怜子――怜子さんが、いつの間にか目の前にいた。玲子さんの手が背中にまわって、あたしは、ゆっくりと抱き寄せられる。
「かなり前から気づいてたの。今朝みたいに緋奈のそばに立ってたらね、なんだかオシッコくさいんだもん。もしかしたらって思ってた。今度気づいたら言ってあげよって」
「ひどいよ」
 あたしは鼻をすすりあげた。「ひどいよ。怖かったのに」
「ごめんね。お詫びに、やさしくしてあげるから」
 背中に手が回って、あたしはギュッと怜子さんの胸に押し付けられた。スカートのホックが外されて、パサッと音をたてて足元に落ちた。
……エッチなことはしないんじゃなかったの?」
「もちろんよ。でも別なものが必要だって言ったでしょ。緋奈ちゃんは、まだまだオネショが治らないお子様なんだから」
「そんなの仕方ないよ。だって眠ってる間のことだもの」
「オネショが治らない子は 甘え が足りないんだって。強がっちゃダメってことよ。もっと自分に素直にならなきゃ。寂しいんでしょ? 寂しいから今日みたいにオシッコちびっちゃうんでしょ」
……
「お父さんは外国暮らし、お母さんは看護婦さんで、夜勤でほとんど家にいない。緋奈ちゃん、ずっと一人ぼっちだったんだもんね。寂しかったんだもんね……ほら、黙ってないで」
 玲子さんの顔がまっすぐにあたしを見た。
「寂しい、って言ってごらん」
 玲子さんの手がゆっくり動いて、パンツの上からアソコを押さえた。
「ふふ。まだ湿ってるよ。緋奈のココ」
「やだ」
「かわいいニオイがしてるよ。パンツのオシリがたくさん濡れてる……緋奈、一時間目のとき、トイレでちゃんとオシッコできたの?」
……
「緋奈、一人でオシッコできたの?」
……
「黙ってちゃ分かんないぞぉ」
 あたしは小さく首を横に振った。
「じゃあ、オシッコは?」
 パンツのゴムに指がかかって、一気に膝まで下ろされた。
「外から見えちゃうよ」
 あたしはあわてて言ったけど、玲子さんは知らん顔をして、
「オシリの方までグッショリじゃない。緋奈ったら、パンツこんなにビチョビチョにしてぇ」
 玲子さんは立ち上がると、あたしの顔をまっすぐ見つめた。
「授業の時、我慢してたのね。でも我慢できずにちょっとずつパンツにちびっちゃってたんだ。でもオモラシしなかったんだもんね。エライ、エライ」
 玲子さんはあたしの頭をぽんぽんと叩いた。てっきりからかうつもりだと思っていたのに……拍子抜けしてコクリとうなずずくと、むき出しのアソコから ぴゅっ とオシッコの雫が飛んだ。
「あたしずっと見てたんだよ。緋奈がオシッコ ぴゅっぴゅっ してるとこ。あんまりしちゃうからドキドキしてた。緋奈ちゃんの椅子、オシッコで濡れちゃってたんだよ。緋奈ちゃんがトイレに行ったあと、私、ちゃんと拭いておいたんだよ」
 あたしは黙ったままでいた。
 ギュッと玲子さんはあたしを胸の中に抱き寄せた。
「もう、オシッコ我慢できないんでしょ? 朝はちゃんと オシッコ 言えたのに、どうしたのかな? おへそ、曲げちゃった?」
 ひとりでに膝が震え出していた。体中がガクガク揺れて、喉の奥がギリギリと痛くなった。
(どうしちゃったんだろう? あたし)
「ほら、強がってないで。泣きたかったら泣いていいのよ。我慢することなんてないの」
 たまらなく胸がドキドキした。それ≠言いたいのに、今のあたしが邪魔でそれが言えない。
 もう見捨てられたくない。もう一度やさしくして欲しい。あの時、満員電車の中でオモラシしてたら、今ごろどうなってただろう? 
