都に到着したその日、ハイトもルドと同じく薬で眠らされた。その間にこの部屋に連れてこられ、足に枷が付けられたのだ。 下が地面のままの部屋には戸がない。ルドがいるところもそうであった。 下が土であることには、毛足の長い織物が敷かれており、二人とも不都合を感じることはない。ただ逃げられないようにするため、地面に鉄が打ち込めるこういった部屋を選んでいるようだ。 そう、ハイトの足に着いた鎖は、やはり鉄杭に繋がれていた。そして足にはまるで針金のように、太い鉄が鎖を通して捲かれ、先は捻られていた。どうしたらこんなことが出来るのであろうか。 ハイトが薬から目を覚ましたとき、そばには四人、女が控えていた。どの女も明らかに身分が高そうであった。 真っ先にルドのことを聞いたが誰も返答をくれない。その他のこと、例えばこの都のことなどはいくらでも教えてくれるのに。 ギガについて都に入った二人は、彼が特別に大きいことが分かったようだ。王族の血筋がなせるらしいのだ。日の一族の一般の人々は、色が違うだけで月の一族と寸法的には何ら変わりがなかった。 ギガが帰ってきただけでも、とてつもない騒ぎになっていたのに、従えてきた違う者がまた美しいのも話題になっているらしい。 ルドは月の美神。 ハイトは月の闘神。 磨いた剣のように髪を光らせやってきた彼らには、そんな風な呼び名がついているそうだ。 ハイトの扱いは足枷が着いてることを除けば、王族級であった。ルドのことだけを気に掛け、眠れぬ一日が終わり、次の日になってようやくギガが顔を出した。 「やあハイト。楽しんでくれているだろうか? ルドもこちらで快適に過ごしている。もう緑の大地へは帰りたくないそうだ」 ギガは優越感をちらつかせる。 「うそです。ルド様がそんなことを言うはずがない」 しかしハイトにはしっかりとした自信はなかった。ルドは大長になりたくないと言っていた。だが、だからといって故郷を捨てるとまで言うだろうか。まずはそれを確認しなくては、そうハイトは目的を決めた。 「それが残念ながら事実なんだよ。君には月の集落へ帰ってくれと、ルドからの伝言だ。だからこのまま帰ってくれぬか」 ハイトも頭は切れる。月の集落ではこんな駆け引きをする必要はどこにもなかったが。 「まず、ルド様に会わせていただかないことには話になりません」 「まあそうだろうな。しかし君に怒られると思ってるんだろう。会いたくないそうだ」 「では陰からでもお姿を確認させていただけますか。これなら何も問題はないでしょう」 枷のないルドの姿を見せることは、ギガには出来ない。 「それが軽い皮膚病に掛かっていてね。ここでは治療できるが、ルドが言うにはそちらでは無理だとか。君に移って月の一族に広まっても困るだろう。だから黙ってルドに会いに行けないよう、ちょっと細工をさせて貰ったんだよ」 「そうですか。それで、ルド様は残っていったい何をされるんですか?」 「ふむ、どうせ噂になれば分かることだな。ルドには私の妃になってもらう」 ハイトはこれで合点がいった。ギガはルドが欲しいのだ。誰でもルドを欲しいと思うだろう。それは当たり前のことなのだ。いまさら驚きはしない。この道中、ギガの目つきを見ていてもそれは感じられた。 だが男であるルドを堂々と妃にするとは。そこまではさすがに考えつかなかった。 ギガの目を見る。この男は本気だ。 ギガもハイトがこれで引き下がるとは思っていなかった。とにかく時間が必要なのだ。ルドが承諾するまでの。血の儀式を行ってしまえば、その誓いに逆らえはしない。誓いを破った者は魔に冒されるのだ。 「分かりました。しかし私を帰してしまってよろしいんですか? あなたは砂漠の魔王に対抗する手段としてもルド様が欲しいのでしょう。違いますか?」 図星を突かれて今までの均衡が崩れる。 「そうではない。私もルドも好き合っているからこそ一緒になろうと‥」 ひと月もの道中を過ごしてきて、ルドにそんなそぶりは微塵も見えなかった。あまりにも無理があろう。 「それならば本当に私が帰ってもよろしいんですね」 「あっ、ああ。そうだ。そうしてくれれば月の者と下手に衝突しなくて済む」 ギガは事を荒立てたくなかった。出来れば穏便にルドを貰い、その旨をハイトに報告して欲しかったのだ。そうしなければ必ず月の者が確かめにくるだろう。いまは月の一族と争ってる場合ではないのだ。 それにしてもやけにあっさりとハイトは引き下がった。