぁ……」
「ほらそうやってまた立ち止まる。トイレはまだ先だよ」
しかし一歩一歩踏み出すたび、美露の肛門の裏側では腸に送りだされた軟便が突き破らんばかりに肉の門を押し開けようとする。
「んはぁ……んんうっ……うんんっ」
眉間に小皺を寄せて顔をこわばらせながら、しかし俊司に手綱を引っ張られて前へ進まざるをえない。
ごきゅぅるるるるる……
美露の我慢をあざ笑うかのように、彼女の腹は邪悪に唸る。
しかし俊司は、そのまま美露の家に向かわず、全く別の方向へ歩こうとする。その方角には――公園がある。
彼は脳天気にこんなことを言い出した。
「最初に会った公園でデートタイムとしけこもうか」
「な、何突然言ってるのよ! その前に、トイレ……うんんんんっ!」
「心配しなくても、公園にトイレくらいあるじゃないかぁ」
そう言ってさっきと同じようにペチペチと美露の尻を叩く。しかし浣腸された今、直腸と肛門を刺激するもどかしい苦痛をあおられるだけである。先に一歩足をすすめることすらおっくうになってくる。
商店街から公園まで、近いとはいえないが歩いていてもそれほど苦痛には思わない距離だ。しかし激しい便意とそれを無様な格好で耐え続ける自分に対する羞恥を抱えた今の彼女にその道のりはとても長く、苦痛に感じた。
彼女の姿は、雨の中を地面に這いつくばって進む白いナメクジのようであった。
(ああ……死ねるなら死にたい。一思いに死にたい)
時間が経つにつれて強く肛門に押し寄せてくる便意を、唇を噛んで耐え忍ぶ美露。
人や車が側を通れば彼女の全身に鳥肌が立つ。すっかりそれが快感の一つとなってしまった彼女にとっては今、気をつけないと尻の穴がゆるんでしまう。
「んうう、ううぅんっ!」
両腕でしっかり俊司の腕を抱きながら、美露は中腰の姿勢で高く尻を突き出して便意をこらえながらよちよちと歩く。
そんな彼女を見てか、俊司はかわいいペットにそうするかのように濡れた頭を撫でてやる。
ようやく公園に着いた時には、美露の息はあがり、どことなく両脚も震えていた。
「あぁ、やっと着いた、着いたよ……ト、トイレ! トイレ行かせてっ!」
公園の入り口をくぐると、その先に見えた公衆便所へ走ろうとする美露。
だが、俊司の持つ手綱が美露との間にピンと張ってそれを引き止める。食い込む首輪。
「ううううっ!」
「デートタイムに何で公衆便所にシケ込まないといけないんだよ。ほら、こっち!」
「ああ、出るぅ、トイレ、トイレぇえ!」
手綱を両手で掴んで泣き叫ぶ美露に構わず、俊司はそのまま公園の奥へと歩いていく。
着いたところは、彼が雨に服を濡らした美露と出会ったベンチである。
「ほら、思い出の場所だよ、美露さん。……あれからそんなに経ってないのに、僕には数年一緒に暮らしてきたような気がするよ」
感慨深げに濡れたベンチをさする俊司。
一方、臨界まで張り詰めた便意に歯を食いしばって闘う美露には、彼のような余裕は全くなかった。片手を尾骨のあたりに当てて腰を振りながら、中腰の姿勢で必死に我慢していた彼女だったが、それすらもかなわずにしゃがみ込んでしまった。
「何もかも、僕は正しかったと思う。美露さんは僕の思っていた通りの人だ。美露さんは、僕がしっかり守っていかないといけないと思う。僕が幸せにしないといけないと思うんだ」
ごるるるるるるるる……
美露の腹の汚らしい相槌。だがその大きな音は、彼女の腹の中で便意が最高潮に達していることの証しでもあった。
しかし俊司は話し続ける。
「美露さんは、自覚していなくても僕を必要としているんだよ。心配しないで、美露さんを絶対幸せにしてみせる。だから――」
一息つく俊司。
顎をしゃくりあげて最後の抵抗を試みる美露。
「僕と結婚するんだ!」
「あ――!」
『結婚』という言葉が美露の胸を突き刺した時、彼女の体から一瞬力が抜けた。 それが、肛門を決壊させた。
「ああああぁぁああああ!」
再び括約筋に力を入れようにも入れられない。勢い良く黄色い液体を吐き出して、そのあと屁のガスと共に柔らかい便を吐き出した。
