EVE newgeneration
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
新世代のEVE
EVEシリーズの製作元はこれまでシーズウェアでしたが、今回は角川書店に変わっています。DXパックには、コラボレーションブック、ドラマCD、刺青シールが付属します。また、2007年にはタイレルラボラトリー(F&C)から18禁でPCに移植されています。 Lost one以降、泣かず飛ばずのEVEシリーズ(Lostは前作の人気で売れはしてます)。時間軸が続くシリーズながら、タイトルによってシナリオライターが変わるためか設定に矛盾が目立ち、ファンから厳しい声が相次ぎました。この続編が出れば出るほど、矛盾が増えていく負の連鎖を断ち切るべく現れたのがnewgenerationです。本作は本編中でLost one以降の設定には一切触れず、単純にburst errorの続編として作られています。つまり過去を闇に葬り、パラレルワールドとして割り切った一本なのです。果たして策は功を奏したのでしょうか。 トリックありきの打越シナリオはマルチサイトに適合するか? ■シナリオ 記憶喪失の少女の過去を調査する小次郎サイドと、自殺を遂げた青年が今際の際に呟いたテロ予告について調査するまりなサイドが、例によって絡み合っていきます。これまで同様、二人はそれぞれストーリーの鍵を握る子供と出会い、彼女らを連れていく形で進んでいきます。今回の特徴は、この二人のキーパーソンがよく姿を消し、しかも顔が似ていることです。小次郎とまりなは消えた子供をその都度探し回る羽目になりますが、容姿がそっくりであることが二人が同一人物ではないかとプレイヤーに疑問を抱かせます。しかし小次郎とまりなが別視点であり、それぞれが別の子供を預かっている上に、合流ポイントでも子供について話し合うことが中々ないので、プレイヤーの疑問に対する回答は終盤までお預けとなります。この辺りの焦らし方はマルチサイトならではです。 子供の謎に対するヒントが提示された後、舞台は敵の本拠地へと移ります。そこで主人公はピンチに陥るのですが、その危機は暴力のような目に見えるものではなく、舞台(本拠地)に設定されている特殊な「ルール」を用いて仕掛けられた精神的トリックとなっています。少々強引ながらも奇跡や偶然に頼らない論理的な罠であり、このトリックを解いて危機を潜り抜けた時、プレイヤーは達成感を味わうことでしょう。 ところで本作は、これまでと異なり、主人公がプレイヤーの知らない情報を持っていることがあります。今までは二人の主人公がゲーム中で経験していることだけがシナリオに関係してきたので、プレイヤーは視点が二つでも話の推移が飲み込めたのです。しかし、今回はまりなが知っていることを小次郎が知らないことがあります。これだけなら普通なのですが、問題は小次郎だけではなく、プレイヤーもそれを知らないということなのです。これはトリックの下ごしらえのためなのですが、主人公とプレイヤーの情報の共有が図られていないのは、少なくともこのシリーズにおいてはアンフェアな気がします。主人公二人の視点を操ることでプレイヤーがまず物語の全体像を把握し、最終的に二人もすべてを知る……というのがEVEシリーズでありマルチサイトシステムを生かしたゲームの特性でした。しかし本作は、主人公がプレイヤーの知らない情報を使いながら物語を束ねていって、最後にプレイヤーが全体像を把握出来る……という展開で、主体がプレイヤーからキャラクターへと逆転しているのです。クライマックスでプレイヤーが大どんでん返しを味わうのが打越シナリオの魅力であり、その意味では本作も十分魅力的ではあります。しかし実のところ、このトリック主体のシナリオ構成は、ストーリー像を重視してきたEVEのマルチサイトシステムには向いていなかったのです。 ■キャラクター 開発にF&Cが絡んでいる関係もあるのでしょう。原画はPiaキャロやWith youを担当した橋本タカシ氏です。絵の雰囲気がガラリと変わり、レギュラー陣は全員別人のように見えます。率直に言って、私は従来の絵の方が好きです。結構目の描き方・塗りにクセがあるので、シリーズのファンにすれば評価が分かれるところではないでしょうか。 設定ですが、とにかく謎の多いキャラクターが多いです。その謎を解明していくシナリオなので止むを得ないのですが。特にヒロインの乃依とアルトは「記憶喪失」という要素が絡むために不透明なことが多く、最後の最後まで含みがあります。人物の相関関係も終盤にならないと明らかにならないため、流し読みしているとプレイ中混乱する可能性があります。相変わらず胡散臭い人物が多いのですが、ひとり一人は小粒で登場シーンも限られるため、印象には残りにくいです。また、レギュラーメンバーが性格的に丸くなっているのも特徴。