あれも恋 3

 今の俺の気持ちはどう表したらいいのだろうか。自分で自分の気持ちが分からなくなってくる。単純に表面に湧いた気持ちは「怒り」だろう。怒って怒鳴りつけてやりたかった。
 けれどそれを押しとどまらせるものが内部に燻る。「哀れみ」が俺の中で渦巻いているのだ。俺はそういう言葉を使うのが嫌いだった。哀れみなんて、自分には関わり合いがないと思ってる第三者が使う言葉だからだ。
 それを恋人だと思った海市に対して浮かべてしまった後ろめたさがあった。俺はどこかで海市のことを抱えきれない、と思ってしまったのだ。
 このまま海市を置いていったら、海市は確実にどこかおかしくなるだろう。

 俺は風呂場でシャワーを浴びつつ、まだ収まっていないモノを擦って考える。
 今だって部屋で残された海市がどうしているのか酷く気になっているのに‥。今すぐに戻って海市を抱き締めたい気持ちで一杯なのに!
 どうしてこの足は動いてくれないのだろう。
 海市。君はそこまで切羽詰まっていたんだね。俺は‥もっと早く気付いてあげたら良かった。
 何故海市がセックスをしたがるのかもっと考えたら良かった。してる最中ももう少し観察すれば良かった。俺の方がずっと年上なのに。俺は大人なのに‥。
 ガキのようにセックスに溺れ、海市の気持ちまで汲み取れなかったのだ。

 ダメだ! これじゃダメだ!
 俺は大人で男なのだから。海市の一人や二人、抱え込めなくてどうする。

 俺は海市に一番大事なことを言ってなかったことにようやく気が付いた。

 海市‥。すまん。君がなぜおじさんを選んだのかもうちょっと慎重に考えたら良かった。君を包んでくれたら誰でも良かったんだな。それくらい誰かに縋りたかったんだな。
 いや、海市自身はそんなことは思ってないかもしれない。思ってない率の方が高い気がする。きっと自然に感情が求めていたのだろう。俺はその海市の感情に選ばれたのだから、もっともっと踏ん張らなくては。

 俺は四度目を吐き出すと、決意して立ち上がった。

 俺が立ち上がるのと、脱衣所で大きな音がしたのとは同時だった。
 慌てて戸を開けると海市が転けていた。
 思い切りどこかをぶつけたような音だと思ったのだが、海市は痛がる様子もなくすぐに立ち上がり、ふらつく足で俺の所へ飛び込んできた。
「端午!」
 海市‥。震える肩がほんとに消えてしまいそうだった。
 俺は海市を抱き締め泣いていた。
 きつく、きつく抱き締め、泣いていた。

 かなり長い時間、抱き締めていたが沸き上がる感情が収まってくると、海市の顔を片手で上げ、キュッと噛み締めた唇へ口付けをした。
 海市‥。俺が悪かった。
 海市はそれでも泣いてなかった。泣きたいのに泣けないのはさぞかし辛いだろう。大人の俺の方が泣いてしまって、もっと泣けなくなってしまっただろうか。

 唇が離れるとすぐに俺の顔を見て言い訳を始めた。
「俺、俺‥。俺があんまり感じないからつまんなかった? ごめんね、ごめん。俺、入れられてもあんまり感じなくて。でっでも、気持ち良くないとかじゃないんだ。入れられてるって思うと凄くいい気分だし、けどそれだけじゃイけないって言うか。だからラッシュとか使うと感じるから。けど端午はそう言うの嫌いかと思ってたし。ラッシュは使う時を間違うと感じないし。だから、だからね。端午が少しだけ待ってくれたら‥」
「海市。お前‥、俺がお前が感じないからつまんないと思ったって言うのか‥。全く、前の男とはどんな付き合い方してきたんだ。そうじゃなくて俺はだな、そんなものを使ったから怒ってるんだ。麻薬だぞ、麻薬。分かってるのか」
「麻薬ってそんな大げさな‥。ラッシュも俺が持ってるのも合法ドラッグだよ。これで気持ち良ければいいじゃん」
「今後そんなものを使ったら俺は海市とは二度とセックスしない。まあ、セックスって言っても色々あるから。君に入れるのは止めるよ」

 海市は‥そこで別れを告げられたかのように青ざめて固まってしまった。
「俺のこと‥抱‥け‥ないの」
「海市?」
 俺が名前を呼んで少し身体を揺らすと海市はその場にへたり込んだ。

「俺の身体‥気持ち‥良く‥ないの‥」
 焦点の合ってない視線で、ブツブツと口の中で呟く。
「そんなことは言ってないだろう。ほら、これを見てみろ」
 海市の足にアザを見つけた。それは膝下にあり、赤く腫れていた。先ほど打った所に違いない。

「こんなに酷く打ったのになんにも感じてないんだぞ? それがおかしいとは思わないのか。痛みをそんな薬で散らさなきゃいけないほど辛いことなら止めるんだ。男同士のセックスなんてアナルが全てじゃないから」
「けど‥けど‥。俺には‥この‥身体しか‥ない‥んだ‥よ。どう‥したら、端午を‥引き止‥め、られる‥んだろ‥」
 独り言のような呟きは俺には痛すぎた。

