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「騎士の祝宴」 (10)




「嫌―――なら、とっくの昔に貴様を蹴り飛ばしている」

言葉を紡ぐ間にも、絡み合い擦り合う刺激は続き、声が途切れ途切れになる。

して欲しいと、言うべきなのだろうな。しかしその、なんだ、ええと―――たとえこういう場合でも、そういったことは言いにくいものだな。

とまどううちに、熱に浮かされた頭が、ぼんやりと鈍ってくる。そのまま、さっき言われたところの、次―――とやらになるのかと思ったが、セインのほうがすっと身体を引いた。

「あっ―――」

思わず詰めていた息を吐き出し、それが切なげな溜息に変わる。
馴染んだ体温が離れ、触れ合った肌に燻る熱が散っていくのが寂しい。するり、と頬を撫でられ、首をすくめる。セインが起き上がって、寝台から降りていく。ケントは力の入らない体を寝台に横たえたまま、セインの動きを目だけで追った。薄闇に慣れた目に、眩しく輝く光が入ってきて、目を瞬く。光になれてくれば、それは温かいオレンジ色の、ほのかに明るいランプの灯である。覗き込むセインの横顔が照らされて、淡い光と鈍い闇が綺麗な陰影をつくっている。緑味の強い茶の髪が、収まり悪く額に落ちかかっている。

黙って見ていると、部屋の主に断りもなく戸棚を開け、ワインの壜を持って寝台へと戻ってきた。寝台に座り、さっそく壜を開けている。

「いいワインだな。エトルリア産じゃないか」

「母上が使いに持たせてよこした」

「良い母上だ」

飲んじゃうよ、と言うなり、直接口をつけて飲み始める。喉元が嚥下のかたちに上下するのを、ぼんやりと見つめる。液体が一筋、晒された喉元を伝っていくのを見て、心臓がどきりと脈打った。
セインの顔が近づいてきて、唇が寄せられる。柔らかく濡れた感触を押し付けられ唇を開くと、一旦口に含まれた液体が、流し込まれてきた。

「ん―――」

即されるままに、香り高い酒を飲み込む。僅かに残る葡萄のえぐみが、少しだけ喉にしみた。飲み込むのを待って動きを止めていた唇が、濡れて開いた唇を挟んでしゃぶってくる。差し込まれる舌は熱くて、濡れていて、いたずらに動く。その動きにケントが反応を返すのを、楽しんでいるのだ。息が上がり、眉間のあたりが甘く痺れてくる。ぞくりとした震えを身体の芯に残し、セインの唇は悪戯をやめて離れていく。
仰向けに寝た自分の上、セインが寝台に手をついて覗き込んできている。今は自分の顔だけを映しこんでいる、生き生きとした移り気な瞳。

「平気か」

と聞かれる。

「何が―――」

と聞き返す声が荒れているので、ああ、これか、と合点がいく。喉を擦るように声を出したので、擦れてしまったらしい。

「平気だ」

「どうかな―――色々とやせがまんするからな、おまえ」

失礼な。やせがまんなどではないぞ。騎士として少々の不平不満は言わぬだけだ。

セインがくっ、くっ、と喉だけで笑う。

「ふくれるなよ、可愛いじゃないか」

また、可愛いなどと―――

頬が熱を持っているような気がして、目をそらす。少しばかり顔が赤くても、酒のせいにしてしまえばいい。
セインの手が伸びてきて顔を見合わせたまま、髪をゆっくりと梳かれる。指の腹が頭皮を撫でていく感覚は、ひどく気持がいい。

「おまえの髪、気持いい」

指に絡めて、緩く引かれる。

それは、良かった。おまえに触れられるのが気持良いのと同じように、私のすべてがおまえにとって気持の良いものであればいいと思う。その―――私はおまえとしか、こういった経験をしたことが無いので、全く協力らしい協力ができなくて申し訳ないが。

「素直でさ、さらさらして少し冷たい」

指先に、髪を玩ばれる感覚は少しくすぐったい。身体を少しだけ竦めると、首筋を掌が撫でてきた。触れられる瞬間はくすぐったいのだが、その感覚が身体の芯へと伝わる熱へと変わるのに、時間はかからない。ケントは眉を潜めて息を吐く。

「気持いい?」

聞かれて頷く。
手が下へと伸びてきて、胸を撫でられ、器用な指に身体をたどられる。声が上がり、身体がびくびくと反応を返す。横向きに抱き寄せられ、指が入り口を探ってきた。ぬるぬるとした液体の感触に身体を竦める。入り口をくじる指の感触から逃げるように腰が動くと、差し込まれた脚に熱を持ちかかった性器をこすりつけることになって、悲鳴を上げる。ひくりと締め付ける粘膜を、大きくぐるりとかき混ぜられた。

「ここさ―――死ぬってほど可愛がって、うんといやらしくしちゃって、俺から離れられないようにしてあげよっか」

色悪めいてふざけた口調だが、言葉の響きは真剣だった。

おまえがそうしたいと言うのなら、それでもいい。このままずっと繋がっていてもいい。そんなことを言うなんて、おまえ―――おまえ、分かってないのか。

「いや…だ、ああ、セイン、あ―――」

指で犯され、立ち上がったものを擦りあげられ、たまらなくて身悶える姿をじっと見つめられる。
私の考えなどたやすく読めるのではないのか。私はおまえから離れようなどど、思いはしない。私とおまえが離れるときがあるのなら、それは―――

「こうするの、いやか」

指を曲げられ、入り口近くの壁を引っかくようにされる。内側を探るように動く指が、一点を擦ってきて、身体が跳ねた。感覚が強すぎて声を上げられず、唇だけを開く。

「ここ、だんだん―――硬くなってくる―――わかる?」

確かめるように、くいくいと押されて身体を捩ることもできなくなる。
濡れたような輝きの浮かぶ目が、見つめてくる。

私とおまえが、離れる時が来るとしたら、おまえがそう決めた時だ。おまえは私などよりよっぽど頑固で、自分を曲げない。木馬の騎士からの、長い付き合いだ。そのぐらいのことは、私にもわかっている。



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