玉より愛して5

「アップで見ると痛そうだな」
 徹さんは腕を伸ばすと間近に迫った俺の額の傷を触る。俺は金魚みたいに 口をパクパクするだけだ。
 すると額を触っていた手が電気が切れたようにパタリと落ちた。

 うっ嘘、また寝ちゃったのだ。それとも元から起きてなかったのか。 ただ寝ぼけていただけだったんだろうか。
 冷や汗でダラダラになっていた俺はやっと動くことができた。
 もっもの凄くヤバかった。気付かれないで良かった〜。安堵の息が何度も 漏れる。

 適度に離れたその時、シャワーを浴びて濡れていた俺は盛大なくしゃみが 出てしまった。
 徹さんはそのくしゃみで飛び起きた。
「なっなんだ?」
 きょろきょろと回りを見渡し、俺に焦点が合う。
「あれっ、トシお前、何でそんなに濡れてるんだ?」
 はいはいはい、別に覚えてなくてもいいんです。どうせ報われぬこの想い。 それならせめて徹さんにそのことを気付かれないままでいたい。

 上半身だけ起こしていた徹さんは自分が裸でいることに気が付く。
「う〜ん、シャワーを浴びたところまでは覚えてるんだけどな」
「シャワー浴びたまま寝てたんですよ」
「ええっ、寝てたのか、俺。ずっとCADやってたから肩こりが酷くてさ。 打たせ湯のつもりでシャワー浴びてたら気持ち良かったんだ」
「それで座り込んだまま‥」
「もしかしてそのせいで濡れちゃったのか。悪かったな。ほら風邪引くから お前も服脱いで」
 ソファーに座った形になった徹さんはその前で膝立ちになりかかってる俺の 服に手を掛けた。
「おっ俺、このまま帰りますから」
「なんで。送ってくれるって言ったじゃないか」

 きょとんと見る顔は本当に一切の邪気を纏わない純真そのもので。
 くぅ〜〜〜、なんでこんなに可愛いのか。ほんとに5歳も年上なんだろうか。
 歳のことを考えたら、徹さんの相手がいくつなのか気になった。この天衣 無縫な可愛さを受け止めているのだから30歳はいっているだろうか。 それともあの色はもう少し上じゃないと着こなせないだろうか。

「俺じゃなくて、あの部屋の人に送ってもらったらいいじゃないですか」
 恋人という言葉を使うのにまだ抵抗があった。
「あいつ? あいつはそんなことしてくれないって。まだ仕事してるだろう し。それに恥ずかしいだろう。いい年して」
 否定しない‥。
「恥ずかしいって、俺はいいんですか?」
「お前は友達だからいいよ」
 そっそうですか。友達ですもんね。

「それに送ってもらわないと困る」
 ハッと目覚ましに気が付く。
「おいっ、もう2時じゃないか〜。電話鳴らなかったか?」
 そう言いながら隣のソファーに置いてあった作業服を取り、携帯を見る。 着信がないのを確認すると安堵の息を漏らす。
「鳴ってないってことは順調にいってるんだよな」
 自分で慰めるように言って納得する。

「おい、早く脱いで乾燥機に入れてこい。うちにはお前が着れる服はないぞ」
「大きそうなスーツはありましたけどね」
 つい、嫌味が出てしまいハッと口を塞いだ。
 目を見るのが恐くて先に言い訳をする。
「徹さんの服を探しに行ったんですよ」

 すぐに返事が無くて恐る恐る顔を見た。徹さんは俺を見ていない。
「あっ、そうか。親父の服が置いてあったな。何かと思ったよ」
 そうそう親父の‥‥、ん?
「親父?」
「ああ、仕事が忙しくてうちに帰れないときにたまーに泊まりに来る。 このマンションも金出してもらったから文句も言えなくてさ」
 マンションの金‥。
「パトロンですか?」
「パッパト‥ロンって、お前何考えてんだよ。親父って言ったら実の親に 決まってんだろう。俺んちはちょっと金持ちなの。まったくもう。 トシの頭ん中、切り開いて見てみたいよ」
 もの凄く呆れ返られてしまったが、突然俺の心は軽くなる。前に道が パアッと開けていくようだ。暗雲が立ち去りまぶしいほどの晴れ間が 広がっていく。この際気になることは聞いておこう。
「ベッドまで有ったから」
「今は一応親父の部屋になってるけどあれは本当は弟が使ってたんだ。 大学出るまではここに住んでたから」
「恋人が居るのかと思いました」
「そんなの居たらパチンコなんて行ってないって」
 ああっ、聞いて良かった。徹さん、俺は諦めなくていいんですね。
 晴れ間から見えた太陽の光が俺の心をさんさんと温める。

