「ああっ……リオウ……っ」
窓掛けの隙間から差しこむ午後の日射しが、姫の喉元を白く照らす。
見慣れた寝台の背と寝具。
二ヶ月ぶりに抱きしめた、たおやかな身体。
抱きしめ返してくれる細い腕に、帰ってきたことを実感する。
優美な体付きは、手のひらが記憶していた通りだった。違ったのは、滑らかな肌の下で渦巻く熱情の度合い――。
勝手がまるで違った。姫の身体はどこもかしこも、触れたそばから開いていった。
だからといって、置いていかれるほどの温度差を感じたわけではなかったけれど――僕もあまりゆとりがなかったから……むしろ姫の中へ迎えいれられたときには、溶け崩れそうな感覚に眩暈を覚えた。
「リオウ……リオウっ……」
泣きだしそうな声が、何度も僕を呼ぶ。
僕が欲しくてたまらないのだと、言葉ではなくその響きで、強く訴えてくる。
中が熱い。歓喜を隠すことなく蠢いている。自然と奥深くまで行ける。
昂りの証が、繋がりあった場所からあふれてくる。翻弄されて音をたてている。いつもの姫ならその淫猥な響きに戸惑いを見せるけれど、今は意に介する様子がない。
下肢を垣間見れば、絡みつくように揺れる細い腰。離れることを許すまいと――僕を捕らえて誘いこもうとする動きだった。
切なく歪められた表情とは、相容れようのない妖艶さ。姫の本性。――きっとこういうときでもなければ見られはしない。
悔しいな……――ふと思った。あまり我慢できそうにない。姫は今、こんなに可愛いのに……少しでも長く、見ていたいのに……。
頬に張りついた濃茶の髪をどけて口づけを落とした。応えるかのように、上気した頬が緩む。唇が僕の名を紡いで、笑みらしきものを形作る。艶やかなその様に愛おしさが募る。
「……こんなに感じてくれるなんて……嬉しいよ……」
声をかければ、潤みきった瞳が露わになった。危うさを感じさせる光を宿していた。
「僕がいない間……寂しかった?」
揺さぶりながら問いかけると、姫は弱々しい声を漏らしながら目蓋を固く閉じ、顔を背けた。
「言って……それとも、寂しかったのは僕だけ?」
姫の奥深くに自身を押しつけながら、重ねて問いかける。
「恥ずかしい言葉じゃないでしょう? ……聞かせて?」
姫の目元に光が戻る。観念したかのような弱々しさだった。
「……寂しかっ……た」
ようやく聞けた言葉に安堵する。同時に、強い欲望が首をもたげる。
今なら……答えてくれるだろうか――姫の欣喜を注意して探りあてる。
「……ここも?」
甘い悲鳴が僕の頭越しに天井を打った。
「ここも……寂しかったの?」
答える余裕までは奪わない。ゆっくりと、姫の深い場所を穿つ。
「ねえ……」
聞かせて、とせがむ声に愁訴が混じる。この状態は生殺しだ。早く答えが欲しい。
細い指が僕の髪に絡んだ。姫は軽く頭をもたげて、頬を寄せてきた。
「……寂しかった……」
多分に艶を含んだ返答が耳朶を打つ。気が緩んだ瞬間、深奥へと突き入りそうになった。奥歯を噛みしめて衝動を押さえこむ。
「じゃあ……どんなふうに、してほしい?」
己の貪欲さに呆れながら、さらに姫の言葉を求める。さすがに申し訳なさを覚えて、姫の悦びそうな場所を責めはじめていた。と――
「それ……好きよ……リオウが、私の奥、触れてくれるの……好き……」
陶然とした吐息の合間に、思わぬ嬌音。危うく波に呑まれそうになった。
顎を反らせたまま力尽きたように、姫の頭が落ちる。追いかけて掻き抱いた。
「本当に寂しかったんだね。……ほかには? どこがいい?」
聞いておきながら、下肢の動きが速まっていくのを抑えきれない。
「だめ、もう……もう、これ以上……おねが……」
姫の腕が、足が、体内が、いっそうの艶めかしさをもって絡みついてくる。嬌声にも余裕が感じられない。
醜態を晒さずに済んだことを感謝しながら、姫の耳元に口づけた。
「いいよ、いって……僕も……」
本当に今日の姫は、いい。
あの夜の狂おしい夢想が、現実になる……。