- 431 名前:テュランの筏5/6:2006/11/16(木) 12:09:16 ID:tityRqBT0
- 楊玲はいかだの中央、マストのそばで安らかに寝息をたてている。
赤毛の少年の居場所が、黒いトランクの脇になるまで時間はかかるまい。
僕とクリフは別に話し合ったわけでもなかったが、そう確信していた。
起きだしたクリフは海に向かって立つ。
まもなく放尿の音があたりに響いた。
僕は起こしかけた身を、ふたたび横たえる。
何の感情が僕をとらえ、動かしたのか。よく分からなかった。
もしクリフが、僕より先に二つ目の「命令」にしたがったなら………
たぶん、僕は間をおかず、嬉々として下の服を脱ぎ去るだろう。
けど、おそらく僕はクリフの「プライド」とか「誇り」に勝つ事は出来ないだろう。
弱弱しく胃が鳴った。吐きだす息には、水気がまったくなかった。
時間的に、真夜中前だと思う。つまり、まだ二日目。
僕の決心は、二十四時間を越えられなかったのだ。
海に落ちないよう、足元に注意を払いながら、藤吾の前へ立つ。
トランクに肘をのせ、その上に頭部をもたせている男に、僕は残りの衣服を全部差しだした。
受け取った藤吾がそれをしまうまでの間、引き換えの食料と水を取りだすまでの時間が、何と長く感じられたことか。
- 432 名前:テュランの筏6/6:2006/11/16(木) 12:13:09 ID:tityRqBT0
- ボトルと、てのひらサイズのパックを胸に抱えると、もう前を隠す事は出来ない。
それでも姿勢をくずさず、背筋をまっすぐに、恥じ入っているところなんて、まったくないとばかりに僕は堂々と歩いた。
自分のタープに戻るまでの間、鋭く執拗な視線が追いつづけたが、闇夜だ、真っ暗だ、見えるわけがない、と自分に言い聞かせる。
そう。明日になって日が昇り、誰の目にもさらされる状態になってしまったら、行動に出ない、いや出せないだろう。僕の事だから。
しかし厳しい日差しを、長い長い昼間を、今夜の状態の続行ですごすのは………とうてい無理に思えた。
自分の事は自分がよく分かっている。
僕は、だめな奴なんだ。心が弱すぎるんだ。
泣きたいのか叱りたいのか、困惑した気分を抱えたまま、僕はタープの上にあぐらをかき、こわばった胃袋を溶かし、ひび割れた喉をうるおした。
意思を総動員したおかげで、今度は半分をボトルに残す事が出来た。
固形食糧も、パックの半分は手つかずのままだ。
二つの品をタープの奥にしまいこみながら、ちょっとだけ僕にも誉められた部分があるじゃないか、と誇らしい気分になった。
- 433 名前:風と木の名無しさん:2006/11/16(木) 12:48:32 ID:P3xGcCeg0
- 筏タン乙!
クリフはどうするんだろう・・・
- 434 名前:風と木の名無しさん:2006/11/16(木) 13:17:42 ID:67IAAdgeO
- 侍タン乙
- 435 名前:風と木の名無しさん:2006/11/16(木) 14:27:49 ID:JJ8p2ztH0
- 筏タンGJ。
喉が乾いてお腹がすいてきました。
- 436 名前:風と木の名無しさん:2006/11/16(木) 19:13:33 ID:llymx+2WO
- 初仕事タン&筏タン&リレー職人さん達GJ!
初仕事タンも筏タンも先が読めねぇ…。
こーゆー設定・展開考えられるってすげぇなぁ。
続き超待ってる!
- 437 名前:風と木の名無しさん:2006/11/16(木) 22:05:47 ID:D0lXCxcc0
- リレーのことで、ちょい質問というか相談です
自分、オチまで書いてしまったんだけど書いた分量はせいぜい5レスくらいにおさまる程度な上に
まだまだ読みたい書きたい人もいると思うので、分岐エンディングみたいな形で投下してもよかですか?
- 438 名前:風と木の名無しさん:2006/11/16(木) 22:11:36 ID:7dBcq8FP0
- ROMですが。
>437さん よか1 ノシ
- 439 名前:風と木の名無しさん:2006/11/16(木) 22:17:21 ID:EWFW9fpD0
- >437
You投下しちゃいなよ
ノシ2
- 440 名前:初仕事34:2006/11/16(木) 22:41:56 ID:ePZ3TYgd0
- 拳がヒッツレの顔を直撃した。と思ったが、当たらない。空を切り飛んできた拳をヒッツレは
ふわりと横にかわして、逆にツメカミの腹を突く。そして逆の手でほとんど同時に喉を突いた。
静止。腹と喉を突いたヒッツレと、突かれたツメカミが動きを止める。喉を捕らえられたまま、
ツメカミは目を見開いている。どれくらいそうしていたんだろう。1秒、2秒…いや、秒にも
満たない間か。きっと一瞬のことだったに違いないけど、すべての音が遠ざかって、世界が
止まったように僕には思えた。
ヒッツレがツメカミの喉元に押し当てた手をひねるようにして一気に倒した。どうっと重い音が
床を伝ってくる。さっきまで威勢よく立っていたヤツが、支えのない人形みたいに倒された。
本当に見事なほどあっけなく。グハァッと濁った音を立ててツメカミが咳き込む。ヒッツレが、
倒れて咳き込んでるツメカミの手首を軽く持ったと思うと、それをくい、と回した。ただ回した
だけに見えたのに、ツメカミは悲壮な声を上げて、手首をひねられた方へ易々体を裏返される。
相当痛いらしい。なんでだろう、ヒッツレは片手でかるく持ってるだけにしか見えないのに。
「いええっ…!でえ!」
痛い、とまともに言えないらしい。手首ひとつで体を裏返されて、しっかりホールドされて
しまった。わき腹に一発蹴りを入れられると、とたんにツメカミはおとなしくなった。
というより、声も出せなくなった、と言った方がいいか。かなり苦しいんだろうな。
ヒッツレは、ひねった腕をツメカミの背中にぴったりとつけて押さえつけている。背後にまわり、
膝立ちになってその体ににじりよっていく。ふと僕のほうへ視線を向けるとさっと手を差し出した。
なに、と僕は目で聞く。するとヒッツレはチャッ、と音がしそうな振りで人差し指を出した。
その先をたどると、ツメカミが投げ散らかしたゼリーのパックが転がっている。ああ、これね。
僕は這いずって手を伸ばし、それをヒッツレに向かって滑らせた。
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