「もう、何がなんだか分かんないよ」
 耐え切れなくなってあたしは玲子さんの体に抱きついた。むき出しのアソコからオシッコの雫がポタポタ落ちる……
 玲子さんの胸に顔を押し付けてあたしはスーと深呼吸した。心の底から安心する。足を伝うオシッコの暖かさよりも抱きついている玲子さんの体に……

「甘えんぼさんね。オシッコ 言えない甘えんぼさん」
 コクリとあたしはうなずいた。恥ずかしいのか、もっと恥ずかしいことをしたいのか、分からない。あたしはさらに強く玲子さんの体にしがみついた。ギュゥゥとお腹の下が痛くなってくる。体全体がガクガクと震えだした。
「おトイレでちゃんとオシッコできなかったんだもんね。緋奈ちゃん、オシッコも言えないお子ちゃまになっちゃったんだ。じゃあ、このままオモラシしちゃうのかな? 恥ずかしいぞ。濡れたパンツでオウチに帰るの?」
それでもいい。パンツの中にオシッコしたい……
「聞こえないゾ」
…………うん」
「緋奈ちゃんは、一人でオシッコできない甘えんぼさんなんだね」
 あたしはまたうなずいた。
「ちゃんと言うのよ。緋奈ちゃんは?」
「緋奈は……緋奈ちゃんはぁ……やぁん、恥ずかしいよぉ」
もっと甘えた声を出したい、もっとやさしくされたい
 もうはっきりと心の奥で叫ぶ声を聞いていた。胸がドキドキした。自分が自分じゃないみたいで甘えた声が止まらない。
「大丈夫。強がっちゃダメよ。素直になって、ホラ」
「一人で……ひとりじゃ、できないの」
 ブルブルと体全体が勝手に震えだした。泣いたときみたいに声が震えて、うまくしゃべれなくなる。
 ――ほとんど意識しないまま、あたしは右手の親指を口にふくんだ。親指を強く吸って、それから……
「一人でオシッコできないの。ああぁ」
 言った瞬間、体の中で何かが変わった感じがした。足の間がジンジンと痛くなってきて、あたしは強くアソコを押さえた。
「ちゃんと言えたねぇ。エライぞ。緋奈ちゃん」
 頭を撫でられた。
「緋奈はぁ……ちゃんとオシッコ言えない、一人でオシッコできない、甘えんぼ。オシッコって言えないでパンツ濡らしちゃうの」
「じゃあパンツの中にしぃ≠オちゃうの?」
 あたしはうなずいた。
「オモラシのぐっしょりパンツでオウチに帰るんだ」
 あたしはまたうなずいた。
「緋奈ちゃんのオシッコでパンツのオシリが黄色くなっちゃうよ。緋奈ちゃんのオシッコで おしっこくさ〜く なっちゃうよ。それでもいいの?」
 玲子さんの手がスゥ〜と背中をさすった。
「だって、だってもう濡れちゃってるもん」
 と、あたしは言った。玲子さんはフフフと笑ってしゃがみこむと、膝の辺りで丸まっているあたしのパンツの、黄色く汚れた部分をソッと触った。
「パンツこのままの方があんまり濡れないかな? それともちゃんと穿いてオモラシしたほうがいい?」
 あたしは うんうん と何度もうなずいた。
 玲子さんはパンツのゴムに指をかけると、グイッと臍の上まで引き上げた。腰から力が抜けて倒れそうになるあたしの体を、玲子さんの腕が力いっぱい抱きしめて、
「じゃあ、このまましてみようか。緋奈ちゃん。しぃぃ≠チて言って。おしっこ、しぃ≠チて」
「お、おしっ、こ……しぃ」
「しぃぃって、言って。力を抜いて」
「しぃ、しぃぃぃ……
 足の付け根の血管がドクドクと脈打っていて、お腹の下がグーッと痛くなってくる。パンツの中がジンジンと熱くなってきて、ツーと太ももを雫が一筋たれた。
「できないよぉ。オシッコできないぃ」
 あたしは怜子さんの胸に顔を押し付けて言った。
「じゃあ、おトイレまで我慢できるんじゃないの?」
「できないよ。がまんできない」
 あたしはブルンブルンと首を振った。
「じゃあ、パンツを脱いでる時間はあるのかな?」
 あたしはイヤイヤ、と首を振った。
「じゃあ しぃ しようね」
「うん……
 うなずいた拍子に、ポタタッと足元のマットに雫が落ちた。
「ん……
 ツーと膝の裏を雫が垂れていく。あたしは少しだけ足を広げて、小さく息をついた。
「ん……出ないの」
 膝と膝をこすり合わせて、あたしは言った。
「ドキドキして しぃ できないの」
「緊張してるのね?」
 あたしはうなずいた。
