VS. EVE編 3

 一体どれくらい経ったのか。生馬が妙に可愛く思えて抱きたかった。 まともに口も聞こうとしなかったあいつが、こんなふうに思いやりを 示してくれるなんて。心の中ではひどく感激していたのに。
 それなのに今やっていることは、力の限りを尽くして互いの手を 押し合っているのだ。本気のプロレスと何ら変わりがねぇ。 何で俺たちはこうなってしまうのか。
 結局抱けずに終わり、しかも煙草を吸っていることまでばれてしまった。 受験勉強は思ってたよりもきつくて、禁煙し続けるには辛すぎたのだ。 それに生馬が怒ってるのも俺には応えた。

 一度通じ合ったと思った心は、例え元に戻ったそれだけでも傷つく。 ほんの3ヶ月だったが幸せを味わってしまったのだ。
 その短い幸せは俺が予備校に通っているのを、バカ馬がやっと気が付いて 終わった。俺から言わなかったことを責める。しかし一体何と言えって 言うのか。
 そして関係は元に戻る。ケンカをする。キスはする。セックスもする。 3ヶ月前と変わらない、いや、欲していたキスが増えたのになぜこんなに 辛く思うのか。いくら俺が説明しようとしても生馬は聞く耳を持たねぇ。
 耳を防ぐ代わりにケンカを売られる。気の短い俺はつい買ってしまう。 こうなりゃやけくそだ。意地でもケンカに勝って突きまくってやる。
 元に戻ったと言っても、予備校生と社会人だ。会えるのは生馬が ケンカを売りに来たときだけ。買わないと関わることも出来やしない。
 いつしかヤるだけのために会うようになっていた。


 そんな長い冬が最近ようやく終わりをみていたのに。 またあいつは何に怒っているのか。俺のどこがあいつをバカにしたというの だろう。ただ中学生みたいに隠れて煙草を吸ってただけじゃねぇか。
 そりゃ嫌いなのは知っている。知ってるからこそ禁煙してたんだが、 そんなに怒ることかよ。大兄も凌兄も吸ってるのに。俺にはまったく 分からねぇ。昔からそうだった。生馬が突っかかってくる理由なんて 俺には理解不能なのだ。


 そして12月24日、クリスマスイブが来た。何故だか前島が迎えに 来てくれた。
「相変わらずお前ら、仲悪いんか。真ん前に住んでるくせに俺にお前を 迎えに行けって言うんだから」
 チェッ、まだ怒ってるんかよ。
 そして今日の会場、焼き肉屋へ着いた。

 そこは食い放題でセルフサービスだ。入ると甲斐甲斐しく動いてる 生馬がいた。何故だか1人で皿を運んでる。
 俺に気が付くと「おっせーぞ」と怒鳴る。どうやら俺たちが最後だった ようだ。俺に向かって言ったことで一時休戦するんだということが分かる。 本気で怒ってたら殴りかかってくるか、無視するか、どっちかだからな。
 座って確認するとクラスの半分近くが揃っていた。ほとんどの奴が 就職してるわけだから、かなり凄いことである。
 とにかく男ばっかりだ。そして一番食える年頃だ。凄い量の肉がこれまた 凄い勢いで無くなっていく。皿を運んでる生馬はちゃんと食ってるかな。 頭の片隅で心配しながら、仲の良かった奴らでビール片手に集まる。
 机をはさまずに、畳に置いた灰皿を中心に4人で頭を寄せ合って話す。

 みんなが吸っていると我慢できずに俺も煙草を取り出した。 どうせ理解不能なんだし、すでに怒ってるわけだからいいよな。 腹がふくれ、ビールと共に吸う煙草。こんなに旨いもんはねぇ。
「あれっ、赤城も吸うんか」
「ちょっとな」
「仲が悪い癖にそう言うとこは気が合ってたのに」
「誰とだよ」
「沢田に決まってんだろう」
 ちっ、みんな俺と生馬は仲が悪いっていうくせに、話題にするときゃ 2人一緒なんだよな。
「別に生馬に合わせてたわけじゃねぇよ。右へならえが嫌だったんだよ」
 工高の頃は煙草が好きと言うよりは、悪いことがしたくてカッコ付けの アイテムとして吸っていた奴らが多かった。だから吸わない奴は珍しかった のだ。
「やっぱうめえ〜」
「だよなぁ」
 訳が分からん会話だが、そのまま煙草に乾杯する。

