「受理されたぞ?」
ニヤニヤ笑いながらラグナがもたらしたのは、正式に受理された婚姻届であった。
「わざわざ、持ってきたのか……」
「いやな。棚の中にしまわれる前に、覚悟しておいてもらおうと思ってな」
「何の覚悟だよ……」
「式は一週間後だ。対外的な問題で、籍はちゃんとスコールで入ってるが、公式発表ではレインになる」
「……なら、俺じゃなくて他の誰かにすれば良いのに……」
ぼやくスコールに笑ってラグナ。
「お前が良いからに決まってるだろ?」
「レインの間違いじゃないのか? 見たぞ、写真」
というか、キロスに見せてもらった。
「今の俺、レインにそっくりなんだろ?」
「ま、そうだな。だが、お前とレインは違う」
きっぱり言い切ったラグナに、どこか安心してスコール。
少なくともレインの身代わりではない、ということが救いになる。
「はいはい。判った。式はレインの名で、一週間後だな」
「よし、素直になってきたな」
ラグナはスコールの頭を撫でると、額にキスを送る。
「後暫くしたら、この監禁状態を解いてやるよ」
「いや、今直ぐに解け。でないと、逃げる」
「どうやって?」
くすりと笑ったラグナは、あくまで強い態度のスコールに好感を覚えると同時に、それだからこそ征服したいのだ、と改めて感じる。
そこがスコールの不幸なところだろう。なにしろこの男は、やるといったら意地でも遣り通す。
女体を促す薬にしろ、今の監禁状態にしろ、ラグナがするといって実行しているものだ。
だが、スコールだってちゃんと学習しているのだ。何しろまだ、吸収すべきことを全て吸収出来る程に柔軟な若さを持っている。
「……愛してる。もう俺の心も体もあんたのものだ。監禁の必要はないだろ?」
小首をかしげてスコール。微笑を添えたその態度に、ラグナの目が見開かれる。
ラグナはこういうのが大好きだ。
「可愛いな、スコール。でも、駄目だ」
「え?」
あれ? とスコール。
これで落ちると思ったのに、どうやらラグナ相手には、ちょっと足りなかったらしい。
「お前……もう少し芝居心を学んだ方が良いぞ? 笑ってたって目が鋭けりゃ、直ぐに内心がばれるってもんだ」
「ち……」
思い切り舌打ちしたスコールに、苦笑を返すと。
「ってことで、本当に俺にメロメロになってもらおうかな?」
「え!?」
驚いたスコールに、素早く近付いてラグナは、元息子で現在の妻をベッドに押し倒す。
座っていた場所が悪かった。何しろ最初からスコールはベッドの上だった。
「ちょ、本気か?」
慌ててラグナの肩を押し、逃れようとするが、そうは簡単にはいかない。何しろ力比べをしたらもう、ラグナには叶わない上、ラグナはスコールのあるスイッチを熟知している。
即ち――快楽のスイッチだ。
「本気に決まってるだろ?」
ラグナの趣味によって、薄い生地の前ボタンワンピースを着せられていたスコールは、この服装の意味も、これ以上ない程に知っていた。
腰に乗られ完全に自由を失ったスコールは、次の瞬間には諦めの境地に立っていた。
裾を左右に引かれれば、ボタンは簡単に外れ、直ぐにスコールの素肌が顕になる。
女性用下着はつけていたものの、そんなもの、身を守る役には立ちはしない。
直ぐにラグナの手が下着の中に潜り込み、柔らかな肉を揉み始めるのに、一切の抵抗を失う。
モヤモヤとした感覚が全身にいきわたる頃には、スコールは完全にラグナの支配下におり、抵抗一つ出来ないまま、甘い声をあげることしか出来なかった。
「そのままにしとけよ?」
楽しげに笑ったラグナが部屋を出て行き、残されたスコールは、毒づいた。
「自分勝手な奴だな……」
まだ熱い体は、終わりを求めて蠢いている。
全身を愛撫され、局所に過剰な触手を貰ったスコールは、しかし挿入も、絶頂も与えら得なかった。
今、スコールの中には小さな玩具が収められている。
執務の途中で来たから、と。少ない時間では全て行うことが出来なかったのだ。
ジジジジと内部で動く玩具は、ぬるま湯のような快感をスコールに与え、しかしそれ以上の何も与えはしない。
絶頂を求めるなら、だから自分でしなくてはならず、しかし、女の体になってからは常にラグナによって促されていたので、自分でどうすれば良いのか判らない。
もどかしい体を抱え、スコールはもんもんと時間を過ごしていた。
が……。
物足りなくなる。
心臓はドキドキしっぱなし。内側にはゆるい振動を与える玩具。
このままでは、おかしくなってしまいそうだった。
スコールはベッドから身を起こすと、ベッドヘッドに背を預ける。
両膝を立てて大きく左右に広げると、その狭間から出ている玩具に繋がるコードを引いた。
「……ぁっ!」
振動を続ける玩具が、良い所に当たる。
それまでのもどかしい快感とは違う、鋭い感覚だった。
スコールはもう一度玩具を押し込むと、コードを引く。
びくびくと体が揺れる程の鋭さが、心地良い。
何度かそうして玩具で快楽を得たスコールであったが、やはり絶頂に至るのには少し足りなかった。
玩具を捨て去り、今度は己の指をそっと潜ませてみる。
ラグナが何時もしているように、何本かを共に治め、内で曲げたり開いたり。
「ん……んん……」
だが、やはり足りない。
もっと鋭い何か――ラグナの熱いモノで、貫かれて、イキたい……。
スコールはふらりとベッドから降り立った。
溢れた愛液が足を伝うのも気に留めず、ドアへ向けて一歩を。
監禁されているのだ。鍵が開いているとは思えなかったが、スコールはドアノブを捻った。
「開いてる?」
部屋の外に一歩出てみると、ラグナの私邸を管理する使用人達が驚いてスコールを見た。
当然だろう。何しろ今のスコールは、腰の辺りにかろうじて残ったワンピースの紐で服を支えているのみ。
肩から胸をむき出しにして、白い両足には透明な雫が伝っているのだから。
使用人達は慌ててスコールを部屋に戻そうとするが、元戦士のスピードだけは衰えていなかった。
素早く使用人達を避け、私邸を出ると、仕事場――官邸執務室へ。
道中、様々な人間がスコールを驚いた目で見やったが、気にならなかった。とにかく、この体に渦巻く熱をどうにかして欲しかったのだ。
「ラグナ……」
執務室では、ラグナと共に、キロスとウォードが仕事の最中だった。
扉を開けて入ったスコールを、ラグナは満足気に眺め、キロスとウォードは気の毒気に眺めた。
「来い、スコール」
誘うように伸ばされた手に、スコールは従う。
短い距離を走りぬいて、ラグナに抱きついたスコールは、ラグナの耳に囁いた。
「して、滅茶苦茶に、して……」
「ああ、してやるよ……」
ラグナは視線でキロスとウォードに訴える。
仕方ない――と頷いた二人は部屋を出て行き。
それを確認したラグナは、下肢をくつろがせると既に張り詰めたそれを指し「乗れよ」と命令した。