予想と違ってギガは少し拍子抜けした。 「分かりました。では私は今すぐ帰らせていただきます。でもお祝いに一つ良いことをお聞かせしましょう」 「なっなんだ」 「ルド様の聖光は私がいないと出ません」 「この期に及んで何をそんな出任せを」 ギガは鼻であしらう。 「そう、信じるか信じないかはギガ様の自由ですから。この鎖を取っていただけますか?」 あまりに落ち着き払ったハイトの態度にギガは不安を覚えた。 「ちょっと待て、いま確かめてくる」 ギガは慌ててルドがいる部屋へ向かった。 ハイトはギガが食らいついたことに一息ついた。取り敢えずここまでは成功だ。しかしルドがどういうことになっているのか、それだけが気懸かりだった。 しばらく待つとギガが険しい顔をして帰ってきた。 今度はハイトが優位に立つ。枷が着いてる立場でありながら。 ハイトは薄く笑う。それを見たギガは、一族同士の争いになるかもしれないという危惧が吹っ飛んだ。 「この野郎。そんな切り札持ってやがったのか。さっさと言いやがれ。ああ、そうだ。魔王を殺るためだ。こうなるとお前も帰すわけにはいかんな」 さっきまでの態度をがらりと変えて、本音を晒す。 「さあ、聖光が欲しければルド様に会わせてください」 一回り大きなギガに向かってほぼ同等の気迫をみなぎらせる。 「なぜ出ないのだ。都に帰ってくるときはいつでも出ていたではないか」 「それは答えられません」 ギガは考えた。ルドとハイトが一緒にいて何があったか。二人でやっていたことといえば‥。 「お前たち、気の儀式とか言っていたな。ルドに気を送ると出るのか。それならなぜいま出ない? 私のではダメなのか」 崩れることのないハイトの顔が一瞬変わった。 「ルド様に何を!」 「そんなもん、決まってるじゃないか。目一杯、泣かせてやったよ」 ギガのふてぶてしい態度が復活する。ハイトは悔しさを胸の奥に秘めこらえた。 「そうか、やはり月の者でないとダメなのだな。それなら良い考えがある」 ギガは何かを思いついたようでまた出ていく。 ハイトはギガの言葉にざらつく思いをしていた。ルドは他の者と試したことはない‥。 そうなのだ。勝手に自分でないと出ない、ルドと二人でそう思い込んでいた。それが自分がルドの側に存在する意味だと思うと誇らしかった。ルドに選ばれたと思うと嬉しかった。しかし、もし違ったのなら。誰でも気を送れば出るのであれば自分の存在価値は何であろうか。 ギガに好きなようにされたのは悔しいが、日の一族では反応がないことは分かった。 ギガは一体何を思いついたのであろうか。月の一族がここに来たという話は聞かなかった。誰もこの髪や肌の色を見たことはなかったのだ。ハイトは不安を抱かえギガが戻ってくるのを待った。 「おい。月の者に気を送られると聖光が出るのか」 部屋に入ってくるなり床に縫い止められているルドに怒鳴る。さっきからなにを苛ついているのかルドには分からない。 「そうじゃない。ハイトじゃないとダメなんだ」 「試したのか?」 ルドはハッとした。そう言えば自分はハイト以外の者とはこのギガだけだ。先ほどムリヤリ聖剣を握らされたときは出る気配がなかった。 黙っているとギガはまた足を縛り付ける。些細な抵抗は全くの徒労に終わる。 昨日空いたばかりの穴に指を乱暴に突っ込まれた。 「ああっ、やっ止めろーっ」 それだけで前は瞬時に硬くなる。全神経で指だけを感じ取る。 「お前たち、昨日言ったことを忘れてないだろうな」 「はっ、覚えております」 忠臣たちは背筋を正す。 「よく見てろよ。私が来ないときはこうやって採るんだ」 ギガは今度はゆっくりと中を掻き回した。 「いやっ、あ‥ああっ」 びくんっと身体が震え、それだけで先端からは精が零れた。家来が宛っていたつぼに落ちる。苛立ちをぶつけるようにまだルドを嬲る。と言っても一本の指が中で動いているだけなのだが。 そのたった一本の指に翻弄され、逃げたくても逃げられない辛さが体中を支配する。そうしてギガに掻き回されているうちに腰は指の動きをなぞり出す。後を追うのではなく予想して先に動くのだ。どうにも嫌な予感がするある場所を逃がすために。 縫い止められ高く挙げられた腰を振って逃げる。ギガの目からは淫らにしか見えないであろう。分かってはいてもそこは軽く擦られるだけで反射的に腰が引ける。刺激がきつすぎるのだ。 「ここか‥」 ギガの口の片端があがる。 |