『最高のプレゼント〜サンジに捧ぐ男の命〜
2』
「あれ〜、ナミしゃん……どこ行ったのぉ?」
赤い顔をし、呂律が少し怪しげなサンジ。回っているだろう目で一生懸命に麗しの航海士を探している。
その姿は迷子のヒヨコさながらで、馬鹿な男は思わず浚ってしまいたい衝動に駆られた。
「アイツなら部屋だ」
衝動を抑え、ゾロは言う。
「寝ていたから部屋に放り込んでおいた」
本当はかなりの酒豪である魔女が酒に潰れる事はなく、それを知っているゾロは船医の鞄から勝手にちょろまかした睡眠薬をドボドボと酒に入れておいたのだ。
起きていると厄介だ。ただ、それだけの理由で。
以外に計算が出来たらしく、今日と言う日に計画と策略を巡らせたゾロは一番の邪魔者を排除し、残っている他の酒に潰れた奴等は放って置いても朝まで大丈夫と満足げに笑む。
そうして酔っ払っている相手に手を伸ばしたが、その手は勢い良く振り払われた。
「なにい! 俺様に黙ってナミはんと部屋に居たらとお!」
酔っ払いは些細な事でご立腹だ。
「居ない。置いてきただけだ……ったく、テメーまで酔っ払いやがって」
そこだけは計算外だとゾロは舌打ちする。
あまり船上ではやらしてくれない相手を考え、皆を酔い潰したと言うのに、目的の人物までが潰れた日には計画は意味を成さない。
ゾロはこれ以上酒を飲ませまいと、先にサンジの手から酒入りのコップを奪った。
「あにする! テメー、俺にプレゼントも寄越さなかったクセに生意気だぞー!」
どこのジャイアンだ、お前は。ゾロは呆れ、思ったが、黙って奪った酒を喉へ流し込む。
「飲むんじゃねー!」
ゴーイング・メリー号のジャイアン2号――1号は推して知るべき魔女である――は不埒な酒盗人を緩く蹴った。
本当は力一杯蹴るつもりだったが、潰れる一歩手前で力入らず、蹴った自分が後ろへパタリと倒れる。
「ったく……テメーは」
ゾロは倒れたサンジの顔を覗き込み、今にも寝てしまいそうな様子を見て顔を顰め、
「寝るな。俺のプレゼントはどーすんだ」
言い終えると同時に料理人のまだ酒に濡れている唇を吸った。
「ン…な……」
唇を塞がれて声の出ない相手は、眠そうに瞬き、それでも意外そうな顔つきをする。
――そんなモノあったのか?
表情がそう言っているので、ゾロはサンジに言葉を使わせない。酒を舐め取るように舌で唇を弄り、酒気を吸うように何度も唇を食んだ。
次第にサンジの唇が返すように動き出す。
酔いはまだ醒めていないだろう。慣れ故の反応だろう。
「フッ…ぅ…んっ」
唇が触れるだけに物足りなさを訴え、先に舌を伸ばし、求め出したのは酔いで理性が鈍っているサンジだった。
普段ならば考えられない相手の素直さに、ゾロの口元が笑いで弛みかける。伸ばされた舌を捕らえ、軽く吸ってから自分の舌を絡め返した。
始めはゆるゆると。
次第に相手の深くを求め出し、角度を変えてはキスを繰り返す。
殆ど相手の身体に股がった姿勢で唇を求め合った。
久し振りに見るサンジの艶めいた面。久し振りに味わうサンジの味、匂い。
徐々に息と興奮が上がり。切れ切れになる吐息を耳に、薄っすらとだけ開く目に映る相手は月明かりの下、酒だけではない酔いに浸った眼差しを浮かべ、頬を染めている。
ズクッ。その視線だけでゾロの股間は酷く疼き、ここ暫くのご無沙汰も手伝って一気に勢いついた。
(ダメだ……もう我慢出来ねェ……)
ゾロは身の下に居た相手ごとガバリと起き上がる。
「え……オイ?」
急な浮遊感に戸惑う声を上げるサンジをしっかりと腕に抱き、所謂一つのお姫様だっこと言うモノを臆面もなくやってのけ、ゾロは場を移しに急ぐ。
辺りで潰れていた仲間は放置プレイ進行だ。
ナントカは風邪を引くまい――と、薄情なのか信頼しているのか謎なまでに仲間を無視し、先を急いだ。
「お…わッ、…あ?」
お姫様然と運ばれるサンジはなんだか良く判らないまま。離れて行く後ろを見つめ、後片付けの事をぼんやりと考えていた。
状況に何ら疑問も、驚きも、まして女のように抱かれている事に憤りも湧かなかったのはやっぱり酔っていたからであろう。
ここまではゾロのプレゼント計画は上手く行っていた。
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