- 491 名前:テュランの筏10/12:2006/11/18(土) 12:19:25 ID:A6MrKfG80
- 「ぃ、や………」
やめてと叫ぼうとした僕は、その行為がまったく意味ない事に気付いた。
訴えて、やめる相手ではない。
そして、大声出して皆が起きだしてしまったら、今まで声を殺していた意味も、深夜を選んだ意味もなくなる。
奥歯を噛みしめた。同時に藤吾の指先がうごめいた。
「っぅ、あ、………っ」
上下に挟まれた内側で、舌のような感覚が這った。
生暖かく全身がぶつぶつに覆われ、どこかぬめっているもの。
桜色の小山のふもとからてっぺんにかけて、同時に、舐め、はさみこまれる。
その瞬間は噛みつかれる痛みも忘れた。
ただただ背筋を震わせる、怖気悪さだけが立った。
しかし、何より恐ろしいのは、それが規則的にくりかえされる事だ。
「あ、っ………っううっ」
藤吾が指の位置を変える。とたん、振動がくわわり、なぶる動きが変化した。
取り囲んだぶつぶつがランダムに、間をおかずに位置を変え、軽く触れて去っていく。
微弱といえば微弱であるが、先端、厚みと覚悟も出来ない責め方に、僕は歯をくいしばるのがやっとだった。
僕はさっきから気付いていた。
視界の端、マストのそばで盛り上がっている楊玲のタープ。
規則正しい動きがなくなった。寝息もとぎれた。
彼は、目を覚ましてしまったのだ。
- 492 名前:テュランの筏11/12:2006/11/18(土) 12:21:37 ID:A6MrKfG80
- 恥辱が僕を襲う。耳まで真っ赤にそまった。
胸をつきだし、背中を反らして声を噛みしめる………昼間の彼のように。
声を聞かれているのだと思うと、身体中の血が一点に集中した。
それは、自分でも信じ難かったが、下半身の方へだった。
「五分経過だ」
なにもかもが悪夢だった。にぶい流れの泥沼に落ちこんで、足の踏み場もなく、手にふれるものすべてが、ドロドロとくずれおち、悪臭をはなつ。
だが決して、意識は失えなかった。
- 493 名前:テュランの筏12/12:2006/11/18(土) 12:22:42 ID:A6MrKfG80
- 決して思い出したくない二十分が終った。
手錠が外されたが、両腕はこわばっていた。
頭をあげる事が出来ない僕の前に、無造作におかれたペットボトルと、ブロッククッキーの箱。
涙が、こみあげる。
みじめだった。ほかに言葉がいらないほど、みじめだった。
しびれが抜けるのを待って、クリップを外して床に叩きつけ、手に入れた品を胸に抱く。
すでに、涙を止めようとする努力はやめていた。
しゃくりあげながら、僕は黒いトランクに背を向け、もっとも離れた場所へ戻った。
涙で失われた水分を補給し、新しい食品はしまって、前の残りをたいらげた。
鼻につく甘味が、また涙をボロボロと落とさせた。
ボトル残り三分の二のところで、最後の一口をふくみ、味わってから飲み下した。
鼻をすすり、クリフの脇にかがみこむ。ボトルを傾ける。
僕はなんどもしゃくりあげながら、彼の唇をうるおした。
- 494 名前:風と木の名無しさん:2006/11/18(土) 13:59:06 ID:s8W4caUv0
- リレーは孤島たんが頑張ってたから面白かったのはみんなこのスレの人は
気づいてるよね。で、孤島たん、さっさと結末書いてマンセーもらって
去っちゃった。これでリレーはつまんなくなっちゃった。
さて、リレーで孤島たんをまってた皆で孤島さんの新作をまちましょうか。
孤島たん、サイトつくってもここが好きよね? マンセーたくさんくるから。
- 495 名前:風と木の名無しさん:2006/11/18(土) 14:27:02 ID:l9b1RJj3O
- 筏タン乙
リレーのマルチEDは面白い試みだと思う。
ともかく投下者さん方乙
- 496 名前:風と木の名無しさん:2006/11/18(土) 14:44:11 ID:TumftH8sO
- 筏タン乙です!
続き楽しみ。頑張れクリフ!!