弥生といえば毎回喧嘩してビンタをくらっているイメージがありますが、そんなキツサがないですし、氷室に至ってはおまけ程度の扱いに留まっています。絵と同様、この辺りも評価が分かれるでしょうね。 ■テキスト 打越氏といえば架空科学と叙述トリック。今回も見事に炸裂してます。相変わらず理論説明に字数を裂くシーンが多く、頭を使いながら読まなければならないので、眠いときにプレイすると危険です。私としては好きなのですが、理屈っぽさは否めません。ギャグは初代EVEの剣乃氏に近いものを感じます。主人公に荒唐無稽なことをさせて力技で笑わせるパターンです。よくここまで似せるように努力したものです。理論武装した剣乃氏が書くとこんな感じになるのかもしれません。 ■演出 今までオープニングムービーはアニメーションでしたが、今回は実写を使い、本編中のセリフをラップさせていく構成です。セリフは最初から最後まで続くので、落ち着いて音楽を楽しむことが出来ませんし、電源を入れると毎回流れるのに二度見る気が起こりません。実写はまだしもセリフを流したのは失敗ですね。 目立った画像効果は、キャラとの距離関係が立ち絵の大きさで示されるぐらいでしょうか。近くにいると大きくなり、離れると小さくなることがあります。口パクも実装しています。ただ、アニメの挿入がなくなっているのは残念です。 効果音は銃撃音や虫の鳴き声など、豊富に取り揃えられています。 また、エフェクトではありませんが、イベントCGを使い、その絵を見たプレイヤーに「思い込み」を誘発させるトリックがふんだんに盛り込まれていることは挙げておかねばなりません。派手さはありませんが、これこそが本作の演出の肝だからです。CGに誰が描かれており、その場面で誰が話しているのか。考えずに絵を鵜呑みにしてしまうとトリックに引っ掛かってしまいます。如何に人間が視覚に情報を頼るのかがよく分かる……そんな演出が楽しめるのです。 ■シチュエーション スーパーエージェント主人公のまりなが、小次郎に弱みや愚痴を零すシーンが目立ちます。その姿はあたかもヒロインであるかのよう。ただ、二人の絡みは雰囲気が出ていてもそこから男女関係に発展することはありません。二人ともそれぞれ別に相手がいるからです。そして今回も、どちらもつかず離れずの大人な距離感の恋模様を楽しめます。ただ、弥生がいる小次郎が子供とくっつくような関係はどうにも想像し難いためか、小次郎の結末には違和感がありました。 ■ゲーム性 コマンド選択シーンが「ディテクティブモード」と名づけられています。これは選択対象に出る枠を十字キーで選択し、●▲■ボタンに割り当てられる「考える」「話す」「調べる」を実行するもの。まあ、操作方法が変わっただけで、やることは従来のコマンド総当りと変わりません。移動にはマップが出なくなり、移動出来る場所がサムネイルとして現れるようになりました。これも表示方法が変わっただけでやることは同じです。勿論、EVEですからマルチサイトシステムも健在です。要するに、全体的に見た目は変わっていますが本質的には何も変わっていないということになります。ただ、サイトチェンジの時にヒントのマークが出るので、難易度が事実上0になっています。 ■グラフィック 移動が多いゲームだけに、背景は40枚以上用意されています。開発陣は変わりましたが、シリーズ共通の登場場所、例えば内調本部やあまぎ・桂木両探偵事務所などのレイアウトは変わっていないのが嬉しいところです。出来は極めて普通です。 立ち絵は変化せず、表情と顔の向きが若干変わります。表情パターンは豊富です。顔の向きの変化にはトゥルーモーションが使われているようです。 イベントCGは差分抜きで98枚。十分と言えるでしょう。手抜きはなし。黙って立っているような絵は少なく、行動中の動きのあるものばかりです。なお、今回もお風呂CGは健在です(笑)
「人間の欲望とは 他者の欲望である」 これは作中のキーワードで、フランスの精神学者ジャック・ラカンの言葉なんだそうですが、要約すると以下のようになります。人間は他者から認識されて始めて「自分」の存在が確立します(Ever17の空編でもこの話が出てましたが)。そのため、他者の価値観に合った行為を進んで行うことで、他者からより強い認識(共感)を得たがる傾向がある……といったところでしょうか。 現代社会においては価値観の多様化が進み、他者からの共感を得にくくなったため、人間が孤立するパターンが目立つと、ゲーム中で語られるシーンがあります。しかし、共感を得るために自分の価値観を殺し、それによって自分の存在を確立させる……というのは些か逆説的に過ぎますし、価値観まで人に合わせる必要はないでしょう。 では、他者の共感を得られなければ「自分」は確立しないのでしょうか? 答えはノーです。