沈黙に恵まれる
 




俺っちがもっと強かったら、コーチや親父を助けられたさ?


答えの返って来ない問いは、行き場なく沈黙の中に浮いた。
それは天化にとって、身を切るような沈黙だった。

自分に真っ向から対峙して動かない、楊ゼンの眼、構え。
身にまとう気配の全てが、答えないよ、と語っていた。


次に仕掛けたのは楊ゼンの方だった。

正面から三尖刀が打ち下ろされる   莫邪で受け止める。
けれどそのまま押し返すだけの力は天化には無い、後ろに跳び退ってかわし、 返す刀で胴を狙う。
それが届くより先に楊ゼンは間合いを詰めている。三尖刀の柄で莫邪を防ぐ。
押し返しそのまま薙ぎ払うのを間一髪で避けた天化は首筋に向かい切りつける。
これはあっさりかわされて、再び楊ゼンから打ちかかってきた。

腹が痛む。
そんなことで動きを鈍らせない自負はある。

三尖刀を受けた手が一瞬痺れる。
構わずに打ち返す。
自分の打撃に楊ゼンだって痛みを感じていないわけじゃない。
それを承知でお互いに攻め続けている。
いつ果てるとも知れない。

先刻までは向かっていく自分をただ受け止められていただけだった。
次から次へと繰り出される攻撃に、天化は武者震いする。

負ける、なんて思うわけじゃねーさ。
そんなつもりは微塵もない。

けれどかわらずに攻め続けてくるその重さ、その確かさに。
我が身の痛み、そして相手が感じているはずの痛みに。

ああこのひとは強いんだ、と天化は初めて知った気がした。

おかしいさね。
楊ゼンさんが強いことなんてもうずっと前から知っていたのに。


俺っちがもっと強かったら、コーチや親父を助けられたさ?

問いはかわらず宙に浮いている。
目の前にいる格上の、けれど同じく師父を亡くしたひとりの道士は、
答えない、と全身で答えている。

答えのない沈黙が苦しい。
さっき天化はそう思っていたけれど。
違う、苦しいのは沈黙じゃない。
苦しいのは問いの答え。

楊ゼンは問いの答えを知っている。
そして天化も。

答えは歴然としていながら。
厳然と他者の言葉を受けつけない。
沈黙は当然の帰結。

   俺っちがもっと強かったら。
親父よりもコーチよりもそして聞太師よりも強かったら。
仮定の対象になりうるのは自分だけ、自分の可能性は自分ひとりのもの。
だからこそ、こんなに苦しい。


無言のまま剣を交わしながら、このひとは強い、と思う。
それは剣技が巧み、術が巧み、それだけではないことを、漠然と天化は感じた。



連作短編その11です。
たぶん、ラストまでもう少しだと思います。
天化くん、その答えはほんとうに正しいのかな。
天化に戻ったはずだけど、中身は楊ゼンさんへの思い入れかな。


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