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New またまた「辰砂」直後あたり〜数年後

 ソファの上で毛布に包まった少年のために、室内の温度を少し上げる。そうして魅上はしばらく見下ろして、自室に入った。
 無人倉庫の炎上の続報は、それとほぼ同時に起きた、全世界規模の同時大量死のニュースに追いやられ、なかなか入らない。重傷者一名、学生とあったきりだった。
 高田清美経由で安否を確認しようと、携帯電話を取っては、こちらから動くことは得策ではないと考え直し、を繰り返している。
 突然、部屋のドアのノブががちゃがちゃと回る音を立てた。鍵をかけていたので、開けられることはなかったが、しばらくすると音は止んだ。
 ここには自分とあの少年しかいない。深夜にさしかかろうかという時間帯だった。他人に見られて困るもの、とくにキラに関するものは、すでにこの部屋にはない。しかし、用心のためにテレビを消して立上った。
「………どうしたんだ?」
 開けると、ぼんやりとした目付きのニアが突っ立っていた。かすかにゆらゆらと体が揺れている。声をかけても返事をしないどころか、聞こえていないようだった。
「ニア?」
 顔を覗き込もうと、身をすこしかがめたとき、前触れ無くニアは魅上に倒れ込んだ。慌てて抱きかかえると、しばらくしてから再び寝息が聞こえてきた。
「寝ぼけているのか……」
 無理もないと思った。東京から遠く離れた土地に無理矢理連れてこられたのだ。薬で意識を奪っていたから、その反動もあるのだろう。
 せめてもと、そっと抱き上げてソファに運んだ。
 
 二年ほど過ぎたある日。
 遅い夕食の準備をしていたところ、隣室と繋がるドアが開いた。見ると、またニアがぼんやりとした目付きでふらふらと入ってきた。その後に、口元に手をやって観察するような目付きの月がいる。ニアの覚束ない、だが転んでしまうほどではない足取りは相変わらずだ。
 ソファの肘掛にぶつかり立ち止まったニアは、緩慢に動いてソファに上がった。そして丸くなる。ソファの背に顔を埋めてしまった。
「…本当に図太い奴だな、こいつ」
 いつものことなのだが、月は声を堪えるようにして笑っていた。
 
「原因は、拉致じゃない」
 月が断言した。ソファに丸まっているニアを見る。
 随分背が伸びたが、ソファはまだニアには大きかった。先刻から動かないところをみると、眠っているようだ。
「この程度であいつの神経はやられない。この状況下で成長までしているんだ」
 ニアの寝ぼけ癖には特徴があり、必ずドアを開けようとした。開けることが出来なければ、その場でうずくまってしまうが、開ければ、その部屋を一周し、適当な場所に眠り込む。ただそれだけなのだが、その間に夢を見ているようで、ときどき寝言も言った。

…たぶん、どこかに入れようとして
入れられなかった文章…(^^;)。


New メロとニア4

 けっこうな違和感だった。
 パジャマのような上下に、裸足、または、つま先がだぶつく靴下という姿が当たり前だったニアの、靴を履いている様は、なにか間違い探しをしている気分にさせる。しかし、メロはその正直な感想を口にはしなかった。それぐらいの分別はある。
 そういえば外にいるニアも記憶にない。親しくしていたわけではなかったから、単に見たことがないというだけだろう。
 じっと見つめていたが、ニアが履き終わったので廊下に出ようとしたとき、背後でぼすん、という音がした。ふりかえると、ニアがしゃがみこんでいる。うつむき、口を一文字に結んでいて、メロは嫌な予感がした。
「………何してんだ、行くぞ」
「…………」
「どうしたんだよ?」
「…………」
 そばにしゃがんで顔をのぞき込む。それを嫌がって、ニアは体ごとぷいと横に向いた。
 メロは、自分の我慢が限界を超えたことを自覚した。
 いきなり、メロはニアの正面に回り込み、脇に手を差し込んで抱き上げた。このハウスの全ての子どもたちが会得する『抱っこ』だ。
 急に目線が高くなったニアは、一瞬目を白黒させたが、メロの肩口にあごを載せた。
『……メロに合わせて、ねえ』
「どうしたかね、L」
 廊下に出たものの、もう姿も見えなくなっていて、ため息を一つ付いて戻ってきたところに、モニターからぼそりとつぶやきが聞こえた。
『無気力なのか好奇心が旺盛なのか、考えてみれば、この二つの気質が共存しているのは少し珍しいかもしれないと』
「今の子どもたちには多いんじゃないかね」
『人に合わせて得た学力が、軽く大学院の専門レベルに達している。犯罪心理学はマットの好きな分野ではないでしょう』
「ああ、コンピューターサイエンスのほうが好きなようだね」
『だからといってそっちは特に学んでいる様子でもなし。いや学ぶまでもないのかもしれませんが』
 思うところがあるのか、独り言のようにまとまりのないことをつぶやいた。
『…あれはまたタイプがちがうか…周囲の思惑を感知し行動するのみなのか』