「そんなことより早く服脱げって」
 浸っていたら徹さんは自分の腰にかかっていたタオルを取って俺の頭を ガシガシと拭いた。

 目の前でペニスが揺れる。華奢だと思った身体もそれなりに筋肉が付いて おり筋張っている。男の身体を見て欲情することはない。やっぱり俺は ノーマルで徹さんだけが特別なんだよなと思う。
 肌の温もりや気持ちが触れ合ったときのことを想像すると感じるのだが、 見ただけでは何も感じなかったから。それはまだ俺の頭では相手の反応する 様まで思い浮かべることは出来なかったからだろう。

 徹さんに引っ張られてシャツだけ脱いだ。
「ジーパンはいいのか」
 下まで脱がされそうな勢いに焦る。
「こっこれはいいです」
 徹さんはクスッと笑った。こういう時はちゃんと年上に見える。
「なんだ、恥ずかしいのか。男同士なのに」

 徹さんは恥ずかしがらな過ぎです!

 きっと‥きっと、徹さんは宴会なんかで乗せられると裸踊りでも何でも 出来るタイプなのだ。高校の頃だって裸で廊下を駆け抜けれるか、 なんてやっていた奴もいた。あっ、だからさっきもあんなに無防備な姿でも 平気だったんだ。そういう相手だから安心していたのではなく、誰が見ても まったく気にしない性格だったのだ。
 そっそういう人だとは全然想像がつきませんでしたが、でも隠された一面が 分かってちょっとだけ嬉しいような気がします。

 徹さんは俺のシャツを持って素っ裸のままで浴室がある方へ向かった。 そして自分の部屋へ行き下着を着てくる。リビングに戻ると作業着を着た。

 肩からタオルを掛けてる俺の体を見る。
「トシって見た目よりずっといい体してるんだな。脱いだら凄いんです、 ってヤツだな」
 徹さんはそばに来ると俺の腹を触る。中学、高校とずっとバスケをやって きた。卒業してからも体は動かしている。腹筋や腕立て伏せは暇があると ついやってしまう運動だった。
「すごいな、腹筋がしっかり割れてる」
 触られてびっくりした俺は左手でその手を掴んで止めた。
「そういや、これどうしたんだ?」
 しまった。また小指を隠そうとした手を両手で掴まれた。
「なんだ、言いたくないのか。しかも隠さなきゃならないことなのか」
 小指を掴まれてその先が無いことを観察される。特に徹さんには言いたく なかった。余りにも情けなくて‥。俺は下を向くしかなかった。

 しばらく俺の様子を見ていた徹さんは、いきなり俺の小指を銜えたのだった。


驚きの土方くん2
 日向遼様作
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 歯が先端で合わさってカチッと音がする。感覚が鈍くなってるのに唇の 内側の柔らかさが分かる。ゾクゾクッと背中を何かが駆け抜ける。
 それなのに俺はまったく動けずにいた。徹さんの顔、下を見ている目、 そこからしゅっと伸びているまつげ、半開きになった口元。まるで映像でも 見ているように目が離せなかった。

 ぼぅっとしてる間に徹さんは口から小指を抜いた。
「ほら、俺に食べられたことにしとけよ」
 なっ? と言って微笑む徹さん。なんて人を慰めるのが上手いんだろうか。 こんなに何もかも簡単に言ってしまって、しかもそれはすんなり心に入って くる。何の引っかかりもなくなじみ、明るく軽くなる。

 徹さんに食べられたんなら誰にも恥じることは有りません!
 でも今はジーパン履いてて良かったです。ちょっときついけど、 反応しまくりの獣の姿を見せなくてすみました。


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