第4章 墜とされた美咲


 男に負けない仕事ぶりの五十嵐美咲は、それを上司に評価されて係長に抜てきされた。それによって、彼女に芽生えていた姉御肌にはくが増し、同性の社員からは羨望の的となっていた。
 だが同時に異性である男の社員から恐れられ、次第に彼等との距離が広がってしまった。しかしあまり異性を意識していなかった美咲には、それほど気にはしていなかった。
 それよりも美咲を責め立てたのは、彼女自身のプライドであった。係長になってもなお、男の社員に負けてはいけないとさらに仕事に掻き立てる。男社会で倍以上の仕事をして認められるために休暇をとっている余裕は全くない。かくして、次第に美咲も疲れ始めていた。

 美咲の朝は早かった。家で食べた朝食ではまだ足りず、栄養ドリンクを飲みながら駅に向かう。その時の彼女の服装は灰色のスーツであった。彼女の気に入りの服のひとつなのだが、生地がやや柔らかくゆったりしている以外は、男の着るそれと余り変わらない。
 まだラッシュの時間帯より随分前なので、駅のホームは割合空いている。
 美咲はここから快速に乗って会社最寄りの駅に向かう。約数十分電車に揺られることとなるが、読書をしたり音楽を聞いたりする余裕は美咲にない。まだ空いている車内、クロスシートの窓際の席につくと、早速書類を開いてそれに目を通す。
 しばらくして美咲は車内備え付けのトイレに向かった。家を朝早く出る都合上、電車のトイレで用を足すのが日課となっていた。
 いつも通り。かなり年期の入ったドアを開けて狭い部屋に入った後、――勢い良く閉まり、鍵が掛けられた。
 先客がいたのだ。
 黒づくめの姿の男。黒いサングラスが彼の顔の特徴を殺していた。
 しかし彼はそれ以上美咲に自分の特徴を覚えさせる余裕は与えなかった。彼女の服を掴むと、トイレの奥に入れ代わるように押し込む。
「お前の事は知っている。五十嵐美咲、四月十五日生まれのO型。株式会社○××で随分頑張ってるそうじゃない」
「! ストーキングしてたの?!」
 自分の身を両手でガードしながら怯えた声を発する美咲。
 男は美咲の言葉に耳も貸さず、自分の言葉を続ける。
「君には僕の嫁になってもらうよ。そして子供を産んでもらう」
 美咲の頭に危険信号がともる。ストーキングする奴にまともな人間はいないだろうが、彼の場合その中でもトップクラスのヤバさだ。
「寝ぼけてるんなら家に帰って寝てなさいよ」
「ならば一緒に来てもらおうか?」
「こっちは忙しいんだから――」
 そこで美咲は自分の尿意を思い出した。トイレの壁に背中をべったりつけて、男が出ていくまでそれに耐えようとする。
「――お願い、出て行って」
「いやだ。誓ってもらわないといけないことがある――一生俺についていくか?」
「訳わかんないこと言ってないで出てってよ! なんで初対面の人間にそんなことを誓わないといけないのよ!」
「君は誓わないといけない」
「大声出すわよ!」
「意外なことに、このトイレの防音設備はハイレベルだ。車体自体は古いのに――」
「もうお願いだから早く出てってよぉ!」
 膀胱が張り詰め、美咲の表情から余裕が消える。だが男はにたにた笑って彼女を見つめている。
「誓うまではおしっこはさせないぜ。もし誓ってくれたらさせてやるよ――共同作業でな」
 彼にそう言われ、美咲は震え上がる。「共同作業」の言葉におぞましい妄想を掻き立てられる。
「い……いや……、お願い……トイレさせて……」
「だからさぁ、どうなんだよ? 俺の生涯の伴侶になってくれるの?」
「どうして貴方の嫁にならないといけないのよ!」
「じゃあここでおしっこするのはダメだ」
「わかったわよ、じゃあ他の車両のトイレでするから」
 美咲はそう言ってドアの鍵に手をかけようとする。が、男がそれを振り払った。
