I/O
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初回限定版には特典として、イラストレーションプログラム(イラスト集)、フラッシュソーラーストラップ(太陽電池のフラッシュストラップ)、オリジナルシリコンリストバンドの3点が付いています。イラスト集の作家陣は以下の通りです。 大崎シンヤ、尾崎弘宣、哉井涼、きがわ琳、椋本夏夜、弘司、ことぶきつかさ、近衛乙嗣、純珪一、滝川悠、中央東口、中村博文、成瀬ちさと、成瀬裕司、左、松竜、みけおう、明、山本和枝、由良(パッケージ裏掲載順、敬称略)。 私は大崎シンヤ氏、尾崎弘宣氏、哉井涼氏、弘司氏、中村博文氏、成瀬裕司氏、左氏のイラストが気に入っています。 「I/O」は、2004年10月30日の制作発表から2年のときを経て発売されたGN Software初のオリジナルタイトルです。監督はEver17の中澤工氏、企画原案はCROSS † CHANNELの田中ロミオ、ムービーは神月社……とギャルゲー界では名の知られたスタッフが揃っているだけに、否が応でも期待は高鳴ると思われた一本だったのですが、あまり評判を聞かないばかりか店舗にもあまり出回っておらず、そのまま風化していきました。CSオリジナル作品ということで、CS派生の私としては応援の意味も込めてプレイしたのですが、なぜI/Oの噂が流れてこないのかが何となく分かりました。このゲームは途轍もなく長い。何周もしなくてはクリアーできないことが前提として明かされているのである程度覚悟はできていたのですが、最終ルートに辿り着くまで既読メッセージをスキップしても50時間近くはかかりますし、私がコンプリートしたときにプレイ時間は既に60時間を越えていました。話は面白いのですが、長すぎて放棄してしまった人も多いのではないでしょうか。ここではコンプリートを達成した人間としてI/Oの魅力を伝えようと思います。 長すぎる真相究明 ――事実≠真実―― ■シナリオ 月蝕を期に起こった怪奇現象の真相を、4人の主人公の視点から解き明かしていくサスペンス。このタイプのアドベンチャーゲームは、1人の主人公が複数のルートを通りながら真相に辿り着く(あるいは真ルートが現れる)パターンが多いですが、本作では複数の主人公がそれぞれのルートで共通点を見つけながら1つの真相を目指します。攻略順番が決まっているわけではないので、どの主人公から進めていくかによってシナリオの理解度に大きな差が出る点が特徴です。これは、キャラクターに感情移入するというより、プレイヤーに各ルートを進めながら世界の構造――シナリオのトリック――を探し出させることを意識してつくられたために発生した産物です。敢えてEver17のような意外性を排除して、プレイヤーに確信的にトリックの存在を示したハードなゲームと言えます。各ルートで小出しされる情報を総合するとすべてが明かされたときに「なるほど」と思えるものが完成するので、極めて予測不可能に近いと思いますが、推理が好きな人には歯ごたえがある内容になっています。問題は、トリックに田中ロミオ哲学が加わってしまったことです。すべてを暴いたところにあるのが、事実というより概念になってしまっているのです。「犯人はお前だ」で終わればめでたしめでたしですが、「犯人はお前だが、お前の犯罪には多々共感できるところがある。皆はどう思う?」となると途端に問題の所在がはっきりしなくなります。事実と真実は違うと言いますが、あまりに「なぜ」にこだわりすぎるとかえって分かりにくくなるものです。何故なら、人間の気持ちとは不安定なものだから。排除したはずの感情要素を最後に持ち出して人類の総意としてまとめ上げたのが吉と出るか凶と出るか。トリックは秀逸なだけに、田中ロミオ氏の思想に共感できるか否かが評価の分かれ目となる点は残念でなりません。トリック重視の構成なのだから「事実」で終わっておけば良かったと思う部分が多いというのが私の感想です。 ■キャラクター バランスのとれたシックな絵で、シリアスな世界観に合っています。目が普通のギャルゲーと異なり比較的一般的な大きさで描かれており、ギャルゲー的な雰囲気が意図的に抑えられているように思います。対して服装は、近未来を意識しているせいかやや奇抜なものばかりで、パンツルックが多く露出が少なめの傾向があります。 各キャラクターの設定は、このゲームのために用意された特別なものが全員に用意されており、不必要な人物はいないといって良いでしょう。全員の設定がひとつのシナリオに収束していく点からしっかりと作り込んできた印象を受けます。各キャラは極めて謎に満ちており、プレイヤーと情報の共有がない状態でゲームが開始されます。これは、そもそも各キャラクターが自身をしっかりと認識できていないためです。そのために感情移入が難しく、プレイヤーは常に第三者的視点からゲームをプレイすることになるでしょう。一方、彼らに与えられた個々の性格はシナリオにはほとんど活用されていません。各キャラの感情は無視され、各キャラはシナリオの謎を解き、答えを導き出すためにのみ存在しています。これも感情移入が難しくなる原因となっています。 ■テキスト 多くのシナリオライターがいますが、安定したレベルのテキストです。描写、説明ともに適度なバランスが保たれており読みやすいです。ただし、難解な専門用語を次々と登場させ、これらの説明をオプションの「キーワード」に任せてしまう点には疑問を感じます。本編中に解説してからキーワードで確認できるなら良いのですが、本編で説明が為されないとなると、ゲーム進行中に重要語句が出る度にゲームを中断してキーワードページを開いて語句の確認をしなければなりません。