藤吾が凌辱されたら、嬉しいなww
リレーのマルチED、自分も面白いと思う。
リレーにも参加させてもらってるけど、
それとは別に437タンみたく
分岐バージョンも書きたくなったよ!
- 497 名前:風と木の名無しさん:2006/11/18(土) 15:32:57 ID:de80CMhQ0
- >>496
ぜひ書いてくれ。>分岐ED
マルチEDは大歓迎!
- 498 名前:テュランの筏1/7:2006/11/18(土) 17:02:32 ID:9Dk/AZ7d0
- 五日目
黒いトランクを開けかけた「テュラン」は、ふと思いついたようにその手をとめた。
「今日もこれにしよう。四十分だ」
その声を、僕はタープにくるまったまま聞いていた。
昨夜の屈辱を思い出し、涙がこぼれそうになった。
いったいどこまでいたぶれば気が済むのか。
じんじんと胸の芯が痛んだ。物理的なものだけじゃ、なかったはずだ。
頭上では、今日もうんざりするほど揺れるかげろうをまとった、太陽が昇っていた。
まだ朝方だというのに、昼間の熱気を予想させる蒸し暑さだった。
楊玲の喘ぎ声は、今日もいかだを揺らした。
風に乗って耳に届くたびに、僕は肩がびくついたし、背筋をこわばらせたし、唇を噛んだ。
クリフの前で、全くポーカーフェイスはできていなかっただろう。
言葉数少なく、僕とクリフはいかだの上を掃除していた。
ここ数日晴れ間が多く、頑丈な板を組んだ床は、塩がこびりついていたのだ。
辺りの海は波も激しくなく、風も少ない。
それでもしみこんだ海水や、水浴びした時のしたたった海水が蒸発し、いかだ上を塩まみれにしていたのだ。
- 499 名前:テュランの筏2/7:2006/11/18(土) 17:03:20 ID:9Dk/AZ7d0
- マストにかかっていたホウキを取り、クリフと交代に掃いていく。
僕たちは、僕たちの陣地―――いかだをマスト中心に斜めに切った半分―――を、藤吾にも黒いトランクにも背を向けたまま、清める。
ホウキと床がすれる音が広がると、とたんに白い粉が目の前をおおった。
さすがに五日間、海水にひたっていただけあり、ものすごい塩の量だった。
生臭い塩が鼻につく。潮風も急に、息苦しいものに感じられた。
顔をしかめる。
舞いあがる粉から顔をそむけ、海面のさわやかな風を肺にいれようとしたが、そこはあいにく風下だった。
すでに占領されている。生臭い塩にも、楊玲の喘ぎ声にも。
くらり、と頭の奥で濃い闇がかかった。
吐き気がする。胸がむかむかする。
「おい、智士。顔色悪いぞ」
クリフの声がした。それはとても遠く感じられた。
意識が遠ざかる。いけない、クリフに返事をしなくちゃ。
なんともない、ちょっとめまいがしただけ、だって。
声を出そうと深呼吸した。しかし肺を占めるのは、濃い潮風だけだ。
容赦なく内部の水分を奪う、塩が入りこんでくる。
生臭い、生々しい、喘ぎ声………。
- 500 名前:テュランの筏3/7:2006/11/18(土) 17:03:59 ID:9Dk/AZ7d0
- 鎖骨のやや上がズキンと痛みを発した。喉の後ろが妙に熱くなる。
舌がこわばって、正座の直後のようなしびれ初めの状態になっている。
………まずい、と僕は思った。発作の兆候だった。
もう何年も出てなかったのに、喘息。
吸入器なんて、客船にも持ちこまなかったし………いや、いや大丈夫だ。
落ち着いて、姿勢を楽にして、腹式呼吸をとれば………
だが、浮かべる事何一つ実行に移せないまま、僕は咳の発作に襲われた。
「智士?」
クリフがホウキを投げ捨て近づいてくる。
それより早く、僕は床にくずおれた。
止まらない。頬の後ろの筋肉をひきつらせ、喉がひりひりと赤くなるまでからまった呼吸をしつづける。
その呼吸も弱弱しく、断末魔のような木枯らしのようなヒューとか細いものだった。
目がうるむ。ぼやけた景色はまもなく、目の後ろではじけた赤い閃光で一色に染まり、僕は呼吸困難の苦しみの中で意識を失った。
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