201 名前:A dog and his lord 17:2006/11/07(火) 13:13:27 ID:UeIE62hP0
前々スレ>>79のつづき

散々待たされて招き入れられたトレーニングルーム。
ドアが開いた途端、耳に入ってきたのはジュンのすすり泣きだった。
いや、すすり泣きと言うより泣きがれた嗚咽、止まらないしゃくり上げか。
ジュンは、先日と同様ご主人様の上に座らされ、背後からゆったりと抱きかかえられていた。
うつむいてうなじをさらし、華奢な肩を揺らして喘いでいる。
「残念だったな、ダン」
ジュンの姿と声に気をとられて突っ立っている僕を鼻で笑うように、ご主人様が楽しげに仰る。
「ジュンはお前の口より自分の右手の方がいいそうだ」
今度は壁面の大鏡――おそらくはそこに映るジュンに視線を移されると、
ジュンはハッとして顔を上げ、右手の動きを大きくした。
「そうだ、さぼるなよ。それに鏡から目を離すんじゃない」
ジュンは泣きながらも、まっすぐ前を向き鏡の中の一点を見つめる。
その先にあるのはご主人様の目か、あるいはご主人様に貫かれながら自らの手淫に興奮する自身の姿か。
あくまで愛らしく甘えて媚びる常のジュンからは考えられない姿だ。
きっと、ジュンもご主人様を僕に奪われまいと必死なのだ。
ジュンの努力は完全に成功しているように見えた。
鏡の中で見つめ合うご主人様とジュン。もう僕などはいないと同じだ。
ならば、何のために僕はここに連れてこられたのだろう?
ご主人様とジュンの時間を、世界を見せつけられるためか。


202 名前:A dog and his lord 18:2006/11/07(火) 13:14:14 ID:UeIE62hP0
「私のために自分を磨くのだろう? いいか、顔は愛らしく、そこはいやらしく、後ろは敏感にだ」
鏡の中のジュンに向かって囁くように仰りながら、ご主人様の腰も揺れる。
「そうだ、もっと刺激しろ」
またうつむきかけたジュンの髪を掴んで顔を上げさせ、更にもう一方の手指を2本しゃぶらせる。
「んくぅっ…………、ぅ……ん」
返事よろしく甘ったるい鼻声を発し、くちゅくちゅとご主人様の指をしゃぶりながら、
ジュンは右手を加速した。目を閉じ、鼻筋を上げ、恍惚とした表情を浮かべて。
「ジュン」
なんと、ご主人様に呼ばれても気づかないほど没頭している。
「ジュン、手を離しなさい」
その態度は当然主人様に咎められた。
「その手は何のためにそこにあるんだ? あ? 
 私を楽しませるためか? それとも自分が気持ちよくなるためか?」
ジュンを相手にいつになく厳しい叱責だ。
「ぁ……」
ジュンはそろそろと右手を引っ込めるが、ご主人様は見逃してなど下さらない。
「答えなさい、何のためだ」
「……ご、主人様……に、楽しんで……頂くため……です」
「ほぉ、心にもないことを言う口だな。今の今まで私の楽しみなど微塵も頭になかったではないか」
ご主人様の大きな御手がジュンのペニスを握りしめた。
「お前の頭にあったのは、ここを気持ちよくすることだけだ」
感じてなのか怯えてなのかピクンとジュンの身体がはねる。
「イキたい、イキたい、イキたい、それしか考えていなかったんだろうが。違うか?」
仰るとおりだ。僕にもそうとしか見えなかった。ほうら、ジュンは答えられない。
「違うか?」
ご主人様が更に厳しい口調で繰り返されると、
ジュンはそれでも答えられずにただ頭を横に振りながら泣くばかり。
今日のご主人様は、いつにましてご機嫌がよろしくないのかもしれない。
いよいよ僕の出番だと思った。
僕はご主人様のお声を今か今かと待っていた。
しかし――