 メロとニアがLのもとへ行く。しかも、連絡のあったその日の午後という、急の出発で、ハウスの子どもたちはざわめいていた。
 そのざわめきからの視線は異様な光景に集中している。
「……だっこしてる」
「うん、だっこしてるな」
「ニアって何歳だっけ?」
「ていうか、メロとニアってしゃべってたことあったっけ」
「前にケンカしたとこは見た」
「あ、みたみた」
「あれって何が原因だったんだ?」
「小さかったからわかんない」
 大きなショルダーバックを斜め掛けにし、腕に小さなリュックサックを背負ったニアを抱きかかえているメロを遠巻きにしつつ、ささやきあう。
 ニアは頬を膨らませていたがおとなしく運ばれている。メロは、なにやらぶつぶつと言っているようだったが、周囲の者には聞こえない。荷物とニアでかなりの重量から、足取りは当然のごとく重かった。
 そのまま正面玄関を抜け、門の外に止まっている車に向かう。突然、ニアが動いてメロがよろめいた。体勢を建て直したメロは「うりゃ」という掛け声とともに、ニアを車の後部座席に放り込み、間髪入れずに自分も乗り込んだ。バタンと勢いよくドアを閉める。
 車がゆっくりと走り出した。
 そこまで見届けて、周囲の子どもたちは、二人にお別れの言葉をかけそびれたことを気付いたのだった。
「…最後の最後で逃げるなっての…」
「逃げてません」
 やっと腕が軽くなったメロは、筋肉痛になりそうな箇所をさすりながらぼやいた。ニアは放り込まれたときに、おかしな向きになった体勢をのそのそと整えている。
「お前っ、歩こうとしたらしゃがみこむ、門出たと思ったら暴れだす。これでなんで逃げてないなんて言うんだ。そんなに嫌ならLに言えっっ」
「……門のところに置かれてたそうです」
「なにが」
「私です」
「……」
 しまったとメロは内心で舌打ちした。メロや大多数の子どもたちとは違い、ニアは本当に「置き去りにされた子ども」だった。
 ニアは、放り込まれたときにぐしゃぐしゃになった髪の毛をそのままに、毛先だけを指にからめていた。直そうとして少し手をやったが、すぐにやめてしまったのだ。顔は無表情だ。
「母が…おそらく母だと思うんですが、彼女が立っていたところで、ハウスがどんな風に目に映るのか見てみたかっただけです。だから逃げてません」
「………」
 非常に気まずい空気が立ちこめる。ハウスはすでに遥か後方だった。引き返すタイミングはもう無い。
「ええと」
「見えたからもう気が済みました」
「は?」
「メロが抱えてくれたおかげで、母の目線に近い高さで見えました」
 ニアは、いつの間にか靴を脱ぎ、座席に足を挙げていた。いつものように丸くぺったりと座っている。
 この瞬間、駄々をこねれば、短気なメロは自分を抱えあげると、ニアが読んでいたことにメロは気付いた。
「お・ま・え・はーっっっ」
「いひゃいれす、なにするんれすかっっ」
 ニアの両頬をひねり上げた。ふたたび、ニアの顔は横に間延びする。
 じたばたと二人が暴れるので、車は弾みで蛇行し、周囲の車から一斉にクラクションの抗議があがった


New 月vsマット? (マフィア壊滅直前あたり)

