思考のその向こう
 



哮天犬の背に乗って、ふわっと西岐の郊外まで運ばれる。

ありゃ、天祥が戻って来て俺っちがいなかったら心配するさあ。
天化が呟くと、楊ゼンがいつもの余裕たっぷりの声で
「それは大丈夫」 と答えた。
楊ゼンさんが大丈夫って言うんなら、それは大丈夫なのさ、と天化は納得する。
楊ゼンが、というよりは、天祥が西岐の皆に愛されていることを思い出したのでもあった。


誰にも何にも迷惑をかけないだろうという荒れた岩地まで来て、 二人は哮天犬から降り立った。
少し離れ、向き合う。
「準備は、いいかい?」
楊ゼンの声に天化はちょっと莫邪の宝剣IIを眺めたかと思うと、 にやっと笑って宝貝を握り直した。 眩しい光の剣の重みが、しっくりと手になじむ。 楊ゼンもふっと笑うと、次の瞬間、二人は一気に間合いを詰めた。

がしっ!
重い音を立てて宝貝がぶつかる。
そのまま押し合ったのでは天化に不利、素早く切り返し喉元を狙う。
その暇を与えず楊ゼンは、がっ、と宝剣を払い間合いを広げる。
そうはさせじと天化は素早く踏み込んだ。


何合も打ち合い、離れ、また打ち合い。
はああああっ!と響く掛け声はどちらのものなのか。
そして宝貝の重なる音、風を切る音、土を蹴る音。
荒地にそれらが響くさまは、耳が痛いほどに雑じり気がなく、 いっそ静かともいえた。


くっそ、接近戦には持ち込めるけど、なかなかその先手出しさせてもらえねーさ。

それでも打ち込む一撃の重さが、前の莫邪の遥か上を行くことを天化は実感する。
自分がその重みに耐え得ること、そして以前のスピードは落ちていないことを 確認しつつ、さて、その先どう攻めたものかと考える。
いや、考えるというより先に、あの手この手を体が自然と様々に試していくのか。
天化はすっかり熱中していた。


そのとき、天祥のことも道徳のことも、宝貝が今までと異なることすらも、 ついには天化の脳裏から消えていたのだった。



連作短編その4です。めちゃくちゃご無沙汰していました。
天化の心情、まずは第1段階といったところ。打ち合いはも少し続きます。
書いてて何だかとっても楽しかったです。
が、亭主弓道経験はあっても剣道はおろかフェンシングも柔道も空手も
合気道もレスリングも経験ないので、嘘八百を語っているのでは、と思います。

<前の話
次の話>
目次へ
▲書斎へ
▲▲正門へ



PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル