「おあずけ」 (5)騒ぎの後、駆けつけてきた熊から暴れるんじゃねえと拳骨をくらう。乱暴に腹を縫い合わされて、中身は平気だが、腹膜に穴開いちまってるから三日は大人しく転がってな、と言い渡された。胃のあたりがひっくり返りそうな気分のまま、止める声も手も振り切って、自分で歩いて兄貴の部屋に転がり込んだ。自分の部屋に行くより近いし、もともと、ここに来るつもりでいたからだ。 そうして、そのまんまの格好で大の字に寝ころがってベッドを占領して―――。兄貴は、頭に血が上ったままの俺の後をついてきて、部屋の中に入ってきたが、そのまま声を掛けてくるでもなく、椅子に座っているようだった。目を瞑って、動かずにいると、頭が冷えてきた。おばちゃんの顔やら、ラガルトの後ろ姿やら、色んなもんが目の前にちらちらする。 人の死には慣れている。人を殺すのにも慣れている。剣を握れば、狂気が身体に満ちる。崩れ落ちてゆくのは、切り結んで俺に負けた兵士たちだ。戦場での殺し合いは死ぬ者も殺す者も対等、刃を向けてくるものを切り捨てるのに後悔はない。残酷で身勝手な言い草だと人は言うだろうが、そういう、日常にある死と、身内がいなくなってしまうのとは違う。 ラガルトに向かって吠え掛かったのは、俺の八つ当たりだ、それはわかっている。奴は奴の仕事をしただけだ。それもわかってる。 だけど、なあ―――― 「泣いてんじゃねえよ。でっけえ図体して」 「ちっと熱いな」 「ライナス」 ただ触りたいと思って、その身体を引き寄せた。 「馬鹿たれ」 「兄貴、冷っこい」 「甘えんな、ガキか、てめえは」 身体を寄せて、触った体の感触と温度をむさぼる。足に足を絡めようとして、そういや、ズボンをはいたままだったのを思い出す。兄貴の手が、身体の脇に伸びてきて、脚のあたりまでズボンを下ろしてくる。膝のあたりに絡まるのを、脚で蹴るようにして脱ぐ。 膝の間に脚が差し込まれてきた。膝で擦るようにすると、するすると滑らかだ。 「寝ちまいな。楽になるから」
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