 先刻から、月は腕を組みモニターをじっと見つめていた。時折、アラート音が鳴り、同時に反転した文字列を目で追う。
 日本からの連絡で、警察庁のデータベースが何者かの侵入を許したことが判明した。キラ事件関連のデータには月がトラップを仕掛けており、不正アクセスで今までに相当数の逮捕者が出ている。今回もその同類だろうと思っていたが、少し様子が違っていた。トラップを出し抜き、現在アメリカにいる月のPCにたどり着いたのである。
 それが今、月の眼前でアラートを伴いながらデータを蹂躙している。日本からのアクセスのようだが、いくつもの踏み台を経由しているのが見て取れ、月は、所在地を割り出すことよりも、目的を見極めようとしてしていた。
「…粧裕の…」
 粧裕が誘拐された時のデータが反転されていく。ノートの強奪を目論んだメロの仕業だったが、今、この時のデータを必要とする人間は何者なのか。
 ノートは奪われた。そして『N』のSPKは、ノートを手にしたメロによって壊滅状態に陥った。
 SPKの情報も反転した。SPKに関しては詳細なデータはない。それでも粧裕の誘拐とSPKを念入り辿っている。
 月は声もなく、小さく笑うと、とある場所の数十の住所を呼びだした。そして、新たに、『M』の項目としてそれらを追加した。
「来れるものなら来い。誰だか知らないが、メロと一緒に始末してやる」

「………くそっ、バカにしやがって」
 短くなった煙草を床に投げ捨て、腹立ち紛れに踏みつぶす。まだ20歳そこそこといった男が、眉間にしわをよせて毒づいた。
 日本の警察組織のデータベースに侵入してあることを調べていた。途中から監視されていることに気付いたが、あまりに時間がなかったために接続を切らず、作業を続行した。何も仕掛けてこないことが不気味ではあったが、構っていられなかったのだ。リミットまで24時間を切っていた。
 などと思っていたら、突如、新しい項目が現れ、数十ものアドレスが流れた。すべてアメリカ、ただし、それ以外の共通項目は一切ない。全州に満遍なくあるようだった。

『お前が探しているものはこの中にある。見つけてみろ』

 露骨な挑発だった。
 オンラインゲームのシステム構築などを手がけ、当然のようにセキュリティに関するノウハウも積み重ねてきた。普段ならシステムに不正侵入を図る輩どもを相手にする側であるから、この日本警察のシステム管理者の手段は分からないでもなかった。たぶん、自分ならもっと質が悪いトラップを仕掛ける。それこそ警察に自動的に通報されるような。
「いや、こいつが警察だし」
 自分で突っ込んで、あらためてアドレスデータを眺める。ふつふつと怒りが沸き上がり、勢いそれらのデータを全部消そうとしたが、寸でのところで我に返った。癪に障るが相手の意図に乗るしかない。勢い立ち上がり、椅子替わりにしていた木箱をけ飛ばしてしまった。
 明かりはPCのモニターの光だけだが、狭い部屋に詰め込まれた10数台では、かなりの光量だった。それらが一斉にアメリカ全土の地図を表示した。
 たった今入手したデータ、数十件にも上るアドレスをそれぞれに検索し始めたモニター群を見わたす。
「マジむかつく。こいつ」
 ほとんど勘で見込みなしの物件は消してゆく。消したデータのかわりに有力とおぼしき物件を更に検索をさせ、徐々に絞り込んでいった。

 明け方になって、寂れたビルから飛び出した者がいた。
 バイクを車庫代わりの元はカフェらしい空き店舗から引きずりだし、エンジンをかけるなり急発進、車体が悲鳴をあげるほどの無茶なスピードで通りを駆け抜けていった


誰も死なない場合の設定 その5

 同日同時間に死刑になる人間を映し、キラを挑発して殺させたことに警察内外から批判の声が上がった。この件で明らかとなった、捜査本部を統括する人物が、Lという正体不明の探偵であることも問題となった。
『ICPOを通じて日本警察には私に協力するよう、要請がいっていたと思っていたんですがね』
「そうだ。正式にきている。マスコミが勝手に騒いでいるだけだ」
「それにしては夜神さん、さっき席を外していたのは上層部からの問いただしがあったからですよね」
「…何故それを」
「万が一のことを考えてこの建物の管理システムをコントロールしてます」
「盗聴していたのか?」
『はい。すみません』
 機械音声で謝られても、感情がつたわってこない。いや、そもそも済まなく思っているわけではないだろう。表向きはキラ捜査の統括者である夜神総一郎は大きくため息をついた。