「海市、しっかりするんだ。俺は君とセックスできるから付き合いたいと思った訳じゃない。ああ、肝心なことを言わずにしてたから勘違いしてしまったんだな。しかも突っ込むときは君のことを気遣ってる余裕がなかった。すまん。いいか、よく聞けよ。俺は君に惚れたから抱きたいと思ったし、触れたいと思ったんだ。それは別にアナルセックスじゃなくてもいいんだ。海市が一番大事だから、海市が一番いい方法で抱き合いたい」
 海市の二の腕を握りしめ、一生懸命言い聞かせる。
「海市も入れる寸前までは気持ちいいんだろ? これからはそこまでで止めるという意味だ。俺もちゃんとフェラしてやるから。それにキスだけでもいいんだ。海市のことを大事に想ってる。それだけ海市に伝わったらいい」
「俺のこと‥想ってる?」
「ああ、海市が大事だよ。いつまでもそばにいて欲しいし、俺はいつまでも海市のそばにいたい」
「いて‥いいの? 俺の身体‥役に、立た‥ないのに」

 全くもう。よほど前の男は酷い奴だったんだな。
「君はいつも無理矢理抱かれていたのかい?」
 海市の顔が少し引きつる。だがそれで意識がしっかりしたようだ。
「だって‥痛いって言ったら、つまらないって言われて‥。もう抱かないようなこと言われて‥。そんでもって抱けない相手には用がないって‥。だから‥俺は痛いって言っちゃいけない‥んだ。そしたら先生はこれが効くからって。ラッシュよりも催淫効果が高くって鎮痛にもなるって言って。これがあると俺も感じるし‥。だから‥」
「そんな先公、警察へ突き出してやる」
「ちっ違う‥。俺が、俺がいけないんだ。だから先生は悪くないんだ。俺のことずっと可愛がってくれた‥から」
 そうだな‥。酷いのはそれだけで後は海市の救いになっていたのだから。いないよりはいた方が良かったんだろう。

「そんなのなくても一番最初も二回目も大丈夫だっただろ」
「うん‥、凄く不思議だった‥。痛くなかったし、どっちかって言えば気持ちいい方だった。だから使わないでいようって思ったんだけど、感じてないって言われて。それで焦って。また‥要らないって言われたら‥困る‥から」
 その先生はよっぽど下手くそだったんだな。それなのに自分が下手なことを棚に上げて、海市が悪いような言い方をして。
 海市はそれからまた俺にしがみついてきた。
「海市‥。俺が悪かった。子供の君にそこまでさせてるなんてちっとも気が付いてなかった。身体だけが気に入ってる訳じゃない、ってハッキリ言っておけばよかったな」
 必死になって、自分とするセックスはいい、って思わせようとしていたんだ。なんていじらしい奴。もう一度俺も海市を強く抱き締めた。
「俺は海市が好きだから。だからセックスしたいって思ったんだ」
 海市はそこで初めて啜り泣いた。
 何度も俺の名前を呼びながら、小さく鼻を啜って泣いていた。
「俺‥俺も‥うっく‥端午‥端午が‥」
 もう声にならなかった‥。


 こんな感動的シーンになっても、俺のモノはまだ勃ち上がっていた。抱き合っているとそれを海市に擦り付ける形になる。海市が気が付いて、またフェラをしようとする。
「あ、いや、これは、その。舌の根の乾かぬうちにアレなんだが、海市に突っ込みたいと思ってこうなってるんじゃないんだ。今日はなんだか収まっていかなくて。マムシドリンクってそんなに効くとは思わなかったよ」
 ハハハと情けなく笑った俺に海市はすっかり元通りになって事実を突き付けた。
「これね、マムシドリンクの中にリキッド系の媚薬が入れてあったの。端午って騙されやすいんじゃない? マムシドリンクだけでこんなになるわけないじゃん」
 おっ俺にまでドラッグかよ。それで「全部飲んで大丈夫かな」なんて言ってたのか。なんて奴だ。
「端午に俺のこと止められない、離れられないって、思うくらい感じて気持ち良くなって欲しかった」

 子供の一途な思い込み。それは恐ろしいことも平気でやってしまうほど強かった。誰も海市に愛情を繋ぎ止めるのは身体じゃないって教えてやらなかったんだな。
 海市は海市なりに一生懸命俺に愛情表現してくれたんだ。
 恐ろしい、と思ってしまったが、純粋な想いからくる行動だった。とても責められるものじゃない。
「今度からは俺にもそれは使わないって約束できるな?」
「うん、使わない」
「もちろん、海市もドラッグなんて使わないこと。分かったか」
「‥うっうん‥。けど、俺、感じなかったらどうしたらいいの」
「大丈夫。俺たちにはこれから時間がたっぷりあるから。ゆっくりと時間を掛けて、二人が気持ちいいこと探していこう」
「うんっ」
 海市は仮面の取れた十五歳らしい笑顔で晴れやかに笑った。

 俺はこの笑顔を守って行かなくては。
 屋城端午、俺は今ここで海市に誓う。

 なんてカッコつけていたのだが、まだまだ頑張る下半身が耐えられず、結局海市にあと二回もフェラしてもらったのだった。
 ガックシ。イマイチ決まらないなぁ。

前へ ・分校目次 ・愛情教室 ・次へ

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル