「おやおや仲間割れかよ?世も末だな」
くっくっく。
時を見計らってオレは声をかけた。
無論初めから見ていたさ。こんな見世物、見逃す手はねぇからな。
あいつがその眼に見えている結果に怯み、悩み、かつ動く。
いかにも優等生な結果に向けてな。
くっくっく。
無理してやがる。
月明かりのなかあいつは一人待っていた。
くくっ。ずいぶん早くに来たもんだ。
黄天化のやって来る刻限など、どうせ予想はついていたろうに。
紂王が目覚めたころにそいつが禁城に着くような時刻。
もっともその太公望を横目にオレが禁城に降りたときには、ナマっ白ぇ天子さまは玉座で呆けていたけどよ。
「じきに太公望のバカが朝歌に乗り込んでくる。あんたを殺して周王朝をつくるってぇ算段だ」
反応はねぇ。ま、そうだろうよ。
だからオレは呟ける。
「3人目である今のオレはあいつに復讐してやるのさ。オレの代わりにいい目をみてるあいつにな!
そう簡単には周王朝をつくらせてやらねぇ!」
そうさ。
あいつの考えるとおりにはさせてやらねぇ。
あいつが苦悩するさまを、楽しませてもらおうじゃねぇか。
そうしてオレは紂王に、武成王の息子がここに来ることを教えてやる。
天子さまはぴくりと眉を動かした。人間だねぇ。
よしよし。
こっちはもうオレが手を出すまでもねぇ。
お楽しみを見に行くとしようぜ。
「おぅ、天化!遅かったのう、待ちくたびれたぞ!」
戻ってみれば丁度やつらは感動の御対面の真っ最中だ。
「今勝手な行動を取るのであればおぬしはただの反逆者!見過ごすわけにはゆかぬ!」
くくくくく。虚勢を張って、なあ。
止める手なんていくらでも在った筈だろう?
傷の手当ての最中に後ろからぶっすりいくことだって、休んでる天幕を襲うことだって、あんただったらできたはずだ、あんたなら。
ごまかす手だって幾らもあんだろ、どうせこいつの先は長くねぇ。
考えつかなかったなんて言わせねぇぜ、あんたにはな。
くっくっく。
あいつの言葉は続いている。
「仙道が紂王を倒したら人間の立場はどうなる?あくまで人間が紂王を倒さねば無意味なのだ。
ではなくては妲己に操られておった殷と何のかわりがあろう?!」
傑作だ。
あんたそれをどれだけ信じてる?あんたが今やってることは何だ。
くっくっく。
もちろんあいつはそんなことはすべて承知で、そして言うと決めたことだけを言ってやがるのさ。
とんでもねぇ嘘吐きだよ、な。
あいつはその矛盾を背負ってる。
そしててめぇ勝手にも、ほかの仙道と、例えば愛しい天化ちゃんと、それを分け合う気は皆無って訳だ。
あんた自身だってその正しさに自信があるわけじゃねぇのにな。
くくく。滑稽だよ。最高だ。
「死に急ぐな!適切な処置をほどこせばもっと長く生きられる!」
最高なのは目の前の黄天化が、太公望にその事実を突き付けること。
ただ立っているだけでもな。
そして。
「それでも・・・俺っちは行くさ・・・」
黄天化は莫邪の宝剣を握り締めた。それを振りかざし、跳ぶ。
「たとえあんたと戦ってでも!!」
「甘ったれるなよ、天化!おぬしはわしにぜったい・・・勝てぬ!」
あいつは風を巻き起こし、黄天化を地に叩きつける。
「うわっ!」
くっくっく。
戦えばなおのこと、愛しの天化ちゃんはあいつにあいつの内心を見せつける。
あいつのやっていることは、妲己のすることと変わりねぇ。
その意味で、殷にも周にも正義はねぇんだ。
そしてだから同様に、太公望と黄天化の戦いにも、正義はねぇ。
くくっ。事は至ってシンプルだ。
戦いたいヤツと戦わせたくねぇヤツがいる。強い方が思い通りにするってな。
天化はぐっと身を起こし、太公望を睨みつけた。
おそらく、また傷が開いただろう。
「―――その程度でひるむな、天化!」
くっくっく。怯んでるのはどっちだよ。
シンプルでねぇのはあいつの内心だ。
自分が妲己と同じだと、知ってるはずだ。黄天化を戦わせない理由はねぇ。
死に急ぐなと、本音を漏らした。けれどそれにも意味がねぇことを、知ってるはずだ。
あんたは何のために生きてる?
そう、あんたは目的のために生きてる。
かなり露骨にな、あんたは目的のためだけに生きてる。
そのあんたが死に急ぐなと言うかよ。いいさ、でも何のために。
くくくくく。滑稽だろ?
あんたの目的は、あんたと、そしてオレだけのモノだ。
あんたはそれを誰とも分けあわねぇ。
死に急ぐなって?すげぇ説得力だぜ。
あんたにはそれは決められない。
天化ちゃんだってそれを誰とも分けあわねぇんだ。
そんなことをあんたは百も承知だ。
「わしにはまだスーパー宝貝大極図もある!宝剣の光を消し去ってくれよう!」
勇ましげな言葉のとおりの表情とは思えねぇよな。
どうしたって黄天化を戦わせない理由はねぇ。
そいつをそいつの望むままに。そいつの目的のために生かしてやりたい。
それがあんたの本心だろ?
それが黄天化を殺すことになってもな。
「おやおや仲間割れかよ?世も末だな」
くっくっく。
時を見計らってオレは声をかけた。
「行かせてやりゃあいいじゃねぇか。遅かれ早かれどうせ殷は滅ぶんだからよぉ」
あんたが腹を立てるところを見るのは楽しいぜ。くくく。
殷なんて所詮問題じゃねぇんだろう?
「王天君!」
「あ」
オレは天化を陣に引き込む。
「おぬし、天化をどこへやった?!」
あんたがそれを聞くかよ?
わかってんだろ。
「ククク・・・やつの望んでいた場所へだ!」
行かせてやりゃあいい。
少なくとも武成王の息子なら、天子さまは真っ当に相手してくれるぜぇ?
人の王への手向けとしても、悪くねぇ。
そのへんを考えつかなかったなんて言わせねぇぜ、あんたにはな。
くくく。
「ところでよぉ太公望・・・あんたのそのスーパー宝貝、興味深ぇなあ・・・
オレにも見せてくれよ」
足止めもしてやるぜ。
天化ちゃんが宝貝を使うこともねぇように。
そして黄天化を目的のために行かせてやる。
あんたの望みどおりだろ?
くっくっく。
あんたの望みどおりだ。
そしてあんたの考えたとおりじゃない。
だからあんたは後悔する。結果がどうなろうとな。
くくっ。
あんたの望みはあんたの理性の上を行くと思うがな。
あんたの苦悩はオレには蜜の味なんだ。
「周を起こすときも黄天化の命を使って丸くおさめてやった」を
解釈するという副命題、こんどはどうでしょう。
今回のタイトルすなわち主題は早くから決まっていたのですが、
主題でない方が真ん中に来てしまったのではなかろうか。
で、普通はタイトル変えるんですけど(こうしてタイトルが後付けに)
主題は皆無ではないのでお許しください。
書いてみたら思いのほか王天君は紂王さまに共感しているようです。