「騎士の祈り」　(3)

セインの指が、身体の中央、筋と筋との合わせ目を辿って、腹へと下りていく。ケントの意識もその指を追っていく。腹のあたりを掌全体で撫でられる。さらさらとした掌の感触は、肌に気持ちがいいのだけれど、横腹のあたりをそうされると、ひどくくすぐったくて身体を捩る。同じ場所を、わずかに爪引っ掛かるようにして、指の先ですっと、撫で下ろされた。

「っ―――」

上げかかった声を飲みこむ。
指はそのまま、ひどくくすぐったく思えるあたりを離れてくれない。抵抗とはいえない身じろぎを繰り返してみる。舌が、喉元のあたりを舐めてきた。そのまま、胸筋の、淡く影を落とす線をたどってくる。何度か触られ、そこは他とは違う刺激を感じるのだと、知りたくも無かったのに教えられてしまった場所に、濡れた温みを感じる。同時に、五本の指がわき腹を撫で上げてきた。

「ふ、あっ」

わずかな突起を、濡れた唇につつみこまれ、軽く吸われる。舌が、小さく尖った部分を、舐り、押しつぶし、突いてくる。
ぴりぴりする。神経に直に伝わってくるような感覚は、皮膚というより、口内の粘膜を刺激されるそれに近い。
だんだんと、熱くなって、それにつれ、感じる刺激も強まって―――

限界―――身体が逃げようとずり上がるのを、両手で腰を捕まれ、しゃぶられていた場所を歯で咬まれた。強い刺激が、背から腰に抜けていく。

「いやだ、いや―――」

唇が離されてほっとしたのに、すぐに反対側のそこに、ぬめった指が絡みついてくる。舌は胸のあたりから、肋骨の形を確かめるように肌を這ってくる。

「ああ」

息が苦しい。

そのまま、腹の辺り、脂肪のほとんど無い、平らな所を、時折しゃぶりつくようにしながら、気ままに動いてくる。
ようやく、胸の突起から離れてくれた手が、腰骨から続く、足の付け根の窪みのあたりに移動してきた。開放されたというのに、しつこく弄られていた場所は、熱を持って疼くようで、ケントの意識を散らせる。立ち上がったまま、触れられていない場所も、ひどく熱い。

これは、私の、身体なのか。

全くコントロールが利かない。
自慰をしたことは、ある。立ち上がってしまったものを静めるために、直接握りこんで、開放することは、幾度もあった。それは、そういう造りになっているのだから、誰かに見咎められでもしないかぎり、後ろめたいとは思わないだろう。
それとこれとは、同じようでいて、随分と違っているらしい。直接の刺激は与えられていないのに、こんな風に、なるものなのか。

私は―――

「は…あ、ばかもの、な―――そ…っ」

臍に舌を差し込まれる。浅い窪みに柔らかいものが入り込んでくる感触。

そ…そんなところを、舐める奴があるか。

足の付け根、くっきりとした線を辿ってくる指、左脚の内側の際どいあたりに入り込んできて、さらに奥へと入り込もうとしてくる。もう一方の手が、屹立に触ることなく、その周りを撫でてくる。
無意識に背中が反った。

「出したい？」

思い切り直接的なことを聞かれる。

「一回出しちゃって、楽になるか」

声は濡れた感じなのだが、その口調は、普段、無駄口をたたくときと全くかわらない。
どうしようもなく上擦っていた意識が、少し、落ち着く。酷く強張った感じのある手足から力を抜いてみようと試みる。抱き合っている男は、自分のことを良く知っている。遠慮はいらない相手なのだ。

うなずいてみることにする。
すぐに、立ち上がったものを両手で包まれる。

「はっ―――あ、あ―――」

ずいぶん大きな声を出してしまったような気がする。あわてて唇を噛む。
大丈夫、だとは、思うが―――

「聞こえないよ、大丈夫」

私は不安を表に出したのだろうか。

「聞こえても、おまえの声だとは分からないさ」

私がどんな声を出しているというんだ。

「そんな顔をするなよ、可哀想になるだろ」

誰のせいだ。

「かわいいけど、さ」

「ばかも―――あっ」

咥え込まれる。すっぽりと。
知らない、ぬめった、熱い感触。先端を吸われて、腰が砕ける。
舌が、熱いぬかるみの中、周りに絡んで動いてくる。片手で根元のあたりを押さえ込まれ、もう一方が裏側を撫で下ろし、下のほうに回ってきて、揉みこまれる。その手の指が、尻のほうにまで回って、とんでもないところを触ってきた。
口を押さえているので、いやといえない。くじられると、他の場所ちがう、ちりちりした感覚があるから、身体の開いている場所なのだとわかる。

