| 【聞けない真実、言えない秘密・Said T】 |
【聞けない真実、言えない秘密・Side M】からの続きです。
| 「私は三木ヱ門を信じている。」 そう、私は三木を信じている。三木の私に対する想いは絶対だと。 なのになんて奴だ。私が、この滝夜叉丸がこれ程までして誘って、機会を与え、心を開いていると言うのに何故手を出してこない?最初に三木が俺の所へ来いと言ってくれたが、あの時俯いてしまったのが悪かったのだろうか。あの時は、本当に嬉しくて涙が出そうになって、だから仕方なく俯いた。 近頃の私は涙腺が弱いようだ。 それにしても三木がこんなに奥手だとは思わなかった。眠った振りをして隙を見せると、身体を寄せては来たものの、三木は先に眠ってしまった。呆れてそのマヌケ面を見てやろうと思い向かい合うと、三木の寝顔はまるで無邪気な子供のように可愛らしい。汚れて荒んでしまった私とは大違いだ。 悔しいので鼻っ柱に軽く噛み付いてやった。すると「たきぃ〜」だと。 全く…私を夢に見るくらいなら、さっさと手を出して来ればいい。 三木に背を向け服を着替えるとき、服を取るように合図したがなかなか返事がないので振り向けば、なにやら呆けている。一体どうしたのだと思ったが。 …なんだ、私に見とれていたのか。 ん、これは使えそうだ。 返り血を拭いて貰いながら、目を閉じて顔を上げ唇に隙を見せた。 ほら、私の頸筋は色の白さが映え綺麗だろう。 私は舞に自信があるので腕もしなやかに動かして見せつける。 だが三木は額に汗をにじませ黙々と私の身体を拭くだけ。そして付けられた口付けの痕を見つけてしまった。傷に紛れて解らないと思っていたが考えが甘かった。肩を震わせ黙り込む三木。怒ったのか?それとも私を蔑むのか? あきらめ半分、開き直り半分で本当のことを言った。すると突然三木は私を抱え川に飛び込む。 全く後先を考えない奴だ。大方身体中の返り血と口付けの痕が気に入らなかったのだろうが、風邪をひいたらどうする。下手にこじらせば取り返しの付かないことになると言うのに。すぐに服を脱がせて乾かさなければならない。だが不器用だな、自分の服も脱げないのか?仕方ないから私が脱がせてやる。 ほら、三木、私もお前も裸だぞ。そして最後の一枚も全て取って見せよう。 そんなに堅い顔をして、本当に可愛い奴。 どうだ、私を抱きたいだろう。 しかし、今は服を乾かすのが先だ、しっかり絞れよ。そんな魂の抜けたような顔をするな。またいくらでも機会を与えてやるから。 私の食らわした肩すかしが余程気に入らなかったのか、三木は火鉢を抱えて拗ねてしまった。 そんな物を抱くより、私を抱いていた方が余程暖かいだろうに。 震えているじゃないか。私とて一人では寒い。 「三木ヱ門、私の所へ来たくないのか?」 「ああ、行きたくはないね。」 「そうか…。三木ヱ門は私のことが嫌いなのだな。」 本当に私が嫌いなら、お前の前から消えてやる。 「違う!」 その言葉を聞いたとき心の底から嬉しかった。三木はまだ私を想ってくれているようだ。口元が緩むのを押さえることすら忘れてしまい、ほくそ笑んでしまう。 「お前、解ってんのか?俺はなぁ、お前を…」 「良いからここへ来い。私は三木ヱ門を信じている。」 私はお前を愛しているのだ。 三木は素直に私と共に布に包まった。やはりこうしているととても安心できるし暖かい。どうして私はもっと早くにこの温もりを手に入れようとしなかったのだろうか。 私は三木の肩に頭を乗せ、三木も私の肩に手を回してきた。 でもそれだけ。 三木はそれ以上私に手を出そうとしない。何故だろう。奴が私のことを好いているのは解っている。でも、もしかしたらと不安が過ぎる。私と三木の「好き」の意味合いは違うのだろうか?もしかしたら私だけが勝手に思い込み違いをしているのだろうか。 私の「好き」は「愛している」なのに。 ともあれ腹が減ってしまった。 「三木ヱ門、食べる物はあるのか?」 三木はハッと思い出したように買ってきた荷物の中を探り出した。 「食べ物は餅と米を少し、それと薬を買って来たんだ。滝夜叉丸、身体中怪我だらけだろう。これを塗っておけよ。炎症を抑える薬。」 三木は私に薬を差し出して、自分は餅を竹に挿し火鉢で焼き始めた。 薬を身体に塗りながらふと考えた。 三木に薬を塗らせたらさぞかし焦ることだろうな。 …背中は三木に塗らせよう… 私はまた一つ悪巧みを思いついた。 私が手足や胸に薬を塗りつけている間に餅が焼けたようだ。アチアチと三木が少し冷ました餅を笹の葉に包んで私にくれたが、私は両手をヒラヒラさせた。 