「ああ、出ちゃったぁ……あぁ」
漂ってくる軟便の臭いなど嗅ぎたくもなかった。美露は思わず手のひらで鼻と口を覆う。だが匂いは鼻に漏れ、その奥をくすぐる。
肛門からはまだ止めどなく軟便が流れ出てくる。
「まるで、犬がウンコするみたいだね」
尻をぎりぎりまで地面に落とした姿で排泄した美露を、俊司は少し笑った声でそう比喩した。そこでようやく彼の存在に気付いた彼女は、思いつめたように泣き叫ぶ。
「ああぁ、ごめんなさい! ごめんなさいぃ! お願い、許して……もう我慢できなかったの……こんなところでしてごめんなさい……」
(捨てられちゃう。こんな汚い姿見られて、私絶対捨てられちゃう……)
一人になるのがものすごく怖かった。とにかく自分を安心させたくて、美露は許しを乞うように俊司の足にしがみついた。
しかし彼は彼女の手を離すと、そのままゆっくりと後じさる。
「あ、ああぁ……!」
持っていた手綱をベンチの足に固く結び付けて、彼は何も言わずにその場から離れていく。
ほとんど感じることのなかった雨の冷たさが、凍えんばかりに感じた。
「捨てちゃうの……? ねぇ、捨てちゃやだ、いやあああぁぁ!」
絶叫は俊司の後ろ姿に届くことなく、雨の中にかき消されてしまったかのようである。
膝と額を地面について、丸くなった背中を雨に打たせるがままにして、美露は自分の考えの中に沈む。
(捨てられました。私、二回も男に捨てられました)
(きっとそれは私がお外でウンチを垂れ流してしまうような変態だからでしょう)
(それ以上に、オマンコおっ広げてオチンチン入れたがってるインラン娘だからなのかもしれません)
(唯一の救いは、今私はこうして本来の姿になっていることです)
(裸同然のいやらしい格好で、雨の中こうして体を濡らしています)
(なんて気持ちいいの? 冷たいのが体をくすぐって、すっかりアソコがヌレヌレです)
(ピンコ立ちの乳首も雨に当たって凄く嬉しそうです)
(そうこうしているうちに、私自分でおっぱいフニフニしたくなりました)
(オマンコにもズブズブ指を入れたくなりました)
(オナニーショー……、あぁ、オナニーショー、オナニーショー、牝犬美露のオナニーショーぉぉぉぉ!)
しゃがんだまま股を開き、片手でボンテージの上から乳肉を荒々しく握りしめてぐりぐり回して揉みしだき、もう片方の指でクリトリスをくすぐりながらヴァギナに深々と指を入れていく。
「あ、あ、あはぁぁぁあ!」
背筋をよじらせ、腰をくねらせ、雨に濡れた肌や髪をそのままに、美露は誰もいない公園で乱れ狂う。
(飼い主に捨てられた牝犬が、手綱をベンチに括りつけられて、一人さみしくオナニーしてます。誰かかまって誰かかまって、おっぱいクニクニしてオマンコフニフニして、それでお尻ペンペンお仕置きして。ウンコやオシッコのしかたをちゃんとしつけて、言うことちゃんと聞けたらなでなでして。いっぱいいっぱい遊んで、優しく体を洗って、仲良くおねんねしましょうね――)
幼稚なストーリーに今の自分を重ね合わせながら、嬉しそうに舌を出しながらオナニーに耽る。鼻から漏れるうめき声もどこか愉快そうで、歌っているようにも聞こえる。
「う、んんん、う、んんんん、んうう、んんんうううぅ」
ヴァギナに指を入れたその腰で、俊司とのセックスシーンを思い出してみる。指で彼の肉茸が膣壁をどうまさぐったのか再現しながら、彼の腰の動きを自分の腰でよみがえらせてみる。卑猥なシミュレーションを楽しみながら、エクスタシーに貫かれた、精液まみれの自分の子宮に思いを馳せる。
するとやがて、彼女はオナニーから醒めて、乳房とヴァギナから手を離してぐったりと肩を落とす。
(捨てられた……)
涙が目から頬をつたい、雨に混じって流れていく。
鼻に、さっき垂れ流した自分の軟便の匂いが飛び込んでくる。
みじめな自分を改めて感じる美露。
立ち上がって、ベンチに座ってみる。
(そういえばヨシくんにフラれたときも、こうやって雨に打たれながらたたずんでたっけ)
