心のままに30のお題
配布元はこちら 例によって日記から再録。
春っぽいもの
しゃぼん玉(2004/03/27)/葉っぱ(2004/05/18)
桜貝(2004/06/07)
夏っぽいもの
ビードロ(2003/08/25)
秋っぽいもの
カルピス(2003/09/22)/Oh,HappyDay(2003/11/13)
冬っぽいもの
青い鳥(2004/01/07)/春待ち(2004/03/18)
未分類
涙雨(2003/10/13)
未消化
ビー玉/虹/旅芸人/風船/バラ色の頬
相合傘/散る星/夕暮れ/折り紙
花冠/幸せ/月灯ランタン/水玉模様
Hello,my
dear!/ひとひらの雪/小春日和
みつば/ドロップ/すみれ/片思い/色々
ビードロ
首振り扇風機が空気を掻き混ぜている。だけどあまり意味がない。目を開くのも億劫だった。
ぺぽん ぺぽん
聞き慣れない音がする。目を閉じたままじっと聴いてみる。
ぺぽん ぺぽん
右側から聞こえてくるみたいだ。首を倒して目を開くと、まず白い腕が見えた。むき出しの肩にオレンジの細い肩紐が眩しかった。
ぺぽん ぺぽん
「何やってんの?」
寝そべってたミカはくわえていたものを畳にそっと置いた。
「やっと起きたんだ。もー十一時だよ」
「じゃあ何か食べるか」
「食べさせてください、でしょ。素麺でいいよね」
ミカが俺の額を軽く叩いた。気怠げに体を起こす。
外で蝉が鳴いている。梅雨明け宣言が撤回された途端に暑くなったけど、蝉はそんなの関係なく鳴いてたな。
「ミカー、これ何?」
細い管の先に丸い膨らみがくっついている。底が平らで置いても倒れない。硝子細工、しかも真っ黒で温度を感じさせないわりに、残暑のせいかミカの体温が残っているのか、ぬるまっていた。
「なーミカちゃーん」
「もーうるさいな、ちょっと待っててよ!」
噛み付くようにミカが叫んだ。機嫌が悪いらしい。
爪で弾いてみた。キン、と涼しげな音がする。ふくらみの付け根のあたりを摘んでくわえてみる。軽く息を吹き込むと、ぺぽん、と鳴った。
「食器ぐらい出してくれてもいいんじゃないの」
今度の声は素麺で釘が打てるくらい冷えていた。それで思い出した、今日はドライブしようって話していたんだ。久しぶりに遠出したいって言ってたな。
器とめんつゆを出しにキッチンに向かう。キャミソールの張りついた背中を盗み見て、海に行こうか、と呟いた。
「今から?」
菜箸で鍋の中身をぐるぐる混ぜている。振り向いてもくれない。
「ミカさーん」
「あっついってば。寄るなっ」
振られてしまった。
テーブルに食器を置いてまた転がる。硝子細工をまた吹いてみた。
ぺぽん ぺぽん
「あんまり強く吹くと壊れるからね」
ミカが素麺を持った器を置く。テーブルが揺れた。
「なあ、これ何?」
「びーどろ。知らない? うちの方の名物」
「初めて見た」
びーどろを手渡すとミカは窓辺に立って陽に透かした。
「キレイでしょ」
真っ黒だと思っていた塊は海底の水のように深い藍色だった。
「なーやっぱり海行こう」
「誰かさんが寝坊するから遅くなっちゃったよ」
「俺が悪かったよ。な、遅くなってもいいからさ」
「……しょーがないなあ」
ミカが呆れたように笑った。俺は妙に嬉しくなって、素麺をすすった。