式までの一週間、ラグナはキロス以下補佐達に無理を言い、休暇をとった。
式はラグナが大統領であるという事実の元、それは盛大に行われることになり、スコールはその一週間を大忙しで過ごすこととなった。
朝から昼まではエスタ流のマナーの習得。昼から夕方までは衣装の打ち合わせ。
そして夜は……。
今後は家のこともスコールがするから、と、それまで雇っていた使用人を全て解雇したラグナは、場所を選ばずにスコールを抱く。
今は夕食の準備の最中に後ろから。
流しに手をついて腰を突き出したスコールは、背後から挿入され、強く揺さぶられていた。
自分の視界の中、おざなりに脱がされた服の狭間から、ぶるぶると震える乳房が見える。
卑猥なその光景に眩暈すら覚えながら、ひたすら与えられる感覚に耐えた。
でなければ、せっかく半ばまで作った食事が無駄になってしまう。
何時もなら、この時点で既に我を忘れてラグナに縋っているスコールが、今日は何故か正気を保とうとしているのに気付いたラグナは、その理由すら悟って笑う。
「全く、可愛い奴だ……」
呟くと、スコールの気がかり――食事を、無造作に掴んだ。
「あ!」
せっかく作った料理が、呆気なくラグナによってゴミにされる光景に、スコールは切なくなった。
掃除に洗濯――その他、型どおりの作業ならば、きっちりとこなせるスコールは、少しばかり応用力に欠けるらしく、料理はとんと駄目だった。
一応戦士だったので、サバイバル系には秀でていて、切って焼いてなどの料理なら得意なのだが、あまり家庭料理というものが得意ではないスコールは、最近たどたどしくも料理本などを見て自分流料理の研究を始めた。
その研究成果が、今、ラグナの手にあるそれだったのだが……。
トマトをベースに、鶏肉を細かくして煮込んだ、とろみの強いスープ。
鶏がらとコンソメで味をつけた、最近では一番出来の良いものだったのに……。
感情が動いたからだろうか、ラグナを受けいれたそこが強く締まる。
狙い通りの効果を得られたラグナは薄く笑い、とった料理をスコールの体にこすりつけた。
淫靡な肉体が出来上がる。
ぽたぽたと床に落ちる雫を見ながら、ラグナは高まる性感そのままにぐいぐいとスコールの内を犯し、最初は軽くとばかりに放った。
ビクビクと痙攣し、内に撒かれた欲に促され、スコールも絶頂に至る。
力の抜けた体を、繋がったまま抱き上げ、ラグナは料理の盛られた皿の一つだけを持つと寝室へ。
されるがままのスコールは、茫洋と食されることのなかった料理の残骸に向けて、空ろに視線をさまよわせた。
式を四日後に控えた日のこと。
その日はどうしても急ぎの仕事が入り、出勤していたラグナに、緊急の通信が入った。
それは、ラグナの代わりにとスコールの護衛につけたキロスからのもので。
『君はスコール君に何をしたんだ?』
抑えた怒りを放つかのようなキロスの声に、ラグナは眉を寄せる。
「一体なんだ、突然?」
『何時からだ?』
「だから、何がだ?」
『吐血して倒れた。意識は戻ったが、人形のように何も反応を示さない』
「なんだって?」
当然、それはスコールのことで。
「どこだ?」
『官邸の主治医の医院だ。来るのか?』
「当然だろ!」
ラグナは通信を切ると、慌てて仕事部屋を飛び出す。
官邸と繋がっているここから、官邸主治医の医院まではそれ程遠くはない。
その距離を、非常通路を使って更に短く進み、ラグナは医院へ。
戸口でラグナを待っていたと思しきキロスは、冗談でなく青白い顔をしてラグナを睨む。
「ストレス性の潰瘍だそうだ。手術は既に終えて、これから療養に入る。結婚式は中止だ」
「……仕方ねぇな」
「それだけか?」
「何がだ?」
不思議そうに尋ねるラグナに、普段冷静なキロスが珍しく激昂する。
「ストレス性だぞ? 精神面では強いあのスコール君が、だ。お前、何をした!」
相手は大統領ではあったが、だがかつての仲間だ。だからキロスはラグナに対して遠慮はしない。
ぐい、とラグナの襟元を掴んだキロスは、鋭い視線をラグナに。
「反対しただろう? 私は。いくら欲しいからと言って、人生そのものを変えてしまうような薬を、本人の了承もなく使い――……。それでもスコール君が幸福を得るなら、それで良いと思った。だが!」
スコールは倒れた。しかもストレス性の潰瘍まで患った。
生活に無理があるから。それ以外に理由が考えられない。
ラグナからスコールが結婚について納得したと聞いた時、本人が納得したなら、きっと少ない選択肢の中から、幸福になれる選択をしたのだろうと思った。
ところが蓋を開けてみればそんなことはまるでなく、ラグナの得た幸福とは裏腹に、スコールは不幸のどん底で山程ストレスを溜めていた。
倒れる程だ。
戦士の精神力は並みではない。それが女性であっても、だ。
なのに倒れる程に積ったストレスは、スコールが現状に耐えて耐えて耐えまくった結果であったのだ。
「スコール君は、お前の息子だ。お前とレインが愛し合って生まれた、たった一つのお前の宝物のはずだろう!」
なのに何故? 幸福にしてやろうと思わないのだ?
疑問が浮かんだ一瞬後、キロスは思い出した。初めてスコールとラグナが出会った瞬間を。
その瞬間にラグナが浮かべた瞳と表情を……。
初めて自分の息子を見て、ラグナは困惑し、歓喜し、そして罪悪感に揺れていた。
そしてその奥にある、レインへの愛情。
「混同……しているんじゃないだろうな?」
「何をだ?」
「レインとスコールを……」
キロスの問いに、ラグナは答えなかった。
気味の悪い薄ら笑いを浮かべると、キロスの拘束を絶って、示された病室へ歩いて行く。
――身代わり……。
そんな単語がキロスの胸を締め付ける。
もしもそうなら、二人の先にあるのは、どん底の泥沼だけだ。
今、ラグナとスコールを繋ぐ線は何なのだろうか?
体? それとも心?
まさか血ではあるまい。
たとえそれが何にしろ、もうキロスが出来ることは一つしかなかった。
医院を出ると官邸へ。
ウォードに事情を話し、ラグナの耳に入らないように補佐達に協力を仰ぐと、まずは技術者達を使って全ての通信網を遮断する。
同時にガーデンに連絡を取り、スコールの受け入れを頼む。
ガーデン側では、ずっとスコールが行方不明の扱いになっていた。
快く受け入れを示してくれたガーデンから、迎えが寄越されることになり、ラグナロクを駆って来るというガーデン側に、エアステーションは人目に付きやすいので、エスタ近くでラグナロクは降りて、徒歩で街に入って欲しいと頼み、その待ち合わせ場所を官邸からは一番遠い場所に指定する。
ガーデンにさえ戻れれば、たとえエスタでも手は出せない。
もう、キロスに出来ることは、今は歪な関係を営んでいる親子を引き離し、せめて元の関係に近い場所までに関係を修復させることしかない。
スコールの性別はもう変えようがないが、人に好かれる性質なのだから、直ぐに本当の幸福を与えてくれる相手に出会えるだろう。
それが誰でも、ラグナよりは余程良い。
暫くはラグナは荒れるだろうが……。
それはこれまで何もせずにラグナを好きなようにさせた自分達の責任なのである。
全ての準備を終えて、キロスは計画の第一段階として、医院に迎えの車を出した。
スコールが暫く入院することは、ラグナも納得するだろう。術後のケアは何よりも大切なものだ。
ラグナ一人を医院から引き離し、その隙にスコールを――。
その先に、少なくとも平穏があることを信じて。