杉本洋平、年は35歳。なんと彼はこの太洋丸の船長だった。周りからの彼の評判はとても良かったけど、変わり者でもあると言うことだった。 根っからの漁師のくせに大学まで出た変わり者。この若さで300トンの太洋丸を駆り、マグロの群れを探し出す天才。 しかも質のいいマグロしか狙わない。なので一回の出航で1億以上の値が付いた。一攫千金を夢みる男達が彼の元へ集まってきた。しかしオイルショック以降、マグロ漁は黄金期から徐々に衰退しつつあった。今の船員は航海長と機関長を除いて、地元の生まれたときから海の男だけだった。 「洋平は変わり者だが、こいつに任せとけば間違いない」 太洋丸の乗務員、船長を除く19名は口を揃えてこう言ったのだった。 その船長がガキを一人くらい乗せても、誰一人として文句を言う奴はいなかったのである。 俺は出航までの2週間、宿と船を往復する船長に抱かれっぱなしだった。興味本位でかっぱらい仲間の女とセックスはした。だけど抱く側と抱かれる側では全く違う。まるで初めて抱かれる女みたいに怖がって、いちいち悲鳴を上げた。 「いいぞ、男を抱くのは初めての野郎共だ。多少は女みたいな方が慣れるだろう。そうやって可愛く喘ぐんだ」 船長は俺が悲鳴を上げても何にも気にしなかった。と言っても俺も船に乗せてもらえないと困るので、何とかして慣れようと必死になっていたんだけど。 船長に抱かれてないときは、コンドームを付けたボルトを尻に突っ込まれていた。乗船するときまでに今の12ミリから、48ミリのを楽に銜え込めるようになれと言われていたのだ。 尻の物を落とすなと言われ、ずっと布団で寝て過ごした。いつもいつも尻が気になった。そんな時は前を扱けと言われたが、自分でやる気にはならなかった。 一週間経つと、俺の尻には48ミリのボルトが入っていた。仰向けに寝ているとボルトの頭の重さで中が押された。入ってるだけでもどうしようもないくらいにきついのに、中でも圧迫されて耐えられなかった。 ついに自分で自分のモノを扱いてみた。セックスはしたことがあっても自分でやったことがなかったのだ。 楽になる‥そう信じていたのに、擦り上げて腰が揺れるたびに口も中もきしんだ。きつさが痛みになって射精できなかった。 船長が帰ってくるまでの時間が永遠のように思った。 昔‥自力で何も出来ないくらいに小さなとき。母親が帰ってこなくてどんなに腹が減っても待つしかなかった頃のように。 男に溺れていただろう母親は、きっと子供がいることを隠していたのだ。だから帰ってこないこともしょっちゅうだった。俺は自分で何でも出来るようになろうと、まだ同じ年の子が母親の腕に抱かれているときから、足掻いてきたのだ。 そして初めてかっぱらいが成功したとき、一人でも生きていける喜びでいっぱいだった。 誰かに頼らなければ生きていけなかったら、その頼った人に捨てられたらそこで終わってしまうから。 利用するのと頼るのとでは、やってることは同じでも天と地くらいの差があるのだ。 「何泣いてるんだ」 頭の上から声が降ってきてビックリした。 「なんだ、寝てたのか」 いつの間にか寝ていた俺は慌てて涙を拭った。まさかこの俺が泣くなんて。涙なんて涸れて大昔になくなったと思っていた。 「怖い夢でも見たのか」 あんたよりずっとヤバい橋を渡ってきた俺が夢くらいで泣くもんか。 「尻が苦しいんだよ」 「泣くほどか?」 「だっだから別に泣いてないって。男は一生で一番悲しいときと、一番嬉しいときにしか泣いちゃいけないんだ」 「ふ〜ん、お前のその根性、いいな」 船長がニパッと明るく笑う。 「まあ、ちょっと大きいからな。だがこれくらい慣れておかないと後々辛いのは自分だぞ」 布団をめくって裸の俺の尻を見る。そしてそれをクルクルと回す。 「あっ‥もう‥抜いて」 自分でどうにもならないこと、それが泣くほど我慢ならなかったのか。 船長はゆっくりとボルトを引き抜いた。 「少し腫れてるな」 そう言いながらもそこへ指を突っ込む。そして例の酸っぱい感じのするところを指で擦り上げる。 「んっ‥んん」 「随分柔らかくなったな」 指で擦られて気持ち良くなってきた。 「あれ‥は、嫌‥だけど、船長の‥で慣ら‥して」 「なんだ、ボルトよりも俺の方がいいのか」 「うっ‥うん、あれは‥どう‥にも、ならない‥から‥嫌い」 どうせなら船長に抱かれたい。だって船長は俺を気持ち良くしてくれるから。 船長はすぐに俺の中に入ってきた。 ああ、帰ってきてくれたんだ‥。俺はそう思った。 今の俺は子供の頃と一緒だ。船長が帰ってくるのを待つしかない小さな子供。尻しか用がないのなら、それを使えるようにしなきゃならないのに。 なんとしても船に乗せてもらって、日本から逃げ出さなきゃならないのに。1年も経てばヤクザだって暇じゃない、こんなガキのことは頭から消えてるだろう。 それでも何度も突き上げられていると、逃げ出すことよりも船長のそばにずっといたいという思いの方が強くなってくる。 3度3度必ず食べれる美味い飯。暖かい布団。雨が降ったって身体を縮めて濡れるしかなかった時とは違う。そして抱き締められて寝る心地よさ。熟睡なんてしたことが無かったことを思い知る。 野良犬や野良猫と同じだった俺は、いつでも周りの気配を伺っていた。船長が布団から抜け出したことも気付かないほど寝込むなんて。どんなに疲れていても身体が辛くても、寝込んでしまったらどうなるか分からない生活をしていたから。そんなことがあるってことすら考えられなかった。 俺を軽々と持ち上げるこの太い腕が好きだった。 俺に危険を忘れさせてくれるこの頑丈な腕が好きだった。 人として扱って抱き締めてくれるこの優しい腕が好きだった。 どうしても船長に気に入られたかった。だからボルトが慣れないのが悔しかったのだ。 船長は必ず俺のモノも一緒に擦ってくれた。そして一緒に吐き出した後、良かったぞ、と浅黒い顔から白い歯を覗かせて笑いかけてくれた。そのときはイった気持ちよさよりも痺れるほどの嬉しさの方が大きかった。 ほんの一週間抱かれただけで俺は船長にいかれていたのだった。 人から初めて情けを受けた。初めて、損得勘定を抜きにしてそばにいたいと思った。今言うとそばにいた方が得ばっかりだから、嘘っぽく聞こえるかもしれないけれど。でももしかするといかれていたというのは違うかもしれない。俺は船長に肉親の情を求めていたのかもしれない。 そして2週間が過ぎ俺は無事に船に乗り込んだ。乗務員の記録には載せられてないので出航までは隠れていたが、沖へ出てしまえばこっちのものだった。 |