「自分」とは、そうした外部的要因に頼ることなく「自分」なのです。人間の頭の中に込められた「情報」こそが「自分」でなのであり、この情報は他人の価値基準に左右されません。ましてや、服装や身体といった外見で決まるものではないのです。 以上が本作のテーマなのですが、これは勿論、EVEシリーズの共通項である「クローン」に対する考え方とも捉えられます。身体が同じであっても頭の中の情報が異なれば、それは別人である、ということです。この説に従うと当然、逆もまた然りということになります。そして「自分」を当人以外に決めようがない以上、当人が決めた「自分」を構成する「情報」をもって、他者が当人を当人であると認められるかは、まさに「信念の問題」となります。そんな、自己完結した世界……それがnewgenerationの世界なのです。 以下は余談。本作はパラレルワールドと言いつつ「ZERO」や「TFA」の設定を強く受けているような気がしてなりません。二重身体は、アルカとトアの関係よく似ています。だからなんだといえばそれまでですが、「ZERO」「TFA」が好きな私としては、これまでのEVEは決して死んだわけではなく、newgenerationでも生きているのだと、そう思いたいのです。 |
天城探偵事務所に助けを求めに来た少女は記憶喪失に陥っており、小次郎に「記憶を探して欲しい」と依頼を持ちかける。少女の正体は「紀瀬木 アルト」である。彼女は、デボラ製薬とブラーというNPO法人の創始者「紀瀬木 初海」が作った双子のクローンである。アルトには「乃依」という双子の姉がいる(初海は自身のクローンも作っており、これが乃依とアルトの母である「エフィ」である)。初海がクローンを作ったのは、双子が彼女の夫「小湊 龍司」に惨殺されたためである。これは、初海がミカエルという男と駆け落ちしたために起きた事件である。乃依とアルトは「二重身体」という能力を持っている。これは互いの身体を精神が行き来する能力である。これにより、片方が以前のように犠牲になっても、精神はもう片方で生き続けるのである。要するに命のストックを持っているわけだ。 初海は3人のクローンにより、自身の子供が惨殺される前の幸せだった時代を再現しようとした。しかし、小湊はひょんなことからアルトを見つけ出し、瀕死の重症を負わせる。この場に小次郎と小湊を調査しに来たまりなが居合わせている。小次郎はアルトと知り合いで、小湊がアルトを誘拐する場面に出くわして追ってきたのだ。しかし、小次郎はこの後、内調調査員にベクタマイドという記憶をなくす薬を注射されて記憶を失うことになる。 初海は「小湊 龍司」のような人間を作った世の中と人類という種に怒り狂った。そこで、VOJ(ベクターオブジャガーノート)なるレトロウィルスをつくり、乃依に植えた。このウイルスに感染すると乃依とアルトと同じ二重身体になる遺伝子を持つ双子が生まれる身体となる。すなわち、人類の遺伝子が徐々に統一されていくのである。乃依はこの計画に賛同したが、アルトは賛同しなかった。そこで、瀕死の重傷を負った側の身体にアルトの意識があるときに、アルトは逃げ出し、ベクタマイドを注射した。アルトを幇助したのが彼女たちの生みの親であるツユザキである。ツユザキはブラーの構成員だったが、初海の計画には反対だったのである。しかし、アルトが記憶喪失になり姿をくらますと、ツユザキは弥生に捜査を依頼することになってしまうのだった。乃依は、アンタゴニストというベクタマイドを中和するワクチンを打っておいていたので、無事な身体の方は記憶がある。それぞれの身体にアルトと乃依の精神がいるわけだが、ベクタマイドを打たれた身体では両方とも記憶を失う。つまり、記憶のある乃依とアルト、記憶のない乃依とアルトの4パターンがゲームに登場することになる。 ところで、初海と乃依は、自分たち(の片方の身体)を殺そうとした小湊と、小湊の事件をもみけした内調の鹿取と、小湊に協力していると勘違いしたまりなに復讐を遂げようとしていた。エフィも乃依を手伝い、まりなを罠にかけようとする。乃依(の意識がある傷のない身体)は、小湊と鹿取を殺害。そして、初海の姿に変装してまりなに殺人犯に仕立て上げるため、まりなの前で自らも傷のない身体の命を絶つ。実は初海はこの計画の最後にまりなを罠にかけるために自殺するつもりだったが、開始の1ヶ月前に病死していた。そこで、初海の意思をついだ乃依が計画を完遂したわけである。 ところが、この後、ブラーの幹部である日銀幹部の大隈朋義が裏切る。彼は二重身体を信じておらず、乃依とアルトの身体はひとつしかないと勘違いしている。彼はVOJが植えられていると勘違いし、傷のあるアルト状態の身体を攫い、飛行機で外国へ高飛びし、研究成果を売ろうとする。これは初海が研究資料を処分しているからである。しかし、結局小次郎に止められ、飛行機は墜落するのだった……。 |