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ハイトの部屋にいた四人の女は全て王家に関わる者たちであった。初めは単純に、歓迎してるように見せかけるために控えていた。 しかしギガはハイトを女によってたぶらかそうと企んだのだ。毎日乱交を繰り返せばどんな男でも骨抜きになる。ハイトと対面した次の日からはそういう目的で配されていたのだ。女たちも喜んでそれに乗った。月の闘神に抱かれるのだ。しかも勅旨と見なしていい。誰にも後ろ指をさされることはない。 その中にコゴ王女がいた。コゴはギガの妹であり婚約者でもあった。濃い血を残すために近親の者と一緒になるのは月の者と余り変わらない。しかし近すぎる血は月の一族では禁忌であったが。 コゴは現在二十七歳になる。もうこの歳であれば複数の跡継ぎを生んでいるころであろう。しかし跡継ぎどころか結婚すらしていなかった。 ギガが年も取らず十年も眠っている間、ずっと待ち続けた結果であった。 だが帰ってきたギガはコゴではなく、連れて帰った月の者を妃にすると言い出した。しかも自分を生け贄に差し出したのだ。 コゴはギガを愛していた。愛憎は紙一重だった。 ハイトは四人の話を聞いてコゴだけを選んで抱いた。正式な婚約者であり、王女である。残りの三人に文句は言えない。 熟れた果実は穿たれることも望んでいた。十年を取り戻すかのようにハイトに溺れた。 ハイトもルド以外の者と関係を持つのは初めてであった。勃つまではコゴの奉仕のおかげであったが何とか役に立った。そのうちこつをつかみコゴを翻弄するまでになった。ルドに操を立てていることが逆に雌を悦ばせる結果となったのだ。 そして今日、ハイトはずっと秘めていたことを願い、コゴはそれを受けてくれたのである。 ついこの間まであったはずの優しい穏やかな空気がルドを包んだ。 「ルド様‥」 聞きたかった声で何度か呼ばれたような気がする。夢なら冷めて欲しくはなかった。目を開けたくはなかった。それでも求めていた声は本当に間近にあるような気がして、恐る恐るまぶたを開いた。 「ハッ、ハイト?」 眩しくて細めた視界に確かにハイトは居た。 「ルド様‥。こんなことになって申し訳ありません」 やっと再会できたというのにいきなり出た言葉は謝罪だった。もっと気の利いたことが言えないのか。でもそれがハイトらしくて少し笑った。 久しぶりに見たハイトは大事な宝物を壊された子供のような顔をしていた。本来のハイトは平静を装うのが得意である。泣き顔なんて初めて見た。 「なんで‥泣いてるんだ」 手をハイトの方に伸ばして腕に痛みを感じた。鉄の棒が当たっているそこは酷い痣になっていた。 手は、ハイトに届かなかった。 「私が付いていながらルド様をこんな目に遭わせて‥」 その痣をさすり、その上にいくつもの涙を落とす。 「大丈夫だって。痛い目に遭ってるわけじゃない。大変だったけどな」 激しく自分を責めてるハイトを元気づけたくて、努めて明るく声を出す。その様子に感じたのかサッと涙を拭くと手を握ってくれた。 今の状況を訪ねられたのでギガにされたことを話す。 「ギガのやつは助けてやった恩も忘れて俺をこんな風に縛り、妃になれって言うんだ。そして血の儀式をするって言わせようとして‥」 ギガは精を採るだけでなく、攻めることによってルドが参るのを待っていたのだ。 「俺の股に変な玉を入れて穴を開けて、そこが異常なぐらいに感じるんだ。後ろに自分のモノを突き立てて動けないようにして、出来た穴に指を入れて無茶苦茶に嬲られた」 ルドに会いに来るとまず自分の欲望を後ろに吐き出し、そのまま今度は前の穴に指を入れる。後ろからの圧力で指はより一層敏感な部分を攻め立てる。楔を打たれているのでほんの少しもずれることが出来ず、その場所だけに刺激が送られた。前は扱かれ、後ろは突かれ、中を嬲られ、朦朧としたところで誓いを強要された。 「止めて欲しければ血の儀式を行えって脅すんだ。俺は必死で首を振って、流されないように足に爪を立てて断った」 ギガはルドが快楽で理性が無くなるのを待っていた。日の石版へ自分の血で書いた誓いにルドにも署名させようとしていたのだ。 苦しすぎる刺激から逃してやる代わりにと。 出来た穴に精を送って塞いでやると。 