「何をやってるんだ。ここからは出さない」
 男は扉の前に立ちはだかって、美咲を近付けさせない。
 赤の状況であった。
 美咲はなす術なく、便器のある段の奥で壁に背を擦って座り込む。それから、甲高く悲鳴を上げる。
 そこへすかさず男の拳が飛んだ。顎の付け根当たりに拳をまともに食らい、横の壁に叩き付けられる。
「……痛い……」
 目に涙をにじませて、美咲は声を震わせる。
「もったりしやがって。……いやでもその気にさせてやるよ!」
「あぁ、駄目! いやっ」
 男が美咲のスーツに手をかける。美咲は体を揺らしてその手を振り払ったが、男はまた彼女の顔に拳を見舞う。
 化粧した美咲の頬に、痣ができる。
「服を破られた格好で外に出たくなかったら、大人しくしろ!」
 凄みのある声で男が怒鳴ると、彼の手は丁寧に美咲のスーツのボタンを外しはじめた。美咲はただ恐怖に体を縮こまらせるのみ。それでも男は、服を脱がす邪魔になれば平手で体をはたく。
「オラァ、ズボン脱がすから素直に足伸ばせ! ……今度は半殺しにするぞ」
「……う、うぅ……」
 そこに姐御肌の美咲の姿はない。彼女はただ男の暴行に震え上がった頼り無い女に成り下がってしまっていた。男に指図され、されるがまま、灰色のスーツはあっけなく脱がされ、身につけているのは下着とストッキングとワイシャツだけとなった。
「お願い……もうこれ以上はやめて……。恥ずかしい……」
「駄目だ。裸にしてやる。大人しくいうことを聞け!」
「い、……嫌、いや……」
「むかつく女だな、素直にいうことを聞けよ!」
 ビ、ビリビキビリリィ――!
 まるでむしり取るように、男は美咲の着ているすべてを引きちぎった。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 美咲の身につけているのは既に小さな布きれだけとなった。美咲の肌は完全に露わとなり、手足で体を覆わなければならぬ状況となる。
「うはははは、いい格好だぜ。……よおし、いいぜ。こっちを向いて小便しろよ。ほら、さっさと便器にちゃんとまたがれ、他んところに飛ばして掃除のおばちゃん泣かすなよ」
「あ……うううぅ」
 美咲はうなだれて、和式便器の上にしゃがむ。その時男は股を開かせようと彼女の両膝に手をかける。
「あぁ、駄目、駄目!」
 手で押さえて抵抗する美咲であったが、また叩かれるのが恐かったのか、その力は弱い。
 結局そのまま脚をM字に開かれ、彼女の股が丸見えになる。
 濃いわけでも薄いわけでもない陰毛が控えめに茂り、そのさらに奥には秘襞がちぢこまって怯えている。
「よおし、この格好でしてみよっか、な」
「あぁ、こんなの、こんなのいや……」
 乳房を両腕で隠して、美咲はぶるっと震える。
 勢い頼り無く、秘襞から黄色い液体がちょろちょろと和式便器に落ちていく。
 暖かい小水が弾ける音に、今の自分の状況を否定せんとする美咲の泣き声が混じる。美咲は、やもすれば腰を便器に落としかねないくらい脚をぶるぶると震わせている。
 やがて、排尿の勢いが弱まる。最後に尿道口からひと雫、便器のそこにピチョンと落ちて、彼女の用は終わった。
 しゃっくりあげる美咲を見て、男はにたにたと笑う。
「最初から最後まで見事な放尿シーンだったな。さすが俺の花嫁候補だ」
「い、いや……すごく恥ずかしい……」
 体を震わせながら話す美咲の目からは、すでに何本も涙の筋が出来ていた。
「それがお前の本来の姿だ。今は恥ずかしくても、いずれはしょんべん垂れ流しながら商店街歩いても恥ずかしくないようにしてやっからな。うへへへへ」
 男――不二夫のにへら笑いに、美咲はただ唇を噛んでくうくう唸るのみであった。

 

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