甘い水 (6)
指は外側の薄い皮膚を撫でて、なかなか奥まで入りこんでこようとはしない。
「ん―――ん」
じれったい快感に、背が反って、顎が上がる。
指先がくじるように、少しだけ中へと入り込んできて、入り口の皮膚をひっかけるように抜き出される。むず痒いような刺激に、ぬるぬるとした感触が混ざりこんでいる。
「ライナス―――」
口元に少し痺れるような感じがあって、舌が上手く動かないから、名を呼ぶ声が呂律のまわらない感じに溶ける。
甘ったるい声に誘われて、指が奥へと突きこまれてくる。指を曲げられ、間接が粘膜を擦ってくるから、思わず内側にあるものを食い締めるように身体が動いた。狭まった器官を押し広げるように、入り込んだ指が抽送をはじめる。時折ぐるりとかき回され、入り口を広げられた。すでに違和感は消えていて、ぬかるんだ場所を擦られる快感だけがある。
「あ、はあ―――」
仰向いて見上げるライナスの顔は、なにやら楽しそうで癪にさわるのだが、いいかげん理性が切れかかっているので、睨みつける余裕もない。
入り込んだ指で内側をこねられ、他の指で入り口を撫でられる。たまらなくなって体を捩ったところに、もう一本の指が入り込んできた。指の腹を揃えて、身体の前がわを撫でてくる。確かめるように、柔らかい壁を押される。甘ったるい快感がそこから腰のあたりに広がってきた。
「や…あ、ああ」
勝手にびくびくと腰が跳ねる。そこを擦るように突き上げられると、もうたまらなかった。自分の意志では身体反応を抑えきれなくなっている。いいかげん、行為の中に溺れ込んでしまったほうが良さそうだった。
「ライナス―――はやく、あ―――しろって」
搾り出した声が溶けて震える。
「兄貴、すげえよ、ほら。絡みついてくんの。自分で分かる?」
分かってるから言ってんだろうがっ。仕舞いに、裏山のゴミ溜めに頭っから叩っこむぞ、この馬鹿野郎が―――
心の中でありったけの罵倒をする。口にしたところで、声が甘ったるくうるんで、睦言にしか聞こえないだろうと分かっているからだ。躾のなっていない犬に―――こうなったのは主に自分が悪いのだが―――食べ物と一緒におもちゃにされかかった後である。身体のほうがすっかり解けていて本当に嫌がることなど出来はしない。
「や、だ、そこいじるな、や…」
「欲しいか。なあ、俺のこと欲しい?」
「いら、ん、ア―――」
返す言葉は全て潤みきったあえぎにしかならない。
それでもなお意地を張りながら、脚を厚みのある体へと絡み付かせる。
「てめぇ、は、いらん」
覆いかぶさってくる弟の顔が、呆れたような、それでもどこか少し悲しいような、飼い主から無理な命令をされた犬のような表情になる。
今では見上げるほどの大男である弟は、ついこの間までは、自分の行く先々にひたすらに纏わりついてくる小さな餓鬼だった。その懐こさを、可愛いながらも時折鬱陶しく思うとき、おまえは親父が裏山から拾ってきたのだ、俺はおまえなんぞいらん、といじわるを言った。自分でも少し酷いかとは思うのだが、振り払ってもべったりへばりついてこようとする子供を、邪険にからかってやるのは、少しばかり楽しかった。
ロイドがそう言っただけで泣きべそをかいていた甘ったれの餓鬼は、やがて、あきれたような困ったような顔をしながら、やっぱりロイドの後をくっついて来ながら、そんなこと言わないでくれよ、と真面目な顔して言うようになった。
「そんなこと、言わねェでくれよ、なあ」
自分を組み敷いてにやにやと笑っていた弟は、ちょっと邪険にしてやれば、たとえこんな時でも情けなくも真面目な顔になるのだ。とんだ馬鹿野郎である。
「馬鹿―――抱けよ、早く」
意趣返しは済んだので、目を合わせて、あからさまにせがむ。
ライナスの褐色の瞳に光が戻って、大きな口が嬉しそうに微笑んだ。
「あ―――」
身体を二つに折り曲げられ、柔らかくなった場所に硬いものを強く押し当てられるから、受け入れるのに力を抜いて身体を開く。腰を掴んで引き寄せられ、きつい部分で一杯に広げられ、ずるりと一気に入り込まれる。
押し開かれる瞬間の苦痛を、背を反らせ、声を上げて逃がす。体重をかけるようにして数度突かれ、恐ろしいような大きさが、そのたびに奥へと入ってくる。
「あ…ああ」
もがきながら、腰を抱く腕を掴んですがる。受け入れる行為に慣れても、そうやって押しひさがれることに、心細くなるような苦痛はあるのだが、同時に温かいものに一杯に満たされることへの悦びも感じる。結局のところ、自分はこうしてライナスに抱かれるのが好きなのだろう。ロイドが本気で嫌がることを、この弟が無理強いすることは絶対にない。ロイドが受け入れるのを無意識に知っているから、ライナスは兄を抱くのだ。
「兄貴―――すげえいい」
動きを止めたまま熱っぽく囁かれるから、身体の中の熱が上がる。意図して身体の中に入り込んだものに意識を寄せると、自分の脈と自分の中にある脈とを、どちらというでもなく、感じる。繋がった部分から、ひどく甘い感触。乾いた唇を舐めて濡らすと、唇が下りてきて軽く吸われる。上になった身体が圧し掛かってきて、身体を深く折られる。腰を回すように擦り付けられて、声を上げるのを吸い取られた。
「ん……はあっ」
緩くかき回され、熱い性器で入り口を拡げるように動かれる。粘膜と、それにつながる敏感な皮膚をぐるりと嬲られる。濡らされているからぬるぬると滑りはするのだが、一杯に拡げられているからこすりつけられる感覚は強い。前で立ち上がっているものも、腹と腹との間で強く擦られている。
「んや、う…ん、あ、あ」
腹に力が入らないから、漏れる声は頼りなげに、揺れる。どうにも身体のコントロールが利かなくなってきて、思うように動けずに焦れる。溶けるような甘さを身体の外に出してしまわないことには、気が狂いそうだ。
「ライナス、も―――ああ、いやだ」
てめえのせいだ。早いとこなんとかしろ。
自分より軽く一回り以上はでかい身体を、もっと奥に引き寄せようと、その背に爪を立てる。軽く眉をしかめたライナスが、その仕返しのように強く突き上げてきた。
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