「しかしみんな寂しいなぁ。こんなに女がおらん奴が集まってるとは 思わんかったぜ」
「何言ってんだよ。俺はこの後デートだぜ。何もこんな日にクラス会 やらんでもいいのに」
「クラス会? ‥なのか?」
「あれっ、聞いてなかったのか」
「ああ、彼女がいない奴で寂しい集まりって‥」
「あはは、それはある意味正解。だって女がいる奴はそっち優先してる だろうからな。でも沢田は一応クラス全員に声掛けてるはずだぜ。 みんなで大騒ぎするんだって張り切ってたから。数が多けりゃ多いほど 楽しいって言って」
「ふーん」
 まっ、バカ馬はそう思うだろうな。誰とでも仲良くしてた奴だから。 しかし言い出しっぺはあいつだったのか。だからさっきから1人だけ 動きづめなんかよ。

「赤城が勉強ばっかりしてるから、たまには楽しめるようにって」
「えっ、俺?」
「そう、お前のためだったんじゃないのか。このクラス会。 仲良くなったのかって不思議なんだけど」
 あの生馬が俺のために骨を折ってくれるなんて。はぁっ、今までじゃ 考えられねぇな。そんであの時、俺に声掛けろってうるさかったんか。
 ったく、ガキだからな、生馬は。計画実行していた成果を話したくて 仕方なかったんだな。

「なんだぁ? やけに嬉しそうだな。やっぱ仲良くなったんか」
 知らないうちに顔が緩んでいたんだろうか。指摘されてちょっと焦る。
「えっ、ああ、いや、そんなことは‥ちょっと‥ある‥かな」
 今働いてる姿は俺にはえらく新鮮だった。
 俺のために動く生馬。初めて見るかもしれない。

 こんなに変わってきたはずなのに、一体何を怒ってやがるんだ。 でもせっかくここまでしてくれたんだ。俺も同じに怒っていたら話は 進まねぇ。よし、決心した。何でもいいから謝っちまおう。
 俺が折れたら丸く収まるような気がした。

「だけど工高の頃はあんなに女の数を競ってたのに。何で2人とも 参加なんだ?」
「俺は分かるだろ。勉強で忙しいんだよ。生馬はたまたま切れたんじゃ ねぇか」
「まぁ、そうだよな。何と言っても沢田4兄弟だからな。 ほっといても女が寄ってくるか〜」
 そう、ほっといても女の方から寄ってくるのに、生馬はきっぱりと 女の付き合いを切ってしまったのだ。就職すると違ってくるのか、 ずっとそう思っていた。でももしかしたら俺とそういう関係になったから なのか、最近はちょっとそっちの説が優位に立っている。
 そんなこととは知らなかった俺の方は、実は女は切れてねぇ。 1人でいられないときが多い。どうしても寂しさに負けてしまうのだ。 生馬の野郎は口も聞いてくれなかったしな。そして当然だが生馬はそれを 知っている。

 だから俺の方も本当は一人暮らしが出来ないのだ。1人でアパートに なんか居れねぇ。女の所に行ってしまうだろうと言う事は火を見るよりも 明らかだ。
 生馬が反対していた理由の中には女のことも入ってるのかもしれない。 だったら一緒に住めばいいじゃねぇか。そしたら俺だって浮気なんか しねぇのに。
 家族よりも俺を選んで欲しかった。俺が1人で生馬を独占したかったのだ。 みんなの物だった生馬を俺1人の物に。こんな夢みたいなことが夢じゃ なくなるかもしれないんだ。下宿したいと思ってもいいじゃねぇかよ。 可愛い夢じゃねぇかよ。もちろんそれだけじゃないんだけどな。

「赤城も大学なんか行ったら、女子大生の姉ちゃんとヤりたい放題だな。 ちきしょーっ。うらやましい。ちゃんと俺たちにも紹介しろよな」
 紹介しろと言った奴の頭がはたかれる。
「バカヤロ。てめぇの女くらいてめぇで探せよ」
 はたいたのは生馬だった。
「聞こえてないのか。お開きだって言ってんだろう」
「ウィ〜ッス」
 ダラダラとみんな立ち上がる。
「何がヤりたい放題だ。人がこき使われてんのに、4人で仲良さそうに 煙草なんてふかしやがって」
 ブツブツ言いながら会計に行く。

 えっ、あんなに忙しそうだったのに、俺のこと見てたんか‥。
 何だか近頃の生馬は可愛くてしょうがねぇ。自然と顔がにやけていた。

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