「おあずけ」 (8)
根元のあたりを握られ、先端を唇でしゃぶられる。
舌が、周りをぐるりと舐め、また先っぽに戻ってきて、窪みのあたりを舌先でちろちろと、くじるようにされた。
やばい、良すぎ、脳天直撃、声出そう。
いや、怒られっから、黙ってるけどよ。
上手い下手じゃなく、兄貴がそんなことしてくれてるってだけで、手ェ合わせて、拝みたくなるってもんだ。
普段は、何ていうのか、割りとそっけない、というか、淡々とした人なんだよな、こういう時でも。
いつもは、俺から可愛くお願いしてみても、顎がはずれるだの、味が嫌いだの、んなもん飲めるか馬鹿だのと、一蹴されて終わるってのによ。それで文句でも言った日にゃあ、蹴り入れられたあげく臍曲げて口きいてくれなくなるしよ。
俺は兄貴のしゃぶるの大好きだし、出したもんはもったいないから全部飲んじゃうんですけど。まあ、たいして美味いもんでもないけど、っていうか不味いけど、そこはそれ、気持ちの問題でさあ―――
これってどうなの。俺ってあんまり愛されてない…ってことなの?
いやそれで、うわ…吸ってるし。俺は熱に浮かされて夢でも見てるんじゃ―――裏っかわ舐められると、なんだかぞくぞくするぜ。
ええと、それで、兄貴になんかしてもらうよりは、俺がしちゃったほうが話が早いんで、だいたいは一方的にさせていただいてるんですけど、いや、それでも、させてもらえるだけ、本当にありがたいと思っているんですけど。
だから、兄貴からこういのは、珍しい。本当に珍しいんだよ。ナバタに雨っていうか大豪雪だよ。
俺が怪我してっからかな。そういや、ほんの餓鬼のころ、熱出したりすると、一晩中つきそってくれたりしてたもんな。最近、丈夫になりすぎちゃって、風邪のひとつもひかねえから、兄貴が弱ってるものには優しい男だってのを、うっかり忘れちまうところだったよ。
ぴちゃ、とか、くちゃ、とかいう音が上掛けの下から聞こえてきている。硬くなりまくったものを辿ったり、咥えたりしてくる、ぬるっとした内側の感触。
どんな顔して、俺のものをしゃぶってんのかなあ。
考えただけで、くらくらするぜ。
どれちょっと―――
上掛けを剥いでやろうと、手を伸ばしかけ、背中に冷やっとする、どころか、氷水をバケツでぶっかけられたような冷気を叩きつけられたのを感じる。
すげえ、さすが兄貴だ。その殺気はイリアの冬将軍なみだぜ。
でも、慣れてるもんねー、と上掛けをつかんだところで、
「噛み切るぞ」
地を這うような声がした。
俺は直立不動――― 一部を除いて立ってないけど―――の姿勢に戻った。
ごめんなさい。お手を煩わせてすいませんです。集中してさっさとイキます。
余計なことを頭から放り出して、兄貴がくれる感触に浸ることにする。そこ、に意識を集めようと思うんだけど、なんだかちょっと皮膚に感じる感覚自体がぽやっと遠い感じがする。熱があるせいだろう、きっと。
絡みつく指が全体を擦り上げ、先端は咥えられていて、とても熱い。
「ふ、ん…ん」
鼻に抜けた息が、途切れ途切れの微かな音になって聞こえてくる。
「なあ、見てもいい?」
力の入ってない声で聞いて見る。できるかぎり真面目かつ弱々しげな声を出すべく、努力してみたんだけど、どうだ。
「なんか、かったるいせいか、イキにくいみたいなんだよ」
そんで、見たらこう、がっ、といけるかと思うんですけど。だめ?
ぐーとか、うぐーとか、腹立たしげに唸るような声がしたので、まじで噛み切られるかとぞくっとしたんだけど、左手だけが俺から離れて、頭からすっぽり被っていた上掛けを撥ね落とした。
伏せた顔が見て取れる。蝋燭の灯の下、額から鼻筋のあたりの線がきれいに浮かんでいた。
いっぱいに拡げられた口元に、思いっきり俺が入っている。
すばらしい。
まじまじと見つめていたら、上目づかいで睨まれた。口が咥えていたものから外れて、舌を大きく出して、舐め上げるようにしてくる。括れたあたりに纏わりつき、棒つきの飴でも舐めるみたいに、頭のとこを舐めて、しゃぶりつくのをくりかえす。横から咥えて、唇を滑らせ、そのまま下りていって、袋のへんを舐められた。手がリズムをとるようにこすりあげてくる。
その手が下りてきて、そこらへんを、柔らかくもみこみ、唇が俺を咥え直した。
少しくすんだ金の髪が乱れて上下する。ぬるぬるして熱く、ものすごく気持ちのいい感触が俺を包んでいる。たまに、歯が少しだけ引っ掛かってみたりして、強く擦れる。ぐっと深く飲みこまれ、先端が粘膜に擦れた瞬間強く吸われる。
「っあ」
いきなり、神経に直、みたいな快感が走って、やべえ、と思ったときには、出しちまっていた。ちかちかと、光のようなものが瞼の裏を走り、一瞬身体が浮き上がる感じがあって、たまっていたものを一気に吐き出す開放感。
……正気に戻ると、兄貴が激しく咳き込む音が聞こえた。咳き込むっていうより、えづいているというか、あああああ、ごめんなさい。
「げほ、てめ、ぐ…、出すなら出すと、うぐ、けほげほ―――鼻に―――」
起き上がって背中を撫でてやろうと思ったのだが、咳き込みながらも、胸の辺りを押さえて止められた。
「ごめんな―――」
兄貴の身体が上にあがってきたので、肩のへんを撫でてみる。随分苦しそうなのに、俺に体重をかけないよう、片手で自分を支えている。
「あ、げほ、んん」
なんとか治まったらしくて、咳を抑えるのに止めていた息を吐き出している。
「ごめん」
「あ、ん」
咳き込んだせいで涙を浮かべた顔が、俺の状態を確かめて―――これ以上ないってぐらいにいやそうに顰められた。
えっ、いや、だってさ………
「てめえ、なんだこりゃ」
思いのほか険の無い―――というか、あきれ返った、という声が言う。
いや、なんか、ほら、熱っぽいし。それにね、兄貴が咳きこんでるときの振動でね。
思いっきり、口の中に出したにもかかわらず、俺はいまだに元気なのだった。いや、少しはね、柔らかくなったでしょ、ほら。
目が怖いよ、兄貴。
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