『最高のプレゼント〜サンジに捧ぐ男の命〜5』
「ゾロ、お前また無茶な鍛錬しただろう」
二日酔で頭をガンガンさせ、あげく外で寝っ放したせいか、風邪気味みたいに体調の悪い船医がガラガラとした声でゾロに告げた。
ベッドにうつ伏せに寝転ぶゾロ。捲れたシャツから曝け出ている腰にチョッパーがポンと湿布を貼る。
「ちょっと筋を痛めてるみたいだけど……でも、さすがにゾロだな。こんだけで済むんだから」
慰めになってないような慰めをし、トナカイ船医の診察は終わった。
「最低一週間は安静に。暫くはこのまま寝て暮らすんだぞ?」
鍛錬も禁止。全ての動きを禁じられたが、ゾロは何も言い返す様子無く、チョッパーは寝ているのかと思って横に寝ている顔を覗きこんだ。
「――っ!?」
覗きこんだ顔は酷く不機嫌そうで、凶悪だ。やっと怖いオーラを察して、チョッパーは身を引く。
「じゃ、俺は行くから……絶対安静だぞ、いいな!」
それでも無茶をしそうな男に念を押し、チョッパーはそそくさと女部屋から出て行った。
後に残されたのは静寂とゾロの不機嫌丸出しのオーラのみ。
(何でだ。何でこーなったんだ……)
凄くイイ具合だった。
あれだけリキ入れた。
それの何処が、何がまずかったんだ!
……と、そのリキがまずかったのだと言う事は頭に浮かばないらしい。船医の一言も耳を素通りしていたようだ。
あれから腰に酷い痛みを覚えたゾロはちょっともそっとも腰を動かすことが出来ず、焦った。
脂汗垂らし、身動きしないゾロをサンジは訝しんで詰問する。
散々問い詰めて、やっとゾロが腰を痛めたと知った時には二の句が告げない程。呆然とした表情をした。
『ウソだろ……』
焦らしに焦らされたあげくイイところでストップを食らったのだ。そりゃ呆然ともする。
さすがに時間経って萎えかけたとは言え、身体には熱が燻っているし、中にゾロのを残したままの状態だ。
ゾロは腰の痛みですっかり萎えているが、動くことも出来ずに呻いている。じっとり脂汗も掻いている。
『どけっ!』とサンジが言っても退く事が出来ない。
根性で最後まで頑張ると言い張ったが、サンジの方が激しく嫌がった。
『もうそんな気あるか! 退けったら退きやがれっ!』
結局、動けないゾロの下からサンジが一生懸命に這い出て……
『トイレでヌいて来る……』
サンジの一言は無情に響いた。
ゾロはヌくことすら出来ないまま、暫く突っ伏している。しかも素っ裸で。
痛みは時間が経ってもなかなか収まらない。それどころか余計に酷くなる感じだ。
セックスどころでも自慰どころでもない。
その後、戻ったサンジに手を貸してもらい服は着たが、会話らしい会話も無く、沈黙が痛々しかった。
こうして――ゾロのプレゼントは終わった。
一生忘れられない最高の一発のつもりのプレゼント。
一生忘れられないだろう事は請け合いだが、最高と言うよりはその逆な事も請け合いだった。
「……………………」
思い返し、ゾロはまた苦い顔をする。
こんなんだったら。あんなんだったら。
不発に終わってからフラストレーションをモヤモヤと抱え、ゾロはずっと取り止めない事をぐるぐると考えていた。
あんなに焦らさず、いつもの調子でガンガンにヤりゃぁ良かった、とか。
さっさと突っ込んでグチョグチョのデロデロにしまくって抜かず3発やって、更に追加で2発やって……そうして忘れられない一発にしておけば良かった、とか。
そんな事を考えていた。
どこが一発だとか。そもそもの問題点が違うとか。本人はツッコミ所に気付いていない。
早くにガンガンやっていれば、それだけ腰を痛めるのが早かったかも知れないのに、その可能性に全く気付いていなかった。
気付かないまま、悔しさに呻く。
ベッドの上でごろごろと転がりたい気分だが、それも出来ない。
おまけに枕に顔を埋めればナミくさい。横向けていてもくさい。
おかげで加算された借金の額も思い出せてムナクソ悪い。
このベッドの賃貸料は酒に薬を盛った事もバレて割高になっていた。
薬を盛った理由もバレているし、あげくそれが失敗していることもバレバレ。ナミには言葉でチクチクと甚振られた。
そんな状況下でのナミの匂いは腹立たしさを増すだけで、今やゾロの不機嫌度はMAXだったと言える。
(こんちくしょう!)
やさぐれて。ゾロは内心で思いっきり叫んだ。
……声に出すと腰に響くのである。
本当に……
何とも哀しい……心の叫び。
「バカだよなぁ……」
「ん? なんか言ったか、サンジ?」
メシの仕度をしながらサンジが呟く。それを聞き止めたウソップが自分が何か言われたのかと訊ねたが、サンジは「違う」と首を振った。
「何でもねェ」
鍋を掻き混ぜ、アホな末路を辿った男を思い出す。
「最高の……か……」
今度はウソップに聞こえない程に小さく呟き、サンジは想った。
(そんなもの……いつものでも良かったのにな。
無理なんてしなくてもよ。
それよりももっと大事なモンあんだろうに……)
ゾロはサンジに言葉を色々と紡がせようとした。
そんなゾロが言葉を忘れている――と、サンジは思う。
「肝心な一言……言やー良かったんだよ、テメェも……」
そうすりゃ最高だったのに。
――好きだ、とか。
――愛してる、とか。
「……ま、言われたら言われたで思いっきり噴きそうだけどな」
最中に爆笑しかねない自分を考え、サンジはククッと小さく肩を揺らし、笑う。
「サンジ、何ブツブツ言ってンだよ。言ーたい事があったらハッキリ言え?」
判ってないウソップがブツブツ言いながらキッチンに立つ男の背を不審そうに見つめ、言った。
「いや。テメーにゃ関係ないから安心しろ。それに……」
誰かを思い浮かべ、サンジがふっと口元弛ませる。
「絶対に言わねー事だから……いーんだよ、これは」
楽しそうな。機嫌の良さそうなサンジ。
しかし、言っている事はさっぱり判らない――と、ウソップは首を傾げた。
それが判るのは……
もしかしたらば女部屋で呻く男だけ――。
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