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第63話「Lady Vox」 |
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ドラゴン。それはノーラス最強の生物であり、神に比肩する力を持つ存在である。
今から遙か昔、神話の時代にノーラスを発見した"水晶竜"ヴィーシャンは、ノーラス各地に自分の子であるドラゴン達を産みつけた。現在生息する多くのドラゴン達は、この時に誕生した、神話の時代から生き続けている、いわば生きた伝説ともいうべき存在なのである。
今回はそんなドラゴンのうちの一匹である、Lady Voxを退治するという大事業、いわゆるVoxレイドに参加してきた。
Lady Voxは、パーマフロスト大洞窟の最奥部に住みついている、白い鱗を持つドラゴンだ。Lady Voxはドラゴン族の掟で禁じられている、「異なる色のドラゴンと結ばれること」を望み、そのためにパーマフロスト大洞窟に閉じこめられているという、ちょっと可哀想なエピソードを持つドラゴンである。
が、我々人間(?)からすれば、やはり恐るべき魔獣であり、わかりあうことはできない存在。いわば水と油だ。油断をすれば、こちらが殺されてしまうのである。同情は禁物なのである。
なんて偉そうなことを言いつつ、退治する理由は実は富と名声、私利私欲なわけだけど、その辺は割り切るのが一人前の冒険者といえよう。うむうむ。
さて、ドラゴンほどの強力なモンスターを相手にするには、到底一つのグループでは太刀打ちできない。数グループ、合計数十人の冒険者が力を合わせて、やっと倒せるかどうかという相手なのである。今回のLady Vox退治に集まる予定のキャラクターも、もちろん数十人規模だ。これだけのキャラクターが、レイド・グループを組んで挑むのである。
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集合 |
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レイド開始時刻が迫るにつれ、パーマフロスト大洞窟の裏口に、続々とキャラクター達が集まってくる。今までにも何度か、通常の狩りでレイド・グループを組んだことはあるけど、せいぜい二つか三つのグループを集めたものだった。
しかしさすがに今回は相手が相手だけに、集まる人数もその比ではない。最終的には50人近い人数、グループ数にして八つか九つほどが集まるという、大軍団になった。
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レイドリーダー氏 |
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人数がそろったところで、今回の主催者であるレイドリーダー氏によって、グループ分けが発表される。片手に本を持ったレイドリーダー氏は、あたかも教壇の上の教師のように、グループ分けを発表していく。50人からの冒険者を把握し、グループ分けするだけでも相当大変な仕事のように思える。頭が下がる思いだ。
グループ分けが終わると、いよいよパーマフロスト大洞窟の中へと侵攻を開始する。
パーマフロスト大洞窟は、ゴブリンのいるエリアと、ジャイアントたちが警護するLady Voxの居住区の、二つのエリアによって構成されていて、ゴブリンのエリアの最奥部がLady Voxのエリアの入口、という形になっている。Lady Voxに挑むほどのレベルになれば、ゴブリンのエリアは最奥部まで余裕で到達できてしまう。50人からの冒険者達は津波のような勢いでゴブリンのエリアを駆け抜け、Lady Voxのエリアの入口まで、何の苦もなく移動することができた。
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Lady Voxエリア入口 |
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Lady Voxのエリアの入口は、ゴブリンのエリアにはなかったような、巨大な門扉で塞がれている。門扉のサイズがゴブリンサイズではなく、ジャイアントサイズなのだ。 この門扉を抜けた先に、Lady Voxを警護するアイス・ジャイアントをはじめとする強力なモンスターが、多数うごめいているのである。
Lady Voxのエリア入口の門扉から、Lady Voxの部屋までの道のりには、いくつかの落とし穴がある。この落とし穴に落ちると、底の中に住みついている、恐ろしく強い白クマたちによって一瞬のうちに葬られてしまう。
中で殺されるとSummon Corpseの魔法(注1)を使わないと死体回収さえおぼつかない、非常に危険な落とし穴だ。
そのため、モンスターが多数うごめく中を、不案内な冒険者多数を引き連れて進むのは、落とし穴に転落する危険性が非常に大きく、あまり選択したくない方策といえる。