「じゃあ、オモラシしちゃうまで我慢してみよっか。緋奈ちゃんはね、わざとパンツの中にオシッコする、悪いコじゃなくて、仕方なくオモラシしちゃうの。ずっとオシッコを我慢してたんだけど、やっぱり我慢できなくなってパンツの中に洩らしちゃうの」
 玲子さんはそう言うと、抱きしめる腕を解いて、
「オモラシさんじゃないんだから、緋奈ちゃん、パンツ一丁じゃおかしいね。ちゃんとスカートも穿かなきゃ――ほら、片足上げて」
……ん」
 言われるままに足を上げた。
「つぎはこっちの足」
……ん」
「ホックを止めて――はい、いいわよ」
「ん……ぁ」
「今は授業中です」
 と玲子さんが言った。「緋奈ちゃんは余所見をしていて先生に叱られちゃいました」
……んん、叱られちゃったの」
「そうよ。『香山さん教科書を読んで?』って言われて、緋奈ちゃんはどこから読めばいいのか分からなかったの。それで叱られちゃうのよ。いい?」
……ん」
「そこでしばらく立ってなさい 先生はそう言うと、知らん顔をして、授業を進めていきます……いい? 緋奈」
 玲子さんがあたしの顔を見てクスッと笑った。
「爪噛みの代わりに指しゃぶりになっちゃったのね。緋奈ちゃんたら、本当に赤ちゃんに戻ったみたい」
「玲子さん、あのね」
 あたしは親指を口に含んだまま言った。「おしっこ」
「あらあら、香山さん、オシッコが何ですかぁ? オシッコだけじゃ何を言いたいのか分かんないですよぅ。ちゃんと言ってくださぁい」
……お、おしこ……しっこ……んっ……おしっこ」
 ギュッとあたしはスカートの上からアソコを押さえた。
「香山さん、指しゃぶりして変なトコ押さえて、どうしたの?」
「ん……しぃ出ちゃうよ?」
 小さく言って、ジワァとパンツの中と、アソコを押さえる手が暖かくなった。
「スカート、濡らしちゃった……ん」
「香山さ〜ん。スカートの中から何かがチョロチョロ出てますよぉ。どうしたのかなぁ」
 玲子さんの腕が、あたしの体を強く抱きしめた。
あたしは胸いっぱいに深呼吸した。太ももを筋になってオシッコが伝っていく。
「おしっこ、もらしちゃった。緋奈、おしっこ我慢できなかったの」
 ソックスにオシッコが染みていく。ポタポタと音がして、足元のマットに染みになって広がっていく。あたしは口の中の親指を強く吸って、
「緋奈、おもらししたよ。おもらししてパンツとスカート、濡らしちゃったよ。あたし悪い子? 緋奈、悪い子?」
「う〜ん……なんだかオシッコ元気ないね。あんまりしたくなかったのかな? 授業中にオモラシしたのに、あんまりオシッコ出ないなんて、おかしいゾ。香山さんたら、オシッコ我慢してたなんて嘘なんじゃないの?」
 あたしはブンブンと首を横に振った。
「わざとオシッコおもらしして、皆に見てもらいたかったんじゃないのかな? 緋奈ちゃんのオシッコで黄色くなった恥ずかしいパンツ、皆に見てもらいたかったんでしょ?」
 少し迷って、あたしはコクリとうなずいた。
「緋奈ちゃん、悪い子。パンツの中にわざとオシッコしちゃうなんて、すごく悪い子。でも、かわいい」
 玲子さんが言った。「かわいいよ。緋奈」
 あたしはまたうなずいた。指しゃぶりの唇が少し開いて、よだれが糸をひいて垂れていく。玲子さんの腕の中に完全に体をあずけながら、あたしはうっとりして目を閉じた。手で押さえてるところがジンジンして……パンツの中がだんだん冷たくなってくる。
「全部出た?」
 あたしは首を横に振った。
「まだたくさん出そう?」
 あたしはうなずいた。玲子さんの腕の中でモジモジと体をくねらせて、スカートの上から力いっぱいアソコを押さえる。
「でも出ないよぉ」
「緋奈のオシッコ、手伝ってあげよっか」
 あたしはうなずいた。
「手伝って欲しかったら、お願いして。緋奈、お願いできるかナ?」
「ん……あのね」
 鼻にかかった舌足らずな声が出た。「手伝ってほしい」
「何を手伝うのかナ」
「おしっこ。緋奈ね、おしっこ、ね、たくさん我慢してるのに出ないの。しぃできない」
「緋奈ちゃん、一人でオシッコできないんだ。一人でパンツの中にしぃできないんだね」
……うん、できないぃ」
「どうやったら出るかなぁ」