 卓上にぽつんと置かれたノートパソコンのモニター上に、『L』という文字が浮かび上がっているだけだった。
 捜査本部との通信を切り、別の回線を繋ぐ。若い男が、フローリングの部屋の真ん中に、通信用のパソコンを床に直置きし、てひざを抱え込むように坐っていた。
「ワタリ、日本捜査本部全員の関係者及び、警察庁、警視庁上層部とその関係者の動向チェックをFBIに依頼してくれ」
『分かりました』
 まもなく、その依頼の応諾があり、ただちに人員を配置したとの連絡があった。その人員のリストに目を通し、指示を返すとその回線をも切った。
「……少しつついたらこの反応だ…。分かり易すぎる」
 ぼそりとつぶやくと立ち上がって、隣室に向かう。背を丸くして、親指の爪先をかじりながら。そして、裸足のまま歩き回るためにぺたぺたと音があがる。
「L、お茶のまえにまず足を」
 テーブルに紅茶を用意していた老紳士が振り向きもせずに言った。言われたほうは少し首をかしげて、ドアマットに足裏を何度かすり付けた。本人は足を拭いたつもりだ。
「FBIは明日から行動を開始するとのことです、L」
「早いな」
「何名かは別件で日本に来ているからと」
 紅茶や色とりどりのケーキとともに置かれたものを示した。十数枚の調査票で、FBI側の人員のデータが、顔写真付きでまとめられていた。
 椅子に乗り、膝を抱えたLはその一枚をつまむように取り上げた。
「では、結果がでるまでそうかからない、と」

 リンゴにかぶりつきながら部屋を物色する死神を放っておき、月はPCを操作していた。警察庁の父のPCにアクセスし、新たな情報に目を通す。
 メディアにはLという正体不明の探偵が強行した、『公開処刑』について問題視する論調が起きていた。予想されたことだが、加速度的に過熱していること、そしてキラ事件の報道が押し流されていくことが、キラにとって好都合な結果をもたらすかもしれない。
「ライトー、これなんだ??ゲームってやつ??」
 振り向くと、棚にあったものをほとんどすべてひっくり返し、床やベッドにそれらが放り投げてあった。音がしなかったのは、一応、死神なりに気をつかったのだろう。
「……お前、わかってるだろうな。僕が寝るまでに全部もとの場所にもどせよ」
「わかってるわかってる。で、これゲームだろ、やりたい」
 なぜ死神がテレビゲームをしたがるのか、こんなにも人間の生活空間でくつろげるのか、ということを死神本人に問うても無駄なことを、出現した初日に月は理解していた。こういった存在に、行動の意味を求めること自体、無意味なのだ。
 ため息一つついて、死神からゲームを受取り、プレイできるようにセッティングして、やり方まで教えてやった。死神は嬉しそうにとりかかかり、再び静かになった。
 自分以外の人間に見えないことで、いちいち取り繕う必要がないことが月にとってはありがたかった。キラ事件の解決まで、死神にはこちらにいてもらわなければ困る。幸い、かどうか、とにかく死神リュークは、月が死ぬまで取り憑いていると言う。もしくは飽きるまで。

『…それは勝手に出ていくのか?』
『いや、お前を殺すか、』
『………』
『あっっ、リンゴ返せっっ、全部やるっていったじゃんかよっっ』
『さっさと答えろ、僕を殺すか、なんだ?!』
『お前にやったノートを、誰かに渡してくれるように頼むとかさ』
『……要するに、殺すこと以外、お前は自分の意志での行動を制限されるのか』
『まあ、そういうこと』
 丸い目をくるりと動かして、無邪気なさまでこっくりと頷いた。

 精神構造がそもそも違う。月はそう達観した。親しくなった人間を、自分の都合でなんの躊躇いもなく殺すこともできると、暗に示したのだ。
 この殺人ノートは死神たちにとっては自らの寿命をコントロールする命綱だ。ここに名前を書き、殺した人間が本来生きるはずだった時間、寿命を自分にプラスさせることで生き永らえているという。そしてこの死神は、この暢気さから察するに、相当の長い寿命を蓄えているに違いない。
 出現した時に交わした会話を思い出し、この死神を甘くみないことだと自分の裡に言い聞かせる。四苦八苦しながらも、楽しそうにゲームに興じる死神リュークの背を一瞥し、PCに向き直った。
 その数日後、リュークの物色癖が功を奏する事態が待ち受けていた。

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