強いって何。
探しつつ剣を重ねれば重ねるほどに、ひとつのことだけが鮮やかになる。
強いってなにさ。俺っち知らねえさ。
戦うというのは単純な所作の繰り返しだ。
剣を構え、相手を見、振り上げ、踏みこみ、振り下ろす。
自分がどこを狙うにしても、相手がどこから来るにしても、ひとつも疎かにできない動きをなぞる。
どう守りどう攻めるか考え、そして考えるより先に動いている。
無心に繰り返せば繰り返すだけ、刃の競る音が高く澄む。
風切音も衣擦れもはっきりと聞こえ、次にどう動くか見える。
同じ動きを重ねることで磨き抜かれた砥石のように、余計なものは削ぎ落とされていくのだ。
強いって何か、俺っちは知らない。
何度も思う。何度でも思う。
ひとつ動くたびごとに天化は思う。
それを繰り返し繰り返し受け入れる。
なぜ自分が戦うのか、俺っちは知らない。
とてつもなく激しく動いていながらも、いや動けば動くほど、心は不思議なまでの平穏のなか。
天化が意識しているのはひとつながりの単純な所作。
それは例えば踏みこむ深さ、剣の傾き、伸ばす筋肉、重心の位置。
なすべき動きは知っているから、ただ忠実にかたちに現す。
細かく細かく集中すれば、指の先から足の先まで意識がめぐる。とりたててとらえられぬほど自然に静かに。
意識せずとも身体の動きは次の動きの意識を呼び起こすのだ。
それは混ざり気のない鮮やかさ。
そして知らないという事実も一緒に静かに静かにただそこに。
鋭く澄んだ刃の音を聞きながら。
丁寧に、けれど渾身の力を込めて、ふたりは剣を重ねつづけた。
連作短編その13。もうすこし。
集中力が苦もなく拡大再生産されていくとき。
部活でも勉強でも、お話づくりでもそんなときありますよね。
年内に終わらせるつもりでいます。