第9章 誕生・第三の奴隷妻
町の裏通り。かなりまばらであるが人が行き通っている。
不二夫のRV車のバゲッジスペースで、操と美咲が絡み合うように体を密着させていた。
まだ暖かいとはいえすでに残暑も去り、外には秋風が吹き始めている。
身に着けているのはワイシャツの襟に似せたチョーカーとGストリングと靴だけ。ほとんど裸同然の二人には寒かったのだ。車の暖房も、不二夫がキーを持って出ている以上つけようがない。だから、二人は互いの体温をじかに肌で感じることで暖を取っているのだ。
「……もうそろそろかな?」
「うん?」
操がささやくように美咲に聞いた。当の彼女はまどろんでいたようであったが、操の声にゆっくり状態を起こす。
RV車のドアの窓はすべてハーフミラーの構造になっているのだが、外の景色は普通のもの同様くっきりと見える。ひょっとしたらハーフミラーの役目など果たしてなくて、中にいる二人の裸体が丸見えになっているのではないかと思える程だ。それでも二人がそのことを全く気にする様子がないのは、ハーフミラーを信用しきっているからか、あるいはその胸や尻、はては潤う陰部の奥のさらに奥まではだけるのに慣れてしまったからか。
顔にかかった長い髪をかき分けて、操は完全に上体を起こして座ると頬杖をつく。
「でも、わからないねぇ」
「何が?」
「あのコこうなるの分かってて、どうして逃げなかったんだろ?」
「きっと、こうなりたかったんじゃないかなぁ?」
「『ならざるをえなくなった』んじゃなくて?」
「きっと私達みたいになりたかったんだよ」
そう断言して操は横になる。車のバゲッジスペースは鉄板がむきだしになっていて、お世辞にも寝心地のいいところではない。硬くひんやりした床に操は横向けになり、恥ずかしいデータのタトゥが刻まれた下腹部のあたりを撫でる。そこは同時に彼女の子宮のある場所でもある。こころなしかそこの辺りだけ少し膨らんでいる。
それほど腹が膨らんでいるわけでもないのにもう妊婦している操を見て、美咲は小馬鹿にしたように笑う。
「操じゃないんだから。まさか子供が欲しいなんて」
「うん、子供が欲しいからじゃないと思う。あのコ、何かに飢えてる目をしてた」
「男に? でもあのコ、処女だったじゃない」
「違うわよ、男じゃないの。だからその……何かなのよ」
「なによ、操もわかってないんじゃない」
「うるさいわねぇ、喉で引っ掛かってるだけよ!」
むっとした調子で吐き捨てるように言うと、操はむくれて美咲に尻を向けてしまった。
こんな些細なことで怒るのは、妊娠によるカルシウムの欠乏と何か関係があるのだろうか?
そんな操から目を反らし、美咲は窓越しに外を眺める。
と、彼女は操の尻をぺちぺち叩く。
「ひゃん! 痛い、痛い!」
「来たの! 来たのよあのコが!」
操が振り返って美咲が指差す方を見ると、そこには変わり果てた姿の陽子が不二夫に連れられてこちらにやってきていた。
ワイシャツの襟を模したチョーカー。白いGストリング。立ちにくそうなピンヒール。
それ以外は何も身に着けていない。小振りな胸の双丘も、その頂きにピアスを貫かれて立つピンク色の乳首も、縦に割れた小さな臍の穴も、申し訳程度にしか生えていない淫毛も、小さいくせに形だけは大人っぽい美尻も、覆うものは何一つない。
さらに――これには美咲も操も驚いて見入っていたが――、彼女の顔は白い液体で汚されていた。掛けている眼鏡にもそれがべったりとついており、滴りは胸にまで達している。
少ないとはいえ、人通りのある道で裸同然で歩かされる陽子の心中はどんなものであろうか。実際彼女は恥ずかしさに紅潮し、震える足で小幅にゆっくり歩いている。
だが運良く、誰にもすれ違うことなく彼女はRV車に辿り着くことが出来た。
「よし、乗り込め」
リアのドアが開く。バゲッジスペースにしゃがみ込んでいた二人の間に陽子は入っていた。
青臭い臭いが陽子の顔から漂う。見ると、眉間を狙い目にしたように、白く粘っこい飛沫が彼女の顔に飛び散っている。それは鼻筋をつたい、眼鏡のレンズをいやらしく汚し、唇を醜く横断していた。
「それって――」
「……不二夫さんに掛けられました」
