このひとは強いのさ。
楊ゼンと打ち合いながら、
その思いの確かさは天化のなかで動かない。
だけどなぜ。
なぜこのひとが強いのか、それはわかるようでわからない。
自分はなにかに確かにあこがれている。
強くなりたい。
もっと強かったら、なんて。
そんな実りのない後悔に囚われている時間はない。
強くなりたい。
それは自分のなかにある、この上なく間違いのない感情。
取り返しのつかない悔しさはその思いの種だから。だから手放せないけれど。
自分の抱くその感情、揺らがない確信があるけれど。
けれど。
強いって何さ?
煌く宝剣を振いながら、迫りくる太刀筋の中に天化は答えを探そうとする。
その答えを自分が持っていないことに驚きながら。
同じようにたくさんのものを失ったこの人と。
自分はどこが違うのだろう。
いや、どこかが違うのだろうか?
剣技だけでなく、術だけでなく。
答えをどこに探していいのかもわかりそうでわからない。
強いって何。
いままではいつだって、それは目の前にあったのだ。
自分はなにかに確かにあこがれている。
それはいまだけじゃない、ずっと、ずっと。
はじめそれは父親だった。それから長いこと師父を見ていた。
もうそれらを見ることは、二度とかなわない。
だから考えずにはいられないのだ。
親父やコーチの中に、俺っちは何を見てたのさ?
いまここにいる楊ゼンさんに。俺っちは何を見てるのさ。
そして。
俺っちは強いのさ?
俺っちは強くなれるのさ?
強くなれるさ。
最後の問いには変わらず肯定の答えを出しながら、
だからそれってなんなのさ、と天化は答えを探しつづけた。
連作短編その12です。
行ったり来たりでどうにか進んでいます。
あと何話ぐらいと計画してもみるのですが、
自縄自縛が怖くて言えません。