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『最高のプレゼント〜サンジに捧ぐ男の命〜 1』


 ギックリ。軋む様な音が男の腰から走った。

「う……」

「う……?」
 男の身体の下。さっきまで喘がされていた相手が、急に動きを止めた相手に不審そうな視線を向ける?
 何があった……と。
「ど…ぉ…した?」



 どうしたもこうしたもなかった。





「どうする?」
 この船に君臨する魔女が居並ぶ男共を見渡し、切り出した。
 場所はムサイと定評のある男部屋。
 切り出した内容は『もうすぐ料理人ことサンジの誕生日』だ。
 都合良くと言うか、都合を合わせたと言うか、当然この場に議題の男は居なかった。
「とーぜん、宴会だ!」
 魔女ことナミの提案に一もニも無く乗ったのはこの船の船長、ルフィ。両手を上げ、「肉だ」と喚き始める。
「そりゃいつもの事だろう」
 煩いルフィにウソップが横からてしっと裏手ツッコミを入れ、
「ナミが聞いたのは誕生日のプレゼントをどーするかってことじゃねーか?」
 船一番の常識人を自称する男は察しの悪い船長との違いを見せた。長い鼻の先をナミに向け、「だろ?」と目配せする。
「そうよ。各自にするか、皆でまとめるか。どっちがいい?」
 するとやる気があるのかないのか、野郎共はポツポツと「どっちでもいい」と声を上げた。
 どちらでも同じ事だから、どちらでもいい――らしい。
「皆でやっても、各自でやっても祝ってやるのは一緒だもんな」
 船長の言葉にその両隣、チョッパーとウソップがうんうんと頷き、
「やりたい奴は勝手にくれてやりゃぁいーだろう」
 一人、会話に積極的に参加していなかった男がやっとこ発言をした。
 輪から外れた所で壁に背を預けている男、ゾロ。その声に、驚いたように皆の視線が集中する。
「アンタ、起きてたの」
「起こしたのはテメーだろーが!」
 寝ていたところを起こされて、会話に参加を強制させられた事を忘れた風なナミにゾロは怒りを露に返す。
「そうだったかもねェ」
 だが、ゾロの怒りは何処吹く風。ナミには何の感慨も与えず、受け流された。
「で、何。アンタ……何かあげたいものでもあるの? 珍しく気が利いてるじゃない」
「…………」
 魔女め。ニヤニヤ笑いながら言って来るナミにゾロは不機嫌丸出しの顔をそっぽ向ける。答える気はない。
 そんな相手の仕草にナミは追求を諦め、やれやれと頭を振った。


 元々、ゾロは団体行動に向いた性格をしていない。
 出来無いワケではないが、皆揃ってお誕生日会――みたいなノリには今だ馴染めず、ついていけないところがあった。

(プレゼントなんざ……好きにやりゃあいいんだ)
 とも思う。
 そして、そのつもりだった。


 勘の鋭いナミに指摘された通り、ゾロは前々から考えていたプレゼントがあったのだ。



「個人でいいんじゃねーか? 一緒にやりたい奴はやりゃぁいーし」
 ウソップが建設的な意見を述べ、ナミが同意し、すると反対意見なんてありはしないので話合いは結局アッサリと終わった。
 元々、そんな真剣に話し合う事柄でなかったこともある。
「そうね。それじゃ私は……サンジ君に愛でもあげよっかな」
 物でなく、心を贈る。ナミの言葉はそんな意味合いのはずだが、調子はやたらに軽い。聞いていた男達のうち2名が眉を顰めた。
「安く上げるつもりだな、オメー」
 ウソップがひそり呟き、同意するゾロは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「失礼ね。相手が喜ぶものなんだからいーじゃない」
 ズバリ。誕生日プレゼントにお金を使わない方法を指摘され、ナミは鼻白むが、それを改める気はないらしい。
「私が微笑むだけでサンジ君には一番のプレゼントのハズだもの」
 だからそれでいいのよ。ナミは言い切り、さっさと男部屋を出て行く。
 ウソップはそれを「いーよなー」と見送り、一緒に何かをするつもりらしいルフィとチョッパーは「調査に行くぞー!」と、ナミの後に続いて部屋を出て行った。
 料理人の欲しい物をリサーチに行くようだが、時間からしても目当てはオヤツだろう。
 出て行った先、騒がしい声が聞こえた。