縋る物がないルドは自分の足首を掴んで耐えていた。快楽に身を任した方がよほど楽であったが、理性を失うと呆気なく名前を記してしまいそうであった。ルドの足首は爪の痕で傷だらけだった。 「俺、絶対にギガの物になんかなりたくなくて。どうしてもハイトと一緒にいたくて。俺‥頑張ったよね?」 ルドは誉めて欲しくてハイトの顔を窺う。 「‥ルド‥さ‥ま」 またしてもハイトの顔は崩れる。両手でルドの手を握りしめ、そこに額を付けて目を閉じる。大粒の涙がこぼれた。 「ハイト、泣かないでよ。これ何とか取れない?」 ルドは腕の方を見てハイトを促す。しかし太い鉄はびくともしなかった。 「だったらハイトの気を入れて。穴が塞がったらずっと楽だから。それと抱きしめて‥」 何よりも一番して欲しいこと。それをルドは口に出した。 ハイトは握りしめた手に口付けをする。何度も啄むように、壊さないように優しい唇が落ちる。だんだんと腕に沿って上がってくるとやっとルドの口元へきた。 少し躊躇ったあと唇を重ねた。ルドはようやくハイトと触れ合った気がした。まだ自分を責めているのだろう。おずおずとした動きがぎこちない。もっと深く重ねて欲しいのに抱き寄せる腕がない。啄んでくる唇に舌を出す。それに触れるとようやく呪縛が取れたように激しく求められた。 余り時間がないかもしれない。そんな思いが二人をいっそう煽る。二人とも十分に精を吐き出した後であったにもかかわらず、性欲は渦を巻いて身体にまとわりつく。 相手がハイトだとなぜこんなに熱いのだろう。ただ単に気の儀式と言っていたころもこうだったのだ。触れるだけで暖かく、幸せになる。 この幸福を忘れていた。ギガと比べてその違いに驚いた。この差がきっと聖光が出るかどうかの違いなのだ。 ハイトをすんなりと受け入れると、あっと言う間に達してしまった。より敏感なその部分は感情も伴って快楽に貪欲になる。ハイトが遠慮がちに動くたびに全てを吸収したくなる。何も耐える必要はなく、快感に身を任すと何度も何度も達した。 ルドが数えられないほど昇り詰めると、ハイトもルドの中に精を放った。 一度精が入るとそこはひと月は塞がったままで、玉は時期を見て勝手に出てくるらしい。それを女の中に入れるとちゃんと身ごもるらしいのだ。 「‥んっ、ハ‥イト」 コゴはルドの甘い喘ぎ声につい振り向いてしまった。見ればそこには月からの使者が輝いていた。すぐに背を向けるつもりであったのに、引きつけられてしまった。 月の闘神が、束ねた髪が美神に掛かるのを避けようと頭を振った。その勢いで髪を纏めていた革の紐は飛んで行き、ばらけた髪は半月に広がる。薄暗い部屋で、窓から射し込む日の光を浴びて、本当に月のように光った。 何もかもを忘れてコゴは見入ってしまった。自分の役目をも。 そしてその後ろにはコゴと同じに食い入るように見ている者がもう一人いた。 「何をしてるんだ」 ルドとハイトが驚いて声の方を振り向くと、もの凄い形相をしたギガが立っていた。 ギガは怒りを漲らせ、一歩一歩を踏みしめるように近づいてくる。 緊張が走る。 ‥張りつめた空気を割るように傷だらけの足首を掴まれた。ハイトが止める暇もなく開かれると、玉によって作られた穴が無くなっているのを見られた。 ギガは憎々しげに足を床に叩きつけたが、ハイトが素早く受け止めてくれる。 「なぜお前がここにいる」 ギガの目はこれまでに見たことがないほど燃え上がっていた。そしてその視線はハイトの返事を待たず、コゴに向けられる。 ハイトは遮るように前に立った。 「私が無理に頼んだのです。コゴ様を責めるのはお門違いでしょう」 「ふっ、確かにな。裏切ったのならお前達はもうここにいないはずだしな」 静かな物の言いようが余計に怒気を感じさせる。 「それより何故。ルド様を本気で妃にしたいというのであれば、この惨い扱いはどういうことですか」 ハイトは家来の扱いが酷く気に入らなかったようで、まずギガの感性を疑う。 「愚問だな。妃になることはもうすでに決定事項だ。私の物なのだ。魔王退治に協力させても何もおかしくないであろう」 「あなただけじゃなく、他の者にも触らせることがですか」 「ああ、私の物をどう扱おうとお前には関係がない」 二人の話は平行線を辿る。このまま話していても交わることはないだろう。 |