「手が薬でベトベトだ。お前、小さく千切って食べさせてくれ。」 途端に三木の顔色が変わり、なにやらぶつぶつ言いながらも了承した。 ふぅふぅと冷ました餅を小さく千切って私の口へと運んでくれる。その際にも私は三木に仕掛けることを忘れない。 ある程度の大きさに口を開け、ちらりと舌を覗かせて、上目遣いで三木を見つめ餅を口に含む。それを何度か繰り返している内に、三木の視線が熱くなるのを感じた。 誰かが食事と性行為は通ずるところがあると言っていたが本当のようだ。 「三木ヱ門、指に残った餅が乾いて付いている。それは湿らさないと取れないな。」 指にこびり付いた餅を取るためを口実に、三木の形のよい指を口に含み、ゆっくりと舌と唇を絡め優しくなで上げる。なかなか取れない振りをして、歯で軽く噛み、舌をうねらせ、指を何度も往復し、吸い上げ、時には音も立て、指の腹に私の舌の感触を覚え込ませる。 三木、想像できるか?私の舌はこんなにも柔らかく暖かい。 きっとお前に素晴らしい快感を与えるだろう。 三木は全身硬直させ、私の唇から覗く自分の指を凝視しているうちに、喉がごくりと音を立て唾を飲み込んだ。 本人もその音で我に返ると益々顔を紅くして、とうとう俯いてしまった。 「お・おおおまぇっ…なななっ…!」 「何だ、くすぐったかったか?ソンナトコロが感じるのか?」 「ちっ・ちがっ…!」 「じゃぁ、ドンナトコロが感じるのだ?」 「…そ…どこ…って…。」 悪びれずにクスリと笑ってみせる。三木の動揺する様子で、私に対して欲情するのは確認できた。 腹ごなしも済んだし、三木も充分に苛めたので次へ行くとしよう。 三木に薬を差し出し背中を向ける。 「三木ヱ門、背中。」 「…な・何だよ…。」 「薬、塗ってくれ。」 「ばっ…、おまぇ…じ・・自分で…」 「届かないんだ。」 またぶつぶつ言いながらも了承したが、私の背に三木の冷たい手が触れ思わず声を出してしまった。 「あっ…」 ぴくりと肩が跳ね、声を挙げた私に三木は驚いたようだ。私の顔を覗き込み心配そうに声を掛ける。 「すまん、滝夜叉丸。傷に触ったのか?痛かったか?」 心配そうに顔をのぞき込むその真っ直ぐな瞳に今度は私の方が赤面してしまった。 冷たい手に驚いただけだと言うと、ほっとした表情でまた薬を塗り始める。優しく、優しくそっと私の背をなでていく三木の掌に、私の身体の方が熱くなってきた。それでなくても私は背中に触れられると弱い。堪えきれずに本気で声が出てしまう。 「んっ…ぁ・ん…――――。」 「何だよ〜、変な声出すなよ〜。」 「仕方ないだろっ…私は…、背中弱いんだ…クッ・ククッ…」 私の出す色めいた声にくすぐられたのか、三木は情けない顔で私を諫めながらも、律儀に手だけは薬を塗り続ける。 しかし私の方はもう我慢の限界、本気でくすぐったい。 「三木ヱ門、もういい、くすぐったいじゃないか。」 振り向いて背中をかばう。今にも笑い出しそうな私を見て、三木は悪戯を思いついた子供の顔をして背中に手を伸ばす。 「よぉし、笑わせてやる。滝夜叉丸、覚悟!」 「わっ、馬鹿者!やめっ、アハハハ!」 じたばたと暴れる私を押さえつけ背中を触る三木と、それを妨害する私。お互いの手を押さえ付け合い、バタバタと騒がしく抱き合って転がる内に部屋の隅の壁にぶつかった。 途端に静まり返る室内で、私の身体を押さえ付けた三木が見下ろしている。二人とも裸のまま、肩で息を付き顔が紅く染まっている。他人がこの場だけを見たら情事の最中と思うだろう。 三木、このまま絡んでしまわないか。 …私はそっと目を閉じた。 だが奴は。 「お前、早く服を着ろよな。充分暖まっただろ。」 そう言うと私から離れた。 「俺の服も乾いたようだしさ、そろそろここを出ようぜ。」 部屋の隅で呆然とする私に服を投げてよこす。 私は怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤になり、哀しみで喉の奥がひりひりと熱くなる。 だいたい私は何故こんな阿呆を愛しているのだ。人の気も知らず、石火矢に女の名を付けて喜んでいる、馬鹿で脳天気で後先を考えない愚か者。 その愚か者の心を欲っする私の方がもっと愚かだろうか。 三木…、頼むから私を愛してくれ。 嘘でも構わない、それだけで私は満たされる。 …まだ続く… 【言えない真実、聞けない言葉】へ続く 2001/04 |
| 続きます。 ええ、続きますとも。 もうこうなったら毒を喰らわば皿まで。 毒に慣れてしまえば怖いモノはありませんよ。 ひっひっひ。 |