さっきベンチを見ながら話し掛けていた俊司のように、彼女の心は不思議と静かになっていた。
(濡れているのが、なんだか気持ちよかったなぁ。きっとそれをあのコに見透かされちゃったのかもね)
水玉が肌に浮かんだ自分の両乳房を見て、思わず手のひらで撫で回す。
ずっとこのままでいたかった――あの時と同じことを、美露は思っていた。――願わくば、男に捨てられたこの身がそのまま雨に溶けてなくなってしまってほしい。
「あぁあぁ、美露さんたら、汚いお尻でベンチ座んなよぉ」
突然自分の名前を呼ぶ男の声。
ばっと振り返ると、そこに立っていたのは。
ウェットティッシュを手に持った俊司であった。
美露の胸が、嬉しさに溢れて弾ける。
「俊司さんっ!」
濡れそぼった体で彼女は俊司に飛びついた。涙を流しながら頬ずりし、強く強く抱き締める。
「美露さんが僕の名前呼んでくれるの、なんだかすごく久しぶりな気がする……」
俊司も彼女を強く抱き締めると、美露の唇を求めて顔を近付ける。
それに美露は素直に応じた。濃密に合わさる二人の唇。その中で二人の舌が絡まりあい、互いの体液を交換し合う。
長い時間二人はディープキスを楽しんだ。ようやく離れた二人の口の間に唾液の糸が渡される。しかもそれは雨降りしきる中でなかなか切れなかった。
「戻ってきてくれてすごく嬉しい」
両手を乳房の上、くぼみにほんの少し水を溜めた鎖骨の下あたりで合わせて、美露は率直な気持ちを口にした。
「ようやくわかった気がする。私、心も体もあなたを欲しがってる。どんなエッチなこと考えても、結局あなたのことばっかり考えてるもの」
「ほらね、言った通りだ」
俊司もニッと微笑むと、思い出したようにウェットティッシュの箱から一枚取り出すと、彼女の尻を拭き始めた。尻たぶから谷間に入り込み、肛門を撫でる。
「や、あん。くすぐったいよぉ」
「ほら、じっとしろよ。人がせっかく尻を拭ってやってるのに」
「ごめんね、ごめんね。でも人にお尻拭かれてると、なんだか変な感じになってくるぅ」
どちらかというと俊司よりも年上の印象のあった美露だったが、今では少し子供返りでもしたかのようにはしゃいでいる。
しかし、体までも子供返りはしない。
「うん? なんだここすごくヌレヌレじゃないか」
性欲を発散した残滓は大人びた淫臭をほのかに発散して、淫唇をつついた俊司の指先にまとわりついた。
さっきの狂気的なオナニーを思い出して少し恥じらいをみせた美露だったが、少し黙り込んだあとでこう答えた。
「俊司さんの事考えてると、いつもヌレヌレになっちゃう」
少女の笑みでちゅっとキスをすると、美露は少し不安そうな表情を浮かべる。
「ねぇ? こんなインランで変態な私イヤかな?」
「ううん。もう何度も言ってるじゃない。美露さん、すっかり僕好みになってるよ」
「あぁ……」
最初の頃は言われるのがとてもいやだったその言葉。
だがそれも今となってはものすごく嬉しかった。言われただけで体が感じてしまうくらいに。
そして今度は俊司が真摯な表情になる。
「じゃあお返しに聞くけど、……美露さん、結婚してくれる?」
「あぁっ」
『結婚』と聞いた途端に、肛門がヒクヒクと蠢く。
そればかりでない。少し力を失った乳首がまたピンと勃ちあがり、クリトリスも膨らみ始めた。
自分の体の淫らな変化すっかり顔を赤らめて、美露は静かにうなづいた。
俊司の目がきらきらと輝いた。
「ああっ、美露さんっ! 僕の、僕の愛しい美露さん!」
体を密着して美露に抱き着く。美露の下腹部に、欲求不満そうに張り詰めた彼の肉茸のシルエットが押し付けられる。
それにすっかり欲情した美露は、今度は自分から唇を求めた。
二人はまた濃密なキスを交わした。
何度も、何度も。
俊司の入れてくれた薔薇風呂の中に顔半分まで沈めた美露は、まんざらでもなかった。
胸の鼓動がさらに激しくなるくらい嬉しいのに、何をどうやっても表し切れないこの思い。一体何をもって表現したらいいのだろうか?