なんで―――、いやだ、そんなところ、ああ。

泣きそうだ。
ちゅる、ちゅる、と唇と性器の擦れあう音。自分を咥えたまま、緑がかった髪が上下するのを見てしまう。
熱い、熱い。
ひくひく、と指をあてられた場所が動いた。

いやだ、や―――

「セイン、出る、出る…からっ」

髪を掴んだのに、放されることはなかった。むしろ、ぐっと奥までくわえ込まれ、喉の奥で先端を吸い取るようにされて。

「ふっ、う、う―――」

身体が撥ねて、相手の喉に自分を突きこんでしまうことになる。一瞬、身体が浮いて、何が何だかわからなくなる。
いい、気持ちがいい、どうしようもない。
今までは全く知らなかった高みでの開放。がくがくと、勝手に身体が震えた。意識が飛んでしまいそうで怖い。どうにか、自分自身を引き戻そうと思う。すすりあげるような、自分の呼吸を聞く。

目を開けると、セインの顔。自分が汚してしまった唇と指を舐めとっている。
眩暈がした。

「すまない―――」

「ん？何あやまってんの」

いや、だって、私はお前の口のな―――考えるのも恥ずかしいではないか。

楽しそうな顔が、目の前に近づく。

「謝ることになるのは、俺のほうになると思う」

それは、どういう―――

間近にあるセインの目には微笑が浮かんでいる。

「おまえ、男同士ってどうするか知ってる？」

「こういうことを、するのでは、ないのか」

すまんが、何を聞かれているのか、私にはいまいち把握できていないようだ。

「こういうことの、続き、なんだけど」

手が尻のあたりに差し込まれ、指が、先ほどのどさくさで触れられていた場所に、そっと忍び込んできた。

「な、な―――」

「ここに」

右手を掴まれ、服を着けたままの、股間に導かれる。触れたものはひどく硬く、熱を持っている。

おまえ、それは、かなり辛いのではないか。

「これをね」

これ―――

「入れるんですけど」

………………どうやって！？

ちょっと待て、貴様、何を言って―――
出所の確かな情報かそれは。
いや、無理、無理だから。いやだから。

心の中でパニックを起こしているケントであるが、セインの目に映る顔は、いつも以上に、まるでお面のように表情が無い。

「そんなに動揺するなよ、な。大丈夫、上手くやるから。まあ、俺も男は初めてだけど」

何だと。
貴様もある意味初心者というわけだな。
ここは、謙虚に、とりあえず入門というところで、このへんで止めておくべきではないのか。
わ…私は全くの初心者だが、こういう場合、剣の道と一緒で、その道の達人に指導を仰ぐべきでは―――だが、そのような知り合いは、残念ながら心あたりが無いな。

埒の明かないことを、麻痺しかかった頭で考える。
考えている間に、脱ぎかかっていたり、脱いだものの、どこかに引っ掛かっていた服を、すべて剥ぎ取られる。セインもすべてを脱いで、肌を合わせてきた。
その温みを受け取った自分の身体が、安心だと感じて勝手に緊張を解きはじめるから、さらに頭の働きが鈍ってくる。

「あ―――」

力の抜けきった身体を返され、背筋を指が這ってくる。
腹を括ったつもりだった、が。

私は慎重な人間のつもりだったが―――
何故こんなことに。

触れられたくない部分に、指が入りこんでこようとしている。触られないように尻の筋肉をすぼめてみたのだが、ぐい、と腰をつかんで引き上げられ、膝を立てられた。身体が開く。

「セイン、止めてくれ―――頼むから―――」

自分の声が、懇願の口調に変わっているのを聞く。

「そんなこと言わないで、入れさせて」

そんな声で言われても、いや、だって、無理だろう。無理だと思わんのか、貴様。

尻の肉を指で探るように開かれ、かっと頬が熱くなった。

思わんの…か。
人生は度し難いものだな。