203 名前:A dog and his lord 19:2006/11/07(火) 13:15:10 ID:UeIE62hP0
ご主人様の怒りの矛先は、ここに控える僕ではなく直接ジュンに向けられた。
泣き続けるジュンを長椅子に転がし、脚を掴んで持ち上げた小さな尻を一気に深く貫くと、
普段の扱いからは考えられないほど激しく攻め立てられた。
キーキーとやかましくジュンが泣き叫ぶ。
「うるさい、そうして一日中泣き喚くつもりか。お前のかなぎり声はたくさんだ」
ご主人様のお言葉は、当のジュンばかりか僕までもひどく落ち込ませた。
ご主人様はジュンを泣かせることに飽きてしまわれたのだ。
同時に、久々に巡ってきた僕の出番も潰えたということだ。
ご主人様は、まるで間に合わせのようにジュンの尻を使われると、
ジュンを長椅子から退かせて、ご自分はシャワールームに行ってしまわれた。
残された負け犬二匹。
今日ばかりは、ご主人様のご不興を買ったジュンを、いい気味と嘲る気にもなれない。
執事がテキパキとジュンの身体を拭き上げ、僕たちは犬舎に戻される。
僕も、そして多分ジュンも、全く見えなくなった未来への不安におののいていた。
ジュンからご主人様を奪い取ろうと画策した僕。
そして、その僕の企みを退けようと常にない振る舞いをしたジュン。
結局僕たちは揃ってしくじったのだ。

その日、ご主人様は犬舎に近づこうともなさらなかった。
ジュンは一日中そわそわと落ち着かず、メソメソべそをかき、時に声を上げて泣き喚く。
僕はといえば、さすがに慣れた状況とはいえ、
久々に心躍った企みの頓挫にすっかり気落ちしてしまっていた。
そんな中、唯一リューだけがいつもと変わらず優雅にゆったりと過ごしているのが鼻につく。
ご主人様の関心がリューに移るのではないか、そんな予感がした。


204 名前:A dog and his lord 20:2006/11/07(火) 13:15:55 ID:UeIE62hP0
僕の勘は間違ってはいなかった。
その後2日ばかり僕たちにお呼びはなかったが、
3日目の朝、執事が犬舎から連れ出したのはやはりリューだったのだ。
そして、リューは丸3日戻って来なかった。
ご主人様は僕とジュンの醜い争いに気づいてしまわれたのだ。
そんな僕たちに嫌気がさし、穏やかなリューをお側に置いておられるのだ。
僕の中でリューへの嫉妬心が色濃く、どす黒く渦巻き始めた。
嫉妬心が生む妄想が次から次へと湧き上がってくる。
ご主人様の横にゆったりと横たわるリュー。
ゆるくウェーブのかかった金髪をなぜて頂き、優美にたわんだ背をなぜて頂き、
青い瞳をのぞき込んで、うっとりと接吻まで頂く。
リューはあの細い指でご主人様にご奉仕するのか、あるいはあの赤く艶めかしい口で……
ご主人様は、リューの綺麗な肢体がお気に入りだ。
きっと真っ白なシーツの上に横たえ、全身くまなく愛されるのだ。
いや、ご自分の上に乗せて優雅に踊り悶える様を愛でられるのかもしれない。
リューの白い肌は、ご主人様に愛されるとピンク色に染まる。
ご主人様は常々、それが一番の魅力と仰っていた。
僕は一度だけご主人様に抱かれピンクに染まるリューを目の当たりにしたことがあった。
肌をピンクに染めながらリューはうっとりと目を閉じ、赤い唇の隙間からふぅと吐息を漏らす。
その様は、美しく造られた造形が溶けていくように見えるのだ。
美しいリュー。優雅で穏やかな気性のリュー。
決してご主人様にご不快な思いなどさせないリュー。
嫉妬に燃える僕と若く血気盛んなジュンの振る舞いに嫌気のさしたご主人様は、
今、リューのような犬をお求めなのだ。
3日の間、僕は、ご主人様の腕の中でピンク色に染まっていくリューの姿を幾度も幾度も思い描き、
嫉妬と後悔に身を捩っていた。
ご主人様は、僕たちにはお姿さえ見せては下さらない。
僕の心はきしんできしんで壊れそうに痛んだ。
ジュンが隣で同じ思いを抱え苦しんでいるのだという確信がなければ、
犬舎を抜けだして屋敷中ご主人様を探しまわったかもしれない。