「なあ、オメーはどーすんだ?」
 残ったウソップは半分寝かけていた男に話しかけた。
 声をかけられた方はかったるそうに口を開き、「あ?」とだけ返す。
「誕生日のプレゼント」
 言外に「やるのかやらないのか」を訊ねられた気がしてゾロは黙る。
「ある」と答えるのは簡単だが、どんなモノをあげるのかと追求されるのは鬱陶しかった。
「俺、ちょっと作ってやろうと思っているもんがあるんだけどよ……お前、手伝うか?」
 ウソップは人が好い。
 放っておいたらやらなそうな男に対する配慮でそう言った。
「ああ……いい。テキトーになんかやっとく」
 お節介だとも思ったが、好ましさもあるので邪険にはせず、そう答えるとウソップはあからさまにホッとした様子を見せる。
「そうか。良かった。アイツ、あれでガキだからなぁ。野郎のプレゼントなんざ嬉しくねー! なーんて言いながら貰えなきゃ貰えないで拗ねるもんな」
 ウソップがガキみたいな拗ね口調のサンジを真似、ゾロはそれに噴きそうになりながらも、堪えて苦い笑みに止めた。
 そーだな。と小さな同意だけを返し、壁に凭れた状態で目を瞑る。
「………………」
 瞼の裏に思い浮かべたのは己の誕生日に自らご馳走を作らない事に愚痴を溢し、それでもその日の為の食材を選ぶ料理人の姿。
 誕生日プレゼントなんていらないと喚きながらもどこか期待する料理人の眼差し。

 ――そんな姿も愛おしい。

 目を瞑った状態でデレリ。相好の崩れた男を目にしてウソップが一歩退いた。
「まあ、なんだ……俺らはナミのように簡単に済ませれねーからな……が、頑張ろうぜ……」
 ゾロの様子に引きながら、自分の仕事道具を集めながら、ウソップの一言。言われて、聞いてて、眉間に皺が寄った。
 どうしても魔女の名が出ると気に喰わない。

(あの女、普段からスマイル0円じゃねーか)

 サンジをコキ使うのに笑顔を惜しんだ事はないだろう。
 また、いつもの笑顔でどこまでもサンジは使われている。
 誕生日だからって何が特別な笑顔でなし、それでも女はそれだけでサンジが喜ぶ事を心得ていた。
 それが気に喰わない。面白くない。
 一応仲間には内緒にしているがゾロはサンジの半恋人だ。
 この『半』と言う辺りが非常に物悲しく……いや、微妙な具合ではあるが、堂々と恋人と言えない、思えない複雑な事情はたんまりとあった。
 だが、そう回数を重ねてはいないとは言え、体の関係はしっかりとある。
 求めれば身体を開いてくれる料理人に、『そこに愛があるだろう』と、自分への愛があるとゾロは勝手に思っていた。
 まあ、それはあながち外れでもなく、近いモノはあったが、如何せん相手の心は複雑で、性格に至っては複雑骨折をしているのかと思えるくらいに曲がっている。サンジは今だ素直にゾロへの気持ちは認めていなかったのをゾロは知る良しもなかった。

 それでも一応愛はあるんだ。愛は。


 素直で、そして負けず嫌いで、努力を弛まぬゾロは愛を信じ、迫るサンジの誕生日に向けて、すでに最高のプレゼント計画を練っていた。
 日夜、そのための鍛錬も欠かさない。

 ――ふふふふふふふ。あの女より悦ばしてやる。

(待ってろ、サンジ。テメェの誕生日には最高の一発をお見舞いしてやる!)

 口にすれば甚だ物騒な――或いは非常に怪しげな、そんな気持ち。プレゼント。
 ゾロはそのために何処をどうやってか、ナニをどうやってか鍛えに鍛えていた。
 そして知らず知らず口から零れていたゾロの不敵な笑いに不気味な物を感じ取ったウソップは……怯えながらこっそりと部屋を出た。

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