操の問いに答えると、唐突に陽子はうめき始めた。
「……う、んんっ、産まれる……産まれちゃいます不二夫さーんっ!」
「え? 産まれる? え?」
陽子の口から出た言葉に操は驚き慌てたが、呼ばれた当の不二夫は無気味なほど冷静だ。
「陽子は辛抱性のない女だなぁ。そんなことじゃ、元気な子供生めないぞ」
「そんな……お尻の穴は関係ない……ぐうぅっ、本当ダメですっ、トイレ行かせて下さいぃ!」
「お前、赤ちゃんを便器に産み落とすのか?」
「うんんんんっ、だめっ、出……いや、産みそうなんです不二夫さん、だから――あああああぁ!」
四つん這いの姿勢で、背をのけ反らせて苦悶の表情を浮かべる陽子。
戸惑う操。だが、おそるおそる陽子の尻を覗き込んだ美咲は、さっき以上に目を丸くして驚いた。
「……なにコレ?」
堪えきれぬものを何とか堪えんとする菊門が半開きになっていたのだ。開いた所に見えているのは、白い玉のようなものの表面であった。
その様子から見て、その白い物体はそのまま飛び出してきそうである。
ぐ、ぐるる、ぐぐるるるるる……。
陽子の腹から鈍い音が聞こえてくる。
「うううう、産んじゃううう!! 玉子とウンコ産んじゃううう!!」
操と美咲は驚いて、一瞬陽子から避けるように体を引いた。だが二人は、おどおどとした様子だが、彼女の体をさすり始めた。不二夫に救いを求めるような視線を向けるが、ミラーに映る彼の顔は陰湿な笑いに歪んでいた。
彼は陽子を助けるどころか、惨い言葉を浴びせる。
「おいここでヒリ出すんじゃねえぞ! 教会につくまで我慢するんだ、いいな陽子!」
「そんなの無理ぃぃぃ!! ああ、もう押さえきれないよぉおお!」
「あーもーしょうがないなぁ……おい、操に美咲、外に出て面倒見てやれ」
不二夫は美咲にポケットティッシュを投げ渡した。と同時に、リアのドアロックがカチリと開く。
3人は外に出た。よたよたと地面に降り立つ美咲と操と違い、陽子はまるで転がり出るように地面に降りた。
「あ、ああああ、出ちゃうう、出る……うぅ……」
降り立ったショックでとうとう陽子は堪えきれなくなった。
彼女の肛門からピンポン玉が勢い良く吐き出された。
その後に、激しい破裂音とともに陽子の臭う軟便がアスファルトに叩き付けられる。
「見ちゃ……やだ……」
ただしゃがんで、出るものにブレーキをかけることなくただそれを涙をこぼして見つめる陽子。彼女の全身に鳥肌が波打つ。
白いGストリングがたちまち糞の色に汚れる。かろうじて陰唇を覆えるのみのその下着に、汚物を受け止める能力は皆無である。
「いや……臭い……や……いやあああああああ!」
自分のみじめさに陽子は泣き叫ぶ。
とっさに操がその唇を自分の口で押さえ込んだ。
大きな泣き声に人が寄って来てはまずい。自分達の恥ずかしい姿が大勢の人目にさらされることになる。それもあって操は陽子にディープキスをしたのだろうが、また別に理由があるのかもしれない。
それはあまりに濃密なキスだ。再び陽子が鳥肌を立てたくらいである。しかし彼女は自分の舌を操のいいようにされるがまま。気がつくと、陽子は泣くのをやめていた。
その間に美咲は陽子のGストリングを取り払い、不二夫からもらったポケットティッシュで尻を拭う。
「む……くうぅんんっ!」
他人に肛門を触られた恥ずかしさとくすぐったい奇妙な感覚に、陽子は操に塞がれた口で素頓狂な声をあげる。
尻についた軟便をぬぐってもなお、美咲は念入りに陽子の菊門をふいていく。折って作ったティッシュの角で、皺の一本一本を掃除するように。
(もういいよ二人とも……ただでさえ変になっちゃってるのに、私、もっと変になっちゃう!)
キスする口で唸りながら、陽子は尻をゆさゆさと揺する。だが美咲はがっちり陽子の腰を抱えて拭く。
「……きれいになったよ、陽子ちゃん」
軽くぺちぺちっと美咲は陽子の尻を叩いて言った。
同時に、唾液の糸を引きながら操が口を離す。陽子の口は、自分のと操が送り込んで来た唾液で溢れかえっていた。
「あなたがどうなっちゃっても、助けてあげるよ。だって、同じ奴隷妻だもんね」
操の優しい目をうっとり見つめながら、陽子は口に溜まる接吻の蜜をこくりと飲み込んだ。
|