甘い水 (5)
容赦なく口腔へと差し込まれてくる指に、舌を絡めてしゃぶる。舌がほとんど麻痺していても、鼻の奥のほうで甘さを感じた。眉間のあたりが刺しこむように痛くなるのをやり過ごそうと、ロイドはきつく目をつむる。
「んん、ん」
下腹のあたりにへばりついたべたべたを無理やりはがそうとされるから、皮膚を引っ張られて、ぴりぴりと引きつるような痛みが走った。
いって、ばっかやろ―――そんなところに禿げなんぞ作りやがったら、てめえの頭ァ、丸坊主にしてやる―――というより、いい気になって勝手ばっかりしていやがると、頭の皮ひっぺがすぞ。
抗議のために、口の中の指に思い切り歯を立てる。
「うわっ、イテテテ。痛い痛い。痛ェったらよ。本当に痛いから勘弁してくれって―――ごめんごめん、このへんは舐めるだけにすっからよ」
ぴちゃぴちゃと濡れた音がする。下腹に押し付けられるような、間接的な刺激は、肌に貼り付いた固まりの上から舐められているからだ。ところどころ直に肌に触るところもあって、ぬめった舌の感触に身震いする。そのへんはどう考えても下の毛ごと口に入れられ、へばりついた糖蜜を舐め取られているはずである。
その状況については考えることを完全に放棄し、口の中に入り込んだごつい指を舐めることに専念する。舌で触ってみると、噛み付いた場所が痕になっていて、ちょっとばかりの仕返しに溜飲を下げる。鉄っぽい味はしないから、傷になってはいないはずだ。音をたてて吸い付き、舌をこすり付けてしつこいべたつきを落としていく。時折ぐるりと指を回され、口内の粘膜をかき回されるのが生ぬるい刺激に変わる。
立ち上がった性器の周りに手を置いて押さえられ、付け根近くを舐めたり噛んだりされているので、ときどきどうしようもなくじれったくなって体が跳ねる。
「ふ…ん…ん」
半ばヤケになってしゃぶりついているうちに、口の中から甘さが無くなり、舌に貼り付くようなべたつきも消えていく。顎がだるくなってきたので舐める動きを止めると、濡れた指が口元から離れていった。
頭のネジが飛びかっている気がする。もう一方の手が伸ばされてくるので、自分から口を開いて迎え入れる。きれいになったほうの手が、立ち上がったものの先端を緩く撫でてくる。唾液で濡れているので、ぬるぬるとした接触はあからさまな快感になる。擦り下ろすようにしながら、握りこまれ、その周りを音をたてて舐められた。頭が痺れ、無意識に腰が揺れた。
「ふ―――」
押し込まれた指の間から、息を吐き出す。
「兄貴、舐めてくれないと入れられないぜ」
すこしくぐもったライナスの声。
―――てめえ、後で泣かす。絶対泣かしてやる。
顔をしかめながらも口の中を犯してくる甘さを舐め、じりじりと身体を炙る熱をにがそうと、時折がりっと指を噛んでやる。
中心を握り込んだまま動きを止められ、付け根を舌で辿られた。歯を立てたことへの仕返しのように、先端を軽く爪で弾かれる。
「ン―――う」
鼻から高く声が抜ける。握り込まれた掌に擦り付けるように腰が動いた。掴み止められたまま、先端を撫でられ、根元の辺りを横から咥えられて舐められる。
「ア―――」
身体が反り、顎が上がる。口が開き、咥えていた指が外れた。濡れた指が首筋を辿って下りてくる。鎖骨を撫でられてくすぐったさに身体を捩る。胸の筋の上、掌全体で撫で下ろすようにされ、僅かな突起を強く刺激される。短い声が上がるのと同時、性器の先端をペロリと舐められた。ぬめった刺激が走り抜けていく。舌はそれだけで離れていって、また根元の辺りを咥えられる。
「ライナス、ん―――」
弟の名を呼ぶ自分の声が、甘く溶けかかっているのを聞く。声だけではない。合わせた皮膚から感じ取る刺激が、とろとろと、絡みつくように甘い。
何かやばいもんでも混じってたんじゃねえのかアレ―――材料として混ざってたってわけじゃなくても、混ぜたり煮たり焦がしたりしてるうちに変質したとか―――作ってる最中に魔道を使ったらその影響でとか―――
気だるく鈍った頭で、そんなことを考える。
「あ、ふ…あ―――」
胸の突起の周りを、じらすようにゆっくりと指が回ってきて、わずかに色の違う皮膚をぬるぬると撫でられる。ライナスの大きな口が、横から大きく咥えこんたまま、片手を添えられたものに沿ってずるずると移動する。舌と唇のぬるみで擦られ、腰のあたりにひどく甘く感じる快感が広がる。
「はっ―――ん」
耳に入ってくる声が、ひどく潤んで甘ったるいので、聞いているのが嫌になって、自分の指を噛み締める。
「声出してくれよ。兄貴の声スゲェ好きだ、俺」
そう言われると―――意地でも声なんぞ上げてやるものか、という天邪鬼な気持ちになる。こんなことで意地を張るのは馬鹿げているとも思うのだが、弟に一方的にいいように扱われているこういう状況は、ちょっとばかり―――相当にむかつく。両手で口を塞ぎ、とめどなく漏れ出そうとする声を止める。
「兄貴、あのよ―――いや、いいんだけどよ」
ライナスが何かを言いかけ、結局そのまま口を噤んだ。時々、俺のこと嫌いなのかと思うよなあ―――とかなんとか聞こえるか聞こえないかの声でぶつぶつ言いながら、際どい場所を嬲ってくる動きは止めようとしない。
胸の突起を指で押しつぶされ、そのまま揉むように動かされる。言葉を紡ぐために離れた唇が戻ってきて、先端をちゅっと音をたてて吸われた。
「あっ…」
短く叫ぶ。勝手に身体が反って背が浮くと、胸をいじっていた手が腰の辺りへと差し込まれてきた。膝を大きく割られ、脚の上に乗り上げていた上半身がその間へと入り込んでくる。ぐい、と腰を引かれて、脚を分厚い肩の上へと担ぎ上げられ、ライナスの目の前に下半身を開いて晒す形になる。恥ずかしいとは思わないのだが、圧し掛かってくる相手に、どうにも無防備な格好で相対するすることに、本能的な、恐怖に近いようなためらいがある。肌を合わせる行為に慣れていても、この奇妙に心細い感覚は無くならず、時折快感のなかに混ざり込んでくる。
ライナスと目を合わせると、その褐色の目はあからさまな飢えを浮かべて笑った。
「何、考えてるんだ、兄貴」
身体の中心を握り止めていた手が離れ、腹の辺りを宥めるように撫でてくる。この弟は一見おおざっぱなように見えて、人の心の動きに対しては、自分よりむしろ繊細だ。
「俺のこと、考えててくれよ、な」
後ろに回った手が、背骨を撫で下ろすように下りてきて、指が狭間へと差し込まれてきた。入り口を探りあてられ、指を回すようにして撫でられる。もう一方の手も腰を抱くように回ってきて、尻をつかまれる。ぴたぴたと指で入り口を叩かれると、ぴちゃぴちゃと濡れた音がした。
「あ…あ」
ぐい、と押し込むような動きに声があがる。
「ライナス」
ロイドは、自分でもあきらかに焦れていると分かる声で、弟の名を呼ぶ。
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