「シッコの出口、ツンツンしてぇ」
「今朝の電車みたいに? オシッコの出口、ツンツンしたらオシッコできるの? ビューってオシッコ出ちゃうの?」
 あたしは小さくうなずいた。
「ビュー、出る」
「ふふ……じゃあ」
 玲子さんの手がスカートをめくって、中に入ってくる。パンツの底がつままれて、
「オシッコでビチョ濡れだよ。緋奈のパンツ、オシッコでグチョグチョだよ」
 怜子さんが言った。
……やだぁ」
 指がパンツの中に入った。割れ目の上から指でなぞられて、それだけでピュッとオシッコをちびってしまう。
「緋奈、今の何?」
「ん、おしっこぉ」
「ピュッて出たよ」
 あたしは小さくうなずいた。またツン、と指で触られて、プシュゥと出てしまう。
「ふぁんっ」
 あたしは玲子さんの体にしがみついた。「んん……おしっこ、たくさん出ちゃいそう」
「全部出そう?」
「うん……でも」
「いいのよ。このままオモラシして、私の手の中にたくさんオシッコおもらししていいのよ」
「んん……あっ、ああっ」
 ピュ、プシュッと音がするたびに、怜子さんの手の中にオシッコが当たって、
「ん、だめ。だめだよぉ」
 あたしは足を閉じて、怜子さんの手を太ももの間にはさみこんだ。我慢できないオシッコがチョロチョロと怜子さんの手を濡らしていく。
「いいの? 玲子さん、本当にいいの?」
 泣きそうな声であたしは言った。
「あたしのオシッコ汚くないの? イヤじゃないの?」
「気にしなくていいのよ。緋奈のオシッコ、私大好きよ――ほら、私のお手手にたくさんしなさい。緋奈ちゃんは何も心配しなくていいの」
 あたしは小さく あぁ と声を上げた。
――優しい目。
 あたしは玲子さんの目をじっと見つめたまま、少しだけ足を開いて、ゆっくりと体から力を抜いていった。
 シィィ……と音が聞こえてきた。
「出てきた出てきた」
 玲子さんが言った。
「すごい勢いよ、緋奈。緋奈のオシッコが私の手に跳ねてパシャパシャいってるの、聞こえる? ねえ、聞こえる? 緋奈」
「お願い……キライにならないで」
 あたしは言った。
「キライになんてならないわ。緋奈ちゃんはどこにも逃がさない」
 あたしの体を強く抱きしめて、玲子さんは言った。「あったかいよ、緋奈のオシッコ。すごく暖かいの」
 押さえてるところがぐっしょり濡れてスカートが足にピッタリと貼り付いてきた。足を動かすと靴の中でオシッコがクチュクチュと音をたてて、足元のマットでポシャポシャと飛沫が上がっていて、オモラシの水たまりからポカポカと湯気がたって……それで……
「玲子さん……
「ん? 全部出た?」
「あのね。おしっこのにおいがね、するの」
「そうね。緋奈ちゃん、たくさんオモラシしたもんね。緋奈ちゃん、とってもおしっこくさいよ――緋奈ちゃん、おしっこくさいの嫌い?」
 あたしは少しだけ首を横に振った。
「じゃ、好き?」
……そんなの、言えないよぉ」
「なーに、今さら恥ずかしがっても仕方ないでしょ。全部見せちゃったんだから」
 玲子さんの指が、パンツの中でモゾモゾと動いた。
「あっ」
 シィィィ……とまた勢いが強くなってくる。
「出ちゃう。全部出ちゃうよ。玲子さん……ぁあ」
 開いた唇から、またツーとよだれが垂れていく。あたしはそのまま怜子さんの腕の中で、オモラシの音に耳をすませてた。パンツの中が冷たくなっても、玲子さんの腕はちゃんとあたしの体を抱きとめてくれている。
「全部出せた?」
 あたしはコクリとうなずいた。
「お座りしよっか」
 肩を抱かかえられて、マットの濡れていない場所に、二人で並んで腰を下ろした。
「たくさん濡れちゃったね。ほら、足上げて」
 濡れたパンツはなかなか脱げなかった。膝で丸まっているパンツは黄色く汚れていて、
「すごく臭うよ。緋奈ちゃんの おしっこぱんつ=v
 玲子さんがあたしの目の前でパンツを広げて見せて、「緋奈のオモラシのにおいがプンプンしてるよ。ほら」
……や」
 あたしはそっぽを向いて、玲子さんの体に抱きついた。
「もう、甘えんぼさんなんだから、早くスカート脱がないと風邪引いちゃうでしょ」
「んん」
 スカートのホックが外されて、
「ほら、オシリ上げて」
「ん」