これは、著しくゲームの流れを悪くするもので、プレイヤーの集中力を削ぐシステムと言わねばなりません。一般常識レベルを超える語句を使用する場合、ゲーム中に説明できないのであれば使用しない方が無難です。また、2ch用語を多用するのは如何なものかとも思います。 ■演出 OPムービーは、キャラクター紹介を一切せずにゲームの雰囲気を表すために、サイバー空間や数字の羅列など独自の動画の上に本編中のテキストを被せた内容で、イベントCGすらほとんど使わない構成には感心しました。全体的に暗めの色で統一されているので、ダークで謎めいたゲームの雰囲気やシックな歌と合っています。 エフェクトは色々と種類がありました。射撃の際にターゲットに照準レティクルが表示され、命中すると標的が震えて倒れたり標的が次々と画面上を移動するもの。サイバー空間に入ると電波ノイズのような効果がかかるもの。妖精キャラクターが登場すると画面上に鱗粉が舞うもの。その他にも、サイバー空間や街の景色などのムービーが要所要所で挿入され、画面効果は充実しています。効果音は、パソコンのシーク音が使われていたのが印象的。射撃の際に、銃の種類によって射撃音が異なるなど細かな配慮もあります。 ■ゲーム性 I/Oには4人の主人公が存在しており、それぞれA,B,C,Dのルートを持っています。ゲーム開始時点では、4ルートそれぞれが虫食い状態になっていて真のエンディングに辿り着けないようになっています。これらをひとつずつクリアーしていくことで虫食い部分が少しずつ埋まっていき、真のエンディングに近づいていきます。不完全エンディングでも一応話としては成立しているのですが、謎を残していることを明示して終わるので、事実上すべてのエンディングを見るまでゲームクリアーはできません。これらの虫食い状態を示すのが「デフラグマップ」です。マップ上に虫食い部分が表示され、さらにシナリオ進行部分も表示されるので、プレイヤーは自分がどこまで攻略しているのかが一目で分かります。それでも、オールクリアーには相当な時間がかかります。さらに、バッドエンドに到達すると、埋めた虫食い部分が再発することもあるばかりか、そうしなければ見ることのできないシーンもあるため、コンプリートは困難を極めます。高難易度を求めるプレイヤーも、シナリオを楽しむ気がなければ安易に手を出さない方が無難でしょう。 ■シチュエーション 何周もしなくてはクリアーできず、その度に中途半端な状態でエンディングを迎えるばかりか、ある程度謎が解けてもさらなる謎が襲い掛かるため、非常に人とのコミュニケーションを楽しみにくい構成になっています。恋愛も対象人物との関係が希薄な状況で描かれているので、理解に苦しむ唐突さを感じさせることもしばしば。そこに哲学的な要素を投入し、観念的で自己完結したコミュニケーションを展開したつもりになっている人々があるいは意図的に描かれているだけに、かなり人を選ぶ内容です。少なくとも、リアルな充実感は得られないと思います。 ■グラフィック 背景は標準の出来。入射光や陰影を意識した綺麗な絵が多いのですが、建物などに使用感がなく綺麗なままなのが残念。また、しっかりと奥まで描き込まれている割には、教室や街など人がいるべき背景に人がいないなど微妙に配慮に欠けています。 立ち絵数はキャラクターによりバラつきがあります。5〜10パターン前後。場合によってはさらに増えるのですが詳細はネタバレになりますので本編で確認して下さい。立ち絵の完成度が高いので、イベントCGとの差がほとんどありません。イベントCGは構図を凝ったものが多く、顔を見せないものや全体図が少しずつ完成していくものなど、シナリオに合わせて発注されていることが伺えます。枚数は175枚と並程度。
『きみは、どこにいるの? わたしは、ここにいるよ』 本編中に何度も登場するキーワードです。 I/Oのテーマは、個としての「存在」の肯定です。心理学者カール・グスタフ・ユングは、個人のコンプレックス(感情複合)より更に深い無意識の領域に、個人を超越した集団・民族しいては人類の心に普遍的に存在する先天的な元型の作用力動を見出しました。元型は、夢・神話・宗教・幻覚・想像といったイメージで知覚されます。 先述した元型や元型が存在する領域は、民族や人類に共通する古態的な無意識と考えられ、ユングはこの無意識領域を「集合的無意識」と名づけました。ところで、近年、遺伝子に意志があるという意見が出てきました。ユングの集合的無意識が遺伝子の意志と同様の意味で語られ、更に遺伝子が完全に人間を制御している存在とすればどうでしょうか。人間は、遺伝子によって制御される「ひとつ」の存在であり意識を持った個人は否定されることになるかもしれません。つまり、私も隣に座る彼も道路の向こうで手を振る彼女も、実は遺伝子の指令で動く意味では同じ存在ということになります。であれば、わざわざ分離した状態ではなく、形状としても同じ存在になっても良いのかもしれません。 しかし、果たしてそれは本当でしょうか? 本作はそれを否定しているわけです。夢や神話は、あくまでコミュニティー形成の手段に過ぎず、人間は決して支配される存在ではないのだと。誰一人同じ存在はいないのだと。I/Oで滑稽なのは、本来遺伝子に支配されるような存在こそが人間的であり、人間が被支配的に描かれているところです。その支配は幻想に過ぎないということに気付いたとき、人はそれぞれの「違い」を認められるようになるのかもしれません。敢えて「違い」を強調したエンディングがそう語っているように私には感じられました。 |