俺っちがもっと強かったら、コーチや親父を助けられたさ?
その質問に、楊ゼンは答える必要を認めなかった。
・・理論的には、そうだね。
そう答えてやってもよかったのだが。
あるいは、
僕にも勝てないきみに、道徳さまを助けることはできなかったよ。
そんな風にやりきれない気持ちをぶつけてやってもよかったのだが。
だってこの問いは、なにより自分に痛かった。
自分には、本当にその力があったのだから。
自分に囚われていたから。できたはずのことすら出来なかった。
王天君の声は耳から離れない。
自分がもっと強ければ、少なくとも目の前で最愛の師匠を
失うことはなかったのだ。
違うな。
できたはず、と思うのは傲慢だ。
あのとき自分はそれしかできなかった。
自らの本性を認めず、自らの持つ力に覚醒できないほどに、
それほどに弱かったのだ。
それは自分だけが抱える無念。
自分がもっと強ければ、と呟いたとき。
そうじゃないよ、と。
玉鼎は悔いていないよと、慰めてくれるひとはいるだろう。
そうかも知れぬ、と。
真実を認めることでまた慰めてくれるひともいるだろう。
けれどどちらも求めたくない。
これは僕の、僕だけのかけがえのない無念。
だから自分は大切に、王天君の声を耳に抱いている。
それをなくしたら。それを人とわけあったら。
僕はいまの僕でなくなる。
なにより自分に痛い問いを、自分が手放さないためなのか。
きっと同じように傷ついている天化から、問いを奪わないためなのか。
楊ゼンは口を開かずただ天化に対峙した。
連作短編その10です。閑話休題。
ごらんの通り今日は天化はお休みでした。
天化は、いえ、楊ゼンもか。周りにすごく恵まれているけれど。
恵まれていることはまた厳しくて。
幸せで辛くて泣きそうな亭主。(なんだそれ・・)