「スカートもビショビショね。すそからポタポタ、オシッコが垂れてる」
 靴を脱がされると、中に溜まったオシッコがチャプチャプと音を立てた。
「恥ずかしいよ」
「恥ずかしがることなんてないの。緋奈ちゃんは毎日たくさんオネショしちゃうお子様でしょ」
 あたしは少しだけうなずいた。
「パンツをこんなにしちゃう悪いコ」
 またうなずいた。
「でも授業中はオシッコピュッピュッしててもオモラシしなかったんだもんね?」
 頭を撫でられて、あたしはエヘヘ≠ニ笑った。
「元気いっぱい、こんなにたくさんパンツにオモラシできたし」
 玲子さんはあたしの目の前でパンツを広げて見せた。
「小ちゃなオチビリのシミがひとつ、ふたつ……あれぇ? 数えきれないよ〜」
 パンツの一番汚れた部分が、あたしの頬にピチャッと貼りついた。
「まだ暖かい」
 あたしは言った。「オシッコ、あったかい」
「もう、気づいてるんでしょ?」
 怜子さんが言った。
 あたしは少しだけうなずいた。
「私はきっかけを与えただけよ」
 怜子さんの手が、やさしくあたしの頭をなでた。「私はきっかけを与えただけ、本当の自分に気づいて、どんな気分?」
「こわい」
 あたしは言った。「だって、もう一人じゃ、いられそうにないもの。また一人になったら、あたし……
「学校霊なの、私」
 怜子さんは言った。
「うん」
 あたしはうなずいた。
「学校の七不思議ってよく言うでしょ、トイレの花子さんとかね。で、あたしはオモラシの怜子さんなの。ときどきイジワルして、おトイレが満杯だったり故障してたりして、今までちゃんとオシッコできてた子にも、オモラシさせちゃう悪い霊――昔はよくやったわ」
 怜子さんは遠い目をして、旧校舎の教室を見回した。「ここはね、あたしが最後に憑りついていた校舎なの」
「今は?」
「今はフリーよ」
「どうして辞めちゃったの?」
「そうね……昔は、みんな仲がよかった。オモラシした子がいても、からかいはしても決してやり過ぎなかった。でも今は……これも時代の移りかわりってことなのかな……ある新入生に狙いをつけたの、トイレをいくつか故障させて、休み時間を少しだけ短くして……その子はオモラシしちゃった。可愛い子で、そうね、ちょっと緋奈に似てるかな」
「それで、その子は?」
「う〜ん」
 玲子さんはうつむいて首を振った。眉間に皺をよせて、じっと床のマットについた古い黄色いシミの跡を見つめていた。
言いたくないことなんだ
 あたしは気づいた。幽霊になっても、後悔することがあるんだ……
「そこからイジメが始まっちゃってね。からかうだけならいつものことだけど、あれはちょっと陰湿だったなぁ――それで、キレちゃった」
「どうしたの?」
「クラスの全員のね、オシッコのタンクをね、パンクさせちゃった」
 怜子さんは床のマットを指差して、「ここで全員がオシッコおもらししちゃった。イジメてた子も、それを見ていた子も全部……先生たちも最初はとまどってたけど、考えた末に椅子も机もどけちゃって、床にマットを敷いて授業することになって……その後、わたしは学校霊を辞めちゃったからその子たちがどうなったかは知らないわ。術の解除をしなかったから、このクラスの子たちは、最初に私のせいでオモラシしてイジメられた子を除けば、多分今もトイレにいけないまま……
 最後の方は早口になっていた。怜子さんの頬は青いくらい透き通っていて、目は遠くを見ていた。あたしは少しだけ怜子さんのことが怖くなった。
「どうしてあたしに目をつけたの?」
 とあたしが訊くと、怜子さんは笑って、
「そんなの決まってるじゃない。好みだったからよ。緋奈がとっても可愛かったから。それに、声が聞こえたの。緋奈がね、助けて欲しいって言ってる声が」
……言わなくても、もう全部知ってるんだもんね」
 あたしは言った。
「でも言ったら気持ちがスッキリするかもよ」
 あたしはゆっくりと首を左右に振った。「もうスッキリしたもん」
「こんなにしちゃったもんね」
 怜子さんは笑って、あたしのパンツをビロッと広げた。



 
 

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