205 名前:風と木の名無しさん:2006/11/07(火) 13:22:15 ID:OvmfW3YiO
支援

206 名前:A dog and his lord 21:2006/11/07(火) 13:22:42 ID:UeIE62hP0
しかし3日間の思いをぶつけようと待ちかまえていたリューは――
犬舎に戻ってきたリューは、一見いつもと変わらず静かに落ち着いていた。
が、何かが違った。疲れなのか、気持ちが沈んでいるのか、明らかに容色が落ちていた。
まさかご主人様は、ご不満をリューにまでぶつけられたのだろうか。
美しさを愛でるのではなく、不満をぶつけるものをお求めなら、ここに僕がいるのに。
僕を心ゆくまで折檻して憂さを晴らして下さればよいのに。
しかし、相変わらずお姿を見せて下さらないご主人様には、訴える術もない。
リューが戻ってきてからまた何日か、僕たちは揃ってお呼びもなく放置された。
ご主人様は、犬に飽きてしまわれたのでは……
僕はそんな心配さえ抱き始めていた。
もう幾日、ご主人様のお姿を拝していないだろう。
最後にお言葉を頂いてから何日経つだろう。
折檻の痛みの記憶さえ、あざと一緒に消えかけている。
しかし、これまでだって僕は見向かれず、犬舎でひたすら待つ日々を過ごしてきたのだ。
リューが明らかに気落ちし、ジュンにいたっては始終メソメソ泣き続ける中、
こんな時こそ僕が「頑丈な犬」をアピールしなければ。
その思いが僕を支えていた。
しかし、そんな支えはあっさりとへし折られた。
ご主人様は、もう頑丈な犬など必要とされていないのだ。


207 名前:A dog and his lord 21:2006/11/07(火) 13:24:21 ID:UeIE62hP0
その朝、朝の身繕いが終わろうという頃、執事がやって来た。
「リュー、ジュン、ご主人様のお食事のお相手だ」
何と呼ばれたのは2匹。僕を除いた2匹。
ご主人様は僕だけを避けられているのだ。
放心して呆然となったまま執事に連れられていく2匹を見送る。
随分と長い間、僕はそのまま身動きもできずにいた。
ハタと気が付けば、がらんとした犬舎にただ1匹。見捨てられた犬がただ1匹。
それでも微かな希望に縋って部屋の扉をじっと見つめ、開け開けと懸命に念じてみる。
しかし、何十分後か、何時間後かには、無意味な希望は僕を更に打ちのめしただけだ。
不安とか、悲しいとか、そんなレベルではない、訳のわからない激しい感情が一気にあふれ出した。
僕はご主人様に捨てられる。僕はご主人様に捨てられる。捨てられた。捨てられた。捨てられた……
「ご主人様! ご主人様! ご主人様ーーーっ!」
大声で喚きながら犬舎中暴れ回り、そして、いつしか犬舎を抜け出し部屋も抜け出して……


208 名前:A dog and his lord 23:2006/11/07(火) 13:25:11 ID:UeIE62hP0
食堂はとうに片づけられていた。
トレーニングルームは真っ暗だ。
庭に出ようとしたが、雨が降っている。
屋敷内をむやみに走り回った末、もしやと思い寝室に向かう。
まさか昼閧ゥらベッドで犬と戯れたりなさらないだろう思ったが、恐る恐るドアを開けてみた。
ドアの隙間から覗く寝室、真正面にあったのは蠢く二つの裸体。
リューとジュンだと直感した。いや、確信だった。
僕は寝室に飛び込むと、一目散にそこを目指した。
何も考えてなどいなかった。ただ悲しかった。
それをどこかにぶつけずにはいられなかっただけだ。
手近にあったものを無意識に手に取る。
後でわかったが、それはご主人様のステッキだった。
僕はそれを高く掲げた。振り下ろす先はすぐそこにある背中のどちらかだ。
「ダンッ! やめるんだっ!」
ご主人様のお声。うれしいけれど、悲しみは埋まらない。
誰かが僕の腕を掴んだ。肘を見舞って振り払う。
じゃまなんかさせない。このまま捨てられるものか。
ご主人様お気に入りの犬たちを傷つけたら、殺してやったら、
ご主人様は僕を折檻して下さるだろうか。
いや、殺されたとしても捨てられるより余程いい。
なおも腕を押さえようとする手を押し退け、僕は渾身の力を込めてステッキを振り下ろした。
振り下ろしたつもりが、すんでのところで首筋に激痛が走り、
僕はへなへなと前に倒れ込んでしまった。
意識が遠のく。
ステッキが力なく何かを打った衝撃だけは辛うじて記憶に残っていた。


209 名前:A dog and his lord:2006/11/07(火) 13:27:16 ID:UeIE62hP0
本日ここまで。
ナンバリング失敗。21が2つになってます。

210 名前:風と木の名無しさん:2006/11/07(火) 13:29:56 ID:37P/brCF0
>>204
his hardと一瞬読めた。
乙。
ダンが憐れで面白かったです。


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