ってなわけで・・・
- 二グループほどの先発隊が進み、Lady Voxの部屋までにいるモンスターを掃除する。
- さらに、Lady Voxの部屋の中にいる護衛を退治する。
- 残った冒険者達は浮遊魔法を駆使して、裏道を登り、Lady Voxの部屋へ向かう。
- そして、全員でLady Voxの部屋に突入する。
・・・という計画を立ててやってみることにした。
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満員電車 |
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まずは、先発隊が出発していく。僕は残留組に配属されたので、先発隊の出発を見送ったあとで、高い段差のある裏道を、浮遊魔法のホバリングを利用して登っていくことにする。
ホバリングによる登坂術には少しコツがいるので、残留組のみんなは、色々と試行錯誤しつつ、どうにかして裏道の段差を登っていく。全員が裏道の段差を登り終えると、30人以上におよぶ残留組が、狭い空間に集結する事になる。
もうそこはラッシュアワーの満員電車のごとく、ぎゅうぎゅう詰めとなってしまった。
裏道の段差を登り切ったところに集結した残留組は、そこで先発組の仕事の終了と、レイドリーダーの指示を待つことになった。とりあえずやることもないので、残留組はだべったり、うろうろしたり、バインドしたり、目玉を召喚したりして、各々時間を潰し始める。レイドのさなか、ひとときの安息といった感じだ。
ところが、ここでハプニングが発生した!
なぜだかわからないが、満員電車状態で待機している裏道組のところへ、Lady Voxの部屋にいるモンスターがなだれ込んできてしまったのだ!
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ジャイアント下半身の襲撃 |
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ぎゅうぎゅう詰めの狭い裏道に、巨体ゆえに全身が入りきらないアイス・ジャイアントの下半身だけが暴れ回っている。
系統立った応戦もできず、ただただパニック状態の冒険者達。走って逃げるものもあれば、勇敢にも応戦するものもある。またEVACで入口まで避難するものもいれば、得意の死んだふりでやりすごすお茶目さんもいる。
結局、相当数の被害を出しつつ、なんとかかんとか襲ってきたジャイアントを撃退することは成功した。・・・成功したものの、こちらの被害者数も尋常ではない。一旦先発組を含めて全員、Lady Voxのエリアの入口まで戻り、そこで体勢を立て直すことにした。
しかし、この予想外のアクシデントも得るものがなかったわけではない。偶然にせよ、Lady Voxの部屋の中にいる護衛のジャイアントが全て出払ってくれたおかげで、これらを退治してしまった今となっては、部屋にはLady Voxと、イカのような生物の合計二匹だけしかいなくなってしまったのだ。
先発隊も、Lady Voxの部屋までのモンスターはほとんど退治したので、体勢を立て直したあとは、真っ直ぐLady Voxの部屋まで突き進むことができそうだ。
だが同時に不安要素もある。
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壁に体当たりをするVox |
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目玉召喚魔法でLady Voxの部屋の中の様子をうかがってみると、部屋の中でおとなしく鎮座しているはずのLady Voxが、なぜか部屋の中で暴走と瞬間移動を繰り返しているのだ。 Lady Voxが壁に向かって体当たりをしつづける姿は、妙に恐ろしい。
先ほどのジャイアントの襲撃の時、Lady Voxは出てこなかったので、おかしいなとは思ったんだけど(ジャイアントがくれば、Lady Voxもリンクしてくるはずなので)、この時にLady Voxに変な影響を残してしまったのかもしれない。
念のため一旦全員パーマフロスト大洞窟を出て、Lady Voxの反応をリセットしてみたものの、なんだかLady Voxの挙動が不安だ。
ともあれ、ここまで来て帰るわけにはいかない。ジャイアントの襲撃から回復した我々は、落とし穴に細心の注意を払いつつ、今度は正面からLady Voxの部屋を目指して進むことにした。
途中、数体のアイス・ジャイアントに遭遇するも、数十人の冒険者達によって、あっけなくジャイアントは倒されていく。
レイド・リーダーやそのヘルパーさん達の指示のもと、一行は順調にLady Voxの部屋へ向けて進んでいった。
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進行中の一同 |
あと少しで、Lady Voxの部屋だ。
そう思ったそのとき、思いも寄らない事態が起こり、再び一行はパニックに追いやられてしまった!