赤い湯の中に沈む自分の白い身体。一時は嫌悪さえ覚えた淫乱な身体。今ではそれが凄く美しいものに見える。その中に、子供が産まれようとしている子宮があると思うと思わず陰唇がじわりと熱くなる。
見えぬ将来への不安より、期待と幸福感がとても強い。
身体を包み込んだその幸福感と風呂の湯の薔薇の香りが、美露を淫靡な世界に誘い込む。
手指を白い乳肉に沈み込ませ、揉みほぐしてみる。たちまち身体全体が快楽を求めて疼き始めた。
それを叶えてやろうと片方の手を股間に持っていこうとすると、
「母乳マッサージ?」
驚いて浴室の扉の方を見ると、全裸の俊司が立っていた。
「我慢できなくなって来ちゃった。いいよ、構わず続けて」
だが彼の姿を見てしまった美露は、一度止めた手を再び動かすことなどできなかった。
青い血管を浮き立たせて逞しく反り立つ彼の肉茸は、立ちこめた薔薇の匂いの中に美露の香りを探り当てようとしているかのように、微かに揺れている。
(私はここ。私はここよ。早く来てっ)
肉茸のフォルムを思い出してそれを求める膣壁の声を代弁するかのように、美露は俊司の股間にうっとりとした視線を送る。
「でも母乳マッサージとは感心だね。もうお腹の子供のこと考えてるんだ」
「ああっ、お腹の子供だなんて……何だか良く分からないけど、それを言われるとたまらなく恥ずかしいよ……」
言いつつ彼女は、両手で臍のあたりを撫でる。
(あれだけたくさん俊司さんの精液詰め込まれたもんね。確実に妊娠しちゃうよね)
しかし子供を身籠ることがこんなに官能的なことだとは美露自身思ってもなかった。子育てというのは結婚した夫婦の義務的な活動みたいな印象があったので、これはある意味ショックでもあった。
ひょっとしたら、最初無理矢理に犯されて、今はすっかり自分から求めるまでになっているこの心情の変化のせいもあるのかもしれないとも彼女は思った。きっと、SMでいうところの首輪とかタトゥーのようなものなのかもしれないとも考えるが、本当のところはよく分からない。
「さっきから僕のチンポばっかり見つめてるね。欲しくなったかい?」
俊司が肉茸の茎を握りしめると、その亀頭は美露の目の前でむくっと大きくなり、表面が艶やかになった。
「すごく欲しい、その逞しいのでアソコを突き回してほしい……」
夢見心地にそう言うと、美露は浴槽からふらりと立ち上がる。見れば大きくなったクリトリスが肉襞と陰唇を押し分けて顔を出している。
「じゃあこっちにおいで……」
俊司に誘われるまま、美露は浴槽を出て彼の胸元に抱かれる。
彼の心臓の鼓動をBGMに、セックスのテーマが言い渡される。
「おうまさんごっこだ。バックで突き回してあげるから、ちゃんと前へ歩くんだぞ」
「それ、凄くおもしろそう……」
心底嬉しそうな声をあげると、美露は浴槽のへりに手をついて自分から腰を彼に突き出した。
その腰を抱えるように持つと、柔かそうな肉襞の中に自分の屹立を沈めていく。
「あ、ああぁあ、こ、これ、これぇえ!」
「嬉しいんだね。じゃあこのままお風呂から出ようか」
鞭で馬の背を打つように、俊司は自分の腰を美露の尻にぺちんと叩き付ける。
「ぅあああんっ!」
顎を突き出していなないた美露は、彼の言う通りによたよたと両足を動かして前に進む。
