「さて、社長。行こうか」 「待て。徹さんには手を出さないと約束してくれ。でないと俺は‥、ここで力尽くで徹さんを取り返す」 「ふん、こいつが刺されてもいいって訳かよ」 「うちは仕事のミスには厳しい。失敗は許されないんだ。ほんの少しのことで指を一本落とした」 俺はそういって左手の小指を見せた。 「そして酷いリンチだ」 前髪を上げて顔の傷を見せる。 どうせヤクザだと思われているならもっと見せつけてやる。少しでも怯んでくれたら、俺の方へ意識を向けさすことが出来れば成功だ。 「分かるか。徹さんに何かあれば生きてる方が辛いってくらいの目に遭わされるんだ。お前のアジトに行って徹さんに何かあるくらいなら、今ここでやれることをやった方がいい。約束するか」 「そりゃあ、できねぇ相談だな」 「もし、徹さんを傷つけたりしたら地獄の果てまで追いかけて復讐する。どんなことがあってもカリはきっちり返すぞ。それが俺の唯一生き残る術だ」 俺は伊賀を睨み付けたままジリジリと接近した。 「面白い。お前、ほんとにいいな。極道が一番しっくりくるタイプだ。そんなに切羽詰まってるなら俺のとこに来い。そうだ、そのまま車まで行くんだ。でもいらんことをしたらこの首にナイフが刺さるからな」 伊賀は挑発するように徹さんの後ろから手招きした。 「そしたらお前は盾を失う。刺すなら俺を刺してからにしろ」 逆に今度は俺が挑発する。睨み合いを続けながら、互いに隙を探り合う。距離は確実に縮まっていく。 「バカヤロ。一体何考えてんだよ。大人しくしてろよ」 徹さんは俺が近付いたことになのか、初めて焦った様子を見せ、伊賀の腕の中で暴れた。 そのせいで喉元に当たっていたナイフの刃が擦れた。徹さんの喉に赤い筋が出来る。 その赤を見たら頭の血が沸騰してしまった。瞬間、伊賀に体当たりをかましていた。 ドンっと激しく身体がぶつかる音がした。 心配したナイフは徹さんの喉元にはなかった。咄嗟に俺を受け止めてしまったようだ。 良かった。このまま伊賀を捕まえておかないと。 そう思ったのはちょっと遅かった。伊賀はぶつかった弾みで後ずさり、俺の手が届かないところにいた。何故か俺はすぐに動けなかった。 「バカか‥お前は」 そう言ったかどうかで伊賀は股間を押さえてうずくまった。ううっと言うくぐもった呻き声が聞こえる。 いっ痛い。 同じ男として同情を禁じ得ません。 徹さん、結構やること酷いです。 想像しただけで自分の袋も縮み上がる。 徹さんは伊賀の後ろから股間を蹴り上げたのだった。 そう、安全靴で。思いっきり。 安全靴ってのはつま先に鋼板が入ってるのである。ハッキリ言って足に軽く当たっただけでも結構痛い。その鋼板入りのつま先であそこを蹴られたのだ。どんなに痛いか。 「徹さん、あれは痛いですよ」 「バカ、痛いのはお前だろう」 へっ、俺ッスか? 自分で自分を指さしてから、勝ちを収めて安心してるはずなのに何故か不安そうにしてる徹さんの視線の先、自分の腹を見た。 腹の左寄りにナイフの柄だけ見えた。 そっとそれを触ってみた。確かに自分の腹に突き刺さっているようだ。そしてその手を開いてみると‥。 「何か‥こういうのありましたよね。俺知ってます。ここで、何じゃこりゃ〜、とか言うんですよ」 びっくりするくらいに手は赤く染まっていた。不思議と痛みはまったく感じなかった。ただそこが異様に熱かっただけで。 「バカトシ。何でそんなにバカなんだよ。あれはドラマなんだよ。現実じゃないの。そんでピストルの弾が当たったの」 そうか、ちょっと違いますね。 「ああっ、違う。そんなことはどうでもいいんだ。いいか、抜くなよ。救急車が来るまで待ってろよ。まず座れ。いやそこに横になれ」 慌てている徹さん。人質に取られていてもあれだけ落ち着き払っていたのに。なんだかそのギャップがおかしくて。それに徹さんが無事だったのが幸せで。 俺は自然と笑っていた。 「お前‥その腹にナイフが刺さった姿で笑うなって。メチャクチャ恐いぞ」 すっすいません。でも嬉しくって。 「神様って居るんですね」 俺の一生に一度の願いを叶えてくれました。 「なっ、何を言ってるんだ。まさか神様が見えるとか、天使が見えるとか言うんじゃないだろうな」 「天使はここに」 その場で横になった俺を、心配そうに覗き込む徹さんの首筋を撫でた。そこから滲んでいる血を拭き取ってあげたかったのに、逆に俺の血が付いて広がった。 ああっ、天使を汚してしまった。それだけで罰せられるような気がした。 「トシ、トシッ。しっかりしろって。ダメだ。起きてろ。天使なんか見えない。俺を見るんだ」 手が後ろで縛られたままで徹さんは辛そうだ。何か切る物がいる。