なんと、Lady Voxが突然現れたのだ!!
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Voxあらわる |
一行は人数が多かっただけあって、これだけの悪条件の中でも、Vox相手によく戦った。狭い通路に入りきらないLady Voxは、その巨体の大部分を、通路の壁の中にめり込ませながら、理不尽な攻撃を加えてくる。それに懸命に耐えながら、タンクは殴り続け、確実にLady Voxの体力を削っていった。
僕も、一時のパニック状態を過ぎると、とにかくLady Voxを倒さねば、と必死に戦い始めた。しばらくはタンクが殴るのを傍観する。魔法を撃ちたい気持ちはあるけど、まだその時ではない。Lady Voxのヒットポイントが60%を切ったとき、やっと僕は動き出した。
Lady Voxに攻撃魔法を当てるには、Lady Voxを殴ることができるくらい近距離に近寄らないと、魔法を有効にヒットさせることができない。事前にそういわれていた僕は、Voxの股下に潜り込むようにして、そこから魔法を連打する。三発か、四発ほど当てた頃だろうか、Lady Voxは自分の股下にいる無礼なノームに気が付いたらしく、怒りを爪牙に込めて僕をはり倒した。
ごふっ。僕はこれに耐えきれず、あっけなく死亡する。あうあうあー。
ホームポイントを、Lady Voxの部屋の裏口の入口に設定していた僕は、蘇ると同時にすぐさま魔法を覚え直し、再び戦場に向かって走る。
その走っているさなか、歓声とも悲鳴とも取れる、微妙な叫びを聞き取った。
「Vox死亡!」
おお、Lady Vox倒したか! その場に立ち会えなかったし、なんかあたふたしているうちに戦闘になってしまって実感が薄いけど、とにかく倒したとはめでたいことだ。割とあっけなかったな、うん。
それにしても、妙に静かだな。Lady Voxを倒したというのに・・・。
そう思って戦場まで戻ってみると、そこにはLady Voxの襲撃よりもある意味で恐ろしい光景が繰り広げられていた。
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白クマのトレイン |
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落とし穴の底に生息しているはずの巨大な白クマが、大量に襲いかかってきているではないか!
どうやら、Lady Voxの咆吼(注2)によって、強制的に退却させられたキャラクターが、そのまま落とし穴へ転落させられ、その落とし穴に落ちたキャラクターを白クマが襲い、さらにそのキャラクターを回復したヒーラーが白クマに嫌われ、白クマは落とし穴をはい上がって、ここまで一行を襲いに来た、という図式らしい。
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死体回収 |
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トレイン状態の白クマ達に、最強の生物ドラゴンを倒した屈強の冒険者達が、次々と倒されていく。Lady Vox戦で消耗しきった一行には、白クマまで、それも何匹も倒す余力は残されていなかったのである。
結局、Lady Voxは倒したものの、そのあとの白クマで、先ほどのジャイアントの襲撃以上の大量の犠牲者を出してしまうことになった。
その後、なんとなく嬉しく、なんとなく悲しい、複雑な気分を胸に抱えながら、犠牲者の死体を回収し、Lady Voxの持っていた宝物を分配して、今回のレイドは終了した。
最後のレイドリーダー氏のセリフが、今回の全てを物語っていた。曰く、
「勝ったのか負けたのかわからないね・・・」
全く、そんな感じでしたね。とほほー。
(でも、初のドラゴン退治で非常に嬉しかった。レイドリーダーはじめ、参加者のみなさんにこの場を借りて感謝いたします。)
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21日3時間1分 |
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注釈
(注1)Summon Corpseの魔法:
同一ゾーン内にある任意のキャラクターの死体を、自分の足下まで呼び寄せることのできる、ネクロマンサーの魔法。自力で回収不可能な死体を回収する、最後の手段として重宝される。
(注2)Lady Voxの咆吼:
ドラゴンの咆吼は、周囲にいる全てのキャラクターにFear系の魔法の効果を及ぼす。Fear系の魔法は、対象に恐怖心を与え、逃走させるタイプの魔法。プレイヤー・キャラクターがFear系の魔法の影響を受けると、一定時間操作不能になり、あさっての方向に走行し続ける状態になる。
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