異様な感覚であった。股間を貫かれて歩くのは難しい。どうしてもガニ股ぎみに歩かないといけなくなる。だがそれでも、股間に刺さった俊司の肉茸は美露に安定感を与えていた。突き回されて腰は快感に酔いしれてふらふらなはずなのに、それを俊司の肉棒がしっかり支えてくれているような……。
「うああああぁん、いぃい、いいっ!」
おかげで美露は歩くバランスのことをそれほど考えることなく、ひたすらに快楽を貪ることが出来た。
濡れた身体のまま、二人は浴槽を出てリビングルームにやってきた。
「なかなかいい乗り心地だよ、美露さん」
俊司はもちろん彼女の背中に乗っているわけではない。評しているのは、彼女のヴァギナの柔らかさ具合であった。固く締め付けてくるほどではないが、しかし極端にゆるいというわけでもない。ちょうどいいくらいの居心地である。
(きっとこれが「名器」というやつにちがいない。ああ、これが自分の思いのままにできるなんて、僕ってなんて幸せなんだろう!)
感極まって、思わず俊司はコントロールするのを忘れて美露の子宮を穿つ。
「ひうっ! あ、ああ、あああ、ああ、あ」
さっきまで暗かった外が、突然明るくなったような気がした。俊司はふとベランダの方を見て何かを見つけたようだ。
美露の尻を軽くぺちぺちと叩いて正気づかせる。
「ベランダに出るぞ。今ちょうど面白いものが見れるぞ」
「ええっ、このまま?」
「当たり前だよ。本当は嬉しいくせに、この変態娘っ」
「ひゃんっ!」
強く子宮を突き上げると、子犬のような声を出して彼女はベランダの方にゆっくり足を進める。
ガラス戸の鍵を自分で開けて裸足のままベランダに出ると、中腰の姿勢のまま美露は外を覗き込んだ。
降っていた雨はうそのようにあがっており、すっかり晴れている。青空の元で街は久しぶりに暖かい光を浴びて夕刻を迎えようとしていた。
「っやんっ!」
「ほらあそこ、見えるだろ?」
俊司の肉茸が美露を突いて、空に彼女の注意を促した。
ぼおっと霞む青空にうっすらと描かれた色彩ある光の線――。
「きれい……虹だ……」
都会ではあまり見られない光景に、美露はうわついたような声を出す。
陰唇がきゅっと肉茸の根元を締め付けた。
それを合図にしたかのように、彼は美露の子宮を再び激しく突き立て始めた。
「ひっ、いやっ、あっ、う、うんん、うんっ……!」
「虹を見ながらセックスというのもなかなかいいだろう」
「んうう、うんっ、うんつ、い、いい、すごくいいぃぃ!」
喘ぎあえぎ美露は返事をする。彼女の言葉に嘘はないだろう。現に彼女の肉唇はさらに俊司の肉茸を締め付けてきているのだ。
「あああ、きれぃい、イ、イクぅ、イクぅ、イクぅう!!」
美露の必死な声を聞きながらタイミングを伺い、いまわの声を上げたあとに、奥から込み上げた熱いほどばしりを子宮に送り込む。
精液を出し切って肉茎を抜くと、飲み切れなかった精液が肉襞からにじみ出てきた。
「……きれい……」
うわ言のように呟きながらベランダの縁に手をかけて佇む美露の後ろ姿に、俊司は敗残兵の輝きに似た美しさを見た気がした。
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