「騎士の祝宴」 (11)
体の中、熱く膨れ上がるような感覚に身を捩る。指でそこを押さえ込むようにしながら、横向きに抱き合ったまま、脚と脚を擦り合わせるように動かれる。放った体液に濡れた、内腿の柔らかい肌に、熱く硬いものが触ってくる。
セインの動きは気まぐれで、時折突き込むような動きで、脚の間に入り込まれる。そうされると、高ぶった熱と熱とがじかに触れ合い、体液が交じり合って、濡れた音が響く。
「や―――は…」
前後から嬲られる動きに、頭と身体の芯が痺れてくる。一度は熱を吐き出したというのに、身体の中にわだかまってくる熱は、さらに強く、いっそ苦しと感じるような強さを持っている。
「セイン」
すっかり呂律の回らなくなった口で、抱き合う男の名を呼ぶ。
「なに?」
間近に目を合わせて問いかけられたが、意味があって呼んだわけでは無かった。首を振って、見つめてくる視線を外そうとすると、中を探る指が強く突き上げてきた。声もなく体を反らすと、首筋をぬるりと舐め上げられる。喉がひくつき、その震えが身体全体を走りぬける。枯れた喉が渇きを訴える。渇き―――ではないのかもしれない。渇きに近い、飢えに近い何か。
「セイン」
また、名前を呼ぶ。
あからさまに甘く溶けた声だったから、今度は自分でもわかった。ねだっているのだ。セインの言うところの、次、とやらを。
気づいてしまって、顔に一斉に血が上る。
私は何を―――このような、みっともない様を晒して。今更と言えば、たいへんに今更なことではあるが…だがその、良いのだろうか。こんなふうに、おかしくなるのは―――自分で自分をどうにも出来なくなるのは。
「欲しい?」
耳元で囁かれ、
「いや、だ、聞くな」
掠れた声で答える。
「聞かれたくない返事なわけね」
耳元で呟くセインの声が、楽しそうだ。
すっかり溶けて、とろとろとした快感だけを感じている場所を、ひどくゆっくりとかき回される。
「欲しいって言ってるよ」
馬鹿者、そんなところが物を言うか―――そんな、楽しそうな、顔、するな。
「なあ、いやらしいこと言われるの、嫌か。それとも、いいか」
ええ――――と、嫌か良いかで判断すべきようなことなのか、それは。ああ、もう、そんな顔で笑うな。貴様、人の苦境を面白がっているのだろう。存外意地の悪い男だな。
「セイン、貴様―――」
悪乗りする相手を叱りつけてやろうかと思うのだが、絞り出した声が喘ぎにしか聞こえなくては、無駄なことだろう。
「怒るなよ、なあ。好きだ、好き。大好き」
なんだ、その好きは、言葉に真剣味が無いぞ。調子の良い言葉ばかり、ぽんぽん吐き出すものでは―――
「愛してる」
一瞬で調子が変わり、ひそめた酷く真剣な声が言う。言葉を吹き込まれた耳元から背中へ、ぞくぞくと震えが走った。
「や、おまえ、ああ」
おまえ、それは、ずるい。
そう思うのに、身体があからさまに反応するのが、少し悔しい気がする。
「セイン」
名前を呼ぶ。あからさまな言葉にはしないけれど―――おまえが欲しい、と、強く思って名前を呼ぶ。
「うん」
身体を返され、横向きに寝たまま、引き寄せられる。後ろから回された手が、胸の辺りを撫でてくる。硬く頭をもたげた性器が、濡れた場所を探るように開いてきた。
横臥した状態で、狭くなった場所を拡げられる。ためらいなく入り込んでこようとする熱い感触に、息を飲む。きゅっ、と胸の突起をつままれ、軽く声を吐き出したところを見計らったかのように、強く突きこまれた。
「は…っあ…」
溶かされきった場所をぬるりと抜けてくる硬さ。拡げられる圧迫感は強いが、苦痛だとは思わなかった。腰を取られて、幾度か突きこまれる。息を吐きだして、痛みと紙一重の感覚を逃がしてやろうとするうちに、一杯まで入り込まれていた。背中にセインの身体が触れてきて、ぎゅっと抱き込まれる。
「楽しい」
笑いを含んだ息が、首の後ろにかかってくるのが、くすぐったい。
「私、もだ」
セインの傍にいるのは、いつだって楽しかった。子供のころから、ずっと。友人と言っても、傍目に見たら、仏頂面の自分が、楽しげに話しかけるセインに対し、無表情にうなずいているだけに見えるのだろうが。人見知りをするわけでは無いが、昔から愛想は無いので、人と親しく付き合うには時間がかかる。
セインに限っては、いくら慇懃に垣根を廻らしてみたところで、それを軽々と飛び越えてくるのだ。いつだってその身軽さがうらやましく、愛しかった。
こうやって一つになって、これ以上なく傍にいるのだから、楽しい。
「あ―――」
後ろから腰をとられ、くちゃりと音をたてて打ち付けられ、回される。
「ゆっくり、おかしくしてやるよ」
おかしく―――なら、もう、なってる。
「わけわからなくして、色々、言ってもらう」
「―――馬鹿者、言うか、あ、あ」
手で腰を揺らされるのが、奥に響く。とろとろと、粘膜が溶け出すような感触。
「言わせる」
笑いを含んだ声で言いながら、腰を、ぐいと引き寄せられる。
「やだ…ア―――」
奥深く、壁を抉るような動きが続き、押し出されるように、声が止らなくなる。
「言うまで、いかせない」
「ば―――アッ、や」
ほらやっぱり、貴様のほうが、よっぽど頑固ではないか。
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