俺の頭は一つのことしか考えられなかった。思いついたこと以外は考えられないくせに、その一つは妙にハッキリと頭に浮かぶ。 「あっ、徹さん。ナイフがありました」 俺は腹に刺さってるナイフを抜こうとした。 「バカかっ」 徹さんは膝で俺の腕を押さえ込んだ。そして体勢が悪くなり、俺の胸の上に倒れる。ちょうど目の前に傷が見えた。徹さんを力の入らない腕で抱き締めてその傷を舐めた。少し綺麗になった気がした。だから何度も血を舐め取って綺麗にした。 「トシ、止めろ。止めてくれ。その死に逝く動物みたいな行動は」 徹さんは今にも泣き出しそうだった。 俺がそんな顔をさせてしまったんですね。ナイフにだって屈しなかったその顔を俺が歪ませてしまったんですね。 俺は徹さんが笑っている顔が好きです。 ちゃんと自分の足で立てるようになったら徹さんから離れよう。 俺は徹さんのそばに居ちゃいけない人間なのだ。 目の端には伊賀がオーナーと店長に取り押さえられている姿が映る。 もう、俺の役目は終わった。 そう思ったら無性に眠たくなった。そうだ、二晩寝てないんだった。 救急車のサイレンがうるさかった。 担架に乗せるのも運ぶのも重そうだった。なんせ89キロありますから。 でも徹さんじゃなくて良かった。 幸せな気分のまま寝かせて欲しかった。 徹さんが何か言っているけど、もう俺の耳には入ってこなかった‥。 ただ‥バカと言われているような気はした。 今日、俺は一体何回バカと言われただろうか。そんなにみんなしてバカバカ言わないくてもいいのに‥。 そんなに俺はバカなんでしょうか‥。 徹さんに聞いたら教えてくれるだろうか。 そんなことを考えていたのだが、どこからか俺の意識は薄れていった。 ‥‥‥‥‥‥。 「トシ、痛いのか? 痛みなんか忘れさせてやるから」 なっ何ですか? 俺が理解できずにいると徹さんはどうやったのかあっさりと俺の息子を引っ張り出した。理解できてなかったくせに何故かそこは興奮し、大きくなっていた。 「期待してたんだ?」 少し意地悪く微笑まれて俺の顔は熱くなる。 「トシって可愛いな」 また一番似合わないことを言う。でも徹さんに前を触られてこんなに狼狽えているのは、見ていて笑えるのかもしれない。 徹さんの指が反り返った物を撫でるたびにゾクッとした。それだけでイってしまいそうになる。 「まだ早い」 そう言うと徹さんは、なんとその可愛らしい口に俺のモノを頬張った。 徹さんは頭も小さければ顔も小さくて、そのパーツは一つ一つが小作りに出来ている。そこへ俺の体のサイズに合ってるモノを突っ込むなんて。 幼い顔がチラッと俺を確認するかのように見上げた。 その視線で俺のモノはドクンと脈を打ち、より大きくなる。 あああ、俺はロリコンではないです。誓ってもいいです。決して子供に性欲を感じることはありません。 なのに、なのに何故こんなにも興奮してしまうのだろうか。年上だと分かっているのにこの背徳感は何だろう。そのいけないことをしている風なのが堪らないのだ。 それに幼いと言うだけではなく、天使を穢している罪悪感も切ないくらいに俺を襲った。 穢れのないものを、自分のこの手で穢す。消えることのない、穢れと言う自分の刻印を押す。 これは男の中に眠るどうしようもない欲望なのだ。 俺は俺の天使を穢したくない思いと、穢したい思いとで葛藤する。 そしてぬめり付く柔らかさが欲望を勝たせてしまった。 俺は徹さんの頭を掴んで腰を打ち付けた。 イヤだ。俺の天使なのに。こんな汚らしい性欲の対象になんかしたくないのに。 俺は泣きながら徹さんの口の中にどす黒い欲を吐き出した。 「徹さん、すいません」 謝りながら目の端に溜まった涙を拭った。でも顔を覆った両手が外せれなかった。目を開く勇気がなかったのだ。徹さんを見るのが恐かった。俺の天使は羽根がもげてそこから血を流しているように思ったのだ。 俺が地上に引きずり下ろしてしまった。 自分が高みに上れないと分かったら、その相手を自分の居るところへ引きずり下ろす。何という身勝手で我が侭な人間なんだろうか。 こんなに最低な奴だとは自分でも知りませんでした。 徹さん‥。 名前を呟くたびに涙が滲んで広がった。 徹さん‥。 なのにまだ俺のあそこは疼いていて。 徹さん‥。 まだ名前を呼ぶ資格がありますか? 「徹さん‥」 少し勇気を出して口にその名前を乗せてみた。返事がない。 「徹さん‥?」 やはり返事がない。 「徹さんっ」 俺は焦って飛び起きた。 徹さんは俺の視界に入ってこなかった。 俺のどうしようもない行動に呆れてどこかに行ってしまったのだろうか。 「徹‥さ‥ん」 ギュッとつぶった目からは、拭ったはずの涙がまた溢れて落ちた。 |