注)★Magic spell 及び ★0.2秒前── をお読みになっていないと、解らないキャラクターが登場します。
未読の方は、出来ればそちらを先にお読み下さい。
トリックカード
「……アリス。この会の企画者は?」 「……鈴木と田中」 「成程な……」 居酒屋の店員に案内された小あがり席を一見して、みるみる機嫌が悪くなった火村を横目で眺めつつ、アリスは大きくため息をついた。 確かに、有栖川の誕生祝い呑み会やるで、俺らが誘うても絶対火村はいい返事せぇへんから、あいつはお前が連れてきてな、と言われて真に受けた自分が間抜けだったのだろう。 それでなくとも、ことあるごとに呑み会をやっている大学生──しかも男が何の裏もなしに友人の誕生祝いを企画する訳がないのだ。考えてみれば。 ってな訳で、アリスの誕生祝いである筈の呑み会は、誰かどこからどう見たところで、完全に合コンの様相を呈していた。 つまり、アリスとしてはあまり納得はしたくないが、納得せざるを得ない事実はこうだ。 ここに顔を出している女性陣を釣る為の餌が火村で、更にその火村を呑み会に連れ出す為の口実がアリスの誕生日。 誕生日が嬉しくて仕方がない男子大学生はそういないだろうし、アリスにしても自分の誕生日は単なる呑み会の口実やろ、くらいにしか思っていなかったとはいえ、それでもこれはあんまりではないかと思う。 いや、呑み会に女の子が居てくれるのは悪くはない──というより素晴らしい。 しかし、女性陣全員がたった一人を狙っているとなれば話は別だ。 そんな呑み会、どうやってテンションを上げればいいというのだ。 鈴木と田中はどうだか知らないが、少なくても自分のテンションは上がりそうにない。 そう思ったアリスは、彼らに気付かれない内にそっと逃げ出そうかと、火村に視線を流した。 だが、丁度その時、彼らを案内してくれた店員が「お連れ様がお着きです」と中に向かって余計な報告をしくさった。 ──ああ、もう逃げられへん。 やっと来たかと手招きする田中と、火村の姿を認めた途端に瞳が輝く女性陣。 今ここで逃げたら、本当の理由が何であれ、確実にアリスだけが悪者になってまうのは明白だ。 判断があと2秒遅れたならば、確実に踵を返していただろう火村の腕を捕まえて、アリスは中に向かって「悪い、遅うなった」とにっこりと微笑んだ。 後ろ手に2本の指を立て、後で2千円分冷蔵庫の中身を増やすと示して、火村を小あがり席へと引きずり上げる。 ──ったく、何が悲しゅうて、自分の誕生日に人に下手に出とるねん俺。 とか思いつつも、痛い視線を浴びるよりは、身銭を切った方が100倍ましだと思ってしまうのが、アリスの気弱なところだ。 田中と鈴木はともかくとして、奴らに騙された形になる女の子連中が恐ろしすぎる。 話が違うと帰ってくれれば、まだましな展開。火村が来るまで帰らないなんて言われたもんなら、たまったものではない。 アリスが再び火村確保に向かわされるのは確実だし、呼びに行ったところで事実を知った親友が下宿の部屋から出てきてくれる可能性は、はっきり言ってゼロ以下だ。 ──テニスボールやあるまいし、そんなに行ったり来たりしてられるかい。 絶対逃がさないと言わんばかりに火村の腕をしっかりと抱え込み、アリスは鈴木を押しのけ、彼と並んでテーブル端の席についた── ★ ★ ★ 同じ様な話でいて、展開は微妙に違ったり。 |