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 問題は思春期の息子の反応だった。妻が亡くなって以来、つつましい男やもめの生活を続けてきた山本は、いかにして息子に話を切り出そうかと激しく悩んだ。と言っても山本のことなので、10分もすると耳から黒煙が漏れ出てきて、オーバーヒートしてしまうレベルのことなのだが。
 それでも山本は悩んだ。何しろ息子はまだ中学二年生。先日誕生日を迎えたばかりの14歳だ。
 14歳と言えば、多感な時期で、ちょうど山本が妻に出会い、結婚してくれと猛アタックしていた年頃だ。あのころの自分の若さを思うと、赤面するしかない。武は今ちょうど、その時期にいるのだ。
 いきなり家族が増え、しかもそれが男では、思春期の息子はどう思うだろうか。反抗期もないまま素直に育った武だが、こればかりは納得しかねるのではないだろうか。
 心配のあまり思いっきり顔に出ていた山本は、逆に武に水を向けられて覚悟を決めた。実は紹介したいひとがいるんだ、しかもできれば今すぐにでも一緒に暮らしたい人が、と必死の形相で語る父を目の前に、いつぞやと同じように正座で向き合った武は、

「親父だってまだ29だし、いーんじゃね?」

 とあっさり認めた。こういう点で山本親子はよく似ている。細かいことは気にかけず、それでいて思いやりと信頼に溢れている。心配するまでもなく、息子は父親にそっくりだった。






 黒塗りの高級車が自宅の前に止まるのを縁側から見ていたのか、初めて対面した雲雀に武は緊張した様子だった。その半面で『男だって聞いたときは驚いたけど、こんな美人じゃそりゃ親父だって惚れるわな』と納得したのだと後に語った。
 雲雀の反応よりも息子の反応を心配していた山本は、胸を撫で下ろした。緊張しているようだが、戸惑いや反発はその表情のなかにはない。むしろ、頬を紅潮させ、興味津々の様子である。山本は相好を崩し、楽しげに紹介を始めた。
 実は今回、一緒に暮らすことになったのは雲雀一人ではない。彼の家族であるらしい、15歳の少年も一緒だ。どうやら同じ家に暮らしているらしいのに、山本でさえほとんど会ったことのない少年は、恭弥といった。雲雀恭弥。初めて彼の紹介をうけたとき、山本はようやく雲雀というのが名字だと知ったくらいだ。
 雲雀と恭弥少年がどんな関係であるのか、実は山本もよく知らない。雲雀は何も語らず、意味深に小さく笑って見せるだけ。しかし雲雀の成長過程を見るようなそっくりの顔の少年が血縁関係でない可能性は限りなくゼロに近い。大人の雲雀よりも少年らしくふっくらとした愛らしい顔立ち、と山本には見える恭弥少年は、父なのか兄なのかよくわからない雲雀を一瞥しただけで、同居の件について賛成も反対もしなかった。あるがままを受け入れる、というより、まるで興味がないように山本には思われた。
 武もまた、父親の陽気さが伝染したように、嬉しそうに雲雀たちを受け入れた。これで家族が増えるんだな、と笑った息子の無邪気な表情に、やはりずっと一人で寂しい思いをさせていたのだと山本は涙を誘われた。が、そこはぐっと堪え、

「これでオレたちは家族だ」

 かくして、奇妙な同棲生活が始まったのだった。








〔了〕





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