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「愛しい主のしつけ方」 (8)




唇を開き、勢いよく入り込んできた舌が、口内の粘膜を荒くなぶってくるのにまかせる。
唇を結び合ったまま、深く腰かけているヘクトルの脚をまたいで、膝立ちになってベッドの上へと乗り上げる。大きな手で腰を抱かれ、そのまま長い脚の上へと座る。

熱っぽい口付けを続けながら、座りの良い場所を探して、少しずつ腰をずらしていく。内腿に感じるしっかりと硬い脚に、布地越し、柔らかい皮膚を擦りつけるようにしてみると、腰のあたりまでじれったい快感が上がってきて、ぞくぞくとする。

触れ合った部分から与えられる刺激で、身体から力が抜けてくるから、動きを止め体重をかけて座り込む。脚の上に座っている分の高さがあるので、マシューのほうがわずかにうつむく感じで唇が合っている。

「ん、ふ―――」

動いて位置を変える間にわずかに唇が離れ、すでに潤んでしまっている自分の声が耳を打つ。ヘクトルの手が髪の中へと差し込まれてきて、ぐい、と引き寄せられ、食い違いに深く唇を合わせ直される。厚みのある舌が深く入り込んできて、頬の内側を、歯列の裏を、口蓋の上側を、めちゃくちゃな勢いで舐めて、擦ってしてくる。

その舌に、舌を沿わせてやると、相手も舌を絡めるようにしてくる。軽く歯で甘噛みしてその動きを止めてやると、焦れたような唸りが唇越しに伝わってきた。歯を歯の間にねじ込むようにされ、さらに深く入り込まれ、唾液をすすられる。手荒く犯されるような動きを快感と受け取って、身体の内側が甘く溶け始めるのがわかる。
舌を吸いだされ、痛いぐらいに噛まれる。

「ん…んう」

鼻から抜ける息が、甘ったるい喘ぎに変わりつつある。
濡れた粘膜のたてるぴちゃぴちゃとぬかるんだ音。自分のものではない匂い。渇えた人が差し出された水を手に取った時のように、お互いがお互いを啜り貪る動きをやめられない。

どうして―――こんな―――

耐えられないぐらいに、熱がたまってくる。
身体の中の快感を煽られ続けるのが苦しくて目を開けると、ヘクトルもそれにつられたかのように紺青の目を開けた。目を見交わしながら唇を離すと、名残惜しげに唾液が糸を引いて残った。

「はっ、はあ、あ―――」

それを拭いながら、身体じゅうで荒く呼吸をする。ヘクトルの胸も大きく上下しているが、わずかに濡れた感じのその視線は射抜かれそうに強く、見つめられれば心臓が跳ね上がるのを止められない。

触って欲しい、と思う。
その大きな手で、自分の身体を触って欲しい。
そう思うから、手を差し伸ばし、長く太い首から、発達した筋の覆う肩のあたりを指の腹で緩くなでてみる。
薄く汗の浮かんだ強い線を持つ顔がくすぐったそうにゆがみ、愛撫を返そうと、長い腕が伸ばされてくる。

「あ―――」

掌全体で、わき腹をこすられて、力が抜ける。
そういえば、胸前の開いた袖なしの上着一枚、裏町に立つ街娼と変わりない、触ってくれといわんばかりの格好をしているのだった。

「細っこいなあ、おまえ」

響きの良い低い声が、なにやら感心したかのように言う。
片手で脇腹を揉むように捕まれ、もう片手が肉のついてない腹のあたりを撫で下ろしてくる。

「ン―――若さまが、ごっついんですよ」

腹から、腰骨の辺りまでをざらりと撫でられて、身体がびくん、とはねあがった。
もっと―――触って欲しい。

「なに食ってそんなに―――」

自分の声とヘクトルの声が、口調までぴたりと合わせて被るから、目と目を合わせて笑う。

「続き、しようぜ」

荒れた熱っぽい声を、すぐ耳元に聞く。背筋にぞくぞくとした震えが走った。
俺は―――できることならこの人に、もっと欲しがられてみたい。

「こういうの、慣れてないんだけどよ」

大きな掌が服に隠れて、胸の辺りへと上がってくる。

体が発達して顔立ちも引き締まっている分、ヘクトルはだいぶ大人びて見える。姿だけを見るなら、成人した若者に見えるのだが、実のところは少年を抜け出してからたいして間が無いほどの年だ。しかも若さま、若さまと、人からかしずかれて育った身の上、マシューの主筋である。年若い主に、こんなことに慣れ親しんでいられても困る。

マシュー自身もヘクトルより幾らかは年が上という程度なのだが、育ちが違えば色事への馴れも違ってくる。穏やかな南の地、リキアあたりの庶民というのは、夜這いやら野合やらにも開けっぴろげなものだから、餓鬼のころからそういうことを聞きかじって育つし、人と人とが抱き合うことへの罪悪感も薄い。年は若くても、裏の仕事についていれば、見たくないものも見てきたし、そういった手管を使い、人の心を操りもする。

それでも、ヘクトルに対して色事のどうこうを教えよう、などどいう気は全くないし、自分から仕掛けていこうという気も無い。必要に応じて意図して覚えてきたことだから、それで汚れたのなんだのと自分を卑下するつもりも無い。

自分自身―――オスティアの密偵ではなく、マシュー自身として男を相手にしようなどど思うのは、実のところヘクトルが初めてだった。
若さまになら、何かしても―――されても良い。抱きたいと言われるなら、抱かれても構わない。
ごく自然にそう思っている自分に、実のところは思いきり驚いているマシューである。

抱かれても良い―――っていうか、抱かれたいっていうか、お願いだから抱いて下さいっていうか―――いやもう、絶対おかしいよな、俺。
だってさ―――若さま相手だぜ、いいのかよ本当に。
止めるなら今。今なら、男なんて抱いて面白いもんじゃないですよとか、俺は汚れてますからすんません、とかなんとか煙に巻いて―――

「好きなようにしてくれて、いいですよ」

…………あああ、言っちゃうし。
だって俺―――この人、好きだから、よ。

仕事抜き、オスティアの密偵としての損得勘定抜きで、好き嫌いなどどいう甘ったるい感情に身も心も任せて他人と接することは、実のところ、ほとんど無いのだ。
好きな相手から好きだといわれ、拒んでしまったなら、きっと後悔する。

「んじゃ、なんかして欲しけりゃ、そう言ってくれ。いやだったら、いやって言ってくれよな」

その言いようと見つめてくる目が、可愛いぐらいに素直なので、心の中だけで微笑む。
胸を撫でてくる手が、首から下げた銀鎖にすれるから、しゃらしゃらと音が鳴る。

「触ってください。もっと、触って」

ヘクトルの首に腕を回して抱きつけば、緩くさまようように動いていた手が、意図して際どい場所へと忍び込んでくる。

「あ―――や…あ」

濡れて響く声は止めない。気持ちが良いのだと、ヘクトルに分かるように。こうなったら誰に聞かれようがかまいはしない。

なんでもいいから、して―――
気持ちがいいんだ